‖弐日目‖



 ―――体が、動かない。

 床に―――今横たわっているのが床だというのなら―――縫い付けられたように。
 指一本、動かない。動けない。

 辺りは薄暗く、角の方では闇がうずくまっている。
 深く、暗い。いずれこちらにまで侵食し、己を喰らうかのような錯覚をおこす、ソレ。

 白い所などどこにも無いのに―――、けれども自分は、これがいつもの夢だと解るのだ。


 真っ白な、夢。



 *****



 ―――いつの間にか、眠っていた。

 時計を見やる。午前十時。
 昨日、砂山を作り終えて帰ってきて、疲れて床に入ったのがたしか午後四時。
「―――18時間」
 眠っていた。ご飯も食べず。
 どうも自分は、ご飯をあまり食べないかわり、異常なほど睡眠をとるようだ。
 とるようだ、って、まあ自分のことなんだけどさ。

 もぞもぞと緩慢な動きで布団からはいでて、ぱきぱきと、眠りすぎて硬くなった体をほぐすために運動をする。
 右、左、腰を捻って、肩を回して、最後に伸びをして―――

 ―――あれ、僕、服着替えてたっけ―――・・・

 ぴた、と動きを止める。
 昨日は確か、白いシャツに紺色のジーンズ。それが今は、黒いタンクトップに紺色のスパッツに変わっている。
 どうも、昨日家に帰ってからの記憶が曖昧だ。
 家のドアを開けた。喉が渇いていたから台所に入って水を飲んだ。
 だいぶ泥だらけだったから着替えなきゃとは思ったけど、何だか疲れていたから面倒くさくてそのまま布団に入った・・・様な気がする。

 おかしいな。

 首を捻る。捻ったところで思い出すわけも無いのだが。
 曖昧な部分は霞がかったように白い。
 ひょっとして自分、夢遊病の気があるのかもしれないな。
 あれだけ泥だらけだった手も綺麗だ。洗った覚えは無いのだけれど。

 暫く考えた後、もしかして、自分が眠った後に母が着替えさせてくれたのかもしれない、ということに思い当たった。
 母さんが、僕を布団から引っぺがして、抱えあげて、服を脱がせてお風呂に入れて新しい服を着せてもう一回布団に入れた―――
 ・・・ありえないか。眠った人間をどうこうするなんて、そんな重労働をするより、自分をたたき起こして着替えさせたほうが早い。
 それに、そこまでされて、自分が眠ったままだったと言うのも考えづらい。
 考え辛い、けど―――
 まあいいか、ともう一度伸びをした。
 考えたって判らないものはわからない。そんなに気になるなら、母が帰ってきたときにでも聞けばいい―――。

 楽観的過ぎるって?何言ってんの、全ての出来事に説明なんてつくわけ無いし、物事を深く考えすぎると禿げるんだぜ?
 ぺたぺたとフローリングの床を裸足で歩いて、台所に通じるドアを開ける。さて、朝ごはんはどうすべきか。
 ―――ま、いっか。別にそんなお腹すいてないし。
 水を一杯だけ飲んで、自分は公園へと出かけた。
 その日も数人のお母さん方に奇妙な顔をされたけど、特に何もあるわけでもなく、一日が無事に終わった。



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20040405

便利ってレベルか・・・それ。(笑