‖壱日目‖ |
最近、同じ夢ばかりを見る。 真っ白で、音の無い世界。そこでただ横たわっているだけの自分。 何をするでもなく、何が起こるでもなく。 ただただ、真っ白な世界で、横たわっているだけの、夢。 ***** 「うっしゃ、できた!!」 ぱんっ、と目の前にある砂山を叩く。 作りはじめたのがまだ東の空に太陽があった頃だから、ゆうに一時間くらいは熱中していたのだろう。既に太陽は南中していた。 公園にある時計を見上げる。十二時。 お昼時の公園は、さすがに誰もいない。 周りの家からはご飯のいい匂いが漂ってくる。あ、あこの家、昼御飯焼き飯だな。 そのこうばしい臭いは、嗅いだだけで食欲をそそられる。 普通の子供なら、きっとお腹がすいたな、そろそろ家に帰ろうか―――と、遊んで泥んこのまま、昼ごはんのいい匂いと、お帰りなさいと柔らかく微笑う母がある家に足を向けているだろう。 ―――が、生憎と自分は、あんまりお腹がすく性質じゃない。 腹持ちいいっつーか、燃費がいいっつーか? だから帰り支度をするどころか、砂場から立ち上がることもせずに、そのまま別の砂山を作り始めた。 昼ごはんまでに帰らなかったらご家族の人が心配するんじゃないか―――などと思う人もいるかもしれないが、ご安心を、家に帰っても誰もいませんから。 それに、家が遠いから、こっから帰ってまた戻るの面倒くさいし、その間にこの砂山潰されてるかもしれないしな。 「ボク」 声がしたほうに振り向くと、二歳くらいの子供を抱えたお母さんが立っていた。 何だか複雑な顔をしている。 「ボク、お名前は?」 お、なんだなんだ、ナンパかー? ・・・なんつって。そんな訳無いわな。 お母さんは、こちらと目線が会うように少しかがんで聞いてくる。子供を抱えているから、少しその体制はつらそうだ。 「しの」 そのお母さんの腰を気遣って、自分はお母さんがかがまなくてもいいように立ち上がった。 顔の高さが変わったのは少しだけとはいえ、それでもそのお母さんがかがまずにすむような目線になった。 「しの・・・君?男の子、よね?」 「うん、『ボク』であってるよ」 にっこり笑って、肯定。 確かに女の子みたいな名前だから、そう聞きたくなるのも解る。 「しの君、小学校は?行かなくて、いいの?」 ―――ああ。 何でこのお母さんが複雑な顔してるか、わかった。 確かに、自分は正真正銘十歳児。小学生。 こんな所で悠長に朝から砂山作っていられる立場なんかじゃございません。 ・・・でもさ、別にさぼりとか、僕が不良だとか、そういう訳じゃないんですよ、奥さん。 「うん、いいんだよ」 お母さんの不安と怪訝な表情を払拭するように、にっこりと笑う。 「学校の方で、お休み、貰ってるから」 だから別に、学校行かなくてもいーのです。 あ、別に僕が不祥事起こして謹慎処分くらってるとかじゃないですよー? ゆっくり身体を休めなさいと、そういわれてるものですから。 って、こうして遊びに出てる時点でゆっくりじゃないけどさ。 いくら体を休めなくちゃいけないとはいえ、遊び盛りの子供に、家でじっとしていろっていうほうが無理でしょう。煩い監視の目も、無いんだし。 「・・・そうなの?」 「うん!!」 まだ訝しんでいたお母さんは、僕の邪気の無い笑顔を見たせいか何だか解らないけれど、そう、とだけ言って、一度僕の頭をくしゃくしゃと撫でてから公園を出て行った。 きっとお昼の用意をしに帰るんだろう。腕に抱いていた子供が、にぎゃあ、と泣き声なんだかよくわからない奇声を一つ上げた。 僕は泥んこの手で乱れた髪を直してから、再び砂山のトンネル作りに取り掛かった。 |
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20040330
・・・随分とおっさん臭い子供です。(ぇ