トンボと文化・トンボつり”

  

トンボつり(ブリ)


1.はじめに

トンボの採集方法としては,素手で採る,とりもち竿・捕虫網で採る,雌を「おとり」にして採る,トンボつり(ブリ)で採る等がある.ここでは,子供たちの伝承遊び「トンボつり(ブリ)」を京都市中心部で行われてきたもので紹介する.(松田 勲,1989;藤本浩之輔,1993)


2.トンボつりとは

ギンヤンマなど大型のトンボを採る方法の一つに,トンボつり(ブリ)というものがある.長さ80〜120cmの糸の両端にろう紙等で小石(おもり)を包み込んだ簡単な道具(しかけ)を飛んでいるトンボの前に投げると,小石を餌の虫と見たトンボが飛びつき,糸に絡まり落ちてくる.トンボつりの魅力は,大空高く飛ぶトンボにタイミングよく投げ上げたトンボつりがトンボに絡まり,キリキリと舞い落ちてくる快感にある.


3.トンボつりの歴史

中国の前漢劉向編「戦国策」楚の頃襄王の項に「五尺の童子(幼少の童子)が,鉛で弾を作り,糸の両端につないで,四仞(6m)の上空で自分(トンボ)にからませて,地下の螻や蟻の餌食にしようとしているのもご存知ないのです.」”とある.(林 秀一訳,1981)
日本では,天保年間に書かれた小寺玉晃の「児戯」(俗に「尾張童遊集」)に,子供がトンボつりを投げ上げている図が描かれている.少なくとも江戸時代末期〜昭和35年頃(1960年)までの130年間,子ども達の間に伝承されてきた.


4.トンボつりの分布

京阪神を中心に東京〜九州まで広く行われ,種々の名前で呼ばれてきた.例えば,とりこ・おとり(東京),おんじょつり(静岡),オイラン・ホイラン(滋賀),トンボつり(京都),ブリ(三重,大阪,神戸,和歌山),まんりき(神戸)がある.


5.トンボつりで釣れるトンボ

ギンヤンマ,ヤブヤンマ,マルタンヤンマ,ネアカヨシヤンマ等ヤンマの仲間
オニヤンマ,オオヤマトンボ,ウチワヤンマ等大型のトンボ


6.トンボつりの作り方

糸  :スガ糸(撚っていない絹糸),刺繍用のミシン糸,木綿糸等 1本
長さ80p〜120p 左手で糸の端をつかみ,唇で糸の中央部をくわえて両手を延ばした位置で右手部の糸を切り,糸の長さの目安とする.

おもり:小石,散弾,しず等(径約7×5mm),又は,木ネジ“なべタッピング”(3×8mm) 2個

包み紙:謄写版の原紙(蝋紙),キャラメルの包み紙,タバコのアルミ箔,布等2枚
謄写版の原紙A3サイズ(465o×304o)を1/64に裁断, 大きさ約57o×38oを半分に折り二重にして使用する.

謄写版の原紙の上に糸の端,小石の順に重ね,小石を包み込むように原紙を捻って糸が抜けないようにし,もう片方も同様とする.つまり糸の両端におもり(原紙に包まれた小石)のぶら下がったトンボつりができあがる.

なお,トンボつりの変形として,長い糸の片側におもりと輪ゴムを付け,パチンコのようにヤンマの前に飛ばす「片ぶり」がある.片ぶりは,輪ゴムの力で良く飛ぶが,おもりが1個だけなのでヤンマに掛かりにくいようである.


7.トンボつりの投げ方

左手の親指,人差し指,中指及び薬指の先で両端のおもりを持ち,右手の人差し指の第1関節に糸の中央をかけ,親指,中指の先を人差し指の糸に添え(糸は交差させない),右手を身体の正面に,左手を身体の左側に糸を軽く張った状態に構える.左後方に一度バックスイングして,左手のおもりを一瞬早く離し,右手先から投げる.おもりの重量と反動を利用したこの投げ方は,距離(高さ)がでる上に,方向性と高さのコントロ−ルにも優れている.投げるときには,「ホーチン」等掛け声をあげた.


8.トンボつりのコツ

トンボつりをトンボの正面からトンボの頭を越して放物線状に投げると,トンボは反転してトンボつりを追い,おもりの後ろに流れ落ちる糸に絡み易くなる.投げるスピードは遅からず速からず,トンボとの距離は約1mが目安である.


9.トンボつりの外し方

釣ったトンボの胸部を左手に持ち,右手で糸を外していく.片方のおもりの糸が外せなくなると,もう一方のおもり側から糸を外す.特に首に糸が絡んだり,顎に糸が食い込んだ場合は,首が千切れないように,糸を切るなどして丁寧に外す.


引用文献
藤本浩之輔(1993)子どもの文化としてのヤンマ釣り.日本民俗文化資料集成. 第12巻動植物のフォ−クロアU.(株)三一書房:425-480.
松田 勲(1989)京の“トンボつり”の思い出.Gracile No.40:115-124.
林秀一[訳](1981)戦国策 中.新釈漢文大系48.(株)明治書院.

   
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