ソルトレークシティーオリンピック見聞記 4
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2月13日(木) Cease the fire within(試合のない日)
一夜明けても怒りがまだ収まらない。結局この日は嫌なことばかり考えて、嫌な気分で一日を過ごした。
そんな状態のことを書き表しても他人に見せられるような内容にはならないとは思うのだが…書かずに14日まで飛ばすこともできない。



今日から宿泊先がセットプランについているホテルに変わる。奥さんがボランティアの仕事でダウンタウンに行くついでに移動先のホテルまで送ってくださるとのこと。結構早い時間だったのだが、お言葉に甘えて車に乗せてもらうことにした。
車の中で。
「フィギュアスケートのペアのジャッジのニュース、見た?フランスのジャッジとロシアのジャッジが結婚したんだって。」
はあ?
瞬時に次のようなストーリーが思い浮かんだ。


こんな話を演出しかねないと思わせる所があるのが北米メディア。日本だとここまで一方的な視点のベタベタなスポ根漫画は今時小学生対象の漫画雑誌にだって採用されないだろう。30年前ならありそうだが。
アイスダンスがからんでいるという推測を聞いて、逆にすっきりした。ベレズナヤ組とアニシナ組をまとめて叩き潰したい意図が見えるようだ。もっとマイナーな国のジャッジとの談合にしておけばもう少し信憑性があったのに。視聴者を煽るには芸が粗い、鵜呑みにできたものではない。

おおかた「フランスジャッジが不正を認めた」というヘッドラインで、「フランスはアイスダンスに有力ペアのアニシナ組がいることから両連盟の間で取り引きがあったものと推察される」という書き方だろう。言ってみれば事実は始めの一文だけ、それ以外のことは報道側の主観、主観は主観であって事実ではない。それの区別ができていないと大変なことになる。
今は「フランスジャッジが不正を認めた」ということだけを把握しておけばいいだろう。一つの事実から話はいくらでも作れるものだ。(里中満知子の曲解混じりの受け売り)


本当にアイスダンスがらみで手を組んだのだったら、アイスダンスが始まっていないこの時にフランスジャッジがそんなことを言い出して自分の首をしめるはずがない。その事を彼女に話すと「おかしいでしょう?フランスジャッジは馬鹿なのよ」。そう来るか(^^;)
全てを鵜呑みにして信じ込んで、「他の視点からの見解」を聞いてもそれについて考えることすらしないんだから。良く言えば素直、悪く言えば単純。だが迷いのない人間の強さは侮れないものがある。つくづく西洋人の頑固さには歯が立たない。
そしてそれ以上強硬に主張せずに退く私も日本人ということなのだろう。この二組の話でケンカをするパワーはないし、お世話になった彼女と最後の最後に気まずい会話は交わしたくない。彼女はスケートファンではないのだからこれ以上マニアックに語っても仕方がない。

「でもいいのよ。ジェイミーとデイヴィッドは昨夜のインタビューで自分達の演技に満足している、銀メダルを受け入れると言っていたから。あれこそチャンピオンのハートよ。私はフィギュアスケートはよく知らないけど、銀の資格しかないのに金メダルをとるよりは金メダルにふさわしいまま銀メダルの方がいいから。」(昨夜男子ショートの放映が終わった後にサレー組のインタビューがあった)
それは確かに真理である。
カナダのスケートファンはサレー組を金メダリスト同様の英雄として迎えるだろう。過去の経験からメダルの色や存在に左右されないものがあることを知っているはずだ。金か銀かで変わるようなチャチな絆ではあるまい?
まあ、ファンのそんな好意が選手の心に届くかどうかは別の話であるが。

そうなのだ。
訴訟の多さは日本と桁違い、なんでもかんでも徹底的に戦うというアメリカという国にそのような考え方は存在するまい。この点ではカナダも同様だろう。
むしろカナダ人の場合好意を持っているからこそ、誇りに思っているからこそ「ジェイミーとデイヴィッドの方が絶対よかった、あのジャッジは絶対おかしい!」と強硬に、見方によってはヒステリックに主張をし続けるような気がする。ディベートを叩き込まれているし。
ディベートは「二手に分かれて論争を戦わせる」という論理的思考の演習法として紹介されているが、要は相手の意見に耳を貸さずに一方的に自分の意見を主張し続けて相手を黙らせた方の勝ちなのだ。建設的な議論法など身につくはずがない。

ああもうやめよう、気分が悪くなる。なんで中国ペアのファンの私がここまで考えなければいけないのだ。雪ちゃん達が巻き込まれていなくてよかった。
雪ちゃん達が滑る前から敗北感を感じさせられたあの二組の演技が汚されてしまった。
やさぐれながらもそれ以上に感動したあの空間を返してくれ。


ホテルの前で止まるなり、「IDカード忘れた、家に取りに帰らなきゃ!」と慌てる奥さん。大笑いでバタバタしながらお別れ。
彼女は旦那に家の仕事を全て任せて連日オリンピック観戦、男子フリーのチケットも持っているのだそう。合間にはボランティア、地元ならではのオリンピックの恩恵を満喫しているのだろう。
それが最後まで続いてくれることを祈る。バッサリ斬り捨てるようなことを考えて悪かった。


巻き込まれると個人の意思の力ではどうしようもない流れというものがある。
ジャッジの不正という事件が挙がってしまってはサレー達も無事ではすむまい。



もしリレハンメルが北米で開催されていたら、エルビスは無事ですんでいたのだろうか。





移動先のホテルはフロントの横に旅行会社の常駐デスクがあり、スタッフのお姉さんが二人座っている。なんでもフロントに頼みごとがある時に彼女達に言えば、代わりに頼んでくれるのだそう。ホテルから駅までの地図や行き方まで教えてくれる。
すごいなあ、旅行会社ってこんなサービスまでするのか。サービスの一つ一つにいちいち感動する田舎者の私。だって個人旅行しかしたことないんだもん。

ホテルからTRAXの駅へ歩く道は行けども行けども道路が続いている。やっと見えた建物を駅と間違え、引き返す時に中から出てきた男性に声をかけられた。TRAXの駅へ行く途中と答えると、「ええ!?ここから駅までまだ1マイルあるのに歩いて行くのは無理だよ!車で連れて行ってあげる」と、連れの女性と合流してあっさり連れて行ってくれた。
これだけ広大な場所だと歩くという行動は常識外れ、これだけ人口密度が低い土地だとこういう人助けは親切以前の域なのかもしれない。見知らぬ男性+車ということで警戒し、運転して行く方向とスピードをチェックしながら最後までピリついていた私は結構惨めな人間だと思う。


今回利用したのは13日のショートトラックと男子フリーのチケットに宿泊がついているセットプラン。だがショートトラックを見に行くとお土産を買う時間がなくなるので、ダウンタウンでダフ屋の兄ちゃんに引き取っていただいた。買い物以外に何をしようか何も考えていなかったのだが、kさんの提案でユタ大学へ行くことにする。確かユタ大学って選手村がある所よね?出入り口で記念写真撮れたらいいな。
こうなると現金なもので、TRAXの窓から見える景色さえ何か違って見える。「ひょっとして選手がこの辺ふらついてたりするのかな?試合が終わった選手は観光とか」「この時間だったらアリョーシャまだ寝てるかも(笑)」という会話をしながら終着駅のユタ大学へ。

TRAXの駅のすぐ近くにオリンピックスアジアムがあり、「Light the fire within」の文字が見える。何度見てもいいコピーだ。なぜスポーツの観戦に打ち込んでしまうのか、なぜオリンピックに多くの人が盛り上がるのか、まとまりかけていた考えをあっさり言い表わしてくれた。
これは特定のスポーツのファンではない、一般のテレビ視聴者に向けられた言葉だと思う。

スポーツ選手は一つの技量を伸ばすために費やすものが想像を超える所にある人達だと思う。体を鍛えるために人生の大部分をかけ、時には体を痛めつける。私達が気づくことのないものの存在を知り、視界に入れ、それを目指しているような気がする。
オリンピックは最も規模が大きく、最も見る機会が多いスポーツの試合。選手達の姿に普通の生活をしていれば存在を知ることのなかった何かを見出し、己の内に火を点せ―――


しかしわざわざつけなくてもディープなファンというのは既に火がついている状態。それどころか今の私はガンっガンに燃えてるわよ!(←意味が違う)
今回はエルビスの最後の試合、肩の力を抜いて神経は研ぎ澄ませて何一つ見逃さないように臨むつもりだったのに、こんな低レベルの事でブチ切れることになるとは思わなかった。万が一エルビスに出くわしたらぜ――ったいに言ってやる!!


ある意味裏側?駅を出るとほとんどの人が一方の方向へ歩いていく。ユタ大学の学生なのか、ある種のオーラが感じられて懐かしい気分になった。大学生が持つオーラは万国共通なのかもしれない。社会人で旅行者の私達はオリンピックスタジアムを目指して逆の方向へ歩く。
坂を上るとだんだんオリンピックスタジアムの全貌が見えてきた。適当な所で記念写真を撮り、さらにいい場所があったのでまた写真を撮るの繰り返し。歩いていくと一ヶ所に人が集まっていた。どうも一番近寄れるのはここらしい。考える事はみな同じ(笑)。写真を撮り、さらに坂を上るが…。
ここはどこ?というか、
どこが道路でどこが大学の敷地内なのよ!?

オリンピックスタジアムの近くにあっただだっ広い道路と芝生の部分があるだけで、どこが公共の場所でどこが大学の敷地か冗談抜きでわからないのだ。ちょっと、テロを警戒してソルトレークシティーは街中も厳重に警備を敷いていてピリピリしているんじゃなかったの?テレビで見た印象とえらく違う。
TRAXの駅へ行くまでにも感じたが、まあこれだけだだっ広くて人口密度が低いと犯罪も起こりようがないか。立ち入り禁止区域まできたら引き返せばいいと割り切り、適当にそぞろ歩きをすることにする。
ポスターにつられてある建物に入ってみると、オリンピック招致関連のパンフレットやポスターが色々あった。幻の大阪バージョンまであったりして結構おもしろい。最後まで見たところで係員の女性に遭遇、どうもメディアを対象にオリンピックの招致活動を展示している建物だったらしい。一般人は立ち入り禁止だったということで、笑顔で謝って建物を出る。

テンションのおもむくままに歩き回ったのはいいが、さすがに疲れてきたのでTRAXに乗って再びダウンタウンへ。


ダウンタウンには露店だけではなく建物の中にもピンバッジの店がある。さすがピンバッジの本場、アメリカ。冬季に夏季、古い物から新しい物、招致合戦に敗れた国の幻の物までとオリンピック関連のピンバッジがひたすら並んでいる。メープルリーフ&中国国旗やメープルリーフ&日の丸という私のためにあるようなピンバッジがあったのだが、妙にこの時ひねくれモードだったので買わず、帰ってきてから後悔することになった。
アメリカのバレンタインデーにチョコレートを贈る習慣はないが、男性が女性に貢ぐためかチョコレート売り場にバレンタインデー仕様のチョコレートがある。ラッキー!家への義理チョコと会社へのお土産にオリンピックのマスコットキャラクターの包み紙になっている箱入りチョコを購入。
意外なことにお土産屋もあった。「ソルトレークシティー」だから岩塩や塩の結晶のお土産はわかるのだが、やたらに蜂の巣関係のお土産が多い。何かあるのだろうか?

フードコートでコーヒーを飲みながらkさん持参のヤグディンの写真を見せていただいた。まとめて見ていくと彼は毎年顔が変わっていっていておもしろい。エルビスは顔固定しているもんなー(^^;)この年齢だからだろうか?
「この写真は○○−○○シーズン」と推理してみると当たっていた。わーい♪


今日から泊まるホテルはダウンタウンから少し離れた所にあり、昨日まで泊まっていたB&Bがあった住宅地とは全く様子が違う。道路、そしてだだっ広い空間の中にぽつりぽつりと家が建っていて、開拓当時のソルトレークシティーが想像できる。道路の向こうに広がる空間はこれが荒野というものなのかと思わせる。
荒野とくればアランフェス、本田君のフリー。一番好きなあの悲しみから怒りへ変わっていくフラメンコギターの部分を頭の中で演奏すると、耳について離れなくなった。
万が一エルビスが長野世界選手権に来ようものなら。


ホテルのロビーで「あの衣装○○ね」とどうとでも受け取れる表現で本人に言ってから、その時のエルビスの反応も込みで陰で笑い者にする人達が絶対に出てくる。エルビスのファンとしてそんなこと耐えられるはずがない。想像しただけで頭に血が上る。
フィギュアスケートに対する嗜好で分類すれば日本は親ロシア圏。今回のペアの件がどういう方向に転ぼうが、日本のスケートファンの間で反北米のムードが高まるのは簡単に予想がつく。それに加えてオリンピックというビッグイベント中の日本はフィギュアスケートへの注目度もナショナリズムも一時的に上がるのだ。
そんな時にあの「ライーヨー」……

神経を逆なでする以外の何物でもない。要素があまりにもそろいすぎている。

個人的な嗜好のレベルで怒っている場合ではなかった。
今頃日本ではエルビスに対するバッシングが起きているのではないだろうか。へなCHOCOは大丈夫だろうか。


美形男性スケーターをアイドル的に愛でる日本でのエルビスは良く言えばライバル役、悪く言えば敵役。日本でエルビスのファンを名乗る人間は変わり者、下手をすれば悪趣味扱いをされたことが一度はあるものなのだ。ようやく近頃になって「長年がんばっているベテラン」として好意的に見られるようになって、遅い春が来たような気がしていたのに…全部ぶち壊しだ。
今回のことであの「Lion」に傷がつき、エルビスが日本で侮蔑混じりにからかわれるお笑いキャラになってしまうことが悔しいし、またそんな隙を作ったエルビスに対しても腹が立つ。見えない相手に対してニース以上の戦闘モード、完全な疑心暗鬼状態。目がつり上がっているのが自分でもわかる、猫だったら全身の毛が逆立っていただろう。
怒りが心配を呼び、心配がまた別の怒りを呼ぶ。どうしてくれようこの怒り……!!


問題は怒りをどの方向に持っていくかだ。
一人でできることは限られている。

はらわたが煮えくりかえるが嘲笑は無視して耐えるしかない。この手の主張は数が勝負だからまともにやり合ってもつぶされるだけだ。
とりあえず他のへなCHOCOメンバーに協力してもらって(←いい迷惑)「日本人ファン一同」としてなんとか他の国のファンにあのつづりは違うということをアピールして、関係者に伝わる足がかりを作らないと。情報が伝わったからといってエルビスが文字を変えるとは思っていないし、変えた所で状況が変わるわけではないが、このまま何もしないで黙っているのは日本人ファンの意地が許さない。
現地で悶々としているだけで何も手が打てない状態なのが耐えられない。エルビスのファンの人と連絡がとりたい、日本での評判が知りたい、日本にもう一つ体が欲しい。



ホテルに戻ってから2時間ほど昼寝をし、起きてからテレビをつけるとチンクワンタ会長のインタビューが映っていた。今日のNBCはひたすらジャッジ不正関連の映像を流しているような気がするのは気のせいだろうか。これだけスケート関係の報道をするのなら昨日の男子ショートの映像を流してほしいとkさんはおかんむり。
現地の新聞を読むのも海外観戦の楽しみの一つなのだが、どういうわけか全国紙しか見つからない。元々全国紙は味も素っ気もない概要しか載せない上に、男子ショートの記事以上にでかでかとジャッジ不正の記事がスペースを取っているのだ。男子シングルのファンとしてはかなりおもしろくない。ペアのごたごたのとばっちりがこんな所に来るとは思わなかった。
こんな状態なら日本でネットをやっている方がよっぽど情報入る。フリーの滑走順さえ知らないのだ。心が半分以上日本に向いているなんて海外観戦中にあるまじき状態。
何のために私はソルトレークシティーに来たのだろう?


この節はkさんとよるさんには申し訳ありませんでした。


よるさんにフリーの滑走順を教えてもらったのはいいのだが……なんで二人そろうかな(^^;)

いや、エルビスが早い滑走順を引くような気はしていた。昨日「ぜーったいフリーの滑走順早いんです、私この手の予感は当たるんです!」と愚痴りもした。でも、エルドリッジまで早い滑走順引くことないじゃん、しかも続き!?完全にやさぐれる。
こうなったらバックステージで待っていてくださいエルドリッジ。エルビスが終わった後で二人で水を飲みながらしみじみ話でもしていただきましょう。もうネタにするしかない、落描きでも描いてやろうか。
そして栄えあるオリンピックの最終滑走はショート1位のヤグディン。おめでとうございます、ここはひとつビシッと決めていただきましょう(笑)!

あ、ちょうどいい機会だからエルドリッジには会心の演技で会場にトッドコールを起こしてスケートカナダのお返しをしていただきましょう。
アメリカ男子で一番声援が大きかったのは間違いなく彼なのだから。



晩ごはんを食べに再びダウンタウンへ。

今回入れていただいた同行グループはロシア勢のファンの方々。当然のように寿司を食べに行こうということになり、既に「ichiban(一番)」という寿司屋さんをチェックしていたのはさすが寿司好きヤグディンのファン(笑)。
6、7人いるのでタクシーの移動だと手間がかかる。住所を見せてもらうと「S○○、W○○」。おおっわかりやすい、しかも近い!ということで道案内役になって歩いて行くことにする。東に2ブロック行って南に0.7ブロック行けばよかったのだが、1ブロックの距離が思った以上にあって少ししんどかった(すみません>同行グループ)。広いだけに街造りのスケールが違う(^^;)

店の内装は日本語の名前がつくだけあって日本風。相撲の力士がまわし姿にスキーを履いてジャンプ(ジャンプ競技の方)をしているパネルがあったりと、みょ〜なジャパニーズアートが満載。ウェイターの兄ちゃんは笑い方がアプトに似ている可愛いタイプ。彼が注文を取り終わって奥へ入ってからこっそり(?)盛りあがる。
海外旅行で日本料理を食べたのは初めて、日本のビールもあったが寒かったのでしっかり熱燗を頼んでしまう。敬謙な宗教都市であるソルトレークシティーのレストランでアルコールを摂るには手続きがいると聞いていたのだが、昨日も含めて何も言われなかった。
定番のネタもオリジナルの太巻きもあってバラエティー豊富、寿司とスケートトークでこれまた盛りあがる。いやあ、おいしゅうございました。熱燗はいまいちだったが。

ホテルへ帰ってテレビをつけると長野オリンピックゴールドメダリストのピカボ・ストリートのインタビュー映像が流れていた。本屋のショーウィンドウに自叙伝が並んでいることからアメリカのアルペンスキー界の女王、ヒロイン的な存在なのだろう。
「どう考えたってあのジャッジはおかしい。明らかにロシアのペアはミスしたのに」
るせー!!
長野オリンピックの時に「主観的に結果が決まる採点競技は大嫌い。フィギュアスケートみたいな競技をする人の気が知れない」という内容の発言をしたあんたに言われたかねーよ!


波紋がフィギュアスケート以外の所にも広がっていく。
今日一日ベレズナヤ組の映像を繰り返し見ているような気がする。

「どっちの組がよかったと思うか?」と訊かれたらサレー組がよかったと答える。これは試合を見た感想なのだからやましい所も気がねする必要もない。だが今の私はそう思うことが放送局に共感、いや気がつかないうちに洗脳されてベレズナヤ組を攻撃しているような不安とある種の罪悪感を覚えている。
もしこの放送局がCNNやABCみたいに全世界にネットワークを持っていて、日本のスケートファンが見たらどうなるだろうか。それよりロシア人が見たら。ロシアやヨーロッパのスケートファンが見たらどうなることか。いやそれよりアメリカ在住のロシア人がこれを見たらどう思うか。アメリカは移民の国、住んでいるヨーロッパ系の人間と「アメリカ人」の数を比較すれば…。

ベレズナヤ組が悪者になるように刷りこみたいのだろうが、副作用でサレー組に対する反感が起こるというリスクを考えているのだろうか。北米と北米以外の人間、どちらの数が多いのか少し視点を変えればすぐにわかりそうなものを。


それだけ反感を持っているのならテレビを見なければいい。インターネットの記事も読まなければいい。だがそれはできない。
こんな時に有名北米選手のファンである事の難しさを思い知らされるとは。

インターネットは世界共通語の英語の世界、色々な記事を読んでかなりの量の情報を得ているのもまた事実。今までどれだけ目から鱗が落ちて新しいものが見えたりしたことか。
だが鵜呑みにしようが警戒しながら読もうが結局、情報の発信者から見れば支持をしている行動であることは変わりがない。今回の件に関していくら気を使おうが、ヒステリックに主張してロシア選手を叩く北米人と所詮同類なのだ……。
同族嫌悪ほどやりきれないものはない。ロシア選手のファンだったらどんなに楽だっただろう。

英語しか読めない以上微量の毒が含まれているのを承知で北米発の報道に依存し、北米以外の選手を叩く行為に荷担しているという後ろめたさと共存していかなければいけない。洗脳されているという不安を持ち続けなければいけない。それは有名北米選手のファンである以上背負っていかなければいけない十字架なのだという覚悟はインターネットを始めてしばらくたった時に一応していた。
十字架の重さに耐えられなくなったらいつでも降ろせばいい。そして今の私に降ろす気はない。

今さら何を。


アメリカのオリンピック放映権はNBCが独占しているらしいのだが、その割にはお粗末な放映内容である。昼間やゴールデンタイムの放映が全くないらしく、夜のかなり遅い時間から始まる。そしてスタジオトークが長い。競技以外のオリンピック関連ニュースや何かのイベントの生中継はまだ許せるが、競技の放映がなかなか始まらない。
かっちりとしたスーツを着た司会者がオープニングトークでスタジオの観客を笑わせている。
「さあ本題に入ろうか。僕らはジャッジにコントロールされているわけじゃないからね」
もういいかげんにしてくれ……。


目にするもの、耳に入るもの全てが不快感をかき立てる。
オリンピックが汚されていく。四年に一度、選手がそれまでの全てをかけて戦う場が。
もうアメリカでの試合は見に行くまい。


怒り狂っている間に一日が終わってしまった。 あと一日しかない。
明日で全てが終わってしまうというのに。

続く

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追記:
・この日のエルビスは練習でえらく楽しそうな様子だったようで……帰ってきてからYahoo!の写真を見て和ませていただきました。ありがとう、Yahoo! でもこれ現地で見たかったわ。
エルドリッジにじゃれついているようなエルビスが男の子(笑)って感じでかわいかったです。写真がまだ見られるのならリンクを貼っているところなんですけどね。