証明<3>

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「包帯交換したげるから、じっとしててね。」
 少女が包帯をほどき始めた。しかしあまりにも丁寧に巻かれていたために、その作業はさっぱりはかどらない。しかもその間少女のお喋りは続くのでさすがのオルも少々閉口気味になった。
「ふぅん」
 ようやく包帯がほどかれたころ、少女がオルの腕をしげしげと眺めながら呟いた。
「あなたって、けっこう腕が太いのね」
「そりゃ、俺は兵士だからな」
 オルはそう答えたが彼の腕は兵士としては別段普通である。腕が太いなどと言われたのは初めてだ。
(まあ、こんな僻地じゃ兵士も見た事もないんだろうな)
 他愛のない少女の言葉に、オルの頬は軽くゆるんだ。
 が・・・。
「人間って痩せっぽっちだって聞いてたんだけど」
「そりゃ、人間って言ったって色々・・・?」
 オルの表情が一瞬固まった。
「おまえ、今何と言った?」
「え?人間は痩せてるって言ったのよ。あ、気に障ったの?ごめんね。あたし、そんなつもりじゃ・・・」
「あ、いや。そうじゃなくて。」
 オルは気まずそうにうつむく少女の顔を、食い入るように見た。
 可愛らしいその顔は、どう見ても人間である。だが少女の言葉からすると、彼女は一体何者なのか?
「おまえ・・・人間、じゃないのか?」
「あ、そっかぁ!」
 突然顔を上げた少女は、ポンと手を打った。
「あなたは知らなかったのね。あたしドワーフなの」
「・・・は?」
 そう聞いたオルの目は、これ以上ない程に丸くなっていた。
『西方の地に、ドワーフがいる』
 かつて軍の上官からそう聞いた事をオルは思い出していた。が、その時の話によれば、ドワーフとは<人間のような容姿>をして<人間のような言葉>を話し、頑固で愛想が悪く、そして洞窟をすみかとする、人間ではない未開の種族であるはずだ。
(確かに洞窟の中らしいな、ここは。しかし、ドワーフは異様にごっつくて・・・あ!)
 オルは少女の腕をみて驚いた。腕が太い・・・いや、妙に 筋骨隆々なのである。オルほどではないが、やわな大人の男よりたくましいのは間違いない。聞いた話とは違う点が多いが、腕っぷしだけは噂どうりである。
「立派な腕をしてるんだな」
「やだぁ、うれしい!」
「・・・?」
 決して誉め言葉ではないはずなのだが、なぜか少女はうれしそうに両手を頬にあてがった。まあ、美的感覚など地域によって異なるものだし、まして相手は<人間でない種族>なのだ。
「あたし、マイラっていうの。あなたは?」
「・・・オルだ」
「オル?あはは、変わった名前ね」
 変わっているのはお前の方だ、と思いながらオルは、一向に終わる気配のない包帯交換に小さなため息をつくと同時に、とんでもない所に担ぎ込まれてしまったという思いで、ガックリと肩を落とした。

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