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George Williams on Pony Fish


代表的な適応主義の生物学者、ウィリアムズによる適応の説明の具体例を紹介しよう。図は、原著英語版の表紙の絵に、筆者内井が手を加えたもの。この「適応のお話」は(Gould & Lewontin が非難するような)いかがわしいものだろうか?

George C. Williams (1926-) is one of the most respected biologists of the day. His book Adaptation and Natural Selection (1966) is one of the classics of the contemporary evolutionary theory. He is Professor Emeritus, State University of New York, Stony Brook.

 

ヒイラギはどのようにして光を手に入れたか

たとえばヒイラギという魚がいるが、これを解剖してみると、この魚には、発光器と思われる器官、すなわち発光腺があり、その背後には特定の方向に光を送る反射板までが備わっていることがわかる。そこでわれわれは、この器官は光を発するのにうまくできているという結論を受け入れる。だが、当然次に疑問となるのは、光は何の役に立つかということだ。ヒイラギの発光腺は体の奥深くにある。自分の内部を照らすことが、魚にとって本当に適応的なのだろうか?

・・・だれもが知っているように、雪は白という概念の究極の基準だが、実は灰色の空を背景にすると、自由に舞い落ちる汚れなき雪は、灰色よりも濃く見えるのだ。これは、暗い空が光源であり、雪片の、光のあたっていない方の面だけが見えているからだ。・・・この雪片と同じことが、魚にも当てはまる。・・・

・・・ヒイラギは決して明るいところには身を置かない。いつも敵に見つかりそうにない暗い水の中にいるので、もし見つかったとしたら、それは下からである。上方から少しでも光が射していれば、下にいる捕食者には、頭上の光を横切るヒイラギの影が見える。ただし、餌となる魚が上方から射してくる光にあわせて腹部から光を発し、それによって影 を消すことができれば話は別だ。(ウィリアムズ『生物はなぜ進化するのか』長谷川眞理子訳、草思社、1998、30-32。G. C. Williams, The Pony Fish's Glow, Basic Books, 1997. )

かくして、ヒイラギの発光腺は、この魚が捕食者から身を守るための適応の結果であり、自然淘汰の産物であるとして説明されるのである。「身を守るため」というフレーズは、目的論の言葉遣いのように聞こえるが、これは「発光腺をわずかでも備えた個体が生き延びる確率が大きかったので、結果としてそのような器官がヒイラギという種に定着し、発達したのだ」という、作用因と統計的法則(テキスト116-120ページ参照)に訴える説明の(便利な)省略形だと理解しなければならない。

以上の適応の説明とは別に、もう一つ注意すべき点がある。それは、発光の機能を同定する基準と、発光器の自然淘汰による進化的説明との関係である。ウィリアムズの引用された説明では、(1)まず発光器の機能が確認され、(2)続いてこの器官の(進化的)有用性の説明が行われている。もちろん、(3)この魚の生態に照らして推論できる「有用性」でなければ説得力はない。

このように、機能の確認の際に自然淘汰が持ち出されるわけではなく、「この機能は何のため」という問いかけの文脈で自然淘汰が持ち出される。この点を、「機能の同定のために繁殖の成功が持ち出される」と誤解してはならない。

ちなみに、ウィリアムズは「還元主義」の傾向を強く持ち、説明原理の節約を重んじる、いわゆる tough-minded な生物学者である。したがって、グールドとルウォンテインの批判が出るはるか以前から、「適応」を持ち出す説明に関して次のような禁欲的な態度を表明していたことを銘記しておきたい。

The ground rule---or perhaps doctrine would be a better term---is that adaptation is a special and onerous concept that should be used only where it is really necessary. When it must be recognized, it should be attributed to no higher a level of organization than is demanded by the evidence. In explaining adaptation, one should assume the adequacy of the simplest form of natural selection, that of alternative alleles in Mendelian populations, unless the evidence clearly shows that this theory does not suffice. (G. C. Williams, Adaptation and Natural Selection, 1966, 4-5)


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Last modified Sept. 6, 2005. (c) Soshichi Uchii

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