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★1月29日 金曜日★
目を開ける。
目の前に、真琴の顔があった。
そっと、その頬に触れる。
温かい。確かに真琴だ。
そして、オレもまだここにいる。
ふたり、まだ消えていない。
オレ達はまだここにいる。
浩平「ほら、そろそろ起きるぞ」
そう言って真琴の額に手を置く。
しかし、起きる様子がない。
昨日の外出で疲れたのだろうか。
だったら、寝かせてあげた方がいい。
そう思って、一旦は起きかけたオレも再び布団に潜り込んだ。
ぴんぽん。
ドアのベルでオレは目を覚ました。
時計を見てみる。
浩平(…)
既に夕方だった。
あれからずっと寝たままだったらしい。
ぴんぽん。
再びドアベルが鳴った。
オレは真琴を起こさないようにベッドから抜け出し、玄関へ向かった。
玄関のドアを開けると、天野が立っていた。
浩平「…今日は美坂が都合が悪いんだな」
天野「はい」
浩平「ともかく、上がってくれ」
天野「はい」
キッチンで夕食の支度をしながら、天野は言った。
天野「今日は1日中お休みだったんですね」
浩平「あ、ああ」
自分がパジャマ姿だったことを思い出す。
浩平「すまないな、こんな格好で」
天野「いえ、お気になさらないでください」
浩平「そうか…。えと、真琴がずっと寝たままでな。付き合って寝てたら、気付
いたら夕方になっていた、というわけだ」
天野「…」
浩平「なぁ天野」
天野「はい」
浩平「天野はまだオレの事を覚えていてくれてるんだな。ってそれは美坂も同じ
か」
天野「…折原さん」
浩平「ん?」
天野「…真琴は私の大切なお友達で、折原さんはその真琴の大切な人です。そん
な人を簡単に忘れるはずがありません」
浩平「え?…大切な、人…」
天野はオレの方を向いて言った。
天野「あなたは真琴の運命を受け入れ、そしてご自分の運命を受け入れて、真琴
のそばに居続けることを選んだのです。ですから、真琴の大切な人である
ことにもっと胸を張ってください」
浩平「あ、あぁ…」
天野「はぁ…。全く美坂さんのおっしゃっていたとおりですね」
浩平「美坂が何か言ってたのか?」
天野「…あなたは自分のことを低く評価しすぎで、もっと自分に自信を持つべき
だ、ということですよ」
浩平「あの美坂がか…。それは素直に喜んでおくべきなのかもな」
天野「そうですね」
そして天野は夕飯の支度を続けた。
天野の夕食の支度が終わったので、オレは2階に真琴を迎えに行った。
すると真琴は、ベッドの上で手首の鈴で遊んでいた。
浩平「真琴、ご飯が出来たぞ」
しかし真琴は鈴を鳴らすのに夢中なのか、オレの言葉に反応しなかった。
浩平「仕方がないなぁ…」
オレはベッドの所へ行き、真琴を抱き上げた。
真琴「…」
真琴はオレの顔を見た後、胸に頭を擦り寄せてくる。
思わずオレは真琴を落としそうになる。
浩平「こ、こら、危ないって」
それでも真琴はやめようとしない。
浩平「全く…」
オレは真琴を落とさないように気を付けながら、キッチンに向かった。
夕食後、オレ達はまたベッドの中にいた。
真琴「…」
真琴はまた、手首の鈴に夢中になっている。
浩平「飽きないよな、お前…」
オレはそんな真琴を眺めていた。
そのうち、眠気がオレを支配し始めてきた。
ちりん。
朦朧とする意識に、鈴の音が響き渡る。
ちりん。
目が霞みはじめ、目の前にいるのが誰だか分からなくなってくる。
ちりん。
手を伸ばし、目に見える何かに触れた。
ちりん。
その温もりは確かに、真琴だった。
ちりん。
………。
……。
…。
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