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★1月30日 土曜日★
浩平「真琴?」
真琴「…」
もう真琴は、オレの呼びかけに反応しなくなった。
自分が呼ばれていることも分からないのだろう。
ただ、オレに体を寄せ、夢中に手首の鈴を鳴らしていた。
だけどオレも、そんな現実に満足していた。
真琴の体温を感じていられる。それだけでよかった。
時折、頭を撫でてやったり、体を抱きしめたりした。
その都度、真琴は体や頭をオレに擦り寄せた。

真琴を風呂に入れた後。
暖房を強く効かせたリビングで、オレ達は、一糸纏わぬ姿のまま抱き合っていた。
時折、互いに頭を擦り合う。
時折、互いに強く抱きしめ合う。
互いの体温を感じ、
互いの呼吸を感じ、
互いの鼓動を感じ、
緩慢に、しかし確実に潰えてゆく時を過ごしていた。
ふと、真琴は体を離し、オレの顔を見る。
浩平「どうした?」
しかし、オレの呼びかけには答えない。
体を寄せてきて、オレの頬に自分の頬を擦りつけた。
これが答えなのかも知れない。オレはそう思った。
だからオレは真琴の体に手を回し、抱きしめた。
そんなオレの行為に反応してか、真琴はオレの右肩に顔を持っていった。
そして…。
浩平「くっ!」
突然走る鋭い痛み。
しかしその痛みも、次第に快感に変わってゆく。
真琴の歯から、オレへの愛情が流れ込んでくるのが感じられる。
だからオレは抵抗しない。
その代わり、真琴の肩に口づけ、ひと舐めすると、同じように歯を突き立てた。
一瞬、真琴の体が硬直する。
しかしそれも束の間、すぐに弛緩した。
口の中に血の味が広がる。鉄の味、そして甘い。
これこそが命の味。命の証だ。
ここにはもはや、ヒトは居ない。
ヒトの姿をしたケモノが居るだけだ。
ケモノが交わす、ケモノの愛情。
だけど、これでこそオレ達だと思った。
姿形など関係ない。形式など無意味だ。
互いが互いであること、これが全てだった。

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