続 * 寒い日の幸せ
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寒い冬
温もりを求める孤独な魂

孤独を知る魂との出会いにより癒しを与えられる
与え、与えられる関係を得て
欲しかったものを手に入れたことに喜び
幸せな笑みを浮かべる

孤独な魂はもう、孤独じゃない・・・





目が覚めて、番に飛び込んできたのは最近見慣れた天井。
頭はとてもすっきりしていて、久しぶりに熟睡できたな〜なんて思いながらひょいと時計を確認して。
そろそろ起きるかと身体を動かそうとして
思い通りに動かない身体に気がついた。

布団だけでない重み。
そして
自分の体温だけでない確かな温もり。

そういえば、と横を見ればそこには寝る前に見た姿のまま安らかに眠る顔があって。
昨夜の、安らかな眠りの原因に幸せを感じた。

他の誰かが隣にいたら満足に睡眠なんてとれなかったのに・・・・不思議だよな?
今日は特に用事もないし、このままこの寝顔を堪能するのも良いか・・・



起きようとしてわずかに浮かんだ身体をそのまま横に向けた。
もちろん、身体の上にある新一の腕に衝撃を与えないように注意しながら・・・

安らかな吐息を肌で感じて
このまま新一の安らぎが続けばよいという思いと
早くその蒼い瞳で自分を見て欲しいという願い
そして何より自分だけの新一を見ていたいという想いが交錯する。





流石に視線を感じたからなのだろうか・・・

「ん・・・」

自分の方を向いていた新一がコロンと反対に向こうとした。
起こさないように注意はしていたが、新一が反対を向くことは許さなかった。許せるはずもない・・・
いや、それどころかチャンスだとばかりに置いていただけの新一の腕を自分の身体に巻きつける。
もちろんそれだけでなく、新一の首の下に腕を入れ抱きしめた。

そして、新一の額にキスをする。
起きてしまうならそれはそれで仕方ない。
そんな気持ちに支配されていたが、返って来たのは
正にエンジェルスマイルといわんばかりの微笑み。
思わず固まってしまった・・・(汗)




ピクリとまぶたが動いたのを確認したと同時に固まりは解除された。
そうして、ゆっくりと望んだ光が現れてくるのをどんな気持ちで待ち望んでいたか、
きっと新一は知らない。

「かい・・と?」
いかにも起き抜けというかすれた声。
瞳を開いて最初に見るものが自分であると言う幸せ。
きっと誰にも見せたことのない、無防備な姿を見ることを許されているという自信。
それだけの信頼感を得ているのだと無意識のうちに示してくれる新一が愛しい。

そんなことを思うと自然と笑みが漏れているのを自覚した。
もちろん、俺が気づいていないだけで目が覚めて自分が新一の家にいるのだと認識した時から
特定の人しか見れない笑みは浮かべられていたのだが・・・
きっとそれは俺には気づけない。
俺だけでは・・・ね。


「おはよ、新一」
挨拶とともに新一の頬にキスをする。
これは、習慣とかせる様に努力しているものの1つ。
「はよ」
未だ完全に覚醒しきっていない新一。
コレがまた可愛いんだよ。
にやけ顔が止まらない。
「新ちゃん、おはようのちゅうは?」
なんて声をかけてちゃっかり頬にキスを返してもらう。
抵抗もなく返されるキスから、きっと幼い時は習慣だったんだろうな〜と思うとうらやましい限りだ。
まぁ、寝ぼけてる時にしか返してくれないけどな・・・
だがしかし、嬉しさのあまりつい強く抱きしめて完全な覚醒を促しているくらい、いつもの事ではある。

とりあえず、部屋から追い出されはするものの新一の顔は怒りのためではなく紅く染まっていて。


それはいつもの、ゆっくり出来るときの2人の日常。




自分の部屋で着替えて朝食作り。
キッチンにいい匂いが漂う頃、階段から聞こえてくる軽やかな足音。

2人同時に起きた時は食事の準備は一緒にするのが決まり事。
新一は主にパンと飲み物の準備。
俺はおかずの準備。
時々役割は入れ替わるけど、出来るだけ2人で準備をする。



朝もコーヒー派の新一。
朝からコーヒーを飲みたいと思わず、その時の気分によって変える俺。
「快斗、今日は何を飲む?」

新一は出来るだけの俺の希望に応えてくれる。
応えようと思っているから声をかけてくれる。
たったそれだけなのに、嬉しい。
自然と笑みが漏れるのはいつものことで。
そして
紅茶
カルピスのミルク割り
ヤクルトのミルク割り
ホットミルク蜂蜜入り
梅茶
みかんのホットジュース
瞬時に今作れるものが思い浮かぶ。

甘〜いカルピスのミルク割りも良いけれど、今日はなんとなく甘いカフェオレの気分。
そう新一に伝えて準備は完成ってね♪

TVのニュースをバックミュージックに今日の予定を立てる。
湯気の向こうに見える顔。
冬は良いなと思う瞬間。
食事の温かさがそのまま心の温かさとつながっているようで、ただの朝食がどんなご馳走に負けない食事となる。

「新一、今日何も用事ないしどっか遊びに行こうよ」
本当は、天気の良い日中にこそしておきたい家事もあるけれど。
何もかも忘れて楽しむのもたまには良いではないかと考え直して、今日の計画を立てる。
いろいろな案を出して、2人で考える。
楽しい時間。

しかし、楽しい時間は一本の電話で終わりを告げる。

聞きなれた携帯の着信音。
どれだけ努力して楽しい時を一緒に作り出していても、一瞬にして消し去る苦々しい・・・・警察からの要請願いの電話。
すまなさそうに謝り出て行く新一の背中を見送くって、1人リビングへと戻った。

先ほどまで湯気を立てていたコーヒーもカフェオレも俺の寂しさに同調するように温かさを失っていた。

一口分だけ残った新一のコーヒーを口に入れて「にが」っと思わずつぶやいた。
新一が飲むコーヒーはブラックで
でも、何も胃に入ってない状態は胃に悪いからとミルクを入れたのは俺。
それでも俺にとっては充分苦くてにがくて・・・
口直しに自分が飲んでいたカフェオレを一口。
さっきまですごくおいしかったのに、冷えてしまったカフェオレはおいしく感じなくて、甘くて温かいものが飲みたかった。
何を作ろうか・・・

ふと視界に入ってきたのはミルクココアの粉。
コレでいいやとお湯を入れて作って飲んだ。

温かいココアを飲んで少し身体も温まったかなと思っても、心は温まらなくて。
この温もりが心に届けばいいのになんて考えながら、ココアを飲む。

完全に溶けきっていない塊が口の中とコップの底に少し。
それが残された自分のようでじっとコップを見つめた。
そうして今飲んだ飲み物がまさに自分達のようだと唐突に気がついた。

時間をかけてゆっくりと
同じ豆でも作り手によって味も香りも変わってしまうように、
苦味の中にまろやかさや甘みが隠れているように、
数々の魅力は人をひきつけるコーヒー。
砂糖とミルクを入れて飲みやすく味をかえるように
人を受け入れるのが新一だとしたら・・・
だとしたら自分は?
残った固まり入りのココアを飲み込みながら考える。

味の調整も充分出来ずにお湯を混ぜるだけ。
最後に粉が残ってすんなりと飲みつくせない。
簡単手軽。でも替わる物はたくさんある。
俺の中のココアに対するイメージなんてそんなもの。

実際、ココアを飲んだ記憶は少ない。
変わりにあるのは『ミロ』
だから自分で作ったのは新一の家がはじめて。

自分がいなくなっても同じ位置に立ちたいと思うやつはたくさんいて、
そして新一はきっといつかはそれを受け入れる。
そんな寂しい思いが心を占める。
そんなことないなんて言い切れる自信がないから、新一に聞いてそうじゃないと言ってもらえる自信がないから
自分が単調で、薄っぺらくて・・・面白みのない人間に思ってしまう。

こうしていても沈むだけだからと身体を動かす事にした。
洗い物を済ませて掃除もして、そして向かった先は新一の部屋。
「朝は暖かかったのにな・・・」
そう思ったら寒さが急に体を襲ってきた。
温もりのない布団の中に入って、少しでも温もりを感じようと自分を抱きしめる。

「早く帰ってきてよ、新一・・・」
温もりを追うように目を閉じてつぶやいた・・・・


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「ただいま」

すごく嬉しそうに今日の予定を立てていた快斗。
電話を取ったときの悲しそうな顔
扉を閉じた時にちらりと見えた泣きそうな顔
事件に集中しなければと思っていても新一の頭をよぎるのは快斗の事ばかり。

これ以上とないというほど急いで、さっさと帰ってきたのに抱きついてくる者はおらず、新一を出迎えたのは閑散とした空気だけだった。
それを寂しいなんて口が裂けても新一は言わないだろうけど、快斗の姿を探す姿がそれを物語っている。

玄関は鍵が閉まっておらず、玄関には快斗の靴もある。
リビングやキッチンを覘いても快斗の姿は見当たらなくて、快斗がいないというだけで暖房の効いているのに寒く感じる部屋。
どこかに出かけるというメモもなければ出かけた様子もない。
他の部屋や書斎を覘いていてもいなくて、
全ての部屋を見て、最後に立ち寄った自分の部屋のベットで寝ているのを見つけた。
新一のその一瞬の表情は、自分でも意識していないもの。

だが、新一が快斗の姿を見てほっとしたのもつかの間のこと。
快斗が浮かべる寂しげな表情に衝撃が走る。
今日の朝、同じ場所で見た快斗の顔はあんなに幸せに満ちていたのに・・・

快斗にこんな表情をさせたいわけではないのに・・・
どうしたら再びあの幸せに満ちた時間に戻れる?
考えて、考えて
いい事を思いついた

快斗を起こさないようにドアをゆっくりと閉めて、新一はキッチンへ向かう。
テーブルの上には新一が帰り道に買ってきた買い物袋。
中には牛乳が1本。
朝、冷蔵庫にない事に気がついて快斗のために買ってきたものだ。


牛乳を温めてココアを入れて塩を一つまみと砂糖を入れて。
ちょっと味見をしてから2つのコップに分け、ちょっと一工夫。
そして、再び快斗の元へ。
お盆をおいて「快斗、ココア入れたから起きろよ」と呼びかけた。

『甘いものを食べると幸せになる』
そう笑顔で言っていたのはいつの事だったか忘れたけど。
快斗の幸せにコレは力を貸してくれるかな?



+++++++++


新一の声が聞こえる・・・
すごく優しい声。
悲しみに満ちた世界が声に消されるように温かい光が差し込んでくる―――

目を開けば新一の姿。
新一、新一、新一・・・
いきなり抱きつかれた事にビックリした様だけど、それでもあやす様に背中をなでてくれた。
あまりな事を考えて寝てしまったものだから、新一が離れていく夢を見てしまったのだ。
だから、本当に新一がそばにいるのか確かめたかった。

必死にしがみついてくる俺の頭をなでて落ち着かせて、新一は湯気の立つコップを渡してくれた。
コップの中身は、ココア。
俺が落ち込んだ理由の一端がココアにあるなんて新一は知らない。
だから飲む前に顔をゆがめた事も知らない。

といっても、新一の位置からでは湯気で顔は見えないことを計算していたのだが・・・


「甘い・・・・」
ココアを飲んでて、先程はあった塊がない事に気がついた。
「前作ったときは牛乳がなかったからな。お湯で作るより牛乳で作った方が甘みはあるし美味いだろ」
それに、身体もあったまるだろ。とにっこり笑って言う新一。
確かに以前作ってもらった時とは甘さが違う。
でも、それよりも先程自分が作った時とどうしてこんなに違うの?
新一が作ってくれたから?
だって、牛乳が入っただけでこんなに味が変わる事はないだろ?
でも・・・そんなことはどうでもいい。
目の前に新一がいる。
ココアを飲んで身体も心も温まった。
その真実があればいい。

ココアってこんなにおいしかったんだ・・・あれ?
同じ様にココアを飲んでいる新一に甘いのは嫌いじゃなかったのかと疑問に思った。
わざわざ付き合ってくれたんだろうか?
それはそれで嬉しい・・なv
気分がどんどん上昇していくのが自分でも良くわかる。

じっと新一がココアを飲んでいるところを見ていたからだろうか
「快斗のには更にクリープが入ってんだよ。それに・・・俺だってたまには甘いもんが飲みたくなるときもあるんだって」

最後のは絶対照れ隠しだよ。
くすくす笑ったらぷいっと横を向かれた。
それが余計に笑いを誘うんだって分かってやってるんでしょうかねぇ、この人は。

「新一はいつも・・・ミルクココアでも牛乳で溶かすの?」
最初っからミルクが入ってるから必要ないと思ったから、さっきはお湯で溶いたけど。
やっぱ新一がココアを飲みたいって思った時に好みの味で出せるように情報収集しとかなきゃね♪
「ココアはミルクとワンセットだろ?」
何気ない言葉。
たぶん新一は意味もなく、ただお湯でなく牛乳で溶かすって言っただけなんだろうけど・・・
その言葉がどれだけ心の重くのしかかっていたものを取り除いたか
新一は気づいただろうか。

ココアを自分にたとえるなんてくだらない思考に入り込んだ俺だったけど。
それでも、新一の言葉で解決が得られた。

ミルクがなければ不完全なココア
何かがなければ不完全な俺

まさに新一の存在ひとつで天国にも地獄にもいける自分は
新一というミルクが必要なココアなのだ
このココアを飲んで温められた心と身体

新一と一緒なら俺も誰かを幸せに出来るような気がして
その幸せを与えられる人が新一であれば良いなと思った。







寒い冬
隣にある温かい存在を感じて
その温もりに冷たくなった身体も心も温めてもらいながら
自分も温める存在でありたいと望む心


「   」

貴方の何気ない言葉がどれだけ俺の心を温めているか
貴方は知らないだろうし、
俺の言葉が貴方の心を温めているか
俺は知らない

知らなくていい
確かに感じる心とその笑顔さえあれば
温もりは確かに伝わってくる

温もりは孤独は薄れさせ
幸せを運んでくれる


寒い日は幸せ
隣にある温かさを感じる事が出来るから
そして
隣に温かさを与える事が出来るから

だから幸せ


END

コメント
ミルクとココアはワンセット・・・っっ!言ってくれます新一さんっ!
それはやっぱり新一さんと快斗君はワンセットだと!(喜)
最近甘味がかけてる私の脳みそに極上の糖分を注いでくださったこの作品。
実はこれ、ヤクルトのミルク割り・カルピスのミルク割りは物凄く甘いと言う話から派生し、
寒い日には何を飲むかと某所のチャットで話題になった時に書いてくださったものですv
お互いの存在の有無で寒さを感じている二人のシンクロがとても読んでいて幸せになれました☆
沙穂様、ありがとうございましたー!

因みに、イラストには私と佐倉のポスペを快斗君と新一さんに見立てた可愛いイラストがv



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