時間回廊







 おまけ


小さな少年へと年齢を身体ごと後退していた息子が元の姿に戻ったと聞いて、久々に愛息子の声を聞こうと仕事の合間に、一応時差を計算した上で国際電話を掛けてみる。

何度目かのコール音の後、向こうで受話器を取る音がして『はい、工藤です』という馴染みの声が聞えてきた。



「久しぶり、新一」


あまりの変わりの無さに小さく笑みを零し、『何の用だよ・・・』と不機嫌そうに溜め息を吐いている息子に苦笑する。



「いやいや、元に戻った君の声を久々に聞きたいと思ってね」

『んな理由でわざわざ国際電話なんか掛けてきたのか?』



相変わらずの言葉の向こうに確かな息子の存在を感じて、優作はゆっくり吐息を吐き出しながらソファに身を沈め直して言った。



「久々の愛息子の声を聞きたいと思うのは親心というものだろう?」

『・・・・・・・・・心配かけて・・・ごめん』



心底から思っているから、気恥ずかしさの為だろう、小さく呟くように言われた言葉をしっかり受け取って、これが聞けただけでも良かったと思う。

・・・中々にして不器用な子供だから、こうして言ってもらえるだけでも幸せなのだから。



「いやいや、いいんだよ。親は常に子供を心配するものさ」



そう言ってやると、頷くような気配がして、新一の後ろから誰かの声がした。



『新一〜電話誰から?』

『ん?父さんだよ』

『あ、優作さんなんだ〜』



あ〜良かった♪と楽しそうな声が聞えて、つい口元に笑みが浮かんだ。彼の一人息子の声だ。新一の声音に随分親しい仲・・・もしかしたら行き着くところまで行っているのかもしれないな〜と呑気に思った。

新一が彼と友人になる事には、全く疑問を抱かなかった。――自分もそうだったからだ。凝り固まっていた探偵というものへのの概念は、あの怪盗と会ってガラリと変った。

息子の場合はどうなのかは知らないし聞く気も無いが、出会えば親しくなるということは確信していた事だった。




初めて会って挨拶を交わしたのは、まだ新一が「コナン」の時だったか。



「ああ、快斗君?」



どうせ聞えているだろう、と返事を返される前に告げる。



「ふつつかな息子だが、宜しく頼むよ」

『お任せ下さい♪』



という声が明るく返される。娘を嫁に出す父親のような発言だな、と今更になって気づいたが、どうせ間違っていないだろうと自分で納得し、



「じゃあ、今度有希子を連れて帰るから」



とだけ言ってさっさと電話を切った。

多分、回線の向こう側では照れ屋で意地っ張りな愛息子が「絶対来るな!」とでも叫んでいるに違いない、と想像して笑う。







ほんの数ヶ月前まで、命を張って常に緊張を強いられてきた彼等は、組織崩壊と共に事件に巻き込まれるという事はあっても漸く心にしっかりとした安らぎを得られる生活が出来るようになっただろう。


簡単に人を殺してしまうような裏社会の人間相手の攻防から離れて、休息を取っている彼等の時間が、このままずっと続けば良い。


事件体質の息子だが、彼がそれを解決し全ての謎を解く鍵を見つけて明らかにする慧眼を持つ限り、何があっても揺るぎ無いと確信している。


何しろ自分と彼女との子供で、更に彼の怪盗のお墨付きの現役怪盗と天才科学者達の守護も付いているのだから。


折角手に入れた最強で最高の安らぎの場所なのだから、その大切な者達の手を放さないでいてくれれば良いと思う。







そう、願わくば、自分の愛息子と彼の愛息子が、例え平和とはかけ離れていても幸せであります様に。



冷たくなったコーヒーを飲み干して、優作は静かに祈った。

















時計の針が、カチコチと耳触りにならない音を立てて時を刻む。



これから来る未来を。



人に、過去という記憶を刻み付けるように。











END



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