この世には、ほんの少しの勝者と膨大な奴隷がいる。(そして一部の天然)

勝者達は敗者達を取り纏め、支配し、意のままに操る。それ故に、勝者の中にも(大物と小物の)優劣が出来るだろう。

しかし、全く力が拮抗している場合、勝者達は潰し合うのではなく共闘するのが賢い選択である。

両者の共存関係が成り立った時、正に最強(凶)の組み合わせが出来るだろう。

そこに善意の日が射すか、悪意の恐怖が垂れ込めるかは、支配者次第だ。

ちなみに。

ここは、暗雲垂れ込める泥門高校。表裏の悪魔が棲む社会の縮図である。












act:1 気になる野郎には変な仇名を付けろ





ピンポンパンポ――――――ン♪

やけに軽い気がしてならないコールが鳴る。ここ泥門高校では滅多に無い校内放送に、多くの生徒は何事かと黒いスピーカーを見上げ、一部の生徒は必死の形相で耳を塞ぎ机の下に隠れ体を震わせ始めた。

「おい、どうしたんだ?」

と一部の彼等の友人達が訊ねても、

「俺は聞いてない聞けない聞かない俺じゃない呼ばれるのは俺じゃない俺じゃない俺じゃない・・・∞」

と目を剥いて呟きながらガタガタと痙攣寸前の勢いで震えるばかりである。校内放送一つで数少ない友人を盛大に引かせてしまった彼は、推薦に向かって突っ走っている3年生の憐れな子羊であった。

『ゴンゴン、ビシッ。あ―――あ゜、ぁあ~~~~~~♪』

「ヒィイイイイイッ!」

只でさえ端から見ていて危ない状態だったのが、子羊はスピーカーから声が聞えた途端、恐慌状態に陥ってしまった。それに訝し気にスピーカーに目を剥けるが、聞えるのは可愛い印象のする女の子の高い声だけだ。

『たらららったら――ん。お呼び出しをもうしあげますぅ〜。2ねん1くみす―は―す―――――・・・

よーぅちゃ〜んvvズドンッ(バズーカー砲)

・・・・・・ちけっとやぶりすてちゃうぞっ

よーちゃんって誰!チケットって何処への!?そんな事は考えてはいけない。
放送中に聞えたバズーカー砲の音が誰による者かなんて気付いちゃ、いけない。
ズドドドドドッ。凄まじい勢いで廊下を誰かが走って行き、今度はスイッチが入りっぱなしになっているらしいマイクを伝って、スピーカーからダダダダダッという銃声と非常に乱暴に扉を開かれた音が聞えてくる。

『テメェッ、その呼び方やめろっつっただろうが!』

‘人は時折、実に偶然に・・・・・・知ってはならないことを知ってしまう時がある’

『あっ、よーちゃんv
『こンの(ファッキン)ミニマムッ!

ハートマークを散らした女生徒の声に続く男の声。気づきたくなかったけど気づいてしまった、その正体。

『蛭魔妖一』=「ようちゃん」という図式を厭でも認識させられた学校中の人々は、悲劇的な悲鳴を上げた。

校長はムンクと化し、某男子生徒は狂乱気味に走り出し、その他大勢は泡を吹いて倒れたのである。

バイオハザ(生態災害)~~~~~ド







学校中の全て(一部を除く)の人々を恐慌状態に叩き落とした放送は、漸くマイクのスイッチが入ったままであることに気づいた蛭魔(愛称:よーちゃん)によって打ち切られた。
それにより、恐怖の余韻を若干残しつつ、校内の人々が正気を取り戻して行った頃。




(ドアに銃痕のついた)放送室。

「ドア壊しちゃぁダメじゃん、よーちゃん」

ココはあたしの領域(テリトリー)なんだしサ。

学校の物の割にかなり最新の物を備えている放送機器に腰掛け、ケラケラと楽しそうに笑いながら少女は言った。・・・顔は満面の笑顔だが、目は笑っていない。

つまり、今の台詞を要約すると――

『壊したらナニしちゃうか解んないよ?』

である。

見かけは放送時の声の通り可愛らしい印象を与える少女である。腰よりも高い位置にある機材に座っていても解る小柄な身長は140センチ前後で、よいしょと機材から降りて蛭魔と並ぶ姿は、同い年というよりも歳の離れた兄妹のようだ。
くりくりと大きな茶色の目に、小さな鼻と口が丸みを帯びた顔にバランス良く配置され、美しいというより可愛いという印象の少女である。色素の薄い頬は健康的な桃色に染まり、フワフワと天然パーマの入って金色がかった茶髪は完全な地毛で、ハーフらしいという噂もある。

「テメーが鍵なんか掛けるからだろうがっ!」
「だぁって鍵掛けないとよーちゃんが機材ぶっ壊すでしょー」

高価(たか)いんだよ?ここの改築。

「んなこたどうだっていいからいい加減その呼び方ヤメロ」

ガシャンッ。大型マシンガンを構えて脅迫体勢に入るが、小柄な少女(同級生)は怯む気配も見せずに明るい笑顔を崩さない。自分が殺されるとは微塵も思っていない様子である。

「よーちゃんだってヘンな呼び方しかしないじゃん」
「テメーなんか(ファッキン)ミニマムで―――」

充分だ、と言おうとした途端、珍しく、ひっじょ――に珍しく蛭魔の動きが止まった。彼が見つめる先には、一枚の紙切れ・・・・・・ではなく、チケット。

「手に入れるの、結っっ構苦労したんだけどなぁ・・・」

ビラリ、と10枚あるそれを扇状にして振ってみせる。プレミアという訳ではないが、発行枚数が極端に少ないが故に、手に入れるのが難しいチケット。
目の前で揺れるチケット(お宝)に、遂に根負けした蛭魔は忌々し気に舌打ちをしてまたまた珍しく溜め息を吐いた。

「・・・よこせ、明羽」
「りょーかいっ、ヒルルンv

ズドドドドドッ!突然先程まで沈黙していたマシンガンが火を吹いた。銃口は明羽と呼ばれた少女に向けられていた筈なのに、そこに彼女の姿はなく――

「80万ねっ、ヒルルンv

変わらない明るい笑顔を向けつつ、穴の空いた機材に座って、ゼロを5つ付けた請求書を突きつけた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よーちゃんで、いい」

よっぽど呼ばれたくないらしい「ヒルルン」という仇名に肩を落しつつ屈したのは蛭魔の方だった。――地球崩壊の前兆か、天変地異の前触れか。泥門の悪魔と名高い男が折れた瞬間であった。それに対し、満面の笑顔で渡されたのは、10枚のチケット。そこに印字されているのは、

『神龍寺ナーガvs西部ガンマンズ!○×体育場にて練習試合!!』

という文字だった。
表の悪魔・蛭魔を負かした彼女の名は、神坂明羽。裏の悪魔と密かに囁かれ、放送室の番人、『泥門一の強運』と呼ばれた人物である。



→2



T・C


Novel


Gift-kiri