ソルトレークシティーオリンピック見聞記
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2月14日(金)
LAST BATTLE(男子フリー) 男子ショートはいい席に座れたが、こうやって見るとやはり3階席は遠い。これだけ遠い席で見るのは久しぶり、そういえばエルビスを初めて生で見た大阪NHK杯のなみはやドームの席も遠かった。観戦を重ねるごとにどんどんスケートにハマッていい席で見るようになっていったが、最後になって始めと同じように遠い席で見るのもまたオツなものである。いやもっと遠いわ。 それに遠いとはいえぎりぎりジャッジ側、それもスローパートのカンフーシーンが目の前で見られるのだ。ラッキー!しかも選手が待機する場所が目の前に見える。これはウォームアップが始まる前に他の選手にちょっかいを出すエルビスの様子をレポートしてかまわない、いやレポートしなさいということですね!? 神様ありがとう!心置きなく書かせていただきます。 第1グループのウォームアップ前に出番を待つ選手達を見てぶっ飛んだ。地味な色調の衣装の選手やコーチが多い中、白地に赤と黄色の中国ジャージは目だつ上に面積がすごい。張民一人に二人ついているのは珍しい気がする。 リロフ(アゼルバイジャン)は前のシーズンから髪の色を少し抜いて外見も演技も少し垢抜けた。だが、肝心の演技がさえない。 竹内君はショートからうまく切り替えられたようで一安心。爆笑物のサーキュラーステップはカナダほどではないがウケていて、こちらの面でも一安心。こういう振りつけを日本人にしては照れなくできる竹内君は気づきにくいが力がある存在だったのだとあらためて気づかされた。クワドは惜しかったがトリプルアクセルからのコンビネーションが入ったいい出来。いい形でオリンピックを終わる事ができただろうか。 張民はスピードがあって次々にジャンプをきめていく。つい淡々と見てしまっていたが、多分ノーミス、ということはクワドを3つきめたということでは?2つは確実にきめていたと思う。だが点数が出ない。つくづくショートのミスが惜しい…というか、そんなにショート悪かっただろうか? ツッコミ所には事欠かない中国男子だが、彼は歳がいっている分(?)手足の使い方がクラシカルで割にきれい。スケーティングだって荒くはないし、スピンもそんなに悪くないと思う。音を無視しているというわけでもないし、その上でこれだけ跳べるのだからもう少し大きな存在のはずなのだが…今日は全ての要素が良く見えたが、冴えない時は本当に冴えないのだ。 何が足りないのだろう?アジアン応援人を名乗ってはいるが、彼は何回見てもよくわからない。 ロマン君の始めのトリプルアクセルはダイナミックで粘りがあって好きなのだが、ダイナミックな転倒。そのあとのジャンプもミスが続く。スローパートのジャンプをリンクサイドのマリニナの目の前で転んだ時にはマリニナがフェンスに駆け寄って身を乗り出して声をかけていた。そこからなんとかもち直して悲惨な印象にはならなかったフィニッシュ。ロマン君、愛だわ。 キス&クライでロマン君がもらったぬいぐるみをマリニナにプレゼント。ぬいぐるみを振ってカメラにアピールしているマリニナがめちゃめちゃ可愛い。バレンタインデーにピッタリの二人。 第2グループのウォームアップで一度リンクに降りればクワドやトリプルをガンガン跳びまくる運飛がダブルジャンプしか跳んでいない。ショートも本調子ではなかったが、悪化させたか? ランビエールは途中で傘を持つパントマイムも入った可愛らしい演技で、ラストにこれでもかと言うほどスピンをしている。だがとんでもないスピンなのに、いくら回ってもなかなか会場が盛り上がらない。終わりかけになってやっと歓声があがったが、滑っている本人にメッセージが届く反応ではない。 確かにスピン以外の密度は薄いし、今年シニアに上がったばかりでアメリカでは無名ともいえる選手だが、表現力はあるのに…ウケないタイプなのだろうか。バンクーバーの観客ならスピンのもっと早い時点でもっと盛り上がっていたと思う。ここの観客は何かしら冷たい。 冷たいというよりそこまでスケートをわかっていないというべきかもしれない。筋金入りのスケート好きが集まる世界選手権とは何か観客層が違う。 運飛はウォームアップの印象があったので、始めのクワドと次のアクセルを転んだ時も普通のミス程度にしか思っていなかった。本当に慌てたのはルッツで転倒して立ち上がるまでにタイムロスした時。運飛――! ここから体を引きずっているような演技で悪夢を見ているようだった。長野オリンピックのエルビスを思い出したが、足が痛いのがはっきりわかるだけにそれ以上の悪夢。だが最後の最後にトリプルルッツで思いきりガッツポーズ!観客もこれには大歓声、一気に場が盛り上がる。それに押されたようにトレードマークのスピン、フィニッシュ。この日初めてのスタンディングオベーション。バンクーバーといい、妙に何かしらの形で観客にアピールするキャラだ……。 ポーズを解くと同時に崩れた運飛。なんとかジャッジと反対側の観客にあいさつしたが、それで終わりではない。リンクから上がるにはさらに氷の上を進まなければいけないのだ。広いリンクの中央にたった一人、足を動かさずには帰れない。 なんとかリンクの端まで滑っていったが、自力で段を上がることができないのかコーチに腕をつかまれてリンクから上がっている。第1グループで中国ジャージを見た時にはぶっ飛んだが、この時は三人いて助かった。さすが人材豊富な中国、オリンピックは気合が入っているな…と感動したが、ただ単にコーチ達が団結して三人一緒に面倒を見ているだけなのか。(コーチの顔は覚えていません^^;) キス&クライの段を自力で降りることはできたよう。 本命が第3グループにいる時の製氷時間はかなりの圧迫感がある。本来は休憩時間なのだが、とても休憩できたものではない。 製氷が終わって真っ先に出てきたエルビス、待機場所で一人たたずんでいる図が妙に絵になっている(^^;)しかし出てくるのが早すぎたのかスタッフに何か言われていて、柵の脇にいた別のスタッフと軽くじゃれてから中に入っていった。なんか地元リンクにいるみたい。 気になる衣装のバージョンアップは背中一面に龍の刺繍。よかった、いいじゃない!これで安心してフリーが見られる。 正式な時間(?)になって真っ先に出てきたのがダンビエール。フェンスから少しリンクに身を乗り出してきょろきょろしているのがジュニアみたいでかわいい。 しばらくして待ちかねた(?)エルビスが出てきてダンビエールと握手。続いて出てきたアンソニー・リウはコーチに上着を渡してからエルビスと合流。 そうだ握手シーンの写真を撮ろうと思いきや(←おい)、アンソニー・リウが左手を開いて右の親指で手のひらをぐりぐり押しだした。エルビスも同じことをやっている。手のツボでも押しているのだろうか?何やら二人でやり方について話をしているようにも見える。どっちがどっちに説明しているのやら(笑)。 それからも二人は話を続けていて、エルビスの笑顔が見える完璧な雑談モード。アンソニー・リウってノリのいい人だったのね。ウーシーさんも微笑んで二人を見ていて弟子も弟子なら師匠も師匠。(それをレポするファンもファン?)二人の前でリンクを凝視しているワイスと対照的、というかこの三人、完全に浮いている。カメラマンがワイスを映したあたりから普通の出番待ちモードになった。 席についた時にはレポートのネタが拾えてラッキー♪と思ったが、ここまでとは。書いていいのか、これ?いい話だし普通に席から見えたことなのだからいいとは思うが。 かなり遅れて出てきたエルドリッジはカメラになめるように追いかけられている。一度はワイス、そして他の選手を一通り映したが、ほとんどエルドリッジを追っていたと言ってもいいだろう。ワイスとのこの差は何なのだろう…と不思議だったのだが、そうだ彼は全米チャンピオンなのだ。 カメラマンが奥へ引っ込んでからも、近づけないオーラでも漂っているのかエルドリッジの周りにスペースができていて、キャラハンコーチしかその空間にいない。キャラハンコーチは話しかけているが、それを聞いているエルドリッジの様子がベテランというよりまるで初めて試合に出る中学生のように見えて……。 ……いや、エルビスが妙なのだ。 さすがに北米の選手が3人いるとウォームアップが始まった時の会場の盛り上がりも違う。 後ろ向きにスーっと滑っていくエルビスのフリーレッグを見てスイッチが入った。動きの切れも発しているものもショートの時とは明らかに違う。ショートから上げてくるあたりはさすが。 3トウ+3トウ。 ダブルアクセル。 ルッツを2回。 ループ。 3アクセル+2トウ! 確実にクリーンに、淡々と。バンクーバーはやっぱりおかしかったのよね。 なんだか…。 スケートカナダの時よりも少しいいくらいではないだろうか。とりあえずクワド、一つは入るな。 クワドルッツは…本当にやるのだろうか?国内選手権が終わった頃からえらく話題になっているが、実は公開練習で成功した所はほとんどレポートされていない。最後の煙幕という気がしないでもないのだが。 出番待ちの時から気になっていたので本格的にエルドリッジを見ることにする。それまでも視界の端でチェックはしていたのだが、アクセルを転倒するわ、他のトリプルをステップアウトするわ、ランディングが乱れるわときれいにきまったジャンプが一つもない。ちょっと、エルドリッジこんな状態で第一滑走を迎えるの!? 長野オリンピックが終わってからプロアマで進路を保留した選手の中でアマチュア競技に戻ってきた唯一の選手なのに、早いうちからソルトレークまでのアマチュア続行とそこでの引退を表明していたのに、ショートで2ミスして、それで!! 後半になってジャンプがきまりだしたような気はするが、動揺していたので記憶があやふやになっている。それに第一滑走の彼はもうクールダウンに入らなければいけない。 きれいな4+3をきめて真っ先に出入り口に向かったエルビス。 他のスケーターが引きあげ、一人リンクに残ったエルドリッジ。 コールされるまでにもう一つ跳んだのは多分サルコウ、確か彼の一番苦手なジャンプ。 クワドは…入らない。運命が分かれるのはむしろこの後のアクセル。 コンビネーションが入った! 申しわけないが実はこの時のエルドリッジには演技としての印象がほとんどない。あのウォームアップを見てすっかり動揺してしまい、なんとか崩れずに滑ってほしいという気持ちが強すぎた。ジャンプ以外の事を感じ取るゆとりができた頃にはもう演技の終わりかけ。アクセルが入ってからしり上がりに調子が上がり、結果的にクワドをミスした以外はいい演技だったのだと思う。 モニターに映ったエルドリッジは泣きそうな表情。地元で国内チャンピオンとして迎えたこのオリンピック。ウォームアップの直前であれだけカメラに追いかけられるくらいなのだから、プレッシャーもすごかったのでは。フリーで崩れてきた過去2回のオリンピック、やっと……! 今回のエルドリッジは辛そうな表情しか見ていないような気がする……! 次のスケーターが出てくる…って、エルビスじゃん(^^;)忘れてた、忙しいなあ。 そのエルビスはえらく笑顔で足運びが弾んでいる。まるでエルドリッジのいい内容を知っていて、お祝いの一つでも言いたそうな…と思っていたら、エルドリッジに追いつき、軽く手を合わせて通りすぎていく。あ―――――! しまった写真撮りそこねた―――!! 3階とはいえ絶好の位置にいたのに―――!!! ……おいおい。 このタイミングだとテレビ放映は演技のリプレイ中、下手をしたらテレビを見ている人は知らないかもしれない。伝えようにも言葉だけでは限度があるのに! ひとしきり悔しがってから気がついた。引退が近い仲良し二人の滑走順が続けば何かあるのは予想がつく(←おい)。心配しなくてもプロのカメラマンがちゃんと撮っていて、そのうちどこかのスケート雑誌に写真が載るだろう。というか載せないと怒る。 席が遠いこともあってほとんど投げ物がないこの試合だが、エルドリッジともなると話は別。フラワーチルドレンが一度では集めきれずにリンクの清掃に少し時間をとっている。大歓声の中、リンクに散らばる花束の間をぬって滑っているエルビスという構図は見覚えがある。長野オリンピックもキャンデローロの会心の演技に会場が大爆発した後の滑走だったのだ。 優勝候補の筆頭に挙げられながら、地元のメディアも観客も他の選手を推していたスーパーアウェーの試合。この時のエルビスにはファンの応援さえ負担になりそうな、近づけないものを感じていたが…今のエルビスは観客の歓声を暖かいものとして味わい、空気に身をゆだねているように見える。 あれから四年。長野の銀メダリストは記憶に残らなかったが、ソルトレークシティーのベテラン選手はこの場の観客に何かを残すのだろう。 ……っていうか、本っっ当に楽しそうなんですけどエルビス(^^;)。 花でも拾いだすんじゃないか…と思っていたら本当に拾ってフラワーガールに渡してあげている。おーい、エルビスー?カナディアンオープン並みのリラックスぶりじゃないですか。そんなにリラックスして大丈夫〜? なんだか調子の良し悪しを離れた次元にあるような気がしてきた。緊張していないわけではないのだが、何が飛び出すかというわくわくした気分の方が大きい。なんなんだ私、試合なのにこの気楽さは。 最後の試合にリラックスした様子で臨んだ選手が闘志の消えたプレーをした所を何回か見てはいるが…。 始めのクワドのあとは2トウ。4+3いけると思ったのに…と思っていたら2つ目のジャンプはアクセルでなくクワド!ランディングが乱れたが強引に2トウ、さらに強引に2ループ! え―――――!? クワド2回しかもコンボ!オリンピック初の3連続!! 会場は一気に沸騰したが私は冷や汗に近い状態。練習であっさり4+3+2ループをやっているのを知っているので驚きの内容が少し違う。クワドルッツは!4+3、4+3+2ループ、クワドルッツなんてとんでもない構成狙っているわけ!? しかし今のエルビスで心配なのはクワドよりアクセル。前半これだけ飛ばしてアクセル大丈夫というよりこれ、やばい!その前にルッツなのだが、ここはトリプルで抑えてよ!3連続の時点で足にきてるのにこれでクワドルッツにトライしようものなら勝負というより無謀の域。 ルッツはトリプルで一安心。カンフーの修練というよりは試合中に見える、スローパートになっていないスローパート。だが中盤のアクセルとループが終わるまでは安心できない。アクセルでステップアウト(でも2トウはつける)、フリップはもち直したもののループでお手つき。ああ〜演技に穴あいた〜〜。 疲れが見えてきたところでいいタイミングで音楽が変わった。アップテンポに力をもらったようにステップで力が戻る。晩年のブルース・リーの殺人的なスケジュール、謎に満ちた死が引き起こす混乱、そして真の伝説へ。穴があいてもすぐにふさぐ所はやっぱり強い、ホッとしたところでエンディング。 跳びまくったなあ……。 攻めに行ったが途中でペースが狂い、修正しながら強引に続けて力でまとめたという印象。 やっぱりこのプログラムを滑っている時のエルビスは4、5才若く見える。タイトル、スポーツ選手離れした地元での名声、長い競技生活で身についたものを振り払って、原点に返って自由に思いきりやったような…リレハンメル以前の姿につながるものが見えた。ジャンプにかけるウェイトの大きさというか、ジャンプは絶対負けない!というストレートな闘志を改めて見せられたような気がする。 だがジャッジに点数を出させる演技ではない。 わかりきっていた結末、ブーイングも起こらない。点数を稼ぎたければ前のプログラムでもMummyかグラディエーターにすればよかったのだ。後悔していないことを祈る。 ばいばいエルビス、もう長野に来なくていいわ。来てもやることないでしょう? へなCHOCOメンバーが集まった長野でお別れを言いたかったけど…甘すぎる話だったね。 ワイスは始めにいきなりクリーンな4+3+2ループ!あ―――!それから先も一つミスがあったくらいでジャンプを確実にきめていく。 ワイスは外見と反してクラシカルなプログラムを滑る時があるが、このトゥーランドットは今まで見た中で一番クラシカルなプログラム。男子では珍しい形のスパイラルもあったりして外見のイメージと別の事をしようとしているのがよくわかる。 だがプログラムが進むうちにどんどん心が冷えていく。ワイスには一番やってほしくないタイプの演技だった……。最後のシーズンのプログラムなだけに余計に。 (注:このシーズンの始めの方に引退を表明していた) ショートでさりげなくクワドサルコウ+2トウをきめていたような気がするダンビエール。ヨーロッパ選手権で上位に入るだけあって力があるのはわかるのだが、なんかこの人、変。 ジャッジの前で止まってするポーズが、かなり、変。 第2グループのジュベールを見て変でないとフランス男子という気がしないと思いはしたが、彼は変な方向に変! 個性的と言われているフランス男子だが、キャンデローロ→ジャネット→ダンビエールとどんどん変な度合いが進んでいく…。 ディネフのフリーはアフリカンミュージックを意識したような妙なダンス。実はこういうの結構好みだったりする。だがジャンプのミスが多く、ただでさえ間延びする中間の部分がすっかりたるんでしまった。グランプリシリーズでは調子がよくてファイナルまで行ったのに…。 フリーで順位を落としたエルビスは一気にアンソニー・リウの射程圏内に入る。今シーズンは調子がよくてショートもよくて、ウォームアップ前にあれだけつるんでいたのだから…と思いきや、クワドとアクセルがそろわない。二度目のルッツをクワドに変えてきたが、すっぽ抜け。 最終グループは選手だけでなくコーチにも壮々たるメンバーがそろっていて、リンクサイドにも独特の華やかさがある。その中で中国ジャージの団結ぶりが頼もしい。しかも四人になっている(笑)!そうそう、ただでさえ成江は小柄で最終グループでは目立たない存在なのだから、せめて数でインパクトを与えておかないと。 私の席から2列くらい前に家族連れが座っていたのだが、その中の5、6才くらいの男の子が本田君がコールされた時に声を出していた。エルビスの時は静かだったのに、カナディアンROOTS着てそれはないじゃんか!ふっ、カナディアン一人取られたわ(笑)。 本命がいないと誰を見ようか迷うウォームアップだが……このメンバーだったら成江見るしかないでしょう。考えてみなくてもショート7位のエルビスのファンの私がショート6位の成江の応援をするというのは妙な話だが。 その成江はトリプルをきれいに跳んではいるのだが調子が下がっているようである。第一滑走ということもあり、早めにジャンプをやめて滑りまわっている。 「日本以外にほとんどアジア選手がいないフィギュアスケート界、定着していくのを見守ろう」とアジアン応援人を名乗ってからあっという間に5年過ぎている。日本の試合では横断幕もできているのに、未だに海外の試合では国旗もないし歓声すら起こらないのだ。そんな扱いをされているのが悔しいし、また歯がゆい。 いい加減外国にもファン作ってよ?彼ならそれだけの力も個性も表現力も持っているはず。エルビス追い越してオリンピックの最終グループに入っているのだから。 成江〜〜〜(^^;) いや後半は盛り返したのか。 最終グループのボーナスポイントがあるからワイスとエルビスの間かな…と思ったらエルビスの下だった。フリップが入っていないプログラムだったのか。 本田君は始めのクワドをミスしたものの、そこから先へは引きずらず、今までにない安定感がある。これだけ力強い印象を与える演技は初めて見たような気がする。 悲しみがテーマのアランフェス。これまでのアランフェスのエンディングは泣き疲れたまま眠りにつくという印象だったが、このエンディングは闇を抜ける手がかりを見つけかけたというものに思える。 大きくなった。強くなった。 でも終わった後で泣くのもその泣き顔も四年前と同じ――― さて何の涙なのか。 さっきの男の子が一人で点数にブーイングをしている。本当に本田君が好きなのね。 第3グループのにーさん達に3連続ジャンプを連発されてしまうと最終グループで創始者のプルシェンコは後には引けないだろう。それどころか4+3+3ループ…が3ループでミス。 スローパートのハバネラではジャッジの前では腰振りの寸止めのポーズ、男が誘惑してどうする…とツッコミかけたがこのパートはカルメンを演じているのか。彼なら両性具有の演技というのも許される。 正統派のカルメンに正統派の衣装、正統派の振りつけ。状態がよくないのはわかるのだが、この時のプルシェンコにはそれをフォローするものがあった。久しぶりに活きのいい彼を見たような気がして、若いのに妙に場慣れしてふてぶてしい印象だったミネアポリスの彼を思い出す。変に前衛的なものを滑るより、バリバリのクラシックで抑えめの振りつけの方が彼本来の活きのよさが生かされそうな気がしてきた。 表現が一皮むけるかもしれない。来シーズン以降の彼の演技が楽しみである。 それと同時に来シーズン以降の彼の体が心配である。大丈夫なのだろうか。 前年の世界選手権でタイトルを獲り、2種類目のクワドに手を出し、groin injuryになったと聞けば嫌でも4年前の誰かさんと重なるのだ。 ソルトレークシティーって、高地なのよね? 普段生活する分には何もないけど、運動するときついのよね? だがそんなことはゲイブルには無縁のようである。彼はジャンプの見分けが本当につきにくいのだが、普通より回転が多いジャンプが3回あった気がするのでクワドは全部きめたのだろう。体の構造が何か違うんじゃないだろうか。クワドがあるかないかの時代に4+3を跳んだ幕張のエルビスも、ペトレンコやブラウニングのファンの方にそんな風に思われていたのだろう。 中盤に一つジャンプミスがあった以外はやるべき事を確実にやった演技。キャラに合っているプログラムなので彼に対する不満の65%が解消された。 ゲイブルの点数が出た後に何か台の上に座っているプルシェンコがモニターに映る。足をブラブラさせそうな様子が可愛い…って。 …………エルビスとウーシーさん、いるし。 キス&クライから出てきたゲイブル、キャロルコーチと選手同士とコーチ同士であいさつしてるし。ゲイブルと居残って話をしながらアプトの演技見てるし。楽しみまくってますね!? 私の席からだと滑っているアプトの背後にまともにこの二人が見えてしまう位置関係なのだ。ああ、集中力が。 そのアプトは始めのクワドこそミスしたが、生で見た中で一番出来がよかったような気がする。 今まで外見のイメージから少し外したようなプログラムを滑ってきていたアプトだが、今シーズンはひらひらのシャツにロマンチックなラフマニノフという、これでもかという正統派。オリンピックに対応し、上位を狙っているのがよくわかる。 だがこれだけ出来がいいとプログラムに隙があるのも見えてしまう。もったいない。 ところで彼は充分足が長いのだからわざわざハイウェストのズボンをはくことはないと思う。胴が短すぎてかえってバランスが悪く見えるのだが。 いつのまにかリンクサイドでゲイブルとキャロルコーチがテレビのインタビューを受けている。さすがにエルビスは帰ったかと思いきや。 ……そんな隅っこから見なくても……。 というか、そこから演技見えるの? これで完全にぶっ壊れた。 エルビスは写真集にアルベールビルに出た時の初出場ならではの初々しい感想を、シーズン中にニュースサイトでオリンピックに複数回出た選手ならではのこぼれ話+今だから書ける真相と見地を書いている。(こちら) その内容から察するに、オリンピックは四年に一度、最大の栄誉をかけた勝負の舞台という事以外にその場所に滞在する選手だから見聞きする色々なものがあるようだ。それを知り尽くし、ある種の達観さえ感じられたエッセイでのエルビス。勝負の決着を選手席でなくリンクサイドで見ているのも、ぎりぎりまでその場にいたかったのだろうか。 ああ、そうか。 スポーツの世界にどんなにビジネスが入ってきても、どんなにメディアの操作が入っても競技に臨む選手がもつ真実は変わらない。それだけを見ていればファンは何も迷うことはない――― それを目撃し、感じ取った私は幸せなファンだと思う。この人のファンでよかった。幸せだった。 ―――幸せと書いておめでたいと読みがなを振る方が正確なのだが。 この手の事の真相はオチがつく所に転がっているものだが、ファンなのだからとことんいい方向に考えさせていただく。色々考えて何かを得るのがものすごく楽しかったのだ。エルビスのファンになって以来退屈した事がなかった。 それももうすぐ終わる。この人はアマチュアの世界から去っていく――― 泣けてきたがもう最終滑走のヤグディン。これ以上集中力を下げるわけにはいかない。 そのヤグディン。「4+3+2ループってのはこうやるんだよ!」という声が聞こえてきそうな余裕のあるコンビネーション。単独のクワド、トリプルアクセルと勝負のポイントになるジャンプを全て片付けて、ホッと一息ついたように見えた。 完全にリラックスしていてアドリブも入っていたんじゃ…と思うようなスローパート、アップテンポに切り替わる時に「さー行くぞ〜〜」。彼は演技中に感情やノリが伝わってくるからおもしろい。一ヶ所で足踏みしているような独特のステップはジャッジやファンの間で評価が分かれるのではと思っていたが、結局の所魅せ場として定着したようだ。 最後のストレートラインステップにもなると「金メダル♪金メダル♪」と全身で叫んでいる。ステップが省略されていた…というか変に流れたように見えるのは気のせいだろうか。隣でkさんはいろいろツッコむし、ああもう何が何やら。最後のジャンプのランディングが乱れたが、もはやご愛敬の域。オリンピックの最終滑走、本当にビシッときめたよ!! 終わってしばらくしてガッツ「ポーズ」をとっていたヤグディン。少し遅れて興奮がやってきたのか、内から湧き上がるものを抑えられなくなるともう会場のテンションは止まらない。キス&クライで号泣するヤグディン、「そんなに泣くか(笑)」とツッコミを入れるkさん。そりゃ泣くでしょう、ファンも増えるでしょう。増やしなはれ増やしなはれ(笑)、ゴールドメダリストにファンがつかなくてどうする。 ヤグディンの演技が終わった直後にエルビスがいるのは見たが、帰っていく所は見ていない。 表彰式ではヤグディンがやんちゃというか何というか、みんな若い(笑)過去のオリンピック男子シングルで一、二を争いそうな若い表彰台メンバーなのに、予想済みでフレッシュなメンバーではないというのが不思議なところ。 さて、エルビスのアマチュア最後の試合が終わった。 「アマチュア最後の試合を生で見たい」と思ったのは、一時代を築き、当時「憎たらしいほど強い」という表現がぴったりな存在がどんな形で最後の試合を迎えるのか、それを見定めたいという少々意地の悪い理由だった。 それを見られた今、何を言葉にするかといえば。 エルビスって、エルビスなんだねえ……。 3年前友人へのメールにこんな事を書いていた。 「エルビスは審判の嗜好と流行を計算した有名な振付士に頼むより、たとえプレゼンが削られても成績が悪かろうと自分の考えを反映した振り付けを選ぶタイプ。成績が上のうちに身を引く華やかな引退より、たとえ順位が落ちて存在が小さくなってもとことんやりきった地味な引退を選ぶタイプという気がする。当たっていたらうれしい。」 外見のイメージそのままというか何と言うか…。 やりたい事をやった、オリンピックという特別な試合を(成績は別として)望む形で戦いぬいたというものが感じられたのは本人に対して侮辱になるだろうか。 オリンピックが終わったら話そうと思っていたことを書かせていただく。 エルビスが2001年8月、グッドウィルゲームの前に今シーズンのプログラム内容を公表した時、私の中をかなり寒いものが吹き抜けていっていた。 新作を作ることができないほど足の状態が悪いのかと一瞬凍りついたのだが、LionとDragonなのだからそうではないと思い直す。だがこの二つでは……。 これでオリンピックのメダルはなくなった――― 今回のエルビスのプログラムの選択は犯せるだけのタブーを犯したと思う。 ショート、フリー共に以前のプログラムの焼き直し。もともと前のプログラムの焼き直しはいい印象を与えない上に、しかもそのプログラムが大きく芸術点が削られているというマイナス評価済みのもの。正統派を滑る事が暗黙の了解になっているオリンピックシーズンに東洋、しかも踊りと正反対のジャンルである「格闘技」を押し出した、ある意味異端とも言えるプログラム。開催地はバリバリ西洋のアメリカで会場を意識したものでなく、自分のルーツを元にした民族性のアピールもない。どの要素においてもジャッジにいい印象を与えるものではなかっただろう。 「Lion」と「Dragon」は、エルビスの代表作とも言えるプログラムであり、この組み合わせを試合で滑ることはファンなら一度はたてる夢の企画。最強の組み合わせ、だが点数を得るという点では最悪の組み合わせというこの皮肉。 戦略としては愚策の域に入ると思う。これで本当に勝負できると思っていたのだろうか。 さんざんマイナス方向に考えた後で、それをやってしまうのがエルビスのエルビスたる所か…と苦笑い。「ジャッジは気にしない」と口にする選手は数多くいるが、ここまで気にしていない行為をとった選手はそうそういないと思う。 アクがあまりない正統派のプログラムを滑るのがオリンピックシーズンの戦略のセオリー。しかしリレハンメルで「Dragon」、長野で「Lion」とアフリカが舞台の映画のサントラなのに中国風の衣装で滑るあたり、自分の原点である格闘技に回帰するというのがエルビスのオリンピックの戦い方のようである。わざわざこの二つを選んでくるあたり、この方向で戦うという強い意志が感じられ、最後の戦いということを意識せずにはいられない。 その方向がもたらすものについて心配というかツッコミというか迷いというか、かなり複雑なものがあるわけで。あいにくファンはそこまで解脱することはできないのだ。 この組み合わせで本当に勝負できると思っていたのか、それともそれとは別のものを見ていたのか。このあたりの事を上手なインタビュアーに訊き出してほしい所である。シーズンが終わるまで黙ることにしたが、スケートカナダの記事でダイレクトに指摘してくれたWFS6号のライターさんには内心感謝している。 ジャンプが突出して独特のスタイルをもつ選手は常に芸術点が下げられる。エルビスはそれに対して「オレはこれで行きますよ」と押し通し、結果的にジャッジとケンカをする羽目になってしまったような気がする。「認めざるをえない」というあるジャッジ兼連盟役員の解説から察するに、ジャッジにとってはやっかいな存在だったのだろう。そして今回のオリンピックはそれを最も強調する戦い方になった。 ジャッジにケンカを売っていなかろうがオフアイスの言動が良かろうが人格者キャラで通っていようが、ジャッジにとってみればこういう存在こそが氷上の反逆者なのだ。キングという言葉が枕詞になっているエルビスにこういう解釈の仕方があったことが新鮮で、視界がクリアになったような気がする。考えれば考えるほど筋金入りの頑固者だ…と試合が終わった今は苦笑いを通り越して大笑いの域。なんかテンション変。 こんなジャッジ受けが悪くて伸び悩むリスクが高い個性を周囲の人間をはじめ、カナダ連盟の強化部長(いるのだろうか)がよく許したものである。この個性を伸ばしていったダグ先生とウーシーさんはやはり偉大だ。 かといってエルビスがキングであるのは間違いないのだからこれも不思議なものである。従来のものに反逆しないことにはキングの座にはつけないということか。 キングと反逆者は紙一重の存在というか、キングは反逆者の成功者の別名というか…何かつかみかけて5、7、5でまとめたいのだがうまくいかない。 力のある反逆者はキングになる。力の足りない反逆者は処刑される。当然の結末。東洋ネタを滑るトップクラスの選手は当分現れないのだろう。それならそれでいい。 残るものがあるのだから。それを知っている人も形にする人もいる。 オリンピック――エルビスのアマチュア最後の試合が終わった時、自分の中で何かが燃え尽きてボロ泣きするのだろうと思い、そうするつもりで来た。 長野の時は涙も出なかった。 今は泣くより笑いたい。 ところで結局最終順位の並びはどうなっているのだろう? ものの見事に最終グループの途中で順位の意識が断ち切られていた。本田君、アプト、成江は落ちたから、アプトの下は…エルドリッジ? ということはエルビス、8位? 入賞したんだ……。 人の流れに押されてオリンピックスクウェアを出て、メインストリートに出ても道に人があふれている。 ソルトレークシティーは地方都市。モルモン教特有の戒律がきっちり守られていて、アルコールを摂るのにも手続きがいるという人も建物も地味な街。モルモン教の一番大きな行事でもこの時間にこれだけ街に人があふれて賑わう事はないような気がするのだが、どうなのだろう。 オリンピックは一番多彩な国の人間が参加する地球規模のイベント。世界中から人が押し寄せて、街は連日お祭り状態になる。 だから楽しむのだ。この街にいる最後の一瞬まで。 らんららんららーん♪(注:素面です) 通りに並んでいる店の一つにヤグディンが宣伝をしているスポーツ飲料のポスターが貼ってあった。彼のファンにはすばらしい偶然。長野の時にも思ったが、ある種の流れを自分のものにすることもオリンピックでゴールドメダルを獲るファクターの一つという気がする。 ファーストフードを少し格上げしたような店で晩ごはん。同行グループはプルシェンコのファンの方が多かったせいか、長野世界選手権の話が中心のしみじみモード。話を聞きながら世界選手権が知っているものと全く違う試合のような気がしていた。 時代は止まらない、すぐに次の試合がやってくる。エルビスは来ない…と思いながらも無性に男子ショートが見たくなってくる。 観戦スケジュールを水曜(女子予選、ペアフリー)−日曜(エキシビション)でなく火曜(コンパルソリー、男子ショート)−木曜(オリジナルダンス、男子フリー)+日曜にすれば、休みが同じ日数ですむ。 ホテルでは日本のツアー利用者専用の部屋があり、日本茶やおかきがつまめるようになっている。壁に新聞記事の切り抜きが貼ってあったが、スピードスケートやジャンプの成績不振を知らせる小さな記事ばかり。長野の時とテンションが違うのは地元開催とそうでない事の違いだろうか。帰ってから温度差を感じそうだ。 部屋に戻ってから荷物の整理をしつつテレビ放映を見たい所だったが、番組表が手元にないので何時から始まるかわからない。しかもスピードスケートの放映が先にあるのでますます寝るに寝られない。そのスピードスケートは、女子の短距離でカナダ選手団の旗手を務めたカトリオナ・ルメイ・ドーンがオリンピック連覇。同じ日に好成績をあげたカナダ選手がいて一安心。 リンクサイドにはテンガロンハットがトレードマークのご主人、夫婦愛って強いわ。 しかしエルビス、放映されるんだろうか。日本みたいに全員放映するわけではないので8位という順位は微妙なところだ…と心配していたら放映はエルドリッジから。キス&クライでのエルビスが全く目に入っていなかったことに気がついた。 長野来るんじゃないだろうか。 成江の演技はカットされていた。これではファンどころか知名度さえ上がりようがない。 「飛行機が7時だから5時にはここを出ないといけないわけで、全部見たら徹夜(^^;)私エルビスが終わったら寝る」「だめ、アリョーシャの時にたたき起こすから(笑)」という状態だったのだが、エルビスの演技を見てからしっかり目が冴えてしまい、逆にワイス(だったっけ?)の時にkさんを起こしていた。 (もう少し続く) (戻る) |