ソルトレークシティーオリンピック見聞記
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2月15日(土)
Over(帰国) 徹夜をしたのでどこで区切ったらいいものか。 さすがに朝の5時前にホテルの食堂は開いていない。フロントに置いている無料のコーヒーだけもらって体を暖め、タクシーを呼んでもらう。タクシーの座席に座ったとたん眠気がやってきて、空港まで爆睡。最後に外の景色を眺めるどころではなかった。どっちにしても暗くて何も見えないのは確かなのだが。 朝の5時過ぎであるにもかかわらず、空港は人でごった返していた。関空でさえ開けて中身をチェックされた荷物検査はどう来るかと思いきや、何やら聴診器のようなものをあてている。質問もされず、機械に何も表示されず、ただじっと待つという退屈な荷物検査だった。 荷物検査を待っている間、知り合いがいないかと退屈しのぎに周りを見回していると、おそろいのユニクロ調の白いコートを着た東洋人三人組が通りすぎていく。この街でおそろいの上着とくれば選手やコーチ。くせ毛のあの二人、竹内君と無良コーチじゃなかった? 選手もとんぼ返りなんだ……。 空港の売店ももう開いていて、会場で売っているデイリープログラム(その日の各競技の競技スケジュールやちょっとした記事などがまとめて載っている)がなんとここでも売っている。ラッキー!買いそびれていたのだ。 そして既に今日の新聞が山積みになっている。一面トップにヤグディンのガッツポーズの大きな写真、そうそうこういう新聞が見たかったのだ!観戦期間中に見る新聞はやはり地方誌に限る。しかし見出しの「No Doubt!」に苦笑い。確かに文句のつけようがない勝負のつき方だったが…まあ、裏を考えて心をがさつかせるのは今はやめよう。 お土産に新聞を買いまくるkさん、優勝選手のファンの特権ですね(笑)。あ、私も買おうっと。 生で試合を見ているから結果の部分はもういい。その新聞独自の視点で書いている文章が読みたい。スペースを探していくと、載っている名前は銅メダリストのゲイブルではなく、「Eldredge gets warm ovation」。 アメリカのファンとエルドリッジとの間にも絆があったと受け取っていいのだろうか。 何があってもエルビスを見捨てないカナダのファンとは違い、アメリカのファンにはいつでもエルドリッジを切り捨てられる冷たさがあるようで気になっていたのだが。 飛行機に乗りこんで席に座るとまたもや爆睡してしまい、結局ソルトレークシティーとの別れを惜しむどころではなかった。サンフランシスコ行きの便でずっと爆睡し、サンフランシスコの空港でも新聞を買いまくるkさんを横に眠気との戦い。しかし今日の新聞はどれもものの見事にヤグディンの写真がトップで大きく出ている。うーん、すごいわ。 関空行きの飛行機に乗りこんでからまたもや爆睡。徹夜がこたえていたのだろうが、えらく色気のない旅である。 結局色々考え事をするゆとりができたのはフライト時間の半ばになってから。今度一人旅で午前発の長時間の飛行機に乗る時は、その前の晩に徹夜をしておくのもいいかもしれない。飛行機の中でひたすら眠れて時間がつぶせるし。(注:旅行先で体調が崩れるのでやめましょう) ものすごく高い世界を見た悦びと、ものすごく低い所に堕ちてしまった鬱が交互にやってくる。 高いものは書き表したい。低いものは書きたくない。だが両方書かなければ意味がない。 とりあえず観戦記は書く。書いて形にしてしまわなければオリンピックを終わることができない。私のバトルはむしろこれからなのだ。(←おい) しかしどう書いたらいいものか…まあ書き始めれば何とかなるのはもうわかっている。 書いたその先は? 考えてはいけない。 もう7年近く前の話になる。 なみはやドームで黒い竜の飛翔する姿に涙を流しながら、同時にささやかな夢ができた。 「この人のアマチュア最後の演技は生で見たい」 スケートを見に海外へ行くという世界があることを知らなかった頃の話である。 夢はかなった。 夢みていたのとは少し違う形で。 ―――かなった後で喪失感が残る夢というものもあるらしい。 (終わり) (戻る) 〜おまけページへのご案内〜 |