第十九夜 ゲーム

    前回、ゲーム性のある賭博と賭博性のあるゲームという、ありきたりなレトリックだが一応分けて考えてみた。
    このコラムでは、博打というのが一貫したテーマであり、切り口なのだが、ここであえて競馬のゲーム性という部分に焦点を絞って考えてみたい。

 競馬の場合、買い目を絞るまでの過程に技術が入ってくると何度も言っているが、この部分だけではなく、買い方、つまり資金配分も含めてゲーム性が高いといえる。
 ゲームに勝つためには何が重要なのだろうか。古今東西ゲームの最たるものといえば戦争である。戦争をゲームといってしまうのは語弊があるかもしれないが、実際戦争に勝つための技術や、研究が文明を推し進めてきたのである。
    会社や製品単位でも経済戦争としてのゲームに見立てられ、色々な理論、研究がフィードバックされている。

  有名なところでは、ランチェスターの法則という戦術論がマーケティングに応用されている。例えば、いまある競合店に勝つためには3倍の戦力を投入しなければならないといったようなことである。
   ここでは、そういうことではなく、事業であれなんであれ、運営して行く上でよく使われる要素に分けて考えてみたい。
 大きくは責め手ということで、戦略、戦術、戦闘の3つに分けられます。そこに戦力の把握といことがプラスされます。


     戦略とは何か。

  当然ビジョンというか勝つということが大前提ですが、いかに勝つかということと、以前に書いたように自分にとっての勝ちとはどのような状態なのかをはっきりさせておかなければなりません。勝利条件の設定です。
    戦略である以上少なくとも1年間で回収率を110%にするとかそれ以上にするとかということが最初にくるでしょう。また、金額ベースでいくら欲しいのかという設定も重要です。この事によって、一開催あたりのノルマも決まりますし逆算する事によって、1日の原資や投入金額の割り振りなど、自分にとっての基本的なルールが決まってくると思います。
    ただ、すべての要素はきちんとしたバランスの上に立っているので、いきなりこれだけを決めてもできるかどうかわかりません。


     戦力の把握。

  戦略を立てるには自軍の戦力を知らなければなりません。こんなふうに考えて見ました。
陸・海・空軍とあるように、単勝・複勝・馬連・ワイドと分けてみます。なぜこのように分けるかといえば、すべてにおいて勝ち方というか勝利条件みたいなものが違っていると考えます。

    典型的な例は、複勝です。複勝というのは一言で言えば、負けられない馬券です。もちろん複勝でも200円250円 というような配当もあるでしょうが、多くは低配当です。少なくとも1点しか買えません。平均配当140円としても、1つ落すと3つ勝たなければなりません。それで105%です。110%をクリアしょうとすれば4勝1敗ペースです。この数字をどう取るかは各人の自由ですが、ここで自分の複勝の的中率と回収率がどれくらいあるかというのが自分の複勝軍の戦力ということになります。

   反対に、馬連の場合はある程度負けられる馬券といえます。当然これも回収率によって負けられる度合いは違ってきますが馬券の性格としては、1レースに何点か買うわけですから、はなからはずれ含みということになります。
  単勝は、まあほとんどの人が1点で買うと思いますが、1番人気をはずして多点買いというのもできますので一概にはいえませんが、やはり本線重視であればかなりの的中率がいると思います。

    このように、各馬券における的中率や回収期待値は大きく違ってきています。もちろん基本としての単勝があり、そこから馬連へと移行するのですが、特に、複勝やワイドといった馬券の単体での回収率を取って見てください。大きく足をひっぱている場合が多いと思います。つまり、戦力にならない軍を投入している可能性があるわけです。


     戦術とは何か。

    ここが予想の基本となるべき場所です。指数であれ、血統であれ、とりあえず一番主になるものが基本戦術となります。ここでは主になるものを1本決めないと、いろいろなファクターが責めぎ合い、まとまらなくなってしまいます。

    そして、買い方です。馬連なら的中率33%、回収期待値300%、1勝2敗でいけるとか、さきほどいったように、複勝なら的中率80%、回収期待値140%、4勝1敗といったような事です。
    買い方にについては次の機会にもっと掘り下げてみたいと思います。

    戦術としては、このように買い目を抽出する方法と資金配分の2つに大きく分かれます。
    それぞれに場面に応じたファクターがからんでくると思います。コース別特性や場体重や天候、中にはサインが入る人もいるかもしれません。
    このあたりは各自の戦力、先ほど言った単勝なら単勝馬券の的中率や回収率を上げている方法が戦術と重なってくるでしょう。そこで、自分の力を戦術別に分けるなりなんなりして、バラバラにして見ると各ファクターの組み合わせなどから、買ってはいけない、勝負してはいけない場面があぶりだされてくるかもしれません。
   あるいは、荒れ目と読めるレースなら荒れ目用の戦術パターンを用意する、臨機応変に戦術に変化をつけることが戦略自体にフィードバックすることにもなります。


     戦闘とはなにか。

  ここではじめてメンタルな部分が出てきます。戦術部分のところで誤解があってはいけないので、少し付け加えると、戦術を決めるという事は具体的に買い目抽出したりすることではありません。抽出の原則みたいなものを決めるということです。つまり、指数を芯にしてる人なら、クラス基準値を5走ともクリアしてる馬は文句無しに軸にとるとかそういったことです。 また、買い方も回収期待値に届かなかったら見送るとかいうことです。

   では具体的な戦闘のイメージとはどんなものか。最終的にはメンタルな部分の戦いに尽きると思います。原理原則では設定できないツキや流れなど。そういうものを見極めたり、ビビったり、弱気になって戦術部分を勝手に変えてしまわないようにするということ。
   戦闘部分では具体的に勝敗が決まります。一日の緒戦で勝ち逃げするのか、それとも流れにのってたたみこむのか。負けていたら、粘って取り戻すか、被害を最少に食い止めるために終了するか。

    少なくとも、闇雲にレースをするのではなく、また、カッとなって暴走するようなことなく、状況判断が必要になってくると思います。

    なんだかんだと、こじつけたり、屁理屈でお茶をにごしたようなところもありますが、このようなことはみんな無意識の内にやっていることばかりです。ただ、それを分解して組み立てなおしたり、新たな組合せの発見につながればと思います。

    武豊の有名な言葉に、「馬は5分で変わりますからね」というのがあります。事実、どこから見ても鉄板というような馬でも凡走する事があります。またそのような経験があると思います。
    事実そうなら、考え詰めても無駄な事も多いかもしれませんが、突き詰めれば最後に賭けるために大いなる理屈作りをしているのかもしれません。
    積み上げてきたものが、賭けた時点で一旦ゼロになるということさえ忘れなければ、ゲーム性のある賭博を楽しむことができるのではないでしょうか。

第二十夜