舟越保武


舟越保武(ふなこし・やすたけ)氏という彫刻家の事を知ったのは3年ほど前。TVで、日本を代表する彫刻家、舟越保武・佐藤忠良両氏の作品と長年に渡る友情についてのドキュメンタリー番組を見て、あまりに美しく敬虔なその作品と両氏の友情にすっかり魅了されてしまいました。それ以前は氏のご子息でやはり彫刻家の舟越桂氏の事は知っていて、不思議な表情をたたえた人物像に惹かれていたので、なおさら感慨深い物がありました。(舟越桂氏の作品については、最近では"永遠の仔"単行本の表紙の木彫の人物像の作者と言うとわかる方も多いでしょうか)それからほどなく長崎に旅行に行く事になり、舟越保武氏の代表作である「長崎26殉教者記念像」は絶対に見てこようと勇んで出かけました。長崎市内を見渡せる小高い丘の上にその像はあり、長崎駅から徒歩5分くらいのとても便利な場所にあるわりに、観光コースに入っていないのかひっそりと静まりかえっていました。その横に記念館があるのですが、ガウディの建築に似せたような異様なたたずまい・・。殉死していったキリシタンの記録と鎮魂のための記念館という事もあり、もともとはしゃいでいい雰囲気ではないのですが、なんともいえない静けさと、他に誰も人がいなかった事もあって、本当に怖かった。母親と2人、急ぎ足で見学しました。そして改めて外の壁にある26殉教者記念像と向かい合っても、ここはまさにこの人達が処刑されたその場所なんだと思うと作品を鑑賞するより怖さが先に立ってしまったと言うのが情けないながら本当の気持ちで、記念写 真を撮ったりする気分にもなれず、しばらく無言で像を見つめるだけでした。






こちらは舟越桂氏の本



舟越保武画文集・巨岩と花びら

下が三重県立美術館の展覧会図録
最近になって舟越保武氏のエッセイの本が文庫化されている事を知り、さっそく購入して読んでみました。作品の美しさと同じくらい文章もとてもとても魅力的で、氏のエッセイを静かに愛好している人が多いという後書きを見て、目からウロコが落ちた気分でした。彫刻はもちろん、エッセイだけでも大ファンになってしまい、氏の著作を何でもいいから読みたいと、オンラインの書店でいろいろ検索してみました(こういう時インターネットは本当に便利です)。文庫化された作品以外にも作品集、エッセイを含めて何冊も本が出ていて嬉しくなりましたが、どの本も10年前後前に出版された物で、絶版になっていたり、入手困難な物ばかりです。ぜひ他の作品も文庫化または再版してほしいものです。エッセイを読んで一気に舟越熱が高まってしまった私は書店以外でも「舟越保武」でいろいろ検索してみました。すると三重県立美術館のHPにたどり着き、1993年に開催された「舟越保武の世界」展の図録が若干在庫があり、購入できるというのを発見しました。大喜びで注文し、あっという間に手元に到着して、インターネットのありがたさをかみしめてしまいます。'93年の展覧会を見逃したのは悔やんでも悔やみきれない気がしますが、この図録は作品の写 真とデッサン、年譜や目録、文章も充実していて、本当に大満足です。ますます舟越氏の作品と人物に魅了されてしまいました。後は日本各地にある野外展示作品を見る事と、何といっても大規模な作品展を見たいです。長崎の26殉教者記念像も今見るとまた違った気持ちで向き合える気がします。