羽根
〜BEGINNING〜

最終話
〜この空の向こうへ〜


「剛兄ちゃん剛兄ちゃん。」

「なんだよ。」

「どっちがいい?」

妹は俺の目の前に赤のシャツと青のシャツをずいっと突き出した。

「・・・赤。」

「えー、でもこっちもいいと思うんだよねー。あ、そういやアレもあったなー。」

「・・・。」

「ねーねー剛兄、これねー。」

・・・。

うざい。

妹がタンスに首突っ込んでいる間に彼は叫んだ。

「けーんっ。」

いるはずの名前だ。

今日は休日というだけあって家にいるのは剛と健とかよこだった。

「なにー?」

「お前今暇?」

かよこの方に目をやると、

「忙しい。」

と答えて背を向けた。

「ちょっと待て。」

兄に肩を捕まれると、弟はどうも弱い。

「お前今アイツ見てから言ったよな?」

「・・いや・・。」

「いいじゃねーかよ、ちょっと付き合えよ。」

「わかったよ。」

「ねーこれさー。」

・・・。

「逃げた方が早いんじゃないの?」

来たばっかりの健にしては今まで耐えた剛の方がすごい。

「いや、兄として・・・一応。」

そんなことを言う剛にちょっと笑ってしまう。

「んだよ。」

「楽しいなーと思って。」

「なにが?」

「剛兄が。」

その言葉にムっとしたのか、言葉はなしに目つきが鋭くなった。

「・・・冗談・・だよ。」

今にも手が出そうな勢いの剛。

「白と青・・どっちがいい?」

そんな状況を知らないかよこは白のスカートと青のズボンを持ち出した。

「どっち?」

・・・。

「白。」

答えは同じだった。

 

 

「だいたい、時間かかりすぎ。」

「そんなこと行ったってさー。」

「だって行くのって今日じゃねーんだろ?明日だぜあ・し・た。」

「そーだけどさー。」

昼ご飯のラーメンをすすりながらの会話。

「あんま緊張すんなよ。」

「そんなの無理だよー。」

「で、何時に行くわけ?」

明確に聞いてくる剛にちょっと考える。

「教えない。」

「なんでだよっ?」

「ついてきそうだもん。」

「なっ。」

「あはははは。言えてるーっ。」

怒る剛とは対象に笑い出したのは健。

「行かねーよっ。」

とは言いつつも、実はちょっと図星なあたりがなんともいえない。

「緊張するなー。」

「お前さ、ボケーっとしてんだから、あんまりボロだすなよ。」

「どういうことよっ。」

箸を進める手を止めて健が真剣に話し出す。

「あのな、これからも長いお付き合いするわけだろ?ってことはうかつなこと言っちゃいけないの。」

「ふーん。」

こっちはこっちで真剣だった。

「健。」

「なに?」

「お前過去になんかあったのか?」

特に真剣でないもの一人。

「恋愛話なら聞いてやるぞ。」

健はがっくし肩を落とす。

「ないよ。」

「じゃぁがんばらなくっちゃね。」

「おう、がんばれがんばれ。ごちそうさま。」

「俺も、ごちそうさま。」

「ごちそうさまでした。」

 

 

明日はかよこの彼氏の家に行くことになっていた。

最初は反対していた剛も、最近は特に口を出すことはなかった。

もちろん、本人曰く、別に認めたわけではないらしい。

だけど、そこらへんは兄としての意地だった。

「あとこれと・・・あ、これも持ってこうかな。」

彼女はご飯を食べてからも相変わらずだった。

普段友達と遊ぶとなっても適当にしか用意をしていかない彼女。

なんか・・・ムカツク。

これは私情だ。

「あのさー。」

「なーに?」

「・・・。」

文句の1つくらい言ってやろうかと思ったけど、なんか妙に楽しそうで、言葉をかけたものの、どうしていいかわからない。

「なにか?」

「・・・ちゃんと片付けろよ。」

そう、部屋の中はまるで震度6。

笑えない。

お前はこれで嫁に行くのか。

・・いや、まだ決まったわけじゃねー、だって中学生だぞ?

ただ向こうの両親に挨拶行くだけ・・そうだよ。

たかが挨拶じゃねーか。

俺なに考えてんだよ。

うー・・・・。

「どうしたの?むづかしい顔しちゃってさ。」

お前のせいだ、お前の。

 

 

あおーげばーとーとしー

「准一先輩っ、卒業おめでとうございますっ。」

「うぉっ、ありがとーなー。」

大きな花束を持った在校生達が准一を送り出す。

今日は、准一の卒業式だ。

「先輩、また遊びにきてくださいね、絶対ですよぉっ。」

「わかってるわかってる。」

「あー、先輩泣いてるーっ。」

「なっ・・泣いてへんわぁっ。」

「あーあ、もう先輩の関西弁聞けないんですねー、残念。」

「ははは。」

今日は僕の卒業式やった。

でも、忙しいから博兄は来られへん。

残念やけど、そんなんかまへん。

帰ったらいっぱい話したらええ。

「准兄ちゃん、卒業おめでとーっ。」

「おめでとーございまーすっ。」

パーンとクラッカーの音と現れたのはかよこと友達やった。

「お前何してんねんっ。」

すっかり僕はパーティー後のくたびれた司会者のようになっていた。

「おっしゃぁ、撤収。」

「なっ?」

言葉をかける間もなく落ちてたり、僕にかかったりしてるクラッカーの中身をせっせと拾っている。

「また後でね。」

そう言い残して去っていく。

用件はそれだけだったらしい。

「なんやねんな。」

それはそれでありかな。って思ってしまうあたり、今日はご機嫌だということに気づく。

 

 

「城島せんせー、おつかれさまー。」

花束を持っていた先生に剛と健は声をかけた。

「おお、坂本兄弟4号と5号やんけ。元気しとったか?」

「・・・あのさー、まだその呼び方やってるわけ?」

剛が怪訝そうに睨む。

「当たり前や。みんな坂本やねんからわからへんやん。」

「だから俺健でいいって言ったでしょー?」

「そうやな、5号の健。」

「もーっ。全然変わってねぇじゃん。」

「うるさいなー。しかしお前ら、今日はあれか?6号の卒業式やから晴れ姿見にきたんか?」

「ちげーよー。アイツがなんか失敗しねーかなーって楽しみにしてたの。」

「ちょっと剛兄っ。」

「ははは、剛は変わらへんなー。」

「せんせー、なんで剛は剛って呼ぶのに俺は5号ってつくわけ?ちょーさいてーっ。」

「当たりめーだろ、俺と先生の仲なんだから。」

「なんだよそれっ。」

「そういうことだ。うひょひょ。」

「そういや、当の准一はどないしたんや?」

今にも手が出そうな健を前にのほほんと先生が聞く。

「後輩達に囲まれてるからつまんなーい。」

「あ、そういや快兄は?」

「おおっ、3号も来とるんか?」

「えー、准兄の近くで怪しくうろついてると思う。」

「・・・。」

「変わらへんなー、快彦も。」

「そういや昨日アイツビデオのバッテリー充電してたぞ、3本くらい。」

「・・・はっ?」

「すぐなくなるもんねー、うちのビデオ。」

「快彦・・大丈夫なんか?」

妙に普通の会話として話す2人を見て少し心配になったのは・・言うまでもない。

 

 

「おっはよーございまーすっ。」

「けーんっ、どうだった?ちゃんとできた?」

「んー、わかんない。でも、一応・・自信はあるから。」

健はいつものようにバイトに向かっていた。

いつものように。

いつもと違うように。

バイト先の友人に連れられて健は中に入っていった。

「店長っ、坂本入りましたよー。」

「おお、待ってたぞ。」

いつものように裏に入っていく。

なんか・・この空気ちょーやなんだけど。

「持ってきたか?」

「はい。」

そう言って大事そうに持っていた四角い箱をテーブルの上に置いた。

店長がそれをゆっくりと開ける。

そこには、博の誕生日に作った健のケーキがあった。

もちろん、この前のような失敗はない。

甘すぎず、でも甘い。

見た目は前よりいくらかはマシだと思う。

それは・・僕の未来のかかった第一歩。

「なぁ健。」

「はい。」

「なんでこれ全部7つなんだ?」

フルーツはいっぱい置いた。

どれも7つづつ。

それは・・・

「こだわりです。」

「へー。」

7つ。

7人。

 

 

「坂本ー、お前今日合コン行くか?」

「ああ?」

「ほら、隣の大学の女の子たち。めちゃくちゃかわいいって評判いいんだって。」

「お前そんなこといって、また俺に幹事やらせよーって魂胆だろ。」

「げっ。ばれてた?」

「バレバレなんだよっ。」

「ダメ?」

「別にいいけどさ。」

俺・・なにやってんだろ。

兄貴達はしっかり仕事とかしちゃってんのに。

いつのまにか弟達もやりたいこととか見つけたりして。

俺・・なにやってんだろ。

ちゃんとやろうって決めてたのに。

いや、ちゃんとやってんだけど。

今は楽しいことばっかしか見てなくて、将来とかって考えたことなくて。

だってさ、「いま」が楽しくないとつまんねーじゃん。

だけど。

そろそろ、ちゃんとする時かな。

もう1回やり直してみようか。

性格とか、やり方とか、そんなの変える必要なんてない。

今まで通りすればいい。

でもちょっとだけ、頭ん中、変えてみようか。

真剣になってみようか。

俺は吹っ切れたように全力で走ってさっきの友達を捕まえた。

「なんだ?」

ケロっとヤツが言う。

負けたくない。

友達だって、いつかライバルになる時がくる。

それが学校ってやつだ。

「やっぱ俺、今日だめだわ。」

「ウソ、マジかよ?」

やりたいこと、あるんだ。

 

 

「ちくしょー・・めんどくせーなぁ、就職なんて。」

街中を歩くと誰もが早々とかけていく。

もっとゆっくりなんで歩けないものかと、寂しくなる。

そして、それに逆らえず、結局自分の足も速く動いているのが腹ただしい。

結局俺は何がしたいんだろう?

わからない。

ただ・・汚い言い方をすれば金がほしかった。

それだけだった。

博兄みたいに器用じゃないからわからない。

健みたいに、やりたいことを見つけたわけでもない。

昌兄みたいに・・・。

「最初は弟達のために、金かせぐためだけの仕事だって思ってた。」

・・・か。

俺・・・昌兄に似てんのかな。

なんか・・ちゃんとしたいな。

今までちゃんとするってこと、あんまりしたことなかったから。

スーツとかビシって着たりしてよ。

・・結構・・ありなんじゃないの?

やってみようか。

何事もやってみなけりゃわかんねーよ。

 

 

「ふぅー。」

カレンダーを眺めると、その日はどんどん近づいている。

知らない間に弟達は強くなっていた。

いつの間にか、自分で道を見つけ、自分の道を探し、自分の道を進んでいる。

成長期と言ってしまえばそれまでだけど、着実に大きくなっていた。

俺は。

俺は、何か変わったんだろうか?

いつも通り仕事をして、いつも通り弟達の世話をし、いつも通りご飯を作る。

何も変わっていないような気がした。

変わりたいなんて特に思ってない。

この生活に満足してないわけじゃない。

だけど、彼らは着実に自分の道を進んでいる。

俺だけ一人取り残されてる気がしてならない。

負けず嫌いな性格は、こういう時に厄介になる。

「博兄ー、今日のご飯なに?」

「もう俺ちょー腹減って死にそー。」

でもさ、こういうとこ見てたらさ、まだまだ妙に子供だなって思う。

だって、全然変わってないんだもん。

「あー、博兄私手伝うよー。」

エプロンを手にした妹は、いつの間にか台所を把握するようになっていた。

「いいよ、向こうで待ってて。」

「え?」

不思議そうな顔をする妹に、俺は笑顔で答えてやった。

「今日はがんばりたい気分なんだ。」

そういうとちょっと笑って、

「じゃぁお願いしますっ。」

とおじぎを1つに、笑顔も1つ。

もし俺のやってることが役にたってるのなら。

もし俺のやってることが彼らの力になってるのなら。

もし俺のやってることが彼らの笑顔の元になってるのなら。

それで十分満足だ。

昌兄、俺は何も変わってないよ。

変わってないヤツが一人くらいいたっていいだろ?

その方が、帰ってきたって感じがして、いいでしょ?

もうすぐだね。

 

 

1年と少し過ぎた、春。

 

 

桜並木。

満開の桜の花びらの間からさす光がまぶしい。

「お前何やってんだよ、ほら、早く行くぞ。」

「飛行機ついちゃうよ。」

「博兄財布持ったー?」

「持った持った。」

「ほら、かよこ。行くぞ。」

ねぇ昌兄。

私、高校生になったよ。

少し大人っぽくなった制服に身を包んで駆け出した。

「今行くーっ。」

「あー、快兄時間ないよー、やばいって。」

「おっしゃぁ、飛ばすからな。しっかり捕まっとけよっ。」

「ちょっと待ってよ、博兄運転してよー。快兄の運転ちょーこわいっっ。」

「うるせぇ健っ。間に合わねんだよ、行くぞっ。」

 

 

1年間という時間がこれほど短く感じた年はなかった。

心配なんて山ほどあった。

苦労だってあった。

だけど、その分、充実感と達成感でいっぱいだった。

行ってよかった。

後悔していない。

ずっと、弟達が支えてくれてたから。

直接的じゃないけれど、あいつらががんばってると思うと、こっちだって負けてられない。

若いからってなんだ。

こっちはお前らより長く生きてんだ。

そう簡単に負けてなんかられねーんだよ。

だけど・・・

「あー、昌兄いたぁっっ。」

それは見た目じゃわからなくて。

「昌兄ーこっちこっち。」

それでも、なんだか1年前とは違う何かがあって。

「あ、なんか元気そう。」

口にはださないけれど。

「心配して損しちゃったよ。」

成長したよな。お前ら。

「昌兄早く早くーっ。」

はしゃぐ弟達。

そして、

「おかえりなさい。」

そんな暖かい声で迎えられた。

「ただいま。」

7人の笑顔があった。

 

 

春が来た。

「あー、昌兄痩せたんじゃないの?」

「ちょっとちゃんと食べてんの?」

「仕事の方大丈夫だった?うまくいってる?」

「友達とかってできた?」

「博兄のご飯恋しくならんかった?」

「もしかして昌兄自給自足?うっそ、食えんの?」

・・・。

やっぱり・・変わってねーや。

「ねー昌兄。」

「一変に山ほど聞くんじゃねーっっ。」

7人の兄妹の大騒動はこの先まだまだ続く。

 

 

おわり。

考えなしにつけたタイトル。最後くらい原点もどろうかとサブタイトルは歌詞から。と思ったものの、どれもよすぎて決められない。ほんと悩んだよなー。でも一番タイトルらしくいけるのはこれかもと思い。「こっちの方がよかった」というコメントはいただきません(爆)悔やむから。ただ、これ全部を書き終えてからこの曲を聴くと、みなさんはどんな感想を持つかは謎ですが、個人的には「結構あってたんじゃないのー?」と思ったり思わなかったり(笑)なんかさー、1つ1つのフレーズが考えようによっちゃ合ってくるじゃなーい。・・合ってくるのよっ。特に岡田さんのソロなあたり、受験話が丁度しっくりくるね。うん。ってほんとかよ。かなり強引に進めてますが、正直へタレな私はドキドキっすね。ホントにあってんのか?と不安になります。だってタイトルつけって嫌いだから、この曲好きやしこれでいいやーって感じやったんで(爆)
えー、最後は結構すんなり型にしました。どうしようか迷ったんんですけど、もっとドタバタにしようかとも思ったんですけど、やっぱ最後だし、どうなったんだよ?って言われても困るので、一応一人一人くっきりはっきりさせようと(笑)えー、なってるかどうかは謎。まぁ、なんとか落ち着いたんじゃないっすか。個人的には納得いくようなそうでもないような。でも1回やってみたかったんで、どうせやるなら、普通のドラマと同様10・11・12回のどれかだな。と思ってたらホントに11回もあって自分でもビビってます(笑)よくネタがここまでもったもんだ。えー、では。長々とおつきあいいただきありがとうございました。感想なんぞいただけるとかなり喜びます。