羽根
〜BEGINNING〜

第1話
僕等の生活。

 
「ここだな、健のバイト先は。」

「さぁー・・・。」

男女2人が着いたところは1件の小さなケーキ屋だった。

「いや、ここで合ってるはずだ。」

「でもさぁ、違ったらどうすんの?」

「いや住所はあってる?名前だって一緒だ。間違いない。」

「でもさぁ。。」

「いくぞ。」

ちりんちりん。。

きれいなベルの音と共にいらっしゃいませの声が聞こえた。

・・・いつもの・・・声。

「けーんっ♪」

呼ばれたのは一人の店員だ。

「なんで快兄いんだよっ!!」

反発する店員に対して、

「来ちゃった♪」

客はかなり楽しそうである。

「来ちゃったじゃねぇよ、かよこっ、なんで快兄いるんだよもぉー。」

店員はもう1人の客に助けを求めた。

「だって快兄が勝手に・・」

「なんだよ、かよこ知ってたのか?なんで俺に言わねぇんだよ!!」

「あたりめぇじゃん。ずっと言わないようにゆってたのに。」

がっくりうなだれる店員に対して、客は少し興奮気味だった。

「なんで黙ってたんだよもぉ、健のこんなかわいらしい姿見るためだったら俺毎日でも通うよ。」

「だから快兄には知られたくなかったんだよ、どうやって調べたんだよ?」

「えー、アドレス帳とかさぐって。」

「さいてー、プライバシーの侵害はんたーいっっ!!」

「いいじゃんかぁ、かたいことゆうなよー。」

「・・ったく・・・で、かよこ注文は?」

どうしていいかわからなくて、とっさの質問に少しどもってしまう。

「あ、あたしチーズケーキ。」

焦って出た名前は、彼女の好きなもの。

「・・・快兄は?」

もう一人の客に渋々オーダーを聞く。

「健♪」

「ばかじゃん。」

 

 

「さいてーだよ、快兄!!」

甲高い彼の声が小さな一軒家に響く。

「そんな拗ねんなって、兄としてはなぁ、心配なわけよ。ちゃんとしたとこで働いてんのかなぁ?って。」

それは、さきほどの店員と客の争う図があった。

店員の名前は健。

この家の5男坊。

客の名前は快彦。

この家の3男坊。

「心配なんてしないでよぉ、俺もぉ高2だよ?大丈夫に決まってんじゃん。子供じゃないんだから。」

「健は俺からみたらずっと子供なわけ、だから心配なのー♪」

「子供じゃないって言ってんだろっ!!」

ぎゃーぎゃー。

「何やってきたわけ?」

そんな2人をよそに、もう一人の客と男が違う部屋でそれを眺めていた。

「ばれた。」

女は簡潔にそう答えた。

男は一瞬悩んだが、

「あー・・バイト?」

思い当たったのは彼に口止めされていたことだった。

「そういうこと。」

女の名前はかよこ。

この家の末っ子である。

「ついにばれたかぁー。」

男の名前は剛。

この家の4男坊だ。

「私がもっと引き止めてたらなぁ。」

かよこは少ししゅんとする。

「しゃぁねんじゃねぇ?いずれわかることだし。」

「うーん・・そうだけど・・。あっ、最近剛兄行った?」

「いや、お前と1回行っただけ。あんなとこ1人で行けるかって。」

「ちょーかぁいいよねぇ、あのお店。健兄も似合ってるしさぁ♪」

「あの服似合うのはこんなかでアイツだけだよ。」

争っている2人に目をやってみる。

先ほどとあまり自体は変わっていない。

「だよねー。・・・でも・・・」

「似合いそうだよなぁー。」

「博兄。」

声はしっかりハモっている。

「この2人だね。」

「だね。」

「・・・けど・・・」

「快兄には関係ないでしょーっっ。」

「なんでだよっ、関係あるに決まってんだろ?」

「何がだよ?言ってみろよ。」

「そ・・それはだな。」

「ほら答えられないじゃん。」

「なっ・・・」

そんな二人をみてため息2つ。

「飽きないよね。」

つぶやいたかよこをよそに剛は土産のケーキにフォークを指した。

「うまっ。」

どうやら今の彼には喧嘩の行方より目の前のケーキしか目がない。

「ここのチーズケーキおいしいよねー。」

フォークに刺さったケーキの欠片を眺めて彼はつぶやいた。

「かよこ。」

「なに?」

「おまえもこれくらい作ってみろよ。」

「・・・できるわけないでしょ。」

「ちっ、使えねーな。」

「・・・剛兄・・・。」

こちらの会話がなくなると、相変わらずな声が耳に入ってくる。

「だからもぉ2度と来ないでよ!恥ずかしいんだからぁ!!」

「なんでだよ、いいじゃねぇか客だぞ?俺は。」

「快兄みたいな客いらないよもーっ!」

・・・。

「うるせぇ。」

「いつものことじゃん。」

「ほんっと、飽きねぇよな、あの2人。いい迷惑。」

「そぉ?楽しいけどな。」

「お前なぁ・・・。」

がらっ。

「ただいまぁーっ♪」

「あ、准兄お帰りーっ♪」

「腹減ったわー・・ご飯まだぁ?」

のどかに部屋に足をいれたのは、この家の6男坊。

准一だ。

「お、准一いいところに帰ってきた、ケーキあんぞ。」

「おおっすげーっっ。どないしたんこれ?」

「快兄のおごりだって。」

「えー、快兄が??珍しいなぁ。・・・まさか毒とか入ってへんよな?」

そういう彼に、既に腹の中に入った彼が「えっ。」と声をあげた。

「そんなわけないでしょ。」

「あ、准一これなぁ、実はなぁ、健がふがっっっ。。。」

「何しゃべろうとしてんだよ快兄!!」

「どないしたん健兄。。」

喧嘩をしているということとはつゆ知らず。

「あ、准一気にしないで食べてね。快兄のおごりみたいだからさぁ。」

「そ・・そうなん?じゃぁ遠慮なくいただくわー。」

迫力負けと空腹が重なった。

「准兄これちょーおいしいよ、イチゴのケーキ。」

「お、ほんまか?」

「チーズケーキは俺のだかんな。」

「剛兄ホンマ好きやな。じゃぁちょっとカバン置いてくるわ。」

ぱたぱたぱた。

「准兄知らなかったっけ?」

「あー、アイツのことだからたぶん快兄に言うと思って健も言ってないんだろ。」

「でもさぁ、ばれたからにはいいんじゃない?」

「それは健が決めることだよ。」

「そだね。」

「そういや博兄どこ行った?」

「わかんない。なんで?」

「博兄いねぇと晩飯なんねぇじゃん。」

かよこの目はテーブルの上の残骸を捕らえた。

「・・剛兄まだ食うの?」

「これおやつっしょ?」

「そうだけどさぁ・・・」

兄貴の胃袋は無敵だと、しみじみ感じた。

「かよこー。」

「なに准兄。」

「あんなぁ、今日夜雨降るらしいねんやん。だからさぁ・・・」

「はいはい。昌兄でしょ?」

「よぉわかってるやん。」

「1番下ってこきつかわれるからやだなぁー。」

「お前1番暇やん今。」

「うるさいなぁもぉー。」

「バイト先にいい迷惑なの、快兄が騒ぐから迷惑なのー!!」

「なんだよ、じゃぁ次からは眺めるだけにすっからさぁ・・・」

「やだぁーっ、快兄変態っっっ!!」

後ろからまだ止まぬ叫び声が聞こえた。

「あっちより、俺の方がうるさいか?」

「・・・まさか・・・。」

 

 

「じゃぁ昌兄迎えに行ってくるからぁ。」

「おお、気ぃつけてな。」

「うん。」

准一の言った通り今晩は雨。

傘2つ持って昌兄のお迎え。

「健兄はいいなぁー。バイトやってるもんな。剛兄だって進学しないで就職するんでしょ?私も早く働きたいなぁー。って、まだ中2だけどさ。」

遅いなー、昌兄。

 

 

「ただいまー。帰りに博に会ってよぉ、助かった。」

ドアを開けたのはスーツ姿のサラリーマン。

この家の主だ。

「ただいま。ごめんねーご飯遅くなっちゃって。」

もう一人もまたスーツ姿で片手にはスーパーの袋。

剛が待ち望んだ人物だ。

「おかえり、今日の晩飯なにっ?」

うれしそうに剛は博を迎えた。

「あれ?かよこに会わへんかった?」

最初に入ってきた主は、かよこが待ち望んだ人物だ。

「いや会わなかったけど。どっか行ったのか?」

准一の背中に冷たい汗が伝った。

「・・・昌兄迎えに行った。」

 

 

今日残業かなぁ昌兄・・・。

変だなぁ、いつもこの時間に帰ってくるはずなのに。。

後ろから水の跳ねる音が聞こえる。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」

「あ、昌兄!遅かったね・・ってびしょびしょじゃん・・・どしたの?」

「あー・・・ちょっと・・な。」

「はい傘。」

「サンキュ。」

「・・・走ってた?」

「ちょっとな。」

「ごめんね、やっぱ駅まで行ったほうがよかった?だっていつもここの公園通るし、迎えに来るならいつもここだし・・」

「いいよ。帰ったらすぐシャワーするから。」

「そぉ?でもごめんね。」

・・ったく・・人騒がせだこと。

「ん?なんか言った?」

「いや、いい妹だなーって。」

「そらどうも。」

どっちの迎えなんだか・・・。

 

 

「ただーいまぁーっ。」

「おかえりー。」

「今日めちゃめちゃ雨降ってたよー。」

のん気なやつ・・・。

妹を横目にここの主の昌行は思った。

「昌兄ごめんなぁ。」

そんな様子を見た准一が小声で話し掛ける。

「いいよ別に。」

「そうだ、昌兄の分もケーキ買って来たかんねー♪」

「はっ?」

この家にこの人数。

話の順序というものはない。

「ほら、健兄のさぁ・・」

「かよこ!!家でバイト話禁止!!」

言われた妹はきょとんとしている。

「なんで??」

「快兄がうるさいから。」

「健兄バイトしてたん?」

「あ・・あのね、准一・・・」

しかし、この問いに答えたのは健ではなかった。

「あ、こいつねぇケーキ屋でバイトしてんの。これがちょー似合ってねぇ!!」

「もぉ快兄あっち行っててよぉ!!」

「えー、1回行ってみたい!!」

彼には自分だけ知らなかったことに悲しさはないのだろうか?

「ごめんねー准一黙ってて。また今度場所教えるからおいでよ!」

「健、准一にそれはないだろ?俺にも言ってくれよ「また来てね!」って。」

「だって快兄言わなくてもくるじゃん!!」

「そうだけどさぁ・・・」

「ご飯だよーみんな!!」

玄関での会話は博の一言でさえぎられた。

「おっしゃぁ飯っっ!!」

一番に飛び出したのはほかでもない彼だ。

「剛兄はや・・・。」

出遅れた彼の言葉だ。

 

 

「せーの・・・」

「いただきます。」

彼らにとって食事は命である。

このいただきますの合掌と共に戦いは始まる。

その事を知ってか知らずか、博は必ずセルフサーピスという言葉をモットーに大きな皿におかずをのせ、みんなの目の前に出すのである。

もちろん、本音は7人もの食事を分ける気など更々ないからに違いない。

「あ、快兄俺の肉取るんじゃねぇよーっ!!」

「ちょっと、剛兄サラダいっぱい取らないでよぉ!!」

「いいじゃねぇかよ、肉とサラダは均等に取るもんなんだよ!!」

「その量が多いねん剛兄は!!」

「准一てめぇ俺のにんじん取るんじゃねぇよ!!」

「これ剛兄のちゃうやろ!!」

「剛、俺は働いてるんだぞ!!肉よこせよ!!」

「関係ないね、晩飯は戦争!いくら昌兄でもこれだけは譲れねぇ!」

「なんだとぉ!!」

当然というか、戦いは昌行・快彦・剛・健・准一の5人に絞られる。

そして、既に皿からかけ離れている2人は平和な食卓をおくることになる。

ので・・この2人の分はすでによけられていることも事実である。

だが、単純な彼等はこの戦いにより、敗者はもしかしたらこの2人より量が少ないかもしれないというのに、

大皿を目の前にすると、そんなことはどうでもよくなるのである。

そういうところは、みんないくつになっても変わらない。

「なんでこの兄弟は戦いが多いんだろうね・・・。」

「いいんじゃない、ケンカするほど仲がいいってゆうし。」

「一応ケンカじゃないんだけどなぁ・・・。」

「言い争いねぇ。平和でいいよねぇー、こっちは。」

「そうだよね。」

 

 

「健兄今日はごめんね。」

部屋に戻ったかよこが健に言う。

この家には寝室が3つしかない。

これも家族のコミュニケーションとばかりに月に1回はくじ引きで部屋変えをするのがここの家訓である。

今は昌行・博・准一、快彦・剛、健・かよこを言ったぐあいである。

「なんでかよこ謝ってんの?」

「えー、だって快兄にばれちゃったし。もうちょっとちゃんと引きとめておけばよかった。」

「いいよ、いづれはばれるわけだし。」

「そうだ、関係ないけど准兄にも教えていいかなぁ?なんか悪い気がする。」

「あー、僕の方から言っておくよ。関係ない准一には悪いことしちゃったな。」

「健兄さぁ、快兄のこと嫌い?」

「・・・なんで?」

「間があった。」

「そんなことないよ。好きだよ。」

「ほんとに?」

「ほんとだって。」

・・・。

「・・・面と向かってはいえないよねー・・・。」

「当たり前じゃん。だからひみつな。」

 

 

健のバイトのことを最初に相談したのは長男でありサラリーマンである昌行だった。

「お前がバイトしなくたって俺がお前ら食わしてやる。」

と言ったのは当然なんだけど、どうしても昌行の疲れは目に見えていた。

もちろん次男である博にも話した。

彼も昌行同様働いてはいるが、そう遅い時間にはならない。

だから食事の支度は博に決まっている。

もちろん他にも決まってる事はある。

家族が仲良く暮らしていくためには家訓はいらないというが、ここは家訓というものがなければ弟達は動かないことをよく知っている。

その家訓1つに「学生は勉強に専念すること」というのもちゃんとある。

健は自分がバイトするといってもまだ高校生だし、食費のたしになるなんて思ってない。

当然、破れない家訓があることだってちゃんと頭にはあった。

だけど、じっとしていられなかった。

剛が進学を止めて就職しようって思ったのも下にまだ兄弟がいたからだ。

もちろん昌行を信用していないわけじゃない。

博だって働いているのだって知ってる。

勉強しなくちゃいけないのだってわかってる。

それでもと思って言ったことだった。

最後の条件は「兄弟には黙っていること」だった。

そして3人だけの秘密はまず最初に剛とかよこにばれることになる。

2人は彼の店に行き目を見開くことになる。

当然であろう。

かよこの友達に勧められて行った店に知られた顔があったのだから。

もちろん仕方のないことだし、健にとっては問題のない2人だった。

ただし健は残りの2人にばれることを恐れた。

快彦にばれたら・・と思うと動揺の色は隠せない。

彼の性格はわかっている。

きっとばれたら毎日でも押しかけてくるような気がしてならなかった。

そしてまた子供扱いされるだろう。

准一を避けたのは快彦にばれないためである。

わかりやすく単純である彼は快彦にうっかりもらすかもしれない。

そんなことを考えていた。

 

 

「健兄こんなとこでバイトしとってんやぁー。。」

まだ夜も更けぬうちに健は昌行達の部屋を訪れた。

准一に説明するためである。

幸いというか、今回はどちらの部屋にも快彦がいないことは健にとって好都合であった。

「また暇あったら来てよ。准一ケーキ好きでしょ?」

「うん、絶対行くわ!」

「昌兄、家訓1個壊さなきゃね。」

「んなことしたら学生が勉強しなくなるだろ?」

「でもかなり反してるよこれ。」

小声といえどもしっかりと健に会話が聞かれていることは十分承知だったが、今言わなくていつ話すのだろうか?

「うーん・・・。」

「じゃぁ「学生は勉強すること。」これでいいじゃん。」

「・・・博変わってないそれ。」

「専念って言うの抜いたら十分じゃない。うちの兄弟はそこまでバカじゃないよ。准一が知った時点で兄弟みんなが知ったことになるんだし、みんな認めてるからいいんじゃない?」

「そういうもんかぁ?」

「あ、昌兄自分が頼りないって思われるのいやなんでしょ。」

「なっ・・・」

長男と次男の関係はどう考えても1番長い。

ということはお互いの性格はわかるということ。

そして、わかりやすい長男は周りをよく見る次男に考えまで読まれてしまうってこと。

「そんないらん心配しなくても大丈夫だよ、ねー健。」

「え・・・」

「健も覚えてるよね?なんでバイト始めたかってこと。」

「う・・うん・・・。」

「えーなになに??」

「わぁってるよ。」

「え、ちょっ、昌兄??」

「じゃぁ僕寝るね。」

「えー、なんで始めたんよ健兄!!」

「おやすみー健。」

「おやすみなさい。」

「ほら准一寝るぞ。」

「な、、なんでやねーんっ!!」

 

 

面と向かっては言えないけど僕のバイトを始めた理由。

これは、就職を決めた剛兄の受け売りだけど。

准一とかよこをちゃんと進学させるため。

昌兄と博兄が倒れないように少しでも楽させてあげるようにするため。

そして

これからもみんなが一緒に幸せで暮らせるように。

 

つづく。

またかよこの名前使っちゃったよ(爆)名前考えるのヘタなんですっ!だからかよこでいいんですっ!!だから読んでる人はかよこは自分だと仮定して読んで下さって結構です(笑)ってゆうか、遂にやっちゃいました。HPを始めた時点で1回はやってみたかったんです兄弟もの。6人じゃむずかしかったから女の子を1人いれてみようと思って失敗しました。いなくてもあんまり変わんない気がする・・・。まぁいいや。入れたかったの。これもまぁやりたいと言ったわりには適当になる気がして怖いですね。。なんとか最後までちゃんとオチをつけられるといいが・・・(爆))