D×D

第5話
ーもうなにもわからないー


いつの日からか、俺は人を信じる事がなくなった。

というより、信じるということがなんなのか?

むしろそれすらわからなかった。

怖かった。

いつのころからなのか、理由はなんだったのか?

記憶にない。

ただ、家族を失った時に、小さいながらも1人で生きていくことを決意した。

家族はもちろん、友達なんて呼べる人が消えて行って、金もない。

なにもかもがボロボロやった。

親戚はみんな俺を押しつけて、結局は誰1人として預かるつもりなんてなかった。

ひょっとしたら、その時に決めたことなのかもしれない・・・。
 

 

この現実から逃げれなかった。

俺は、逃げることができなかった。

家族と同じ所に逝ってもよかった。

行きたかったのに、逝けなかったんだ。

勇気がなかった。

子供だったからという言い訳を付けて。

周りすら見えない俺は孤独な9年の学生生活を送り、社会に出た。

ちぐちゃんやりかのことなんて気にする余裕がなかった。

自分のことで精一杯やったから。

周りが見えてへんかった。

あのころはそれでよかってん。

けど、今になってこんなことになってるなんて、思ってへんかった。

俺はどうすればよかってん?

何を求めてるんや?

今更・・なんやねん・・・。
 

  

「・・・。」

目覚めたら天井があった。

見覚えのある天井・・・俺の部屋?

俺なにやってんねん?

わかったことは、しっかり握られた手の主がりかやったこと。

・・・爆睡中やけど・・・。

「気がついた?」

「何が、どうなってんねん?」

「りかさん追って出てったら道端で倒れてた。直前に地震あったかんな、かなりでかいの。もしかして・・って。」

「そっか。」

「で、ちょっとしたらりかさんが来たってこと。」

「・・・。」

「3日間。」

「なにが?」

「3日間寝てた。」

「・・・はっ?」

「だからぁ・・・。」

「俺ってすごいねんな、そんな寝れるんや・・・。」

「ばけもん。」

「誰がやねんっっ!!」
 

 

「りかさんにも話したんだけどさぁ・・・。」

「ん?」

「俺大阪行って来た。」

「えっ?大阪まで??」

「そうだけど。調べてきたから、ちぐさんのこと。」

「・・・どっからそんな金・・・。」

「自転車。」

「・・・あんさんの方がよっぽどばけもんやわ。」

「だって金ねぇじゃん。」

「そうやけど。・・・悪かったな・・・。」

「・・・ほらよ。」

ベッドの上にばらまかれたものは、なんだか多すぎて何から手をつけていいやらわからない。

「いったぁ・・・なにすんねん・・・。」

「おっす。」

「あー!虎之介目覚めたん?」

「おかげさまで。」

「俺さ、買いもん行ってくるわ。」

「気ぃ使わんでええって!」

「バレバレじゃん・・・。」

「俺りんごな。」

「結局オーダーしてんじゃねぇか!」

「じゃぁうちサンドイッチ♪」

「人の話聞けって!」

「行ってらっしゃ〜いっ♪」

「声そろえて言うなよっ!」

「あ、おごりね。」

「なんでだよっっ!」
 

 

ばらまかれた資料と呼ばれるもの達。

何から手をつけていいかわからなくて、とりあえず1番に目に入った写真を手にとる。

幼い女の子と男の子の絵。

記憶は定かじゃないけど、これは確かに俺や。

・・・もう1人は・・・。

「ちぐかわええやろ?」

「・・・ああ。」

やっぱり、そっか。

「ちぐとはな、中学校まで一緒やってん。んで、最近まで高校生くらいまでは連絡とっててんけど、卒業してからはお互い時間なくてな。」

「最後っていつ?」

「いつやっけ?卒業してから全然かも。」
 

 

人間としては・・・な。
 

 

「なんかゆうた?」

「別に。」

「なぁ、これって中学生のちぐちゃん?」

「うんそうや。隣におんのんうちやで。」

「高校生のってないのん?」

「あー・・・わからへん。」

「そっか、連絡とっただけやっけ。」

「うち大阪の方やったけど、ちぐ東京行ってん。」

東京?

「この近く?」

「うーん、そうでもないかな。」

「・・・。」

1度見たことがある気がした。

いや、1回やない、もっと・・・。

中学生から高校生になると女の子は変わる。

だから自信はないねんけど、どっかでみたことある。

どこやろ?いつや?

「とーらー?」

「えっ。」

「どないしたん?」

「いや・・・」
 

 

「大体とらのやつも人使い荒いんだよ。そりゃ俺から言ったさ、ああ言ったさ、買いもん言ってやるって。けどおごりなんて聞いてねぇぞったく。りかさんもりかさんだよ。探してたのにイキナリ帰ってくるし、あの2人そろったらなんか迫力あるし・・・。」

だけど・・・よかった。

このまま目覚めなかったらって、ちょっと心配しちったじゃねぇかよ。
 

 

あーめあーめふーれふーれかあさんがー
 

 

「えっ?」

悟の足下に丸い雫が落ちてくる。
 

 

じゃーのめーでおーむかえうーれしーいなー
 

 

「・・・雨・・・。そういや前もこんなんだったっけ。・・・俺水難でてんのかなぁ?」

彼は慌てて駆け出した。
 

 

ぴーちぴーちちゃーぷちゃーぷ
 

  

それは・・・ちょうど公園を通りかかった時のことだった。

声が・・聞こえる?かすかな声・・・歌??
 

 

らーんらーんらーん・・・。
 

 

振り向いた先には彼女がいた。

そう・・・写真の彼女・・・。
 

 

「なぁりか。」

「ん?」

「人の頭ってこんなもんか?」

「え?」

「覚えてへんもんやねんなぁ・・・。」

「・・・。」

「あやふやでムカツクわ。イライラする。」

「虎之介・・・。」

「もぉいややわ。疲れた。」

「・・・。」

「最低やんな?好きな子のこと忘れて。思い出す事もできんくて、結局今はちぐちゃんになんもしてあげられへんねん。最低やわ・・・。」

「そうやな。」

「・・・。」

「ほんま最低やわ。ここで放棄すんの?うちは別にかまへんで?無理に思い出してもらうことないもん。あんたのちぐへの思いはそんなもんやねんな?」

「なっ。。」

「なんやねん、そうやろ?ギリギリまで諦めんなや。七夕まであとちょっとしかないねんで?約束したんやろ?2人で約束したんやろ?今も守ってるちぐはどうすんねん。ちぐにはまだ未練あんねんで?」
 

 

みれん?
 

 

「あ・・・。」

「・・り・・か・・?いま・・・。」

「ご・・ごめんっっ!!」

「ちょっ、りかっっ!」

彼女から聞いた言葉は確かやった。

そして、また逃げて行く。

だけど、俺は追いかけることができへんかった。

また逃してしまった。

唯一の手がかり。

そして、知ってしまった事実。

当たってしまった予言。

けど、考えてたことやろ?

それが偶然当たってしもた。

それだけやん。

それだけやん・・・。

なのに・・・なんで・・・なんで涙でんの?

なぁなんで?

そんだけ大切に想ってた人やったんか?

なぁ・・・教えてや。

ムカツクのも、イライラするのも悔しいだけやん。

わかってたやろ?

思い出せない自分に腹立ってたんやろ?

わかってるやん。

ヤツ当たりなんてかっこわるい。

けど、なんかのせいにせな、やってられんかってんや。

溢れ出した涙がとまらなかった。
 

  

ちぐちゃんは・・・もうここにはいない。

この世界には・・・おらんねんや・・・。
 

 

涙の理由が、僕にはわからんかった・・・。

to be continue