いつの日からか、俺は人を信じる事がなくなった。
というより、信じるということがなんなのか?
むしろそれすらわからなかった。
怖かった。
いつのころからなのか、理由はなんだったのか?
記憶にない。
ただ、家族を失った時に、小さいながらも1人で生きていくことを決意した。
家族はもちろん、友達なんて呼べる人が消えて行って、金もない。
なにもかもがボロボロやった。
親戚はみんな俺を押しつけて、結局は誰1人として預かるつもりなんてなかった。
ひょっとしたら、その時に決めたことなのかもしれない・・・。
この現実から逃げれなかった。
俺は、逃げることができなかった。
家族と同じ所に逝ってもよかった。
行きたかったのに、逝けなかったんだ。
勇気がなかった。
子供だったからという言い訳を付けて。
周りすら見えない俺は孤独な9年の学生生活を送り、社会に出た。
ちぐちゃんやりかのことなんて気にする余裕がなかった。
自分のことで精一杯やったから。
周りが見えてへんかった。
あのころはそれでよかってん。
けど、今になってこんなことになってるなんて、思ってへんかった。
俺はどうすればよかってん?
何を求めてるんや?
今更・・なんやねん・・・。
「・・・。」
目覚めたら天井があった。
見覚えのある天井・・・俺の部屋?
俺なにやってんねん?
わかったことは、しっかり握られた手の主がりかやったこと。
・・・爆睡中やけど・・・。
「気がついた?」
「何が、どうなってんねん?」
「りかさん追って出てったら道端で倒れてた。直前に地震あったかんな、かなりでかいの。もしかして・・って。」
「そっか。」
「で、ちょっとしたらりかさんが来たってこと。」
「・・・。」
「3日間。」
「なにが?」
「3日間寝てた。」
「・・・はっ?」
「だからぁ・・・。」
「俺ってすごいねんな、そんな寝れるんや・・・。」
「ばけもん。」
「誰がやねんっっ!!」
「りかさんにも話したんだけどさぁ・・・。」
「ん?」
「俺大阪行って来た。」
「えっ?大阪まで??」
「そうだけど。調べてきたから、ちぐさんのこと。」
「・・・どっからそんな金・・・。」
「自転車。」
「・・・あんさんの方がよっぽどばけもんやわ。」
「だって金ねぇじゃん。」
「そうやけど。・・・悪かったな・・・。」
「・・・ほらよ。」
ベッドの上にばらまかれたものは、なんだか多すぎて何から手をつけていいやらわからない。
「いったぁ・・・なにすんねん・・・。」
「おっす。」
「あー!虎之介目覚めたん?」
「おかげさまで。」
「俺さ、買いもん行ってくるわ。」
「気ぃ使わんでええって!」
「バレバレじゃん・・・。」
「俺りんごな。」
「結局オーダーしてんじゃねぇか!」
「じゃぁうちサンドイッチ♪」
「人の話聞けって!」
「行ってらっしゃ〜いっ♪」
「声そろえて言うなよっ!」
「あ、おごりね。」
「なんでだよっっ!」
ばらまかれた資料と呼ばれるもの達。
何から手をつけていいかわからなくて、とりあえず1番に目に入った写真を手にとる。
幼い女の子と男の子の絵。
記憶は定かじゃないけど、これは確かに俺や。
・・・もう1人は・・・。
「ちぐかわええやろ?」
「・・・ああ。」
やっぱり、そっか。
「ちぐとはな、中学校まで一緒やってん。んで、最近まで高校生くらいまでは連絡とっててんけど、卒業してからはお互い時間なくてな。」
「最後っていつ?」
「いつやっけ?卒業してから全然かも。」
人間としては・・・な。
「なんかゆうた?」
「別に。」
「なぁ、これって中学生のちぐちゃん?」
「うんそうや。隣におんのんうちやで。」
「高校生のってないのん?」
「あー・・・わからへん。」
「そっか、連絡とっただけやっけ。」
「うち大阪の方やったけど、ちぐ東京行ってん。」
東京?
「この近く?」
「うーん、そうでもないかな。」
「・・・。」
1度見たことがある気がした。
いや、1回やない、もっと・・・。
中学生から高校生になると女の子は変わる。
だから自信はないねんけど、どっかでみたことある。
どこやろ?いつや?
「とーらー?」
「えっ。」
「どないしたん?」
「いや・・・」
「大体とらのやつも人使い荒いんだよ。そりゃ俺から言ったさ、ああ言ったさ、買いもん言ってやるって。けどおごりなんて聞いてねぇぞったく。りかさんもりかさんだよ。探してたのにイキナリ帰ってくるし、あの2人そろったらなんか迫力あるし・・・。」
だけど・・・よかった。
このまま目覚めなかったらって、ちょっと心配しちったじゃねぇかよ。
あーめあーめふーれふーれかあさんがー
「えっ?」
悟の足下に丸い雫が落ちてくる。
じゃーのめーでおーむかえうーれしーいなー
「・・・雨・・・。そういや前もこんなんだったっけ。・・・俺水難でてんのかなぁ?」
彼は慌てて駆け出した。
ぴーちぴーちちゃーぷちゃーぷ
それは・・・ちょうど公園を通りかかった時のことだった。
声が・・聞こえる?かすかな声・・・歌??
らーんらーんらーん・・・。
振り向いた先には彼女がいた。
そう・・・写真の彼女・・・。
「なぁりか。」
「ん?」
「人の頭ってこんなもんか?」
「え?」
「覚えてへんもんやねんなぁ・・・。」
「・・・。」
「あやふやでムカツクわ。イライラする。」
「虎之介・・・。」
「もぉいややわ。疲れた。」
「・・・。」
「最低やんな?好きな子のこと忘れて。思い出す事もできんくて、結局今はちぐちゃんになんもしてあげられへんねん。最低やわ・・・。」
「そうやな。」
「・・・。」
「ほんま最低やわ。ここで放棄すんの?うちは別にかまへんで?無理に思い出してもらうことないもん。あんたのちぐへの思いはそんなもんやねんな?」
「なっ。。」
「なんやねん、そうやろ?ギリギリまで諦めんなや。七夕まであとちょっとしかないねんで?約束したんやろ?2人で約束したんやろ?今も守ってるちぐはどうすんねん。ちぐにはまだ未練あんねんで?」
みれん?
「あ・・・。」
「・・り・・か・・?いま・・・。」
「ご・・ごめんっっ!!」
「ちょっ、りかっっ!」
彼女から聞いた言葉は確かやった。
そして、また逃げて行く。
だけど、俺は追いかけることができへんかった。
また逃してしまった。
唯一の手がかり。
そして、知ってしまった事実。
当たってしまった予言。
けど、考えてたことやろ?
それが偶然当たってしもた。
それだけやん。
それだけやん・・・。
なのに・・・なんで・・・なんで涙でんの?
なぁなんで?
そんだけ大切に想ってた人やったんか?
なぁ・・・教えてや。
ムカツクのも、イライラするのも悔しいだけやん。
わかってたやろ?
思い出せない自分に腹立ってたんやろ?
わかってるやん。
ヤツ当たりなんてかっこわるい。
けど、なんかのせいにせな、やってられんかってんや。
溢れ出した涙がとまらなかった。
ちぐちゃんは・・・もうここにはいない。
この世界には・・・おらんねんや・・・。
涙の理由が、僕にはわからんかった・・・。
to be continue