毎日同じ朝が続く。
最近はとらの調子がいい。
地震も起きない。
そのかわり、痩せた。
元々太った方じゃなかったとらが、いつも以上に痩せている。
痩せこけている。
そして、いつも何かを考えている。
「とら?」
「なんや?」
「なんか、思い出したか?」
「俺は、ちぐちゃんに嫌われてたんや。」
毎朝その言葉しか言わない。
とらにとっての、それほどまでの人物。
「なんでこんな大事に思ってた人やのに、思い出されへんねや。」
「・・・。」
「あほみたいな話やな。こんなに好きやった人やのに、何も覚えてへん。さいてーや。」
俺は、答える事ができなかった。
今までとらとつきあってきた時間は短かったけど、ここまでへこんだとらを見たのは、あの時以来。
あの、家族の話をしてくれた時以来のことだった。
とらにとっての子供時代は、なにやら複雑すぎて、俺にはわからない。
「とらのすけぇーっ♪」
「あー、なんやねんりかっ!!毎朝毎朝おしかけてきよって!」
「なんやとはなんやねん、人がせっかく買い物行ってきたのに!」
「そりゃどうもー、ほら、さっさとそれ置いてでてけ!!」
「なんやねん腹立つわぁ。金払えやっ!!」
「お前が勝手に買って来たんやろうが!」
「なら食うなや!うちは悟さんに買って来たんやからな!!」
朝っぱらからいいかげんにしろよな・・・。
ちょっと世話焼きなりかさんと、世話されるのが好きじゃないとら。
けど、好きじゃないわけじゃなくて、たぶん、慣れてないだけだと思う。
最近やっとわかったことだけど、地震のやむ理由。
あの時はとらの心は子供の心になってると思う。
ずっと1人で生きてきたから、きっと寂しいんだ。
「だいたい、人がせっかく気ぃつこたってんねんから、人の好意くらい素直に受け取りいや!!」
「だからもらうもんはもらうゆうねん!!」
「ちょー最低。」
「んだとぉっっ!!」
俺から見たら十分こいつらの方がお似合いなんだけど・・・。
「あっ、虎之介ちょっと外きてや。」
「なんやねん、急に素にもどんなや。」
「ちょっとごめんなぁ、悟さん。」
「ああ。」
仲いいんだか悪いんだか。
「なんやねん、金なら払わへんで。」
「んなことちゃうわ!!」
りかはカバンからなんかを取り出している。
「はい。」
「・・・なんやこれ?」
俺の手の上に乗ってるもらいものは、昔のジュースのタブやった。
それもご丁寧なことに赤色の絵の具が塗られている。
「これな、ちぐと虎之介の婚約指輪やで。」
「こんやくゆびわぁ??」
「そうや。」
「これが??」
「これが。」
いい天気の空にちょっとかざしてみる。
よく見てみると、太陽の光と変にマッチする。
「・・・俺のは?」
「知らんわそんなん。」
「これは誰の??」
「これはちぐの。」
婚約指輪やったら俺も持ってることになるよな?
「どこやったんやろうか??」
うーん、わからへんなぁ。。
「けど、なんでお前が持ってんねん?」
「ちぐにもらったもん。」
「なんでや??」
「知らんやん、くれてんもん。」
「とらちゃんなんかだいっきらいっっ!!」
そうやんな。
俺は嫌われてるんやしな。
「早く、思い出さないとね。」
「約束の日ってさぁ、いつなん?」
「言われへん。」
「そっか。」
「・・・知りたい?」
「まぁ。」
「7月7日。」
「七夕?」
「違う。」
「じゃぁなんやねん。」
「あー、時間や。」
「ちょーまてや、そこまで言われたらきになるやん。」
「そっからは自分で考え!よく考えればわかるこっちゃ!」
部屋に戻るとカレンダーを探した。
よく考えれば・・・か。
7月7日。
赤い丸印。
なんで?
そういや俺は、カレンダーをもらうとすぐに7月7日に丸をつける。
・・・なんでやっけ?
もう条件反射になってしもたみたいやな。
うーん。
約束の日が7月7日。
なんかの記念日やっけ?
七夕さんやろ。
おとんとおかんの結婚記念日でもないし、命日でもない。
誕生日・・・。
ん?
誕生日??
「あーっっっ!!!」
「どうしたとら!!」
のん気にテレビを見てた悟がびっくりする。
「誕生日や、ちぐちゃんの誕生日!!」
「いつ、いつだよ!」
「7月7日、この日はちぐちゃんの誕生日や!!」
「おー、なるほど。。」
今までのカレンダーの印がやっとわかった。
あとは、この・・・
「これなんだ?」
「俺とちぐちゃんの婚約指輪。」
「お前の?」
「違う、ちぐちゃんの。」
「りかさんから?」
「そう。」
「なんで持ってんの?」
「もらったんやって。」
「・・・おかしくない?」
「なんで?」
「だって婚約指輪だぜ??なんで他の人に渡す必要があんだよ!!」
「俺は嫌われとったんや。だからちゃうん?」
「じゃぁなんでそれがりかさんなんだよ?」
よくよく考えてみればそうや。
さっきは思い出した事で有頂天になってたけど、確かにそうや。
なんでりかやねん?
「りかさんって・・・何者なんだろう?」
「わからへん・・・。」
「りかさんは??」
「時間っつってどっか行った。」
「探そ!!」
「俺駅とかの方探してくっから、とらこのへんの公園とか。」
「了解。」
容易なことに、りかはとらの目にすぐに映った。
1つ遠い方の公園。
けど、寒気がした。
霊がいる。
なんで??
「り・・・か・・・?」
俺には見えた。
普通に見たらベンチに座ってるだけの彼女。
けど、彼女の手の差し伸べた先には犬がいる。
霊の犬が。
やばいんちゃうんか?
はよ逃げな、食われてまうで!!
そう焦ってるのは俺だけなんかもしれへん。
りかは少し笑って、そしてその犬を包み込むようなシャボン玉が出る。
・・・なんや、、あれは??
シャボン玉に入った犬は天に上っている。
明らかに、あれは成仏してるようにしか見えへん。
俺は、思わず腰を抜かす。
そんな俺にあいつは気がついたみたいや。
「と・・ら。。」
立てなくて、答えられない俺にあいつは近づいてくる。
「なにやってんの??」
それはこっちの台詞やで。。
「な、、なななん。。」
けど、言葉にできへん。
「見た?」
黙って思いっきりうなづいてみる。
「ばれちゃった・・・か。」
平然としてる彼女が怖かった。
「うちのことキライになる?」
どういうことや??
「うちさぁ、霊能力者やねん。」
俺と、同じ?
「びっくりした?」
「なんで言ってくれへんかってん?」
「そんなんゆってもしゃーないやん。」
「そら・・せやけど・・・。」
「ほな、虎之介はいつゆってくれるん?」
「えっ?」
「あんたも、そうなんやろ?」
「なんで知って・・・。」
「ほんまは・・・ウソ。」
「ああっっ??」
「言えへんかったんやない。言わない事が約束だったから。」
「約束??」
「そうや。ちぐとの・・・約束。」
to be continue