ひょうひょうという風の音であなたは目を覚ました。
そこにあるのは、いつもどおりの風景。障子と、堅牢な格子と、そして凹凸の激しい岩の壁。格子で閉じられた窓の外の蒼が、やけに唐突で違和感がある。兎角ここは何もかもが四角く、そして何もかもが死に絶えている。限りなく生の気配がないのだ。この地に根ざす者なら誰もが享受する四季の空気すらここにはない。着物にあしらわれた桜模様も、ここではその色を失っている。
静止した鉛色の中で、あなたは生きていた。
この密室に閉じ込められ、早や百と十五年。
起き上がるのも億劫なので、あなたは床についたまま手近にあった本を手に取った。誰かがいれば何とはしたないことをと諫めたのかもしれないが、生憎とここは隠世の飛び地である。だから、こうしていても問題はない。あなたは気兼ねなく文面を追うことができた。
書籍には各地の山川草木の姿が事細かに記されている。外の景色など記憶から風化してしまっているあなたには、それはとても新鮮な内容だった。だが、そうしていても不安は消えることもなく。これから起こるはずの悲劇を忘れることも出来ない。
いつのまにか、日が傾いていた。
予言は変わらない。
彼は来ることができなかった――それが、何よりの証拠だ。
もうじき、終わりの時が来る。あなたにはそのことがわかっているのだ。何も分からないよりも、それはよほど残酷なことだった。
外で、ススキがすすり泣くように躰を震わせていた。
あなたもまた。肩を震わせて。
「願わくば、次の世で逢えることを」
祈るように、願うように。
あなたは謡った。
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