− Funeral  Flower −

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 薄闇の中を一筋の柔らかな白い光が伸びる。カーテンの向こうはもう空の光り以外の明かりは失われていた。
 今夜は馴れ合う体もなく、一人でベッドに皺を刻んでいる。まぁ、毎夜誰かが共にあるという訳ではないが、慣れない保養所の部屋の空気が孤独感をあおりたてた。
 最近、よく幻を見る。
 クルガンは先日の戦場のそばで群棲していたクロプシスの毒素にやられたのだろうという。そのわりにはクルガンには何の症状も出ていない、今も戦場の後始末に同行している。
「元気なこって・・・」
 だるい体で無理やり寝返りをうち、枕に頬を押し付けて、ボーッとカーテンから流れ込む光を眺めていた。
 シードの見る幻はの出現は予測がつかない、おかげでこうして特別保養所に閉じ込められて無理やり休養をとらされる始末。ここにこもる前に、散々軍団長のお小言を聞かされた。ついでにクルガンの愚痴も聞いた。その後はただ耳が痛くなるほどの静寂・・・聞こえてくるのはただ自然の音と動物の声、そして幻の戯言。

 『・・・・・シード・・・シード・・・・・・』

 今夜もまた実体の無い影が彼を呼ぶ。
「・・・っ・・」
 目の前が、霞がかったように曇り始める。
 ・・・また来たよ・・・・・・。
 薄々それが幻であることは気づいている、しかしその影の形にどうしても苛立ちを隠せない。
 ・・・赤い絨毯があのときの花園のように見える。
 ・・・黒い闇が、あのときの空を思い出させる。
 そして再び繰り返されるあの夜の幻・・・・・
『貴方は私たちと同じ・・・』
 霞が暗闇と混ざり合い人型を形成する。そして、その影はどこかシードに似ていた。
「・・・俺が?おまえら幻に?どこが・・・・・」
 ゆっくりと上体を起こし、シードは影と向かい合う。
 ゆらゆらと揺れる影はじっとシードを見下ろすように立ち、ただ静かに首を横に振った。
『貴方は解っている・・・貴方は徒花だ、私たちと同じ・・・』
「本気で言ってるのか?冗談・・・」
 影が動く度にあのときの・・・クロプシスの香りがシードへと伸びてくる。だんだんと上がる体温に息苦しさを覚え、彼はベッドの上に両手をついて、必死に体を支える。
『赤い花よ、貴方は死を求めて灰と交わる。しかしその前には何も無いでしょう?』
「俺がいつ死にたいって言ったよ・・・灰?まさかクルガンの事言ってるんじゃねーだろうな・・・俺とあいつはそんなんじゃねぇ!」
 シードは有りったけの声を張り上げて叫んだ。しかし影はその威嚇をさらりと受け流すと、またポツリポツリと言葉を続けた。
『私が貴方の望をかなえて差し上げます・・・』
 いきなりの話の飛躍にシードは目を丸めた。
 影はゆらゆらとその輪郭を広げながらシードに歩み寄る。それに伴ってだんだんと早くなる鼓動を右手で押さえ付けながら、シードはサイドボードに立て掛けられた剣に手を伸ばした。
『貴方の心を満たし、安らぎと永延の安息を差し上げましょう・・・』
 強い花の香りをさせながらベッドの際までよった。そして影は揺れる輪郭をはっきりと形作って行く。形どられたその人物には見覚えがあった。
「・・・・・・クルガン・・・」
 
 

2000.9.24
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 宣言から半年遅れて連載開始。