約 束
  ― 1 ―

「シーナ君って時間まもんないよね〜」
 同盟国城内にあるレストラン・ランカ亭のベランダ席の一角。
 メグとミリーがいつものように、優雅なティータイムを過ごしていた。
「そう・・・かなぁ」
「だってこのまえ、私食事に誘われてさ〜時間どうりに守護像前で待ってたんだよ?シーナ君たら1時間も遅れて来るんだよ〜」
 ミリーがデザートフォークで空に円を書きながら、メグに訴えかけた。
 メグもケーキとジュースを交互に食べながらミリーの話に耳を傾けている。
「でも仕方ないんじゃない?シーナ君って他にも彼女いそうだし」
「やっぱりなぁ・・・」
 しばらく二人はその話を切り上げ、別の話題で盛りあがった。
 その間にもケーキの皿はどんどん増えていく。
 皿の枚数が40枚を越えた時、店の方から誰かがミリーを呼んだ。
「ミリー呼ばれてるよ〜?」
 店を背に座っていたメグが、フォークをくわえたままで背もたれに腕をかけて振りかえる。
「あれ?バレリアさんだ」
 ミリーは席を立ち、入り口でベランダを見まわすバレリアに手を振った。
 彼女もそれに気付き、足早に二人の席に近づく。
「ここにいたのか・・・・・・」
 いちど微笑んでからミリーに話を切り出した。が、二人のテーブルに置かれた皿の枚数にしばし目をむいた。
 クリームや、スポンジの欠片のついた皿はその上にあったメニューを明確に物語っている。
 これだけの物をたった二人で・・・・。そう考えると、バレリアは湧き上がってくる甘ったるい感覚に胸がおかしくなりそうな気がして眉をひそめた。
「どうしたの?バレリアさん・・・顔色悪いよ??」
 あいかわらずフォークをくわえたままメグが、バレリアの顔を下から覗きこむ。
 浅い深呼吸の後に、バレリアは額を抑えその手で髪をなでおろした。
「この皿は・・・この皿分全部二人で食べたのか?」
 他人のことをとやかく言ってはいけないことは十分解っている。しかし、この十代中旬の二人が、二人でも一人頭20皿分のケーキを平らげたかと思うと、俄かに胸焼けと目眩をおこさずにはいられなかった。
「えぇvハイ・ヨーさんのケーキって、結構美味しいんだよv」
 満編の笑みでミリーは大きく首を縦に振る。
 しかし味はいいとして、この量はやばいだろう・・・などと考えながら、バレリアは短く重い息を落とした。
「ところで、バレリアさん。ミリーに用があったんじゃ無いの?」
 そう言いながらメグは目の前に置かれた皿の最後の一口をほうばり、それを皿山の頂上に積み重ねながら近くの店員に手を振る。
 内心『まだ食べるのか!?』とも思ったが、付いて行けないと感じ、後回しにしてしまった用事を済ませることにした。
「ラオ殿が今日のメンバーにミリー殿を選ばれたので、至急酒場の方へ向ってほしい」
「え!?久しぶりのお呼ばれ??ラッキ〜v最近運動不足で困ってたのvありがとうバレリアさん!んじゃ、メグちゃんまたね♪」
 テーブルの上で丸まっていた、山ねずみのボナパルトをつかみ、後ろ手に手を振りながら、ミリーは駆け出した。
「うん、またね」
 彼女からこちらの姿がギリギリ確認できる辺りで、メグも大きく手を振る。
 バレリアはそんな二人を見ながら、ほっと一息ついた。
「バレリアさんは行かないんですか?」
 ミリーの入っていった入り口をいつまでも眺めているバレリアに、メグが短くたずねた。
「あぁ、今日私は城番だからな・・・」
 答えながら視線をメグの方に向けると、つんであった皿がまた更に高く積み上げられている。
 絶句して固まる彼女に、メグは顔色1つ変えずに『バレリアさんも一緒に食べます?』と、今手にしている皿を低く持ち上げて見せた。
 彼女の申し出を低調に断ると、バレリアもその場を離れた。なぜかその歩調が逃げるように速かったのだが、メグは別段気にも止めずに再びケーキに意識を戻した。

2000.6.30