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横島のいない世界

第五話 幽霊潜水艦を追います!


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:09/ 3/ 9

   
 8月某日。
 おキヌは、船上で、海の風を浴びていた。

『広いですねえ。
 どこまでも青い景色が続いて、
 気持ちいいです……!』

 隣には、美神もいる。

(おキヌちゃん……。
 楽しむのも、ほどほどにね。
 ……これも仕事なんだから)

 二人は『幽霊船狩り』に参加中なのであった。
 海上保安庁の行事であり、この船も、そちらの所属。だから海上保安庁の人々も同乗しているのだが、彼らの中にも不真面目な者がいるようだ。例えば双眼鏡を手にした男は、それを美神の水着姿へと向けている。
 そんな視線にも気付かぬまま、美神は、おキヌに目をやっていた。

(……そりゃあ、
 山育ちのおキヌちゃんには、
 海は珍しいんでしょうけどね)

 おキヌを海に連れてきたのは、これが初めてではない。
 先日、海辺のリゾートホテルへ行った際も、おキヌは一緒だった。
 それは、夜になると謎の妖怪が出没するという怪事件。だが、フタを開けてみれば半魚人と人魚の夫婦喧嘩だった。『実家に帰らせていただきます』状態の妻を、夫が夜な夜な探しているだけだったのだ。
 美神やおキヌが何をすることもなく、事件は勝手に解決。仕事に行ったというより、むしろ海水浴に出かけたような感じだった。

(今回は、そんなに
 ラクな仕事じゃないと思うんだけど……)

 と、気を引き締めるのだが。

(ま、いっか。
 おキヌちゃんは、しょせん助手なんだし。
 ……そのぶん私が頑張れば、ね)

 おキヌには甘い美神であった。








    『横島のいない世界』

    第五話 幽霊潜水艦を追います!








「……おかしいわね。
 幽霊船なんか影も形もないわ」

 顔を上げて、ポツリとつぶやく美神。
 今まで彼女が覗き込んでいたのは、船に備え付けられた霊体レーダーだ。そこには大型の霊がハッキリと映っており、除霊対象が近くにいることは、誰の目にも明らかだった。

『いるはずです。
 ……私も感じます!』

 美神の後ろから、おキヌが言葉をかけた。自身が幽霊であるせいか、彼女は、霊気を感じ取ることが出来るのだ。
 そんな二人の会話を耳にして。

「姿が見えない幽霊船?
 まさか……」

 若い乗組員の顔に、怯えの色が浮かび始めた。

「俺たちが相手するのって、
 あの伝説の潜水艦なのでは……?」

 思わせぶりな言葉を口にした彼に、全員の視線が向けられる。
 突如、注目の的となった男。
 彼の話によると、この海には、恐るべき幽霊潜水艦が居るらしい。それは、毎年同じ時期――八月――に現れて、海を血で赤く染めることから、『レッド・オーガスト』とも呼ばれる猛者だった。

「そういう話は、先に言ってよ!」
「いや、私も初耳です」

 美神が船の責任者に食って掛かるが、艦長はバタバタと手を振っている。
 そして、こうしたやり取りの間に。
 レーダーの画面上では、対象の霊体――おそらくその幽霊潜水艦――から何かが発射されたことが示されていた。
 だが、目を離していた美神たちは、それに気付かなかった……。


___________

 
 ドゴォオオン!

 衝撃が走り、船体が大きく傾く。

「魚雷だ……!」
「総員退避ーっ!」
「救命ボートおろせーっ!」

 悲鳴や怒号が飛び交う中、

「おキヌちゃん、荷物を!!」

 美神は、テキパキとおキヌに指示。宙にプカプカと浮いている彼女に、持ってきた除霊道具をまとめさせた。
 無事にボートに乗り移った美神は、ザバーッという音を耳にして、後ろを振り返る。
 沈みゆく美神たちの船を嘲笑うかのように、敵が、海面へと浮上してきたのだ。

「これがウワサの……潜水艦の幽霊船!!」

 暗い海の底がよく似合う、黒々としたボディ。その姿を美神たちに見せつけた後、再び潜航を開始する。

「追うのよ!
 私の乗った船を沈めるたー、
 いい度胸じゃない!!」
「し、しかしゴムボートじゃどーにも……」

 もはや『幽霊船狩り』は中止である。
 いくら美神一人が騒いだところで、これでは、どうしようもないのだが。

『美神さん、あれを……』

 海上保安庁の面々とやりあっていた美神は、おキヌに呼びかけられて、そちらを向く。
 おキヌが指さす方向に見えたもの、それは……。

「船だわ!
 グッドタイミング!!」


___________

 
「奴め……やはり現れおったか……。
 なんとひどいことをするのじゃ!」

 ボートのハンドルを握りながら、タンクトップ姿の老人がつぶやく。
 年寄りらしからぬ太い二の腕や、そこに残る多くの傷跡は、この海で荒くれ者と戦ってきた証であろうか。
 彼の戦友ともいえる船も、せいぜい数人程度しか乗れぬ小型船舶ではあったが、戦うための装備は満載されているようだ。
 そう、これは、彼の『戦艦』だった。だから、

「必ずカタキはとってやるぞい」
「あ、ちょっと!
 救助を……!」

 救命ボートの人々に手を差し伸べている暇はない。
 老人は、一路、幽霊潜水艦を追う!
 しかし。

「よーし!
 このまま行けばバッチリよ!」
「な……なんじゃおまえは!?」

 背後からの声に振り返ると、いつのまにか、同乗者。
 ドサクサに紛れて、女と幽霊――美神とおキヌ――が乗り込んでいたのだった。
 
「なんでもいーから幽霊潜水艦を追って!
 あのヤローを沈めるのよ!」
「何!?
 奴はわしの獲物じゃぞ!
 わしは50年間奴を追い続けとるのじゃ!!」

 叫ぶ美神に一喝した後、老人は、再び前を向く。
 そして、美神たちに背を向けたまま、語り始めた。

「……あの艦の艦長は
 旧帝国海軍中佐、貝枝五郎。
 味方であるわしの駆逐艦を、
 撃沈した男なのじゃ!!」


___________

 
 今から約50年前。
 海軍兵学校に、二人の優秀な男たちがいた。
 鱶町と貝枝。
 ライバルとして日々切磋琢磨した彼らは、トントン拍子に出世。どちらも、若くして艦長となった。
 だが、そこで任された船の違いが、大いなる悲劇の幕開けとなる。
 鱶町が与えられたのは、かっこよくて明るく勇ましい駆逐艦。
 一方、貝枝が与えられたのは、暗くて臭くてかっこ悪い潜水艦。
 おろかな貝枝は、それを妬んだ結果、ある日の演習中に本物の魚雷を使ってしまったのだ。
 ターゲットであった鱶町の駆逐艦は轟沈、多数の乗員が犠牲となった。
 そして貝枝は、霊となった今も、海の亡霊どもを配下に非道を繰り返すのだ。なんと残忍で冷酷で非常識で愚かな……。


___________

 
『勝手なことばっか、ぬかすなああーっ!!』

 海面が盛り上がり、幽霊潜水艦が再び浮上。海上に突き出た艦橋のハッチを開けて、海軍服姿の幽霊が顔を出した。
 話題の主、貝枝五郎である。

『黙って聞いてりゃ勝手放題並べやがって!
 てめーの方こそモノホンの爆雷落として
 俺の艦を沈めたじゃねーか!!』

 貝枝から見れば、鱶町老人こそが極悪非道の大罪人。貝枝とその艦を葬り去った犯人だった。

「おめーが先に撃ったから
 わしはやむなく応戦したまでじゃ!」
『いーや!
 貴様が先に撃った!!』
「おまえじゃ!!」
『ウソツキ野郎!』

 ついに子供の口喧嘩レベルの応酬を始める二人。
 横で見ている美神とおキヌは呆れ顔で、開いた口が塞がらない状態だった。


___________

 
『オヤブン……またやってるでやんす』

 幽霊の一人が、ポツリとつぶやく。
 海上の騒がしい音は、潜水艦の中まで届いていた。そして艦内では、貝枝の配下である幽霊や妖怪たちが、おとなしく待っていたのだ。
 しかし、外に出た貝枝の様子を気にして、遥か上へと視線を向けているのは、ただ一人。貝枝の副官役をこなしている幽霊だけだった。
 ガイコツ顔で、童話に出てくる海賊船の船長のような服を着ている。その姿が示すように、もともとの出自は貝枝の部下ではない。遠い海を彷徨って、貝枝に拾われた幽霊だった。
 他の部下たちも、それぞれ寄せ集めの集団である。ざんばら頭の溺死人幽霊や、イルカの幽霊、それに、妖怪である舟幽霊など。

『……』
『くけけけけっ!』
『ヒシャクをくれー!』

 彼らは、上の騒動とは無関係に、ただただ思い思いに叫んでいるだけだった。
 これが、この艦の日常である。

『はあっ……』

 仲間を見渡して、ガイコツ幽霊が、ふと溜め息をついた時。

『……ヒキョーだぞっ!』

 何か鱶町老人への文句を吐き捨てながら、貝枝艦長が戻って来た。部下たちへの指示も口にしている。

『急速潜航!
 メインタンク注水!』


___________

 
「小娘が余計なマネをしよって!
 もー少しで言い負かせたのに!!」

 海上では、鱶町老人が美神に不満をもらしていた。

「口ゲンカで勝ったから
 どーだってのよっ!」
『まーまー美神さん。
 ここで争ってる場合じゃないんでは……』

 老人に食って掛かる美神を、おキヌがなだめる。
 美神だって、言われなくてもわかっているのだ。とにかく今は幽霊潜水艦を追うのが先決だった。
 それに、せっかく浮上して来た貝枝がまた潜ってしまったのは、美神にも責任の一端があった。美神が横から破魔札で攻撃したことに、貝枝が『助っ人とはヒキョーだぞ』と難癖をつけたからだ。しかも、海水でしけっていたためにダメージを与えることすら出来ていなかった。
 そうした状況であるから、美神としても、老人に対して強い態度には出られない。それでも一言、口にしなければ気が収まらないのだった。

「とにかく戦闘準備じゃ!
 今年こそカタつけちゃるっ!!」

 再びボートのハンドルを握る鱶町老人。
 その言葉を聞き止めて、おキヌが老人に声をかける。

『今年こそって……。
 もしかして50年間、
 毎年続けてきたんですか?』

 300年間幽霊をやっているおキヌだから、50年という重みに実感は湧かない。だが、それは生者には永い時間なのだということくらい、頭では理解しているつもりだった。

「おおよ!」

 老人は、大威張りで振り返る。
 舟の操舵を続けたまま、目で備品を指し示した。
 そこにあるのは、この50年という年月の間に、少しずつ揃えてきたもの。幽霊潜水艦との戦いに特化した武器だった。

『あっ、すごい!』
 
 おキヌも驚くほど本格的な、大型の霊体レーダー。潜水艦を浮上させるための、呪符をしこんだ爆雷。最後のトドメとなるはずの、銀のモリ。

「悪魔め、かかってこい!
 貴様ごときに敗れるわしではないぞっ!
 たとえ根の暗い海底に身を沈めようとも……」

 クワッと目を見開き、見栄を切ってみせる鱶町老人であったが。
 勢い余ってツルッと足を滑らせ。

 ガンッ!!

「うっ!?」

 頭を打って気絶してしまった。


___________

 
「なんぎな年寄りねー」
『どうしましょう……?』
「ほっとくわけにもいかないかしら。
 とりあえず意識を取り戻すまで、
 その体、おキヌちゃんが使ってなさい」
『……あ!』

 おキヌは以前に、人形に憑依して、人形の体を動かしたことがあった(第四話参照)。
 同じようにしろと美神は言っているのだ。そう理解して、おキヌは鱶町の体へと入ってみたが……。

『あれ?』

 美神の見ている前で、おキヌの霊体は、すぐに鱶町老人から弾き出されてしまった。

「うーん。
 人形と人間とでは、勝手が違うようね。
 それじゃ仕方ないから……。
 ほっといて私たちでやるわよ!」

 美神は、おキヌにレーダーを任せて、自らはボートのハンドルを握る。

「小回りではこっちが上よ。
 ……GO!!」

 こうして、美神 vs 幽霊潜水艦、その決戦の火蓋が切って落とされた!


___________

 
『敵船、わが艦の進路へ来やす!』

 ソナーの反応を報告する副官。
 その言葉を聞いて、貝枝は内心で歯ぎしりする。

(鱶町め……!!)

 助っ人である女霊媒師の入れ知恵なのだろう。去年までとは、行動パターンが違うのだ。
 それでも、鱶町の船の装備を考えれば、その戦法を想像することは容易だった。

『回りこんで爆雷を使う気だ。
 進路正面に来たら魚雷をたたきこめ!
 1番3番発射用意!!』

 帝国海軍軍人として、そして潜水艦艦長として。
 素早く的確な指示を出していく。
 爆雷を放たれる前に、敵船を沈めてしまえばいいのだ。それが出来るという自信も、十分あった。

『てーっ!!』

 自慢の魚雷が撃ち出される。
 数多くの船を屠ってきた、血塗られた魚雷だ。
 新たな犠牲者を求めて、一直線に進んでいくのだが……。

『ダメです!
 回避されやした!!』
『何っ!?』

 信じられない動きで、魚雷をかわしてしまう小型ボート。
 それは、貝枝が失念していた――そして去年までの鱶町が活かしきれていなかった――『小さい』ということの利点。先入観のない美神の操舵であるが故に、『当たらなければどうということはない』という結果になったのだ。
 そして初撃を避けられた以上、今度は、貝枝の潜水艦がやられる番だった。

 ド……ゴォオン!

 次々と投下される爆雷。
 幽霊潜水艦なので爆発そのものは無問題だが、敵もさるもの。爆雷の中に仕込まれたものこそ、問題であった。

『しまった、呪符が艦体に……!!
 このままでは浮き上がってしまう!』

 意図せぬ浮上を始めた艦内で、怒号や絶叫が飛び交う

『タンク注水、下降一杯!』
『まにあいやせんオヤブン!』

 事ここに至り、貝枝は腹をくくった。

『くそおっ、
 こーなったら体当たりじゃーっ!!』


___________

 
「やったわね!!」

 美神の額に、怒りのマークが浮かぶ。
 ありたっけの爆雷をお見舞いし、勝ったと思ったのも束の間。ぶちかましを直下から食らったのだ。
 彼女のボートは今、幽霊潜水艦の甲板に乗り上げた形となり、危ういバランスで何とか姿勢を保っている状態だった。

「これでもくらえっ!」

 潜水艦の構造上、艦橋部は、ちょうど美神の目線の高さに来ている。そこに銀のモリを撃ち込もうとしたのだが。

『待ってくださいっ、美神さん!』

 美神を制止するおキヌの声。彼女は、突き出た艦橋部の中央を指さしている。
 その辺りに意識を集中して、目を凝らしてみると……。

「ん?
 こいつらは……」

 おそらく、霊力の弱い幽霊なのだろう。
 美神ほどの霊能力者が気合いを入れてようやく見える程度の、おぼろげな幽霊。そんな連中が、白旗を振って降参の意志を示していた。

「……あいつの配下たちね。
 ふん、知ったこっちゃないわ!」

 今さら遅い。まとめて倒す。
 それが、美神の仕事。乗っていた船を沈められた恨み。

「発射!!」
『うわーっ!』

 幽霊たちを蹴散らして、銀のモリが潜水艦に突き刺さった!


___________

 
「はっ!?」

 良いタイミングで、鱶町は意識を取り戻した。
 目の前には、動けなくなった幽霊潜水艦。
 詳細は不明だが、どうやら無意識のうちに勝ったようだ。

「わははははっ。
 おそれいったか貝枝!」

 勝利の雄叫びと共に、幽霊潜水艦にヒョイッと跳び乗る鱶町老人。
 だが。

『ざけんじゃねー!!』

 彼に呼応するかのように、貝枝も出現。部下は勝手に敗北宣言をしたようだが、貝枝自身は、まだまだ負けたつもりなんてなかったのだ。
 
『両方船が動けなくなって五分と五分だ。
 決着つけちゃる!
 素手でこい、素手で!!』
「おおっ、やらいでかっ!!」

 そして。

『尋常小学校時代から
 貴様が気にくわんかったんだ!』
「わしなんか生まれた時から
 貴様にゃムシズが走ったわい!」

 腐れ縁の男二人が、殴り合いを始めた。


___________

 
「もう幽霊潜水艦は
 どこにも行けないわね。
 胸がスーッとしたわ!」

 やるだけやってスッキリした美神は、二人のケンカに干渉もしない。
 ある意味、高みの見物だった。

「不毛でみにくい戦いねー。
 どうして憎しみを忘れて
 許しあえないのかしら」
『そーですねー。
 美神さんの言うとおりです。
 人間と幽霊が争うなんて、良くないです!』

 素直に頷くおキヌ。
 本来ならば説得力もない美神の発言だが、それが美神の言葉であるが故に、コロッと受け入れてしまったのだ。
 そんなおキヌのもとへ、貝枝の部下だった幽霊が集まってくる。彼らから見れば、モリを撃ち込んだ美神よりも、それを止めようとしたおキヌのほうが頼り甲斐があるのだ。

『もうオヤブンには、ついていけやせん。
 どうかアッシらをよろしくお願いします』
『え?
 でも……』

 美神の判断を仰ぐため、そちらに視線を向けるおキヌだったが。

(おキヌちゃんて……
 モノノケのたぐいにも
 好かれるキャラクターなのかしら?
 ……いや、当然かもね。
 おキヌちゃん自身が幽霊なんだから) 

 とノンキなことを考える美神は、軽く手を振って、いい加減に返答する。

「ちゃんとおキヌちゃんが
 面倒みるんだったら別にいいわよ」
『それじゃ……』

 正式な許可を貰ったということで。
 おキヌは、幽霊たちに笑顔を向ける。行き場を失った彼らにとって、それは、まさに天使の微笑みであった。

『……今度、
 近くの浮遊霊の皆さんと一緒に
 幽霊の町内会、作りましょうか?』



(第六話に続く)
   


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