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続・まりちゃんとかおりちゃん

第五話 xxxじゃないモン!(中編)


投稿者名:あらすじキミヒコ
投稿日時:08/ 8/29

  
「……タマモねえちゃんじゃないか!!」
「ということは……。
 わたくしたちが斬りつけた岩って
 ……殺生石だったのですね!?」

 まりとかおりの口調には、妙な馴れ馴れしさが含まれていた。また、その表情にも、昔からの友人と再会したような気安さが滲み出ている。
 タマモは、それが気にいらなかった。スーッと目を細めて――まさにキツネ目と呼ばれる目付きで――、二人に向けて言葉を投げつけた。

「やっぱり偶然じゃなかったのね。
 この石のことまで承知した上で……」
「ちょっと待つでござる!
 まりどの、かおりどのは
 この女妖怪を知ってるのでござるか!?
 拙者には何がなんだか、さっぱり……」
「……ごまかされないわよ!?」

 シロが口を挟んだが、タマモはそれをバッサリ切り捨てた。シロのことを、事情を理解した上でワザとトボケていると判断したのだ。

(きちんと人間に化けることも
 出来ないような犬娘のくせに。
 ……私を撹乱しようだなんて!)

 シロのしっぽを見て腹立ちが増す。
 だが、それは内心に留めて、

「フン……!」

 表面では、シロを小馬鹿にするような表情を作ってみせた。
 この挑発でシロが顔をしかめ、まりとかおりは、二人の間に割って入る。

「二人とも落ち着いてください!」
「シロねえちゃんも、な?
 タマモねえちゃんは……
 ただツンデレなだけだから!」

 人狼の里で暮らしていたシロにも、ずっと石だったタマモにも、『ツンデレ』という言葉は通じなかった。
 それでも、

「言葉の意味はよくわからないけど……。
 なんだか凄くバカにされた気がするわ!」

 と叫ぶタマモ。
 彼女の全身がピカッと光る。
 右手を下へ、左手を上方へと伸ばし、その指先は……。

「不思議な指の組み方でござるな?」
「テレポーテーションですわ!」
「違うだろ、かおり!
 タマモねえちゃんなんだから、
 これは……」




    第五話 xxxじゃないモン!(中編)




「はっ……!?」
「ここは!?」

 まりとかおりは、陸上競技場のトラックに立っていた。
 夜だったはずなのに、いつのまにか昼間になっている。服装も、さっきまでの巫女服ではなく、運動着に変化していた。それもどこかレトロな『運動着』であり、下半身はブルマだ。

『位置について……!!』

 マイクを通したような声が聞こえてくる。

「そ、そうだ!!
 あたしたちは……」
「走らなければなりませんわ。
 ……ここまで来たのですから!」

 二人は、トラックの外側に目を向けた。
 コースに並走する形で鉄製のレールが敷かれており、スタート位置よりも後方に人形が設置されている。それは人間よりも速いはずの人狼を模しており、胸には『シーロ君』という名札が縫い付けられていた。

「そ、そうだな。
 これに勝てば……賞金がもらえる!」
「ほら、早く!」

 かおりに急かされ、まりもスタートの構えをとる。
 すると、

『ドンッ!!』

 まるで二人を待っていたかのように、号砲が鳴った。
 まりとかおりは走り始める。
 少し遅れてスタートしたシーロ君人形。それに追い抜かれないように、二人は頑張るのだった……。


___________


「くすくすくす……!!」

 目の前で走り回る三人を見て、タマモが笑う。
 まりやかおりだけでなく、人狼のシロまで、タマモの幻術に捕われてしまったのだ。彼女たちは、今、タマモの周囲をグルグル回っている。

「私は……
 殺生石のカケラに霊力を流し込まれて
 やっと生きかえったばかり。
 玉藻前と呼ばれた前世のことは
 あんまり覚えてないし恨んでもいないけど……」

 タマモは、自分の背中に手をあてた。そこには、まだ痛みが残っている。

「石でいる間に切り裂いてしまおうなんて……酷すぎる!」

 それを誤解だと指摘してくれる者は、誰もいなかった。

「こんなやつら……
 絶対に許さない、顔も見たくない!
 走り続けてバターになっちゃえばいいんだわ」

 しかし、しばらくタマモが眺めている間に、シロの表情が変化していく。
 そして突然、シロは立ち止まった。

「はっ……!
 拙者は何を……?」

 どうやら、幻から醒めたらしい。
 術を破られた形のタマモだが、彼女に動揺はなかった。

「くすくす。
 あんた半妖のくせに
 人間と一緒になって幻覚にかかるなんて!
 ……まるっきりバカ犬ね」
「犬ではない!
 拙者は狼でござる!」

 大きく叫んだシロは、右手に霊波刀を発現させる!


___________


「はっ!
 あたしたち……何やってんだ!?」
「えっ、どういうこと?
 いただいた賞金も……消えちゃった?」

 シロから少し遅れて、まりとかおりも、幻の世界から戻ってきた。
 硫黄臭の立ちこめる岩場であり、時間は夜であり、着ているものは巫女装束だ。
 そして、現実の世界に立ち返った二人が最初に目にしたものは、

「うっ!」

 狐火に襲われるシロだった。
 辺りはすっかり暗くなっているが、彼女自身の霊波刀とタマモの狐火が光源となって、シロの姿を照らしている。直撃は避けているようだが、軽い火傷くらいは負っているだろう。

「……そういうことか」
「どういうことですの?」

 先に状況を把握したまりは、かおりに促されて説明する。

「あたしたちは、
 タマモねえちゃんの幻術にやられたんだ」
「……!」

 かおりだって、まりと同じく、もとの時代ではタマモと親しくしていたのだ。
 だから今の一言で十分だった。

(シロおねえさまが力づくで幻を打ち破って、
 タマモおねえさまと戦い始めたんだわ。
 ……さすがのタマモおねえさまも
 シロおねえさまの相手しながらでは
 幻術キープは難しい……。
 それで、わたくしたちも夢からさめたのね!?)

 と考え込むかおりの肩を、まりがポンと叩く。

「なに考えてるか知らないけど、
 そういうのは終わってからだ。
 まずはケンカの仲裁だぜ!」
「……そうね」

 シロとタマモが本気で命のやりとりをするなんて、間違っている。
 その想いと共に、まりとかおりは、ネクロマンサーの笛を取り出した。


___________


「フン……!
 あんたの腕じゃ
 いくら頑張っても私には勝てないわよ?」
「くっ……」

 シロの霊波刀が、再び空を切った。
 その顔に浮かぶ焦りの色を見て、馬鹿にしたような表情になるタマモ。
 しかし内心では、彼女はシロの力量を認めているのだった。

(こいつ……思ったよりやるじゃない!)

 変化の術すら未熟な犬妖怪かと思ったが、どうやら違うらしい。人間形態でもしっぽが見えているのは、そういう仕様なのだろう。
 霊気で作った刀はなかなかのシロモノであり、剣術もたいしたものだ。
 タマモは、無意識のうちに、前世で戦った敵と比較していたのだった。曖昧な記憶ではあるが体が何となく覚えているのは、平安時代の武士との戦いである。彼らと比べてしまうと、江戸時代の武術の流れを汲むシロの剣技は、美しいとすら感じられるのだ。

(でも……まだまだね)

 剣術大会ならば勝ち進めるかもしれないが、実戦向きではない。
 タマモは、シロのことをそう評価していた。
 剣技の流派自体もそうなのかもしれないが、なにより、シロ自身が簡単な挑発で容易にアツくなってしまう性格のようだ。

「かすりもしないのね。
 そんなんじゃ霊力の無駄遣いよ?」

 と口にも出してみたように、タマモは、シロの攻撃を全てかわしきっていたのだ。
 しかし、それも今までの話。

(……えっ!?)

 突然、ザラッとした不愉快な感覚が、彼女の体を撫でた。
 動きが一瞬遅れたタマモは、ついに、シロに斬られてしまう!


___________


「なんてことを……」

 パラパラと落ちる一寸ほどの金色の髪。
 長い後ろ髪の先っぽを斬られただけであり、幸い、実害はなかった。しかし、タマモのプライドは大きく傷ついていた。
 タマモの金髪は、ただの髪ではない。九つに分かれた長髪は、九尾の狐のシンボルでもあるのだ!

「……絶対に許さない!」

 タマモが睨みつけたのは、シロではない。まりとかおりだった。

(あんなもので
 私に干渉しようだなんて!)

 さきほどの不快感の正体は、二人の少女が奏でる笛の音。
 タマモは、既にそれを理解していた。

(なんて醜い音!)

 現代人ならば美しいと評する演奏も、タマモの耳には全く違って聞こえていた。
 平安貴族の優雅な笛の音色とは比べものにならないのだ。

(……冗談じゃないわ)

 もちろん、玉藻前として鳥羽上皇の寵愛を受けていた頃のことなど、はっきりと覚えているわけではない。
 だが、思い出せないけれど、たぶん大切な前世の記憶なのだ。
 それを汚されたような気持ちになり、ふつふつと怒りが湧いてくる。

「この私を……」

 その笛が普通の笛ではないことも、タマモは見抜いていた。
 現代では『笛』は除霊道具にされてしまったのだ。そう思ったからこそ、

「悪霊や低級妖怪と一緒にすんじゃないわよ!」

 タマモは、二人の笛吹きに狐火を投げつけた。


___________


 バチッ!

「……なかなかやるじゃない」

 タマモの口から賞讃の言葉が漏れる。

「先生とおキヌどのの御息女は……
 お二人は、拙者がまもるでござる!」

 まりとかおりの前に飛び込んだシロが、霊波刀で狐火を弾き飛ばしたのだ。
 一方、護られた当の二人は、シロの行為を見て純粋に驚いていた。

「狐火を……霊波刀で!?」
「ええーっ!
 そんな無茶苦茶な……」

 その声を耳にして、振り返らぬままシロが応じる。

「無茶じゃないでござる。
 気合いさえあれば……大丈夫!」

 シロは、師匠役のつもりで解説してみせたのだろう。
 だが、まりもかおりも、シロの言葉を素直に信じることは出来なかった。

(実際は精神論じゃなくて……)
(妖力の炎だからこそ、
 霊力の刀で対応できたのね?)

 双子のシンパシーなのか、全く同じ推測をする二人。
 そして、二人がそんな分析をしている間にも、

「それなら……これはどうかしら!?」

 口元に不敵な笑みを浮かべたタマモが、攻撃を再開させていた。


___________


「……なんと!」

 同時に九つの火球がシロたちを襲う。
 それも無機的に真っすぐ進むのではなく、生き物のように動きまわり、てんでバラバラの方角から三人の身へと向かっていた。

「しまった……!」

 その全てを叩き落とすことは出来ず、シロが叫ぶ。
 いくつかの狐火は、シロを回りこむようにして、まりとかおりを狙っていたのだ。だが、

「大丈夫!
 あたしたちだって……」
「自分の身くらい、自分でまもれます!」

 快活な言葉と共に、二人も霊波刀を用意する。
 チラッと振り返ってそれを確認し、安心するシロ。
 しかし、二人の威勢が良いのは口だけだった。

「うげっ!!」
「きゃあっ!?」

 彼女たちの霊波刀では、狐火の勢いを殺しきれない。
 吹き飛ばされて倒れた二人は、アッサリとノビてしまっていた。

「まりどの、かおりどの!」

 慌てて駆け寄ろうとしたシロに、タマモの言葉が追い打ちをかける。

「あらあら。
 よそ見してる場合じゃないわよ?」

 言葉に続いて、第二群の狐火が追撃をかけてきた。
 まりとかおりに注意を向けた分、シロの対応が遅れる。

「うわっ!?」


___________


「……まずいでござる」

 わき腹を押さえながら、シロは、そんな言葉を吐いてしまった。
 彼女は苦痛で顔を歪めており、そのせいか、視界まで少しボンヤリしている。

(これでは……お二人をまもりきれない!)

 横島とおキヌの娘である二人は、シロにとって言わば仲間のようなものだ。
 人狼は、群れの仲間を守るためならば、多少の犠牲も厭わない。必要ならば敵に対して相打ち覚悟で立ち向かうのだが、今回のケースは、それではダメだった。
 シロは、もう一度、倒れている二人にチラッと目をやる。

(ただ女妖怪をやっつけるだけでなく、
 お二人を先生のところまで
 拙者が送り届けなければ……!)

 そのためには……。

(あまりこういう戦法は
 好みじゃないでござるが……)

 ジリジリと後退しつつ、シロは、まりとかおりを抱きかかえた。

「あら、逃げるつもり?」

 敵が嘲笑の言葉をぶつけてくるが、シロは負けない。
 シロだって、横島の弟子なのだ。
 横島ならば言うであろう言葉を思い浮かべて、

「……戦略的撤退でござる!」

 シロは、戦場から離脱した。


___________


 傷ついた体で全力疾走し……。

「シロちゃん!?」
「おい、どうした……!?」

 なんとか、横島のマンションまで辿り着いたシロ。
 彼女を出迎え、横島家は騒然となった。
 なにしろ、もう夜も遅い時間である。高校生のまりやかおりと一緒に出ていったまま戻らず、心配していたところに帰ってきたのが、大ケガを負ったシロだったのだ。

「拙者がついていながら
 ……申し訳ないでござる。
 実は……」

 シロが、簡単に事情を説明する。
 タマモが殺生石からいきなり人間形態になったため、シロはタマモが妖狐だとは理解していない。ただ『幻術を使う美少女姿の妖怪』としか形容できなかったが、それだけで十分だった。

「それって……タマモちゃんじゃないの!?」

 ハッとしたように、おキヌが両手を口に当てる。

「そう、それでござる。
 まりどのとかおりどのも、
 そんな名前を口にしていたような……」
「知っているのか、おキヌちゃん?」
「ええ。
 タマモちゃんも……
 私たちの大切な仲間の一人です!」

 横島の問いかけに対し、おキヌは、逆行前に経験した歴史を語った。
 人間に敵愾心を抱いていたタマモが、少しずつ心を開き、そして事務所メンバーになっていく経緯である。
 詳しく述べる余裕はなかったが、それでも要点だけは伝えることが出来た。

「あの女妖怪が……拙者たちの仲間に!?」
「詳しいことは後で話してあげるから!
 シロちゃん、まず今は傷の手当てを……」
「いや、拙者は後回しでよいでござる。
 それより、お二人を先に……」

 治療を拒んだシロを、横島とおキヌが怪訝そうな顔で見つめている。
 だが、おキヌはすぐに納得の表情に変わり、小さくつぶやくのだった。

「シロちゃん……。
 最後も……また化かされてたのね」

 その言葉で視線を落としたシロは、ようやく真実に気付く。
 大切に抱きかかえてきたはずなのに、腕の中は空っぽだった。
 彼女は、まりとかおりを連れ帰ってはいなかったのだ。
 無事に逃げのびたと信じていたのは、タマモに仕掛けられた幻。実際には、まだ二人は、あの戦いの場に倒れたままだったのである……!



(第六話に続く)
   


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