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極楽人生

桜の下ごしらえ


投稿者名:BJL
投稿日時:05/ 4/ 5

花見それは日本におけるお祭りの一種だ。
 酒を飲み、歌を歌ったり、愚痴を言ったりと普段ストレスが溜る者達にとっては娯楽の一種だ。
 だが、今はまだ桜の花は咲いてさえいない。
 しかも、もうそろそろ日が落ち始めた。一番世界がきれいな色で彩られる瞬間だ。

俺の名前は横島忠夫今年で二十六歳になる。今の職業はもちろんバリッバリのGSだ。
 そして、愛する妻と一人娘もいる。
 そんな俺は幸福だと思う。
 でも、でもな、今の状態はどう見ても幸福だとは思わん。

『オオー』
『タスケテくれー』
『痛いイタイヨー』
『俺が死んダリユウを聞いてくれー』
『金ぇ俺のかねぇ』
 
何対もの凶悪な面がまえをする悪霊が俺の方に迫って来る。
「ひぃー」
 この光景は何回見ても怖い。

 俺は咄嗟に文殊を使った。

<浄>

これで何体かは成仏したが、焼け石に水だ。
っと、その前になんで俺がこんな事をしているのかとゆうと、ある依頼が原因だ。それには、いくらかの依頼料とおいしい内容が付け加えられた。
「この依頼を受けて下さったら、一番良い花見場所を提供します」っと、だ。
 
俺は思った。
 一番良い花見場所を妻に提供したら、今回の浮気・・・じゃなく、失敗を許してくれるだろうとね。
 もしかしたら、甘い夜を過ごせるかもわくわく。

「さーて、そろそろ本気で行くか」
 迫って来る悪霊どもを睨みつけた。
「このGS横島が・・・極楽へ逝かせてってぇぇぇ!!」
 一匹の悪霊が体当たりをしてきた。
 それは難なくかわした。が、避ける時に舌を噛んでしまい無傷とはいかなかった。
「最後まで決めゼリフ言わせてくれよ」
 何で、俺の時は言わせてくれんのやー。

 それは似合わないからですよ。

「うるせー!!」
 俺はドコからともなく出てきたツッコミに泣きながら怒鳴った。
「わかっているわい。そんな決めゼリフ俺には・・・俺には、うううぅ」

『コイツ何なんだ?』
『関わラナイ方が懸命じゃネェか?』
『絶対こノ男なんかヤバイ薬やっテるって』

「霊にもむちゃくちゃ言われる俺って・・・」
 
「って、くだらないことはさて置いて・・・いくら倒してもキリが無い。何か、ここに悪霊が住みやすい磁場が有るのか?」
 一応辺りを見回して見たが、悪霊のほかには幾つかの桜の木が何本もあるだけだ。
 後残っている文殊は十個だけ。これで何とか解決しなくちゃな。
 その中の二つ文殊を使った。

<探><索>

一応は<探>だけでも見つかるのだが、二個使ったほうが一個よりも遙かに探すのが速いのだ。
 放り投げた文殊は地面の中に潜った。
「さーて、後は見つかるまで時間稼ぎっと」
 右手に霊力を集中させた。
「栄光(ハンズ・オブ)の(・グロ)手(ーリー)」
霊波刀を作り上げ、悪霊に向かった。

それから、五分位だろうか。一本の桜の木が光った。
「あそこか・・」
 目の前にいる悪霊を切りつけながら向かった。二個ぐらいは<浄>の文殊を使ってしまった。
 まあ、着けたから問題なし。
「一体この木に何が有るんだ?」
 木は立派だ。たぶんたくさん有る桜の木の中で一番立派であろう。

『オオー』
『ソの木にサワルナー』
『チカヅクなー』
『やメロー』
「そこで、黙って見てな」
 
<強><結><界>

 字のごとく強い結界が木の周辺を守ってくれた。
 この程度の悪霊ならこれに触れることすら出来ない。
「何が有るんだこの木に?」
俺は丹念に木を調べてみたが、何も無い。って、ん?
 何だ?ココだけ結界が張られていない。
 そこは木の下だった。
「・・・まあ、掘ってみるか」
 うー。俺は犬じゃねぇんだぞ。こんな事ならシロを連れて来れば良かったー。
 
っとか思いながらも、犬掘りを必死にする横島だった。

「うーワンワン!!っ痛っと、何か有るぞ」
 何か手の先っぽが固い物に当った。
「何じゃこりゃぁ?」
 そして、さらに掘って行くと
「何じゃこりゃあ?」
ヒョイッと俺は土の中から
「・・・頭がい骨?」
・ ・・・・・
・ ・・・・・
・ ・・・・・
「のわー」
俺はビビッて頭がい骨を投げた。
「ヒィー。かんにんしてやー。俺やないんや。俺やないんや」
「おじさん?」
「かんにんやー。かんにんやー」
泣きながら土下座する横島は霊の存在に気付いていない。
「ねぇ、おじさん」
「ん?」
やっと気付いた。
 目の前に居る男の子は五、六歳ぐらいだろう。心配そうに俺を見る。
「おじさん。大丈夫?」
「えっ、っん、ああ・・・・んぐふん」
俺は少し・・・いや、かなり恥ずかしくなり、咳払いをした。
「えーと、君がこの骨の人物なのかい?」
「・・・うん」
「じゃあ、君がこの現象の原因なんだね?」
「・・・・うん」
「何で、こんな事になっているのかをお兄さんに教えて欲しいんだけど・・・いいかな?」
「僕にもこうなったのは良く分からないけど、たぶん僕の生前の霊力のせいだと思う」
「どうゆう意味だい?」
「それは――」
『おっと、待ったぁぁぁ』
一匹の妖怪が大声を出し、木から降ってきた。
「五月蝿い」

<滅>

『ギャァァアアァ。俺様はこレデ終わりカヨォォォォ』

「さーて、うるさいのは居なくなったから話を進めてくれ」
「・・・う、うん。えーとね、僕はさっきまでココに閉じ込められたの」
「さっきまで?」
「さっきおじさんが僕を捕らえていた妖怪をやっつけてくれたよ」
「・・・ああ、木の上に居たから結界に触れずにすんだ雑魚妖怪のことか」
「一応、ココら辺のボスなのに・・・。
 あの妖怪が僕の霊力を栄養源にしてたの。だから、ココら辺の霊を集めて好い気になってたの。
 助けてくれてありがとね、おじさん」
「いや、良いんだが何でココに埋められていたんだ?」
 その言葉に男の子の霊は俯いてしまった。
「あ、いや、言いたくなかったら良いよ」
 いけないことを聞いたかな?
「ううん、聞いてくれるの?」
「あ・・・いいぜ。話してくれよ」
「僕ね、実の母親に殺されたの――」
「ゲッ」
 いきなりの告白に俺はドキッとした。
「僕の家はね貧しくて、お父さんが借金をしてお母さんを置いて逃げたの。それから何日かして、家を出てココに来たの。たぶんココで心中をしようとしたんだろうね。でね、お母さんがいきなり首を絞めたの。それはもう苦しかったよ。泣きながらお母さんを恨んだよ。でもね、首を絞められてる時にね、お母さんが泣きながら言ったの「ゴメンね。ゴメンね。私を恨んでいいから。ゴメンね。私もすぐに行くから」って、それを何回も言うの。
なんかねそれで僕は思ったの。ああ、お母さんも苦しいんだなぁって。
そして、僕は桜の木の下に埋められたの」
「・・・お母さんを恨んでいるかい?」
「ぜんぜん」
 男の子はフルフルと首を横に振った。
「そっか・・・これからどうするんだい?」
「僕を縛っていた鎖が無くなったから成仏をするつもりだよ」
「それが良いんだろうね。じゃ、天国に逝っても元気でな」
「おじさん。話を聞いてくれてありがとね。なんか話をしてすっきりしちゃった」
「そりゃどうも」
「そういえば、おじさんにも子供は居るの?」
「おじさんにもってなんだよ。まあいいや、娘が一人いるよ」
「絶対に幸せにしてあげてね」
「当たり前にするよ」
 男の子の顔は満面の笑顔で埋まった。
「じゃあね」
「ああ、さようなら」

 俺はこの後警察とICPOに連絡をいれ、帰ることにした。俺にはもう何もする事は出来ないのだから。

「ただいまー」
 俺は見慣れた玄関に入り、靴を脱いだ。
「あ、お父さん。お帰りなさーい」
 今年で六歳になる最愛の娘がトテトテと迎えに来てくれた。
「なあ、蛍。まだお母さんは怒ってるのか?」
「うん。少し」
「やれやれ」
 俺は頭を掻きながら、居間に入って行った。
「そういやあ、俺にも出来る事は有ったな」
 そうだな、俺は愛する者達を守るってことがな。
「ん?何か言った。お父さん?」
「いんや、何でも無いよ」
 俺は最愛の妻の後姿を見て言った。
「なあ、今度一緒にみんなで花見に行かないか?もちろん昔の仲間も呼んでさ」
 ピクッと妻の肩が揺れた。
「わぁーい、花見だ。花見だぁ」
 蛍の喜ぶ姿を見て妻はにっこりと笑い頷いた。
 俺は妻の近くまで歩いた。それはもうイツでもキスが出来る距離だ。
 そして、俺は止めとばかりに決めゼリフの言葉を言った。
「愛してるぜ・・・・」

――End――


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