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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter2.HIGHPRIESTESS 『船>>妖精』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 2/11



「あんた達の連携も、大分馴染んできたわね。」


仕事帰りの車内で、運転席から美神がそう声をかけた。

大人数で仕事をこなすようになってから、美神事務所はミニバンを購入していた。

8人乗りの車内で、横島をはじめとした男性陣(ノース含む)は後部座席に座っている。

その後部座席で、刻真は外を眺めていたが、呼びかけられて顔を前に向ける。


「まあ、十件以上も出動してれば、慣れもするさ。」

「ここ最近、ハードだからなぁ。」


横島が言うように、ここ最近の出動率は異常だった。

刻真たちと出会って、まだ四日くらいであるにも関わらず、すでに二桁の仕事をともにこなしている。

どれもアクマ関連の事件であり、それほど強力な奴は現れていないが、なにぶん数が多い。

Gメンや民間GSが協力、総出であたっている状態だ。

ちなみに、Gメンオフィスからは、夜毎「書いても書いても始末書がー!!」という悲痛な叫びが聞こえるらしい。


「私としては嬉しい悲鳴ってとこかしら♪」

「ノース君やシロちゃん、タマモちゃんが頑張ってくれてるお蔭で、お札も精霊石も使ってませんからね。」


仕事は大量に入り、そのくせ出費は少ない。

儲けに儲けが重なって、ここ最近の美神はご機嫌であった。


「俺の文珠や、刻真の…なんだっけ?」

「偉大なる光輝(グラン・グリッター)。」


言うや否や、刻真の右手に光の粒子が収束し、次の瞬間には漆黒の銃が現れる。

基本的な形こそ、一般的なリボルバータイプのハンドガンではあるが、そのサイズは規格外だ。

縦に幅広い銃身は全長50cm以上はあり、腕を下ろせば地面に擦りそうなほど。

グリップもやや手に余るような大きさで、はっきり言って人間に扱えるようなサイズではない。

いくら霊力で作られていて重さがないとは言え、近接戦闘では扱いづらいだろうが、刻真はそれを縦横無尽に操る。

銃身の表面には灰銀色の模様が、回路図のように走り、鈍い輝きを放っていた。


「そう、それも使い減りしないんだよなー…って、狭いんだから出すなよッ!」

「ん…ああ、悪い。」


氷漬けの一件といい、天然か…こいつは…。

横島はひとり、刻真への印象を改めることにした。





          ◆◇◆




事務所に到着し、美神が横島たちに荷降ろしの指示を出していたとき。


『美神オーナー。先ほど、鈴女様がお帰りになられました。』

「鈴女が?」

「美・神・さぁ〜んっ♪」


人工幽霊壱号の報告に美神が聞き返すのと、その弾むような声が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。

振り返った美神の胸元に、きらきらと光る物体が飛び込んでくる。


「あぁ〜ん! 寂しかったわ、マイ・ダーリン♪」

「ダーリンじゃないっつってんでしょー!? つーか、アンタ! 女好きに磨きがかかってない!?」


自分の胸に頬擦りしてくる物体を、美神は力ずくで引っぺがす。

そこには、誰もが御伽噺で夢見る存在、妖精がいた。


「だってぇ、米国なんかじゃ、同性でもオッケーだしぃ。」

「アンタの目的は種の保存でしょーがッ!! そんな非生産的な趣味に走るなーッ!!」


…御伽噺とはかなりかけ離れてるが、一応妖精である。


「鈴女ちゃん。お帰りなさい。」

「おキヌちゃん、ただいま! …なんか、新婚夫婦のやりとりみたーい♪」

「私も女ですッ!!」


はしゃぐ鈴女に、さすがのおキヌも突っ込む。

その光景を蚊帳の外で見ていたシロとタマモが、隣の横島の肩をつつく。


「あのー…先生。このちっこいのは?」

「ん? ああ、悪戯好きのレズ妖精、鈴女っていうんだ。お前ら、知らなかったっけ?」


頷くシロとタマモ。

アシュタロス事件直後から、鈴女は気紛れ性質ゆえの旅に出ていたので、二人が知らないのも無理はない。


「あら、こっちは新顔なのね? 初めまして、鈴女っていうの。ヨロシクね♪」

「あ、こちらこそ、宜しくでござる。」

「…ヨロシク。」


改まった挨拶に、律儀に返すシロと、やや素っ気無いタマモ。


「かっわいいー!! この二人も、鈴女の恋人候補?」

「何でだよ。」


二人の反応がツボだったか、頬を染めて喜ぶ鈴女の脳天に、横島の容赦ない突込みが落とされる。

どうやら、横島との相性は最悪らしい。


「ちょっと! 私は最貴重種特別保護妖獣だって言ったでしょ!? 世界で最後の妖精なのよ!!」

「やかましい! この変態妖精!!」

「ヒホー! お前『ピクシー』ヒホ? オイラも妖精ヒホ! 仲良くするヒホ!」


気付けば、いつの間にか駆け寄っていたノースが、無邪気に鈴女に握手を求めていた。

「妖精〜?」と、あからさまに不審がりながら、ノースの顔を見つめる鈴女。

そして数秒後。


「アンタみたいな間抜けヅラと一緒にしないでよ。」

「ま…ッ!?」


ふいっとそっぽを向く鈴女に、口をぱくぱくとさせるノース。

その大きな丸い黒目が、きっとつり上がる。


「こんなにも愛くるしいオイラをつかまえて、言うに事欠いて間抜けヅラってどういう…!!」

「ま、まあ落ち着け、ノース。」


ジタバタと暴れて冷気をぶっ放そうとするノースを、刻真が何とか宥める。

だが、ふと。

刻真は、鈴女がじっと自分を見つめていることに気付いた。


「な、何…?」

「あなた…女? 男?」


ピシッ、と。

そんな擬音が聞こえてきそうなほど、刻真の表情が引きつる。


「あ。鈴女ちゃんも、そう思った?」

「おキヌ殿もでござるか? 拙者もでござる。」

「私も。最初に会ったときは迷ったわ。」


おキヌやシロ、タマモが口々に言うたび、ぴしぴしっと刻真の方からそんな擬音が聞こえてくる。

一見、女性と見まごうほどの、細くしなやかな体つき。

それに加え、誰がどう見ても間違いなく、女顔だったりする。

実は刻真は、美少年というより、美少女と言われた方がしっくりくる容姿をしていた。

体の局所における曲線や仕種、表情などでかろうじて男だとわかるくらいだ。


「…放っといてくれ。どうせ、女顔だ。」


刻真も、コンプレックスなのだろう、拗ねた様子で答える。


「でも、女装とかさせたら似合いそうよね♪」

「有り得るでござるな!」


などと、シロとタマモが口にした途端。


「やめてくれぇぇぇぇッ!!」


突如、刻真はそう叫ぶと、真っ青な表情で頭を抱えて蹲ってしまった。

どうやら、コンプレックスどころか、何かトラウマがあるらしい。


「…やめてくれ…嫌だ、女装なんて…! ズボンに手をかけないでくれ…ッ!」


何をされたんだろう…。

うわ言のように「女装は嫌だ」と繰り返す刻真の姿に、その場にいた者は一様にそんな疑問を浮かべた。




          ◆◇◆




「ほな、お疲れ様でしたー!」


機材を撤収させるスタッフに、一声かけてから、彼はスタジオを後にした。

とりあえず、これで今週の収録は終わりだ。

週末のスケジュールも、マネージャーに無理を言って空けてもらっている。

今この時から、自分はフリーだ。


「いや〜、待たせたな。ようやっと終わったわ。」


スタジオを出てすぐの喫茶店へと向かい、そこで待ち合わせていた少女に片手を上げる。

少し待ち合わせの時間に遅れてしまったのだが、幸い少女は特に気にした風でもなかった。


「それで…どないする? これから、アイツんとこ行ってみるか?」


まだ昼を少し過ぎたほど。

これから向かっても、遊びに行く時間は充分にある。

ちなみに、相手の都合は確認していないのだが、そんなものを自分たちが気にしたためしはない。

少女も、笑顔で頷く。


「よっしゃ! ほな、早よ行って驚かしたろ!」


まるで小学生の頃に戻ったような、悪戯っ子の表情。

彼はすでに、俳優『近畿剛一』ではない。

彼の悪友…もとい親友の横島忠夫とともに走り回っていた、『宮尾銀一』である。

そんな、銀一少年に苦笑しながら、少女はつと視線を外へと向ける。


「……会いに行くで、横島。」


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