「あんた達の連携も、大分馴染んできたわね。」
仕事帰りの車内で、運転席から美神がそう声をかけた。
大人数で仕事をこなすようになってから、美神事務所はミニバンを購入していた。
8人乗りの車内で、横島をはじめとした男性陣(ノース含む)は後部座席に座っている。
その後部座席で、刻真は外を眺めていたが、呼びかけられて顔を前に向ける。
「まあ、十件以上も出動してれば、慣れもするさ。」
「ここ最近、ハードだからなぁ。」
横島が言うように、ここ最近の出動率は異常だった。
刻真たちと出会って、まだ四日くらいであるにも関わらず、すでに二桁の仕事をともにこなしている。
どれもアクマ関連の事件であり、それほど強力な奴は現れていないが、なにぶん数が多い。
Gメンや民間GSが協力、総出であたっている状態だ。
ちなみに、Gメンオフィスからは、夜毎「書いても書いても始末書がー!!」という悲痛な叫びが聞こえるらしい。
「私としては嬉しい悲鳴ってとこかしら♪」
「ノース君やシロちゃん、タマモちゃんが頑張ってくれてるお蔭で、お札も精霊石も使ってませんからね。」
仕事は大量に入り、そのくせ出費は少ない。
儲けに儲けが重なって、ここ最近の美神はご機嫌であった。
「俺の文珠や、刻真の…なんだっけ?」
「偉大なる光輝(グラン・グリッター)。」
言うや否や、刻真の右手に光の粒子が収束し、次の瞬間には漆黒の銃が現れる。
基本的な形こそ、一般的なリボルバータイプのハンドガンではあるが、そのサイズは規格外だ。
縦に幅広い銃身は全長50cm以上はあり、腕を下ろせば地面に擦りそうなほど。
グリップもやや手に余るような大きさで、はっきり言って人間に扱えるようなサイズではない。
いくら霊力で作られていて重さがないとは言え、近接戦闘では扱いづらいだろうが、刻真はそれを縦横無尽に操る。
銃身の表面には灰銀色の模様が、回路図のように走り、鈍い輝きを放っていた。
「そう、それも使い減りしないんだよなー…って、狭いんだから出すなよッ!」
「ん…ああ、悪い。」
氷漬けの一件といい、天然か…こいつは…。
横島はひとり、刻真への印象を改めることにした。
◆◇◆
事務所に到着し、美神が横島たちに荷降ろしの指示を出していたとき。
『美神オーナー。先ほど、鈴女様がお帰りになられました。』
「鈴女が?」
「美・神・さぁ〜んっ♪」
人工幽霊壱号の報告に美神が聞き返すのと、その弾むような声が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。
振り返った美神の胸元に、きらきらと光る物体が飛び込んでくる。
「あぁ〜ん! 寂しかったわ、マイ・ダーリン♪」
「ダーリンじゃないっつってんでしょー!? つーか、アンタ! 女好きに磨きがかかってない!?」
自分の胸に頬擦りしてくる物体を、美神は力ずくで引っぺがす。
そこには、誰もが御伽噺で夢見る存在、妖精がいた。
「だってぇ、米国なんかじゃ、同性でもオッケーだしぃ。」
「アンタの目的は種の保存でしょーがッ!! そんな非生産的な趣味に走るなーッ!!」
…御伽噺とはかなりかけ離れてるが、一応妖精である。
「鈴女ちゃん。お帰りなさい。」
「おキヌちゃん、ただいま! …なんか、新婚夫婦のやりとりみたーい♪」
「私も女ですッ!!」
はしゃぐ鈴女に、さすがのおキヌも突っ込む。
その光景を蚊帳の外で見ていたシロとタマモが、隣の横島の肩をつつく。
「あのー…先生。このちっこいのは?」
「ん? ああ、悪戯好きのレズ妖精、鈴女っていうんだ。お前ら、知らなかったっけ?」
頷くシロとタマモ。
アシュタロス事件直後から、鈴女は気紛れ性質ゆえの旅に出ていたので、二人が知らないのも無理はない。
「あら、こっちは新顔なのね? 初めまして、鈴女っていうの。ヨロシクね♪」
「あ、こちらこそ、宜しくでござる。」
「…ヨロシク。」
改まった挨拶に、律儀に返すシロと、やや素っ気無いタマモ。
「かっわいいー!! この二人も、鈴女の恋人候補?」
「何でだよ。」
二人の反応がツボだったか、頬を染めて喜ぶ鈴女の脳天に、横島の容赦ない突込みが落とされる。
どうやら、横島との相性は最悪らしい。
「ちょっと! 私は最貴重種特別保護妖獣だって言ったでしょ!? 世界で最後の妖精なのよ!!」
「やかましい! この変態妖精!!」
「ヒホー! お前『ピクシー』ヒホ? オイラも妖精ヒホ! 仲良くするヒホ!」
気付けば、いつの間にか駆け寄っていたノースが、無邪気に鈴女に握手を求めていた。
「妖精〜?」と、あからさまに不審がりながら、ノースの顔を見つめる鈴女。
そして数秒後。
「アンタみたいな間抜けヅラと一緒にしないでよ。」
「ま…ッ!?」
ふいっとそっぽを向く鈴女に、口をぱくぱくとさせるノース。
その大きな丸い黒目が、きっとつり上がる。
「こんなにも愛くるしいオイラをつかまえて、言うに事欠いて間抜けヅラってどういう…!!」
「ま、まあ落ち着け、ノース。」
ジタバタと暴れて冷気をぶっ放そうとするノースを、刻真が何とか宥める。
だが、ふと。
刻真は、鈴女がじっと自分を見つめていることに気付いた。
「な、何…?」
「あなた…女? 男?」
ピシッ、と。
そんな擬音が聞こえてきそうなほど、刻真の表情が引きつる。
「あ。鈴女ちゃんも、そう思った?」
「おキヌ殿もでござるか? 拙者もでござる。」
「私も。最初に会ったときは迷ったわ。」
おキヌやシロ、タマモが口々に言うたび、ぴしぴしっと刻真の方からそんな擬音が聞こえてくる。
一見、女性と見まごうほどの、細くしなやかな体つき。
それに加え、誰がどう見ても間違いなく、女顔だったりする。
実は刻真は、美少年というより、美少女と言われた方がしっくりくる容姿をしていた。
体の局所における曲線や仕種、表情などでかろうじて男だとわかるくらいだ。
「…放っといてくれ。どうせ、女顔だ。」
刻真も、コンプレックスなのだろう、拗ねた様子で答える。
「でも、女装とかさせたら似合いそうよね♪」
「有り得るでござるな!」
などと、シロとタマモが口にした途端。
「やめてくれぇぇぇぇッ!!」
突如、刻真はそう叫ぶと、真っ青な表情で頭を抱えて蹲ってしまった。
どうやら、コンプレックスどころか、何かトラウマがあるらしい。
「…やめてくれ…嫌だ、女装なんて…! ズボンに手をかけないでくれ…ッ!」
何をされたんだろう…。
うわ言のように「女装は嫌だ」と繰り返す刻真の姿に、その場にいた者は一様にそんな疑問を浮かべた。
◆◇◆
「ほな、お疲れ様でしたー!」
機材を撤収させるスタッフに、一声かけてから、彼はスタジオを後にした。
とりあえず、これで今週の収録は終わりだ。
週末のスケジュールも、マネージャーに無理を言って空けてもらっている。
今この時から、自分はフリーだ。
「いや〜、待たせたな。ようやっと終わったわ。」
スタジオを出てすぐの喫茶店へと向かい、そこで待ち合わせていた少女に片手を上げる。
少し待ち合わせの時間に遅れてしまったのだが、幸い少女は特に気にした風でもなかった。
「それで…どないする? これから、アイツんとこ行ってみるか?」
まだ昼を少し過ぎたほど。
これから向かっても、遊びに行く時間は充分にある。
ちなみに、相手の都合は確認していないのだが、そんなものを自分たちが気にしたためしはない。
少女も、笑顔で頷く。
「よっしゃ! ほな、早よ行って驚かしたろ!」
まるで小学生の頃に戻ったような、悪戯っ子の表情。
彼はすでに、俳優『近畿剛一』ではない。
彼の悪友…もとい親友の横島忠夫とともに走り回っていた、『宮尾銀一』である。
そんな、銀一少年に苦笑しながら、少女はつと視線を外へと向ける。
「……会いに行くで、横島。」
あとがきってのを頼まれたんだけど、よろしくね。
刻真ってね、本当に女の子みたいなんだよ!
手とかもすっごい細くてキレイだし、もっちろん、顔立ちも可っ愛いのーw
後は言葉遣いをなんとかすれば、女の子としても通じるのに…。
そういえば、作者が言ってたんだけど、最後に出てきた銀一くんの苗字。
あれって、原作になかったから作者が勝手に決めたんだって。
『横島』→『邪』の法則(?)で、『宮尾』→『雅』ってことで。
安直よねー。
そうそう。ノースがぽろっと言ったアクマについて説明するね。
妖精『ピクシー』っていうのは代表的な妖精のこと。
ダンス好きで、夜に虫たちの音楽で踊り、『妖精の輪』を残すの。
私も踊りが好きなんだけど…ひとりで踊ってたからなー…。
ま、それはそれとして、女神転生の代表的なアクマでもあるらしいわよ。
デザインはレオタード姿の鈴女を想像してね♪
それじゃ、この辺で。まったねー♪ (詠夢)
今回も楽しませていただきました。
まずは刻真のキャラの土台作りってところですかね。
頭の中に彼のキャラができてきました。
女顔で女装にトラウマを持ってるらしいですしこの設定が後々にどう響くかな?
あとなにげに鈴女が出てきましたね彼女が出てくるとは思いませんでした。
いい意味で驚かせられました。
彼女は言いたいことをはっきり言いますからいろいろ面白くなりそうです。
まだまだ役者が出揃ってないようですし次の更新も期待してまってます。
それではまた。 (夜叉姫)
大丈夫なのかー? (MAGIふぁ)
とりあえず、刻真のキャラの外見だけでもと思ったのですが、なぜかトラウマまで(笑
この設定に関しては、『繋がり』とだけ言っときます。
鈴女に関しては、ノースに次ぐマスコットとして書いていくつもりです。
組み合わせとしては、『横島&ノース』『刻真&鈴女』みたいな。
GSキャラと、そうでない側の組み合わせで、GS色を強めています。
もちろん鈴女でなければ出来ない役どころもあるのですが。
…ちなみに、刻真のトラウマですが、幼い頃よってたかって知り合いのお姉さま方に女装させられたというものです。
MAGIふぁ 様:
さすがに「メギドラオーン!」なんて出来ませんからね(笑
ジオ…くらいなら?
まあ、鈴女は鈴女で透明になれたり、ご飯を三粒食べれたり、一分間だけ大きくなれたり(笑
あとは、精霊の力を借りたりとか出来ますしね。
その辺を使って、いろいろやらせてみたいです。 (詠夢)
しかしいい味が出ています。 (k.ta)