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GS美神 アルカナ大作戦!! 〜Endless Expiation〜

Chapter1.MAGICIAN 『事件>>遭遇』


投稿者名:詠夢
投稿日時:05/ 1/18



慎重に辺りを窺いながら、横島はビル内を進んでいく。

横島の足音以外は物音一つせず、辺りは静まり返り、薄暗い。

いつ、どこから、何が襲ってきてもおかしくない雰囲気だ。

この仕事、気を抜けば死ぬ。

何度も美神に叩き込まれた言葉だった。

すっかり石橋を叩いて渡る癖のついた横島は、全身の神経を研ぎ澄ます。

横島は慎重だった。


「ああああっ、怖いッ! ホラーな雰囲気は苦手だと言っとろーが!」


…ただ臆病なだけ、とも言う。

もっとも、臆病なやつほど生き延びるとも言われているが。

だが、プロのGSとしては情けない姿である。



          ◆◇◆



さほど広くない五階建てのビルのうち、四階までを回り終えて、ふと横島が首を捻る。


「…妙だな? 何も出てこない…。」


しかし、肌を刺すようなプレッシャーは、依然変わらずある。

だとすれば。


「こっから先が本番、ってことかぁ〜…。」


五階へと続く階段を見上げながら、げんなりと横島はぼやく。

実際、異様な気配が上階から漂ってきている。


「行くっきゃ…ねぇよなぁ。」


ふいに空気を切り裂くような音がして、横島の手元から光が生まれる。

見る間に横島の腕と同化していく光の粒子は、やがて収束し実体化する。

まず現れたのは、拳から肘までを覆う篭手。

その手首から先が輝いたかと思うと、白刃が煌く霊気の刃が出現する。

以前より洗練され、より実体化した霊波刀《栄光の手》を、油断なく構える横島。

手甲部から伸びるカタールのような両刃の刀身が、主の緊張に応えるように低く唸る。

ここからは、何が起きるか分からない。

表情を引き締めて、横島は階段を登っていった。





          ◆◇◆




いる。

間違いなく、何かがいる。

それもいっぱい。

ちょっと表情を引きつらせながら、横島は通路の途中で動けなくなっていた。

先ほどから、そこここで何かが蠢いている気配がする。


「さっさと出て来い! 片っ端から斬り捨ててやる!!」


へっぴり腰でなかったら、格好良い台詞だったのだろうが。

少しは強くなったはずなのだが、どうもこういう情けないところは変わらない。

心の中で横島が小さく嘆いたとき、気配が動いた。

さっと身構える横島の視界に映ったのは。

子猫ほどの大きさの、角を持つ甲殻に覆われた蛇としか言い様のないもの。

それが、わらわらわらわらと、十数匹。

鎌首を持ち上げて、横島を取り囲んで睨み付けている。


「ギィーッ!!」

「ひっ!?」


一匹が赤い目を見開き、奇声を上げたかと思うやいなや。

信じられない速度で、横島めがけて飛び掛った。

ぎゅんと回転しながら迫るそれを、横島は間一髪でかわす。

そのまま後方の壁に、ざっくりと刺さる。

ブレード状の角が、ぎらりと輝いた。

それを皮切りに、他の連中も一斉に横島へと踊りかかった。


「う、うわぁぁぁぁッ!!」


横島は必死で霊波刀を振るう。

弾き、斬り捨て、転がるようにして走り出す。


「じょ、冗談じゃねぇ!! 数が多すぎるし、危なすぎるわー!!」


ここは戦略的撤退と、一目散に通路を駆ける横島の後を、蛇たちが追撃する。

右に左にジグザグに走り、狙いを絞らせないようにして逃げる横島。

壁に、床に、蛇たちのブレードが傷をつけ、また突き立つ。

逃げる。

突き立つ。

逃げる。

突き立つ。

逃げる……。













数分後。


「…まあ、こうなるよなぁ。」


やや呆れたような表情で、横島はその惨状を見ていた。

十メートルほどの通路の壁や床に、蛇たちが角を突き立てたまま身動きできずにいた。

必死に抜こうとジタバタしているのだが、それを黙って待つほど横島はお人好しではない。

ざっくざっくと、霊波刀を振るってとどめを刺していく。


「ギィィイィィーッ!!」


息絶えた蛇は、塵となって消えていった。


「さて、この調子で全部片付けてしまうか。」


建物内に充満する異様な気配は、まだ消えていない。

なんとなく余裕の出てきた横島は、何気なく通路を曲がって……。

…見た。






警備員が立っていた。

だが、立っているのは下半身だけで、その上半身は地面に落ちている。

その傷口に、はみだした臓物に群がるように、さきほどの生き物が群がっていた。

ぐちゃぐちゃと咀嚼する音が聞こえる。

それは食事だった。

蛇たちは、横島にも気付かず一心不乱に貪っている。

横島の彷徨っていた視線が、ふと警備員の死に顔に定まる。

その顔には恐怖と苦痛が刻まれ、そしてそれは、己の肉片を浴びて血に染まっていた。

恐らく、生きたまま喰われ、途中で息絶えたのだろう。

そこまで考えて、横島の感情が一気に沸騰した。


「…お前らぁぁぁぁッ!!」


叫ぶとともに飛び出す。

蛇どももようやく気付いて振り返るが、その前に横島の右腕が一閃する。

反撃する間もなく倒され霧散する蛇どもを睨みつけながら、横島は歯噛みした。

自分がもう少し早く来ていたなら…。

見れば、損傷が激しく判別し辛いが、女性のものらしき死体もあった。

すでに人の形は留めておらず、腕や服装の切れ端の残る『一部』からわかるだけである。


「くそッ…畜生ッ!!」


横島の中に、抑えようのない苛立ちが生まれる。

今日は完全に人払いをするよう伝えてあったのだが、そんなことはどうでもよかった。

彼らがここに来て、今こうして無残な姿に成り果てた事実は変わらない。

自分の落ち度を呪いながら、横島は静かに黙祷を捧げた。








その背後に、気配が生まれる。

はっとして振り向いた横島の目の前で、それは高らかな咆哮をあげた。


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