煩悩っていうか欲望ってのはさ、つまるところ何かをしようとする気持ちなんだよな。
静から動へと、何かを為す、動き出すための原動力。
それは善悪とかじゃなく、生きている以上は誰もが持つものなわけで。
ようは神様も、悪魔も、妖怪だって、生きている以上は例外はなく。
*
「…なるほどな。」
これまでの騒ぎを黙って見つめていたワルキューレがポツリと呟く。
その目がギラリと妖しげに輝いた。
「なら私はジークを─!」
「No,Sir。」
間髪いれずに拒否の言葉を吐いたのは、後ろに立つ当のジークであった。
ぎろりと睨み付ける姉の視線にも涼しい顔である。
今日という日を生き残った彼も、また成長していたのだ。
「軍人としてではなく、姉の幸せのために尽くす気持ちがないのか、お前には!!」
「なら尚のこと、弟として絶対に拒否します!!」
…おそらく今回の男性陣の中で、唯一真正面から女性キャラに立ち向かった人物ではなかろうか。
そんな強くなった弟を喜ぶ…ことはなく、ぎりぎりと睨んでいたワルキューレだが、ふと肩から力を抜く。
「…なら─。」
「軍の備品を勝手に持ち出すことは、軍仕官として阻止させていただきます。」
…本当に強くなったものだ。
先手を打たれ、さらにワルキューレの機嫌が急降下する。
が、俯いたその口元が、きゅうっと吊り上る。
「……軍の備品でなければどうだ?」
「へ?」
「美神!! 私はグラムを賭けるぞ!!」
「な!? だ、駄目です!! それは、それだけはやめて下さい!!」
思いがけない姉の台詞に、ジークはメッキが剥がれたように狼狽する。
しかし、すでに美神の聴覚は、それを聞きとめていた。
「グラムって、北欧神話の聖剣グラム? 邪竜ファブニールを討ち取った竜殺しの剣?」
「そうだ。我が一族の家宝だ。どうだ? 欲しくはないか?」
文字通り悪魔の囁きを口にするワルキューレに、妖しく笑う美神の表情に、ジークは焦った。
途端、親に縋る子供のように情けない顔で、涙ながらに訴える。
「お願いですから、それだけはやめて下さい!! バルムンクは僕の親友なんですよ!?」
子供のころ、気弱な自分を叱咤激励し続けてくれた喋る剣。
バルムンクは、そんな剣に彼が送った名である。
「だが、まだあれを継承してないだろう? なら、あれは我が一族全てのモノ。ひいては私のモノだ!」
「そんな、ジャイアニズムな意見、認められませんよ!! だいたい姉上は小さい頃から…!!」
魔族の姉弟喧嘩は、凄まじい舌戦へと突入し、しばらく終わりそうになかった。
*
勝てる。
そう彼女は確信していた。
今まで何度も、同じ手で美神という女性を動かしてきたのだ。
幸い、貯えはそれこそ山のようにある。
彼女は─小竜姫は微笑っていた。
「美神さん! 私は大判を五千両…!!」
「勝利を確信するには、まだ早いのねー。」
突如かけられた言葉に、ぎっと後ろを睨むように振り替えれば、不適に笑うヒャクメが立っていた。
「美神さーん!! もし、私に譲ってくれるなら、金脈の一つや二つ、いくらでもリークしてあげるのねー!!」
「マジっ!? ダイヤも!? 石油も!? 希少鉱物も!?」
地下資源はまさに金を生む。
うまく動かせば、世界経済をまるごと牛耳れるだろう。
美神の目の色が変わるのも、当然といえば当然といえた。
「ふふん。私の力を使えば、この程度どってことないのねー。たかが大判小判の山ごとき…目じゃないのねー。」
「ぐぎぎ…っ!!」
悔しそうに歯噛みする小竜姫の目には、涙さえ滲んでいた。
勝てる。
ヒャクメは、そう確信した。
「…ほう。面白いことを話しとるのう…ヒャクメ。」
その確信は、背後から聞こえてきた声に、あっけなく崩壊した。
錆付いた動きで振り向くと、笑みを浮かべた、それでも目だけは笑っていない斉天大聖老師がいた。
「あ、いや…その…!」
「妙じゃのう? お主の能力は、得た情報による人界の混乱が予想される場合、その使用を禁じられとるはずじゃが?」
しどろもどろなヒャクメに、老師のにこやかな表情がずいと迫る。
「そんな情報をリークしたら、人界はどれほど混乱するかのう?」
「え、えーと…。」
「それも、お主の私利私欲のためとわかったら、天界はどんな判断を下すかのう?」
「ひ、ひいぃぃぃっ!?」
遠まわしな死刑宣告に、ヒャクメは悲鳴を上げる。
それを見て、天は我に味方した、とばかりに小さくガッツポーズをとる小竜姫だったが、ふいに老師と目が合う。
「へ…あ、あの、何か…?」
「ときに近頃、天界から預かった妙神山の運営資金の一部が消えとるのだが…これに対する弁明を聞かせてくれんか?」
直後、小竜姫の喉から悲鳴が迸った。
*
「まったく、少しは頭を使って欲しいでちゅ。」
パピリオは剣呑な笑顔を浮かべながら、ぽつりとこぼした。
すでに上空には眷属の蝶たちが待機している。
目標はすでに捕捉、戦闘準備は万全だ。
「獲物が目の前にあるのに、なんで大人しく従う必要があるでちゅか? 欲しけりゃ奪えばいいでちゅ。」
頭…というか、思いっきり力技なのだが、本人にとってはさしたる問題ではない。
すっと手を掲げ、攻撃の合図を出そうと、いざ振り下ろす…ことは出来なかった。
「…本っ気でいい加減にしなよ、パピリオ。」
「べスパちゃん! また邪魔するでちゅか!?」
がっしりと自分の腕を掴む姉を、パピリオは憎悪さえこもった眼差しで睨む。
だが、ガンの飛ばし合いでこの姉に勝てるはずもなく、すぐに目を逸らして、せめてもの抵抗に必死に暴れる。
「離すでちゅ! なんで邪魔ばっかりするでちゅか!?」
「あんたが無茶苦茶をやらかそうとするからだろ!! ちょっとは考えて動きなっ!」
ぎゃーぎゃーと言い争う二人だったが、元々パピリオの方が悪いのだから勝ち目はない。
すぐに言い負かされて、悔しげに唸って負け惜しみを吐く。
「う〜…べスパちゃん、本当に口喧しくなったでちゅ! 世話焼きババァみたいでちゅよ、このクソババァ!!」
次の瞬間、大砲のような音と衝撃が、パピリオの小柄な体を貫いた。
べスパの渾身のボディブローを喰らい、「ぅきゅ!?」と奇妙な声をあげ、あっけなく沈黙するパピリオ。
ぴくぴくと痙攣してるところから、一応生きてはいるようだ。
そんなパピリオを痛ましげに見下ろしながらべスパは呟く。
「パピリオ…あんたは言っちゃいけない事を二度も言った。あんたは、アタシを怒らせたんだ…。」
自分でやっておきながら哀しそうに首を振るべスパ。
やがて、目を閉じて頭上を仰いだ。
「…これでよかったのかい? 姉さん…。」
べスパの瞼の裏に、「グッジョブ!」といい笑顔で親指を立てるルシオラの姿が浮かんだ。
*
それは考えた。
自分に出来ることは何かと考えた。
それは周囲の者たちと違い、富を得る、または与える手段を持っていなかった。
だから、それは自分に出来ることを必死に考えていた。
一介の机である自分は、何が出来るだろうと。
「…止むを得ないの? …くっ!」
それは─愛子は散々考えた挙句、思いついてしまった。
自分に出来て、美神の益になること。
しかし、そのアイデアは、彼女の生真面目な性格とは背反するものだ。
だが…それしかない!
「私なら…私なら、美神さんの裏帳簿を永遠に人の目から隠していられるわ!!」
「あ、愛子ちゃん!?」
そう、自分が飲み込み、保管すれば。
しかし、それは自らが四次元ポ●ット…もとい金庫、すなわちただの道具に成り下がるということを意味する。
視界の端で、美知恵さんや西条さんたちも抗議している。
あの人たちの立場を考えれば、それも当然…私だってそんなことはしたくない。
だけど…それで、それで彼が手に入るのなら!!
全てを投げ打つ覚悟は出来た!
「嗚呼ァ〜っ、青春だわっっ!!」
どういう思考回路で、その台詞が出てくる!?
自身の体を抱きしめて身悶えながら叫ぶ愛子を見て、周囲の人間は心で叫んだ。
*
「だ…大丈夫ですか…、カオスさん…?」
荒い息の下で、ピートは隣へと顔を向ける。
カオスは、ピートに肩を貸してもらいながら、ようようといった様子で答える。
「まあな…つつつッ。…寄る年波には勝てんわい。」
その後ろからは、杖をつきつつ厄珍がついて来ていた。
「まったく…ろくな治療もなしで、何が救護班アルか…!」
包帯まみれのカオスと、顔面蒼白のピートに比べ、見た限り無傷の厄珍がそれを言っても説得力はない。
クライマックスが近いと悟った三人は、今は協力して会場に向かうことにしていた。
「まだ諦めた訳じゃないネ。ククク…!」
「…懲りないですね…っと、着きましたよ。」
意気揚々とまでは行かないが、とにかく会場へと足を踏み入れる。
「さて…マリアは頑張っとるかいの…?」
「せ…先生は?」
ふらふらと亡者のような足取りで、三人は散っていった。
*
次回の伏線が出たところで、今回はここまでだ。
それにしても、神も悪魔もこれじゃあな…こんなんで世界は大丈夫なのか?
…ハルマゲドンは近いな、うん。
まあ、その前に俺は破滅すると思うね、うん。
………いつまで俺はまな板の鯉でいればいいのでせう?
私のパソコンが逝かれてしまったため、ここ最近投稿できませんでした(泣)
今も、出先のパソコンからの投稿です。
早く直らないかなぁ…(涙)
さて、ジーク大奮闘(?)です。
バルムンクは、実際、神話の英雄ジークフリートが自らの剣につけていた名前だそうで。
ワルキューレがどんどん暴れん坊に…つか、ガキ大将?
ヒャクメおよび小竜姫、あえなく撃沈。
老師の存在を忘れていたことが敗因でしょうか。
というより、使い込みはまずいだろう、小竜姫。
愛子、暴走。
彼女の青春熱はとどまるところを知りません。
愛する人のためならば、たとえ泥を被っても…ってとこが青春らしい。
次回は、伏線に登場した三人をメインでお送りします。
では。 (詠夢)
べスパたちの分を忘れてました。
べスパ、容赦なしです。
ルシオラが最後に出てきたのはなぜでしょうか?
1.パピリオの発言にルシオラも起こっていたから
2.仲間外れはよくないとの作者の意見から
3.べスパの妄想
さあ、どれでしょう。 (詠夢)
やっぱこれ、かなぁ?
初めまして氷狼という者です。
とても楽しく読ませていただきました。
神・魔族がこんなんだと本当にハルマゲドンが起こりそうですね。
まぁ、その前に横島が逝ってしまいそうですが(笑
次回も頑張ってください。 (氷狼)
このままいくと誰になるか見当がつきません
続きを楽しみに待ってます。
ちなみに
2.仲間外れはよくないとの作者の意見から
ですかね、彼女たちは三人一組ですから (ミネルヴァ)
三択は1番。
私『まで』ババァ呼ばわりするのかとプッツンしたんでしょう、彼女もw
にしてもこの内容が後世に神話として伝わったらどーなるんでしょうねぇ・・・w (スレイヤー)
今日、最初から一気に読ませていただきました。
愛子ちゃんの葛藤がいいですね。ロキ様もいい味出してますし。最近出てきませんが…
で、私も1番で。
パピリオは少し暴走しすぎなんで。
では、次回楽しみにしています。 (ヒロ)
とても楽しませてもらいました。
にしても回をおうごとに皆壊れていきますね〜〜〜(一部を除いて)
最後に出てきた三人の次回の扱いが気になりますw
選択は3番ですかね?
自分的には。
では、次回も楽しみにしています。 (天皿)
ルシオラがいないと寂しいですからねぇ・・・・w
しかし、横島の為ならあらゆる手段を惜しまない皆の熱意に頭が下がります。
リタイアしていた三人もなにやら執念で復活してくれそうで・・・終わりが近いって言うのに先が見えないです。
続きが楽しみですね。 (純米酒)
ますね。暴走も甚だしいですがw
復活組もあるようですし、次回が楽しみです。 (R/Y)
単にべスパがノリがよくなったようにも見えましたが・・・
ついでに言うと、最初は「4.宇宙意思と書いてお約束と読む」だと思ってました
相変わらずおもしろい話でした。
今回は上役が突っ込みをいれるような展開でしたね
欲を言えば、愛子は違うようでしたので、そこにも誰かほしかったです
後、疑問
妙神山の運営資金って・・・
持っているのが現代通貨ならともかく小判なのですから、普通に宝物・財宝などでも良かったと思うのですが?
続き楽しみにしてます。
追記
前回分のコメントで言ってたジーク=担保が、やはり出てきて少し嬉しい。
ジークが逆らうのは予想外でしたが・・・ (アル)
ちなみに今回の「ルシオラの幻の問い」に正答はありません。
好きに解釈してやって下さい。
では、いつもの如く、感謝の言葉と…謝罪(という名の言い訳)。
氷狼さま:
はじめまして!
毎回こんな調子で書かせていただいてます。
もう、ハルマゲドンは遠くないと思いますよ?
おそらく近日中には…(笑
次回も必死こいて、がんばらせていただきます。
回答は3…べスパも道連れが欲しかったといったところでしょうか(笑
ミネルヴァさま:
本当にお待たせしました。
クライマックスに入ってからが…長いですよね、すみません(泣
こーなったら、とっとと決着をつけさせてやる!!
…と言っても手は抜きませんよ?
回答2…やっぱりそーですよね。姉妹は仲良く♪
スレイヤーさま:
ほんと、しょーもないことで彼らの世界は滅びるんじゃないでしょーか。
終末神話として残るのでは…史上最低の世界の終わりとか(闇笑
三択は1を選択。私も個人的には1がオススメ。
草葉の陰でプリプリ怒る(ミニ)ルシオラ…かっ、可愛い…!
ヒロさま:
はじめまして…って一気読みですか!
結構、量があるから大変だったでしょうに…有難うございます!!
ロキ様はもー、皆の勢いに飲まれちゃってますね。っていうか、引いてるかもしんないです。
選択は1で…パピリオの暴走については作者でも持て余してます。
べスパにまだまだ苦労してもらいそう(笑
天皿さま:
はじめまして。楽しんでいただければ何よりです。
きっと皆、狩り(否。鬼ごっこ)の興奮のせいで妙なテンションになってるんでしょう。
一番壊れてるのは、作者です。
回答は3番!べスパの壊れ度は幻覚レベルにUP!
純米酒さま:
ほんとにもう、その熱意を他のエネルギーにまわせんのでしょうか…。
あれじゃ、横島のことを言えませんて…。
最後の最後まで引っ張りたいので先は見せません♪(勿体ぶってるとも言う)
回答は2ですか。…仲良きことは美しきかな!!(…仲良いか…?)
R/Yさま:
久々です!お久しぶりです!!
やるからには徹底的に、って感じですね。方法の善悪はともかく。
次回は敗者復活戦をやってみようかなぁ、と思っとります。
アルさま:
ありがとうございます。
ブレーキ役がいないと、神・魔は歯止めが利きそうになかったですから仕方ないかも…。
愛子については…私もちょっと物足りない感じが。
というわけで、次回にも愛子は出張ります。(急遽決定)
宝物・財宝を運営資金として持たせたって感じですかね。
「これ後で換金して使えや。」みたいな。
…えらく人間くさい神界設定が出来てしまった…。
ジークに関しては、前回「男性キャラがあまりに哀れ」との意見をもらったため。
結局、ヘタレましたが。(駄目じゃん!!)
三択は3…4?
ああっ!!その手もあったか!! (詠夢)
でも、このオークションで、疑問に思ったことがあり、訊こうと思いつつも、実はそれがオチかもしれないと、躊躇しています。
(だって、捕まった時間が・・・) (とろもろ)