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横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

煩悩に満ちた世界!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/12/ 6


煩悩っていうか欲望ってのはさ、つまるところ何かをしようとする気持ちなんだよな。

静から動へと、何かを為す、動き出すための原動力。

それは善悪とかじゃなく、生きている以上は誰もが持つものなわけで。

ようは神様も、悪魔も、妖怪だって、生きている以上は例外はなく。


          *


「…なるほどな。」


これまでの騒ぎを黙って見つめていたワルキューレがポツリと呟く。

その目がギラリと妖しげに輝いた。


「なら私はジークを─!」

「No,Sir。」


間髪いれずに拒否の言葉を吐いたのは、後ろに立つ当のジークであった。

ぎろりと睨み付ける姉の視線にも涼しい顔である。

今日という日を生き残った彼も、また成長していたのだ。


「軍人としてではなく、姉の幸せのために尽くす気持ちがないのか、お前には!!」

「なら尚のこと、弟として絶対に拒否します!!」


…おそらく今回の男性陣の中で、唯一真正面から女性キャラに立ち向かった人物ではなかろうか。

そんな強くなった弟を喜ぶ…ことはなく、ぎりぎりと睨んでいたワルキューレだが、ふと肩から力を抜く。


「…なら─。」

「軍の備品を勝手に持ち出すことは、軍仕官として阻止させていただきます。」


…本当に強くなったものだ。

先手を打たれ、さらにワルキューレの機嫌が急降下する。

が、俯いたその口元が、きゅうっと吊り上る。


「……軍の備品でなければどうだ?」

「へ?」

「美神!! 私はグラムを賭けるぞ!!」

「な!? だ、駄目です!! それは、それだけはやめて下さい!!」


思いがけない姉の台詞に、ジークはメッキが剥がれたように狼狽する。

しかし、すでに美神の聴覚は、それを聞きとめていた。


「グラムって、北欧神話の聖剣グラム? 邪竜ファブニールを討ち取った竜殺しの剣?」

「そうだ。我が一族の家宝だ。どうだ? 欲しくはないか?」


文字通り悪魔の囁きを口にするワルキューレに、妖しく笑う美神の表情に、ジークは焦った。

途端、親に縋る子供のように情けない顔で、涙ながらに訴える。


「お願いですから、それだけはやめて下さい!! バルムンクは僕の親友なんですよ!?」


子供のころ、気弱な自分を叱咤激励し続けてくれた喋る剣。

バルムンクは、そんな剣に彼が送った名である。


「だが、まだあれを継承してないだろう? なら、あれは我が一族全てのモノ。ひいては私のモノだ!」

「そんな、ジャイアニズムな意見、認められませんよ!! だいたい姉上は小さい頃から…!!」


魔族の姉弟喧嘩は、凄まじい舌戦へと突入し、しばらく終わりそうになかった。



          *


勝てる。

そう彼女は確信していた。

今まで何度も、同じ手で美神という女性を動かしてきたのだ。

幸い、貯えはそれこそ山のようにある。

彼女は─小竜姫は微笑っていた。


「美神さん! 私は大判を五千両…!!」

「勝利を確信するには、まだ早いのねー。」


突如かけられた言葉に、ぎっと後ろを睨むように振り替えれば、不適に笑うヒャクメが立っていた。


「美神さーん!! もし、私に譲ってくれるなら、金脈の一つや二つ、いくらでもリークしてあげるのねー!!」

「マジっ!? ダイヤも!? 石油も!? 希少鉱物も!?」


地下資源はまさに金を生む。

うまく動かせば、世界経済をまるごと牛耳れるだろう。

美神の目の色が変わるのも、当然といえば当然といえた。


「ふふん。私の力を使えば、この程度どってことないのねー。たかが大判小判の山ごとき…目じゃないのねー。」

「ぐぎぎ…っ!!」


悔しそうに歯噛みする小竜姫の目には、涙さえ滲んでいた。

勝てる。

ヒャクメは、そう確信した。


「…ほう。面白いことを話しとるのう…ヒャクメ。」


その確信は、背後から聞こえてきた声に、あっけなく崩壊した。

錆付いた動きで振り向くと、笑みを浮かべた、それでも目だけは笑っていない斉天大聖老師がいた。


「あ、いや…その…!」

「妙じゃのう? お主の能力は、得た情報による人界の混乱が予想される場合、その使用を禁じられとるはずじゃが?」


しどろもどろなヒャクメに、老師のにこやかな表情がずいと迫る。


「そんな情報をリークしたら、人界はどれほど混乱するかのう?」

「え、えーと…。」

「それも、お主の私利私欲のためとわかったら、天界はどんな判断を下すかのう?」

「ひ、ひいぃぃぃっ!?」


遠まわしな死刑宣告に、ヒャクメは悲鳴を上げる。

それを見て、天は我に味方した、とばかりに小さくガッツポーズをとる小竜姫だったが、ふいに老師と目が合う。


「へ…あ、あの、何か…?」

「ときに近頃、天界から預かった妙神山の運営資金の一部が消えとるのだが…これに対する弁明を聞かせてくれんか?」


直後、小竜姫の喉から悲鳴が迸った。



          *



「まったく、少しは頭を使って欲しいでちゅ。」


パピリオは剣呑な笑顔を浮かべながら、ぽつりとこぼした。

すでに上空には眷属の蝶たちが待機している。

目標はすでに捕捉、戦闘準備は万全だ。


「獲物が目の前にあるのに、なんで大人しく従う必要があるでちゅか? 欲しけりゃ奪えばいいでちゅ。」


頭…というか、思いっきり力技なのだが、本人にとってはさしたる問題ではない。

すっと手を掲げ、攻撃の合図を出そうと、いざ振り下ろす…ことは出来なかった。


「…本っ気でいい加減にしなよ、パピリオ。」

「べスパちゃん! また邪魔するでちゅか!?」


がっしりと自分の腕を掴む姉を、パピリオは憎悪さえこもった眼差しで睨む。

だが、ガンの飛ばし合いでこの姉に勝てるはずもなく、すぐに目を逸らして、せめてもの抵抗に必死に暴れる。


「離すでちゅ! なんで邪魔ばっかりするでちゅか!?」

「あんたが無茶苦茶をやらかそうとするからだろ!! ちょっとは考えて動きなっ!」


ぎゃーぎゃーと言い争う二人だったが、元々パピリオの方が悪いのだから勝ち目はない。

すぐに言い負かされて、悔しげに唸って負け惜しみを吐く。


「う〜…べスパちゃん、本当に口喧しくなったでちゅ! 世話焼きババァみたいでちゅよ、このクソババァ!!」


次の瞬間、大砲のような音と衝撃が、パピリオの小柄な体を貫いた。

べスパの渾身のボディブローを喰らい、「ぅきゅ!?」と奇妙な声をあげ、あっけなく沈黙するパピリオ。

ぴくぴくと痙攣してるところから、一応生きてはいるようだ。

そんなパピリオを痛ましげに見下ろしながらべスパは呟く。


「パピリオ…あんたは言っちゃいけない事を二度も言った。あんたは、アタシを怒らせたんだ…。」


自分でやっておきながら哀しそうに首を振るべスパ。

やがて、目を閉じて頭上を仰いだ。


「…これでよかったのかい? 姉さん…。」


べスパの瞼の裏に、「グッジョブ!」といい笑顔で親指を立てるルシオラの姿が浮かんだ。



          *



それは考えた。

自分に出来ることは何かと考えた。

それは周囲の者たちと違い、富を得る、または与える手段を持っていなかった。

だから、それは自分に出来ることを必死に考えていた。

一介の机である自分は、何が出来るだろうと。


「…止むを得ないの? …くっ!」


それは─愛子は散々考えた挙句、思いついてしまった。

自分に出来て、美神の益になること。

しかし、そのアイデアは、彼女の生真面目な性格とは背反するものだ。

だが…それしかない!


「私なら…私なら、美神さんの裏帳簿を永遠に人の目から隠していられるわ!!」

「あ、愛子ちゃん!?」


そう、自分が飲み込み、保管すれば。

しかし、それは自らが四次元ポ●ット…もとい金庫、すなわちただの道具に成り下がるということを意味する。

視界の端で、美知恵さんや西条さんたちも抗議している。

あの人たちの立場を考えれば、それも当然…私だってそんなことはしたくない。

だけど…それで、それで彼が手に入るのなら!!

全てを投げ打つ覚悟は出来た!


「嗚呼ァ〜っ、青春だわっっ!!」


どういう思考回路で、その台詞が出てくる!?

自身の体を抱きしめて身悶えながら叫ぶ愛子を見て、周囲の人間は心で叫んだ。



          *



「だ…大丈夫ですか…、カオスさん…?」


荒い息の下で、ピートは隣へと顔を向ける。

カオスは、ピートに肩を貸してもらいながら、ようようといった様子で答える。


「まあな…つつつッ。…寄る年波には勝てんわい。」


その後ろからは、杖をつきつつ厄珍がついて来ていた。


「まったく…ろくな治療もなしで、何が救護班アルか…!」


包帯まみれのカオスと、顔面蒼白のピートに比べ、見た限り無傷の厄珍がそれを言っても説得力はない。

クライマックスが近いと悟った三人は、今は協力して会場に向かうことにしていた。


「まだ諦めた訳じゃないネ。ククク…!」

「…懲りないですね…っと、着きましたよ。」


意気揚々とまでは行かないが、とにかく会場へと足を踏み入れる。


「さて…マリアは頑張っとるかいの…?」

「せ…先生は?」


ふらふらと亡者のような足取りで、三人は散っていった。



          *



次回の伏線が出たところで、今回はここまでだ。

それにしても、神も悪魔もこれじゃあな…こんなんで世界は大丈夫なのか?

…ハルマゲドンは近いな、うん。

まあ、その前に俺は破滅すると思うね、うん。

………いつまで俺はまな板の鯉でいればいいのでせう?


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