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GSルーキー極楽大作戦

幼馴染は強きもの!?


投稿者名:ときな
投稿日時:04/ 9/29

 興院神社、今ここ二人の男が向かいあっている。

 共に学生服だが良く見れば違う学校の物であることが分かる。だがそんなことは些細なことだった。

 一般人が見ればそれはさぞかし幻想的な光景だろう。
 一人は右手から青白く輝く刃を出現させ、もう一方は青い刀を持ち、背からは赤い翼を生やしている。
 それは摩訶不思議な戦いの構図。通常の世界にはありえない形。予想も立てられない、神秘的とすら言えるかもしれない。



「てめー、羽なんぞ生やしやがって、まだ美形ぶるつもりかー!!」
「わーっはっはっはっ! 美形はいくらでも美形らしく振舞えるものなんだよ横島君」

「戦う男二人、青春だわ。ああっ、でも夕日が無いのがちょっと青春的に減点?」
「ワッシに聞かれても困りますケン。銀一さんはどう思いますか?」
「確かに夕日の方が絵的にはええよなー。青春的減点はわからへんけど」
「お煎餅はもうちょっと固いほうが好みかな」

 張本人二人の罵り合いとその光景の外、縁側で茶をすすり、音を立てて煎餅をかじっている観戦客を除外すれば、だが……。




 一方そんな愉快な雰囲気から離れてこちらはまじめに解説を行う方達

「あれも影から出てきましたね」

 ピ−トはその人間離れした感覚で先程、盾志摩を守った翼もまた彼の影から出てきたのを目撃していた。
夏子の説明から推測するとあれもまた式神と言うことになる。だがピートは思う。あの刀にしろ翼にしろ式神らしくない、と。彼に知る式神とは本来術者が操り、代わりに戦うものの筈だ。だが盾志摩は刀を握り、翼を背から生やしている。あれでは装具品ではないか。

「なるほどあれが《四聖鬼器》か」
「知ってるんですか?」

 湯飲みを持って真剣な顔をして対決を見つめるのは式神使いの教師、鬼道政樹。その心当たりがある様子にピートは疑問を隠さずに問う。

「まあな。盾志摩家、大阪で有名な家系や。強力な式神を使うんやけどその式神以上にその独特な戦法が有名や、式神を装具にして戦うその戦法がな」

 ピートの質問に対して鬼道が教師らしく解説を始める。

 そして横島たちも動いた。

「行くでぇ!」

 再び仕掛けたのは盾志摩。しかし先程とは違いその踏み込みの速さは尋常ではない。

「ぬぁんのぉ!!」

 猪のような突進から繰り出せれる斬撃を横島は闘牛士のように身を捻ってかわす。盾志摩はその勢いのまま突っ込んでいくかに見えたが翼を広げるとそれがパラシュートのような役割をして勢いを殺す。さらに翼をはためかせ、三度横島へと向かう。今度は先程のような勢いは無く、普通に地を駆ける速さだ。
 その動きの違いに鬼道が面白そうに声をあげる。

「ほー、なるほど。あの翼で加速減速をやるんか。おまけに出てきたときのを見ると盾にもなる。結構多機能やな」
「すごいな先生、一目で分かるんか」
「こー見えても結構色々なこと仕込まれたからな。戦術把握もその一つや」

 感心する夏子に鬼道は落ち着いた返事を返す。その声には特に自慢と言うものは見られない。今までの
人生が厳しかった上に冥子に完全に負けてしまったため自信と言うものは無縁な存在になってしまった
のかもしれない。

 そんな会話をよそに盾志摩は次々と攻撃を繰り出していく。ただその中でまともな攻撃は殆どなかったりする。自分の体勢が崩れゆく最中でも刀を振るい、翼をはためかせるだけで簡単に体勢を立て直す。離れるかと思ったらやはり翼が動いて逆にこっちへ突っ込んでくる。空中で静止して斬りつけていたりもした。
 人間は基本的に足で移動を行うがこいつの場合、翼も使って、それも自分の体とはまったく別の動きをさせて自分の動きを制御している。そんなやつの動きなど攻撃も回避も含めてトリッキーなものばかりだった。

 だからと言って横島も負けていなかった。横薙ぎの一撃を四つん這いになってかわし、その状態からいきなりバネ仕掛けのように跳ね上がって切り上げたり、非常識な方向転換をして距離を稼いだりと負けずにトリッキーな動きである。


 武装式神を使い人外な動きを可能とした盾志摩とぎりぎり人間の範囲内に収まるような動きをする横島、この場合どちらが凄いのか。


「ねえねえ、どっちの方が有利なの?」

 いまいち戦況が読めない優希が隣に座っているタイガーに尋ねる。元々の性格が明るめのせいか彼女は普通なら気圧される容姿を持つタイガーと愛子とはもずいぶん打ち解けていた。他にも横島と銀一は夏子と話してて見事な美形のピートは何となく話しづらかったため余った二人の方へ行ったということもあるが。

「横島さんのほうが有利ですケン」
「そーなの? 盾志摩くんが攻めてるように見えるけど」
「それは…」

 攻撃回数は明らかに盾志摩のほうが多いのだが実際に当たった回数、つまり避けきれずに防御した回数は盾志摩の方が多かった。これは盾志摩の方が押されていることを示している。さらに言うと盾志摩は翼と刀の二つに霊力を使っているため彼の方が霊力の消耗が激しいこともタイガーは見抜いていた。






「だああぁっ! うまく攻撃できん!」

 横島は後ろに跳び退きながら霊波を放つが盾志摩は翼を盾代わりにしながら前進してくる。さらに翼がブラインドとなって相手が見えないがそれでもその陰から放たれた一撃を、持ち前の反射神経で体を横して避けた。
 どうもうまく戦えない。攻撃自体は普通にかわせそうなのだがあの翼を使った虚をつく動きと合わせられるとどうも避け方が大雑把になってしまう。またこちらの攻撃もうまく当てられない。横島の攻撃は良くも悪くも直線的だ。さらにあんな変わった動き方をする相手に合わせられるほど経験豊富ではない。というわけで横島の攻撃は殆どがいまいちなものとなっていた。美神や西条ならここでうまく相手の
パターンなり攻略法なりを見つけて自分の動きをそれに適したものへと移行出来るのだろうがそういう熟練したものは横島にはなかった。
 ちなみに戦術的撤退は翼のおかげで相手の方が速いので、サイキック猫だましは相手の顔が翼の陰に隠れたり隠れなかったりで使うタイミングが掴めないため、横島得意の二大撹乱技は封じられている。

(しゃーない、文殊を使うか)

 最近文殊がもったいないと思うようになったのと、直接殴りたかったという欲求で文殊は使わないでいたがその使用も考慮に入れる。


 そんなことを考えていると再び盾志摩が刀で斬りかかってくる。距離は取っていたが翼による高速移動の前ではそんなもの、半分以下の意味しかなさない。
 ただ横島にもそれなりに慣れてきて、いや動き自体に慣れたわけではなく、もう驚かなくなったというべきか、そのおかげで今度は避けた後、攻撃に回れるくらいの余裕があった。
 そして文殊を使う有利さを意識した途端横島は積極的な行動に出た。

「でやあああ!!」

 先程までとは違い、気合の入った一撃。 真横から繰り出されたその一撃を盾志摩は翼で受け止めるが攻撃の直後で翼にこめられた霊力が半端だったのと今までより強い攻撃だったため、今度は一筋の傷を残してしまう。

「つぅっ!」

 盾志摩は式神である翼から通して感じる痛みに耐えながら、それでも翼を使い距離を取る。

「いまだ!」

 右手のハンズ・オブ・グローリーは囮として残しつつ、左手に文殊を作り『縛』と入れ、この隙を逃すまいと盾志摩に向けて走る。




((決まった))

 ピートとタイガーは横島がその手に文殊を一個出現させたのを見て同時に思った。何の文字を入れていたのかまでは見えなかったが文殊を上手く使えば一発で終わる。そして横島なら間違った文字を使うはずは無い。そんな確信が、いや実績が横島にはあった。

 ただピートはあんまりなものだったら止めよう、と思いながら横島の後姿をみながら一応いつでも動けるようにだけはしていた。



「なめんなやー!!」


 しかし切り札を使うのはあちらの方が早かった。翼が影へと戻り、龍紺刀が振りかぶられる。

「龍戦咆哮!」

 刀から溢れる霊気が紺の光を伴って薙がれる霊力は刃となって間合いの外に居る敵に向けて撃ち放たれた。
 その際に耳に響いた音はさながら龍の叫びのようで…その一撃は速くて…横島はもう駆け出していて…文殊の文字も変えることは出来なくて……


「どわー!!」

それでも横島は慣性を無視した動きでヘッドスライディングに近い形になりながら横に跳んでかわした。

 つくづく逃げるのがうまい男である。



 さてここで空振りした攻撃はどうなるか?

 当然そのまま突き進む………そして上に書かれているようにピートは横島の後姿を見ていた。
 つまり攻撃の延長線上には彼らが居るわけで……


「きゃー!!」「のわー!!「うわー!!」」

 多くの人が叫び声を上げて防御行動を起こす中、ピートは真っ先に飛び出していた。横島を止めれるよういつでも行動を起こせるようにしておいたおかげである。

人生何が役に立つかわからないものだ。

「ダンピールフラッシュ!!」

 両腕から発せられた霊波により向かってきた一撃が相殺される。
 ピートはそれでふう、と一安心するが後ろの方々はまたそれぞれの行動を取る。


「び、びっくりした〜」

 動悸の激しくなった胸を押さえながら気持ちを落ち着ける銀一。

「盾志摩のアホー!! もっと考えて撃たんかい!!」

 当然の如く怒りを撒き散らす夏子。

「なんか出番ないなぁ」

 少々しょんぼりしながら先程の攻撃を防ぐために出した夜叉丸を結局何もしないまま影に仕舞うはめになった鬼道。

「あのー、二人ともなんでワシに後ろに…」
「あはは、気にしない気にしない。私ってか弱い女の子だからつい」
「ごめんね、私も妖怪と言ってもやっぱりか弱い女の子だから」

 女子二人に盾代わりにされながらも悲しいけどちょっぴり嬉しいと感じたタイガーとその後ろにちゃっかりと避難している優希とその背に隠れながらもさらに机の下に身を隠す愛子。ところで本体は机なんだから守るのならそっちじゃないだろーかと優希は思ったが別にどうでもいいことなので言わないでおく。



「す、すまん」

 そして一番困っているのが当然盾志摩。先程までの勇姿が嘘のように縮こまる。

「危ないからもうこれは終わりにし。師匠が戻ってくるまで大人しくしとくんや」

 そんな盾志摩に対して夏子はきっぱりと中断を言い渡す。

「ちょっと待て夏子。こんな中途半端な形で終わらせるのか?」

 不満ありげだがこの状況では何も言えない盾志摩に代わりにひょっこり出てきた横島が反論をする。

「うん」

 簡潔で、それでいて明確な意見を表す返事が返ってくる。一瞬怯みそうになるが折角の勝てそうな勝負をむざむざ捨てるほど横島は無欲ではない。

「いやでもちゃんと白黒つけたいし」
「あかん」

 やんわりと、だがきっぱりとした意思を見せ横島の意見を取り下げる。

「決めたいんやったらじゃんけんでもして決め」
「いやでもそんなのはいくらなんでも…」
「却下」
「俺もこいつ殴りたいし」
「ダメ」


 ……………


「「さーいしょはグー、じゃんけん」」

 結局じゃんけんで決めることになった。







「ふっ、むなしい戦いだった」

 横島は握った手をかざしながら雲一つ無い青空を見る。まるで今の自分の心のようだ。勝利はした。だがそれは
こんなにも空しい。勝利と言うものに意味は無いのか。

「いや、あるな」

 後ろを振り向くとそこには這い蹲る盾志摩がいた。ちなみに右手はチョキの状態である。


「わーはははは、俺の勝ちじゃー!」

 本当に嬉しそうな横島の声が聞こえたのかピクリを肩を震わせる。が、よほどショックだったのか顔を上げようとはしない。その姿を見て横島が再び笑う。

 勝って得たものはない。しかし嫌いな奴の敗北を見ることのなんと心地よいことか。これならば勝利に意味を見出すことが出来る。
 あの師にしてこの弟子ありと言うことなのだろう。そんなゆがんだ快楽に身を委ねるアホを現実に引き戻したのは幼馴染の少女だった。

「横島、あんまりいじめんなや。ほら、こっち来。傷の手当てしたるから」

 夏子の手招きに応じて横島はばか笑いを止め、部屋に戻り腰を下ろす。

「じっとしときや」

 夏興はそう言うと濡れたハンカチで鼻についた砂をおとす。
 横島の顔、特に鼻が赤くなっている。先程のヘッドスライディングで頭から飛び込んでしたたかに顔を打ち付けた、というかモロに地面と擦ったせいだ。鼻血は何時も出してるからこのくらいでは出ないようだ。
 大した傷ではないのだが夏子は丁寧に拭くと次は消毒液を塗り始める。当然しみる、そして横島はそれを我慢して黙っているほど大人ではない。

「うう、しみるぞ。もうちょっと優しくできんのか」
「どんなに優しく塗っても消毒液がしみるのはどうしようもないで」
「ちぇっ、相変わらず理屈で攻めてくる奴だな」

 不貞腐れる横島を見て夏子は手を休めずに小さく笑う。本当に昔と変わらない。昔も横島が怪我をしたらいつも自分が手当てをして、横島が文句を言って、自分が理屈を言って黙らせると不貞腐れる。そんな昔を思い出して、何か心に暖かいものを感じながら、それを心地よく思いながら手を動かす。


 そして昔を思い出しているのがもう一人。

 二人から少し離れたところでそんな様子を見る銀一。告白したとは言え小学校のころの話、子供のころの恋愛など特に気にすることになるとも思ってなかったが……夏子に看護してもらっている横島を見て子供のころと同じように「羨ましいなぁ」という感情が僅かながらもわきあがってきたのには驚いた。
 だがまあ嫉妬ではない以上初恋はきちんと決着がつけれている、と思う。羨ましいのは単純に美人の看護に憧れる正常な男の子の欲求からだ、と思う。
 銀一は少なくとも自分は初恋を引きずっては居ないことを確認した。

「でもま、ほんとにいいとこばっか取るなぁ横っちは」






「ふっふっふっふ」

 何だか地の底から出て来たような笑い声が聞こえてきたのはちょうど横島の鼻にバンソーコーが貼られたときだった。
 発生源は…当然と言うか盾志摩だった。しかしその顔に先程までの落胆していた様子は見られない。

「よくよく考えればあの戦いの中お前は傷を負った、しかし僕は無傷。これを見れば僕のほうが強いっちゅうことやな。そう思えば所詮はじゃんけん。気に病むことや無いわ」
「何一人で納得しとるんじゃ!! こんな傷にも入らんようなもんをカウントするな」

 一人うんうんと頷きながらなにやら語る盾志摩に横島は鼻の頭に張られたバンソーコーを指差して猛然と抗議する。ちなみにこの二人、あれだけ戦っておいて出来た傷はこれだけだったりする。

「ふ、負け惜しみは見苦しいで」
「どこがじゃー! むしろお前の方が負け惜しみだろーが!! あのままやってたらきちんと勝てたわい」

 
 何だか一度は沈静化したものがまた活発化したようで……ぎゃあぎゃあと騒がしい二人を見ながら幼馴染二人は何だか呆れた感じで見ている。


「なんかまた始まったけどええんか?」
「ま、口喧嘩ならええやろ」

 夏子は横島と盾志摩の言い合いを昔のように、でも昔とは少し違う気持ちを持ちながらそれを見ていた。


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