「くっそー!! しつこい!!」
横島は全力で駆けていた。
その後方から迫るのは、彼がもっとも恐れるもの。
神も悪魔もはだしで逃げ出す、史上最強のGS・美神令子。
「待たんかァ─ッ、横島ァァッ!!」
ばったり出くわしたのが運のツキ。
あらゆる手を使って逃げようとするのだが、自分の行動は先読みされてるらしく徒労に終わる。
ちなみに、お目付け役の美知恵は「男の子なんだから、頑張りなさいね〜」と完全に楽しんでいた。
役立たずめ! と罵ったところで美神が止まるわけもなく、こうやって必死に逃げ惑うしかないわけで。
美神の捕獲(攻撃?)をかいくぐって逃走をつづけながら、横島はふと某ホラーゲームの追跡者を思い出していた。
もっとも、このままでは必ず追いつかれるのはわかっている。そして捕まったら……。
それだけは避けねば!!
横島は生き残るための手段を探して、周囲を見回す。
「─横島さんっ!」
「! 小鳩ちゃん!?」
疾走する横島の目に、通路の角から手招きする小鳩が映る。
一瞬のためらいの後、横島はそちらへと向かう。
角を曲がるとすぐの扉が少し開いており、そこに貧乏神もとい福の神が待っていた。
「小鳩、急げ!!」
「うん! 横島さんも、さあ早く!!」
「あ、ああ!」
横島が入ると、すかさず貧がドアを閉めて結界を張る。
直後、通路を凄まじい勢いで彼女が通り過ぎていく声が聞こえた。
しばらくは、三人とも無言だったが、おそるおそる小鳩が貧に確認する。
「貧ちゃん…行った?」
「ああ。腐ってもわいは神やしな。わいの張った結界なら、そう簡単には気付かれへん。」
貧はそう答えると、ちゃんと見張っとくからと、小鳩に微笑む。
それを聞いて、小鳩はほっと胸をなでおろすと、横島をふりむいてにっこり微笑む。
「横島さん、大丈夫ですか?」
「ああ…ありがとう、小鳩ちゃん。」
「いえ、いいんです。」
横島は、さも疲れたといった感じに、どっかと腰を下ろす。
その隣に、小鳩もすっと座り込む。
とりあえず一息つけた横島だが、今までのことから考えて、念のため小鳩に聞いてみる。
「……小鳩ちゃんはいいのかい? ゲームに参加しているんだろ?」
「ええ。…でも、私には皆さんのような腕力も能力もないですし…。」
「そっか。」
とりあえず横島は安心する。
もともと心根の優しい小鳩のこと、こんな荒事は向いていないのだ。
じゃあ、おキヌはどうなる? という意見は、美神の影響ということでムリヤリ納得する。
「…あ、横島さん。お腹空いてませんか? ずっと走ってたみたいだから…。」
「ん? そーいや、ちょっと小腹が空いてるような…。」
急に話題をふられて、横島がちょっと考えてから答えると、小鳩は嬉しそうな顔で鞄から何かを取り出す。
それは拳大の包みで、なんだかとても美味しそうな香りを放っていた。
「さっきの立食会のときに、お持ち帰りしようと思って取っといたんです。」
「え? ってこれ、食べていいの?」
「ええ、どうぞ。」
にっこりと笑って差し出す小鳩に、横島はふいに涙腺が緩むのを感じた。
このゲームが始まって以来、これほど人の優しさを感じたことがあっただろうか。
ぽろぽろと涙をこぼす横島に、小鳩の表情がひきつる。
「よ、横島さん? そんなにお腹が空いてたんですか?」
「ううん! でも、何でかな? 涙が止まらないや。」
横島は泣き笑いの表情で、次々に溢れてくるキレイな涙をごしごしと拭う。
「それじゃあ、ありがたくいただくよ。」
言うや否や、小鳩から包みを受けとって嬉しそうに包みをはいでいく横島。
それを見る小鳩の微笑みが、少しだけ曇る。
「……横島さん。さっきの話ですけど…。」
「んー? 何?」
しかし、横島はそんな小鳩の表情にも気付かず、嬉しそうに包みを開けていく。
小鳩も、そんな横島の態度にはかまわず話を続ける。
「私って、やっぱり腕力とかないし、横島さんを皆さんのように捕まえるなんて出来ないんです…。」
「そう? 小鳩ちゃんはそれでいいと思うけど。」
横島は心底そう思う。
というか、他の奴らのように小鳩ちゃんまで襲ってきたら嫌だ。
「でも…私だって皆さんのように…。」
「小鳩ちゃんには小鳩ちゃんに出来ることがあるだろ? みんなと同じやり方じゃなくてもいいじゃないか。」
「そうですか…?」
「そうさ…っと、出てきた、出てきた♪」
包みから出てきたサンドイッチに、横島は嬉しそうな声をあげる。
小鳩は、横島の言葉をひとり噛みしめていた。
「小鳩なりのやり方…そう、そうですよね!」
「ああ! それじゃ、いただきまーす!!」
パクッ! と横島がかぶりついた瞬間─。
「…ッ!! こ、これは…!?」
横島は驚愕の表情を浮かべると、そのまま倒れこんだ。
そしてその口からふよふよと…。
《これは…チーズあんシメサババーガー!?》
幽体離脱した横島の魂が信じられないといった風に叫ぶ。
見れば、はみ出ているサンドイッチの具は、チーズとあんがとろりと流れ出し、シメサバにからんで…。
《ま…まさか…! 小鳩ちゃん…君も…ッ?》
横島の魂が振り返ると、小鳩はさもすまなそうな顔をしていた。
が、その顔がどうもしらじらしく思えるのは、横島の被害妄想のせいだろうか。
「ごめんなさい、横島さん。小鳩には横島さんを捕まえる力なんてない…だから…。」
「こうして、魂抜いたれば小鳩でも捕まえることは出来るっちゅーわけや。」
《てめっ、貧!! テメーの作戦か!?》
いつの間にか隣でニヤニヤと笑う貧に、横島は矛先を向ける。
だが、貧はゆっくりと首を振る。
「何ゆーてんのや。これは非力な小鳩がお前を捕まえたい一心で考えた作戦やで? 喜んで捕まってくれや。」
《こ…小鳩ちゃん…!》
横島がギギギッと首をまわして小鳩を見ると、小鳩はそっと涙をぬぐって見せる。
「本当にごめんなさい、横島さん。小鳩は……小鳩は悪い子ですぅ─ッ!!」
そう言うと、貧と素早く横島を抱えあげて、キラキラと涙を輝かせながら逃走する小鳩。
《ちょっとォォォッ!? 小鳩ちゃぁぁんッ!?》
このコもしっかり暴走してる!!
横島は自分の認識が甘かったことを心底思い知った。
◆
『…まあ、確かに横島くんを捕まえればいいわけだけど。』
「魂とワンセットとは言ってませんからねぇ…。」
ルールの上では問題ない、とロキは思うが同時に、人としてどうだろうという考えも浮かぶ。
魔鈴の笑顔も、複雑な心境を表してかなり引きつっている。
《…手段は選ばない、というのは美神オーナーたちの専売特許ではないってことですね…。》
人工幽霊壱号は一言だけ呟いて、盛大なため息をついた。
チーズあんシメサババーガーをサンドイッチにアレンジして、見事な罠を仕掛けてくれました。
横島もいい加減に学習して欲しいものです(笑)
美神はおそらく、この後も何かと出てくるかもしれません。例の某追跡者の如く…。 (詠夢)
一服盛るとは思ってましたが、キャラを立てるこんな小道具を使うとは・・・。流石です、やられました。
えっと、文字化けについてですが・・・、全部上げると切りがありませんが、取り敢えず前回では、
<それに答えたのは、同じくタマモを見送っていた?横島?。
「それにしても、狐の嬢ちゃんに気付かれぬよう、一瞬で?幻?の文珠を発動させるとは…腕を上げたのう。」
と表示されていました。 (竹)
>「本当にごめんなさい、横島さん。小鳩は……小鳩は悪い子ですぅ─ッ!!」
小鳩さん、アンタ最高だよ・・・
横島君、いい加減に君の周りに真面な人は皆無だと分かれ・・・ (紅蓮)
何かまともなのがロキさまとベスパさんだけのような気がひしひしと(汗
横島くん・・・こうなったらベスパさんに捕まるんだ!!
無事に終わるには其れしかない!? (ノーフェイス)
天使な小鳩も、欲望には勝てず堕天したようでw
まぁ、情に訴えるか策を弄するかしかないわけで…、さて動けない横島ですが、次のトンビに油揚げは誰でしょうねw (R/Y)
竹さま:
小鳩ちゃんのもつ唯一の対人兵器(?)ですからねv
たとえどんな奴でも、一口食えば動けません!
文字化けですが、その部分はダブルクォーテションになっています。
おそらく、全角で書いたためと思われますので、以後気をつけます!!
また、文字化け等ありましたら、教えてください。
紅蓮さま:
ふだんマトモな子ほど、壊れたときは面白いですv
いい具合に暴走してくれて、助かりました(笑)
ノーフェイスさま:
ロキもべスパもどうでしょう(汗)
そもそも仕掛けたのはロキですしねぇ。
べスパか…。
べスパなら大丈夫かも…でも、パピリオにゆずっちゃいそうだしなぁ…(汗)
R/Yさま:
苦肉の策って奴ですね。本意ではないと思いますよ(フォロー)
ただ、やっぱり横島は欲しいわけで…(問題発言)
結局、欲望には勝てないってことですかねv(フォロー台無し)
次回も恐ろしくも凄まじい争奪が繰り広げられます! (詠夢)
今まで某所に小鳩姐さんはいましたが、黒化した小鳩ちゃんは見たことない気がします。
いや、もしかしたら私が知らないだけかも知れませんが。
……ということで、暫定的に『元祖・黒小鳩書き』の称号をどうぞ。 (林原悠)