椎名作品二次創作小説投稿広場


横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

戦場に華は咲く!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/ 5/21

《……大丈夫ですか、ロキ様?》


気遣わしげな人工幽霊壱号の言葉にも、見事なコケを披露してひくつくロキは答えることが出来ない。

そこに魔鈴が入ってきて、その様子に目を丸くする。


「…どうしたんですか?」

『いや…ちょっとシリアスとギャグの見事なギャップにやられてね…。』


机を支えに起き上がりながら、ようようロキが答える。

さきほどの映像を見ていない魔鈴は、意味がわからず首を傾げる。


『そういえば、ヒャクメ君はどうしてる?』

「今は落ち着いてますけど、回復にはもう少しかかりますね。」

《現在は、となりの寝室で横になっておられます。》


回復を早くするためにも、今はそれが一番いいだろう。


『ま、あと2時間はあるんだし、勝負はこれからってところかな?』



          ◆



「─勝負はこれからだ。」


横島は、壁を背にしながら慎重に移動していた。

その表情は今まで以上に引き締まっており、おそらくアシュタロス戦役時くらいのテンションになっているだろう。

その目は油断なく周囲をうかがい、そして腕時計を確認する。


「残り2時間…普通なら、『もうすぐ終わる』と緊張が緩み始めるときだ。」


だが、今回は相手も普通ではないのだ。

おそらく、残り時間は死に物狂いで仕掛けてくるだろう。


「そう…こっからが正念場だ…!」


度重なる襲撃に疲労を感じ始めた神経を、横島はさらに鋭く研ぎ澄ませる。

もはや、彼に一切の油断はない。

鋭い表情のまま、通路を駆けていき─。


「─ッ!!」


彼が何かに気付いて身をかわしたのと、その場所を何かが掠めすぎたのは、コンマ数秒の差だった。

通り過ぎた物体は、輝きをともなって床に突き立つ。


「チッ…! 避けられましたか…!!」

「馬鹿者。完全に殺気を消しきれとらんかったからじゃ。それでは、野生の動物ならすぐに気付いてしまうぞ。」


斬撃をかわされた小竜姫は悔しそうに舌打ちし、床に突き刺さった神剣を構えなおした。

その後ろから、お目付け役の斉天大聖が、弟子の未熟をたしなめた。

誰が野生動物じゃい!

横島はそう思ったが、突然の凶行に驚いてしまって言葉がうまく出てこず、あうあうとしか言えない。


「では、気を取り直して…覚悟はいいですか、横島さん?」

「いいわけあるかァァ─ッ!!」


小竜姫の縁起でもない言葉に、驚きから立ち直った横島の、渾身の突っ込みが入る。


「何すんですか!! もうちょっとで死ぬとこじゃないスか!!」

「横島さんなら大丈夫でしょう?」

「大丈夫じゃねェェ─ッ!!」


根拠も何もない小竜姫の無責任な言葉に、ふたたび絶叫する横島。

だが、根拠もないが否定も出来ない気がするのは何故だろうか?

それに構わず、斉天大聖が小竜姫にとんでもないことを言い放つ。


「気にするな、小竜姫。思いっきり行け。」

「こらーっ、猿ーッ!! テメーはお目付けだろうが!! 何を煽っとんのじゃーッ!!」


横島の暴言に、「誰が猿じゃい!」と杖が飛んで横島の顔面に直撃する。


「わしは小竜姫が他の参加者にやり過ぎぬためのお目付けじゃ。お主の場合は、含まれておらん。」

「……そーかよ。」


横島は鼻血を押さえながら納得した。

確かに小竜姫がこんな状態で、おキヌちゃんなどと出くわしたら……えらい事だ。


「さてと。小僧も納得したところで……これも修行じゃ、諦めい。」

「参りますッ!!」


気合一閃。

横薙ぎに払われた斬撃を、横島はほとんど勘で避けていた。

超加速ほどではないにしろ、それに迫る速度の一撃だったと、横島の背中に冷たいものが走る。


「ちょ…ッ、小竜姫様!? 俺を殺す気ですかッ!?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと峰打ちにしますから…。」


いや、その神剣…両刃ですよね?


「このくらいしないと、横島さんは捕まらないでしょう?」

「か、過大評価しすぎじゃないッスか?」

「誰にも渡さない…横島さんは私が捕まえて…そして…。」


ダメだ…なんか目つきが普通じゃない。

ああ、神様までこんな風になるなんて……というか、俺は何をさせられるんだろう?


「小竜姫は昔から近視的な性格でのう…。そうなったら、おいそれとは止まらんぞ?」

「しみじみ語っとらんと、助けんかァ─ッ!!」


少し離れたところで観戦している斉天大聖に、横島は涙ながらに訴える。

それを隙とみたか、小竜姫が大きく神剣を振りかぶって飛び掛った。


「破ァァッ!!」

「ヒィィィィ─ッ!!」


脳裏に走馬灯がよぎり、横島は覚悟を決めた。

あ…アシュタロスの幻が手を振ってる…。


「させるかァァァァッ!!」

「キャッ!!?」


気の早い横島の魂が彼岸に旅立とうとしたとき、雄叫びとともに黒い塊が突っ込んできて小竜姫を吹き飛ばす。

危ういところで戻ってきた横島が見たのは、視界いっぱいの黒い羽。


「わ、ワルキューレ!!」


ふたたび命を救ってくれた堕天使が、横島には女神に見えた。

だが、次の瞬間─。


「横島さん、離れてッ!!」

「へ…って、うわぁあァァッ!?」


後から飛び込んできた声にかぶさるように、ワルキューレに向かって精霊石弾の嵐が飛来する。

一斉射が止み、とびのいた横島とワルキューレの間に、ジークがすかさず割りこむ。


「ジーク!? いきなり何…!?」

「横島さん、逃げて下さい!! 今の姉上は危険で…すッ!?」


セリフの途中、着弾の煙のむこうから放たれた拳に、ジークは吹っ飛ばされる。

横島は慌ててジークに駆け寄った。


「じ、ジークッ、大丈夫か!?」

「う…うう…早く、逃げてください…ッ!! あ、姉上が…来ます…!」


横島が振り返ると、目を妖しく光らせたワルキューレが、拳を突き出した形で立っていた。


「横島は渡さん! 障害は全て排除する…!」

「あ、姉上ッ! 正気に戻ってください!」

「黙れ!! 目標の奪取が最優先任務! 任務達成こそ私の喜び、私の存在意義だ─ッ!!」


弟の哀願をあっさりと切り捨て、高らかに宣言するワルキューレ。

もはや聞く耳持たずといった感じだ。


「…どうやら、あちらも小竜姫に負けず劣らず、近視的な性格だったらしいのう。」

「ああああ…!!」


しょせんは悪魔かぁぁ!!

横島は胸のうちで力いっぱい嘆いた。


「─さあ、横島! 私と来い!」

「いや、あの〜…!」

「返事はイエスかノーのみだッ!!」

「じゃあ……ノー。」


おそるおそる、ぽつりと呟く横島。

この状態のワルキューレに連れて行かれるのも危ないと、横島の直感が告げている。

だが、ワルキューレが冷たい笑みを浮かべるのを見て、横島はちょっと…いや、かなり後悔した。


「そうか……ならば、実力行使で強制連行だ!!」

「やっぱり、そう来るのかァァァーッ!!」


ふたたび走馬灯が走り、横島のまぶたの裏に、心なしか冷や汗を浮かべたアシュタロスが浮かぶ。

だが、またも最悪の結末は回避された。


「させません!!」

「クッ! 邪魔をするな、小竜姫ッ!!」


瞬時に抜き払われた軍刀と小竜姫の神剣をはさんで、二人は壮絶な睨み合いを始める。

ぐぬぬぬっ、と互いの力は完全に拮抗していた。

激突時から、パチパチッと空気が爆ぜる音が続いており、それらは次第に強くなっていく。

二人の周囲で放電現象が発生し、独特のイオン臭が流れ出す。


「…こ、この隙に…!」

『逃げるな!!』


せめぎ合いながらも、横島の逃走にしっかりと釘を刺すふたり。

当の横島は、逃げることも手を出すことも出来ず、ただ勝負の行く末を見つめるばかり。

この二人の実力なら、勝負がつけばすぐに、否応なしに横島は連行されてしまうだろう。

ついに横島、万事休すか─!?


「─って、えっ? これ引きネタ!? 続くのかよ!?」


続きます!!


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