椎名作品二次創作小説投稿広場


横島争奪チキチキバトル鬼ごっこ

漢たちの挽歌!!


投稿者名:詠夢
投稿日時:04/ 4/20


ロキは画面の前で、ひとり静かに呆れたような笑顔を浮かべていた。


『……むごいね、人間って。』

「スゴイ泥沼でしたからねぇ…。」


声に振り返ると、魔鈴がいつの間にか戻ってきていた。


『あれ? タイガーくんの手当ては?』

「それなら一文字さんがやってくれましたから。もう、二人とも戦線に戻りましたよ。」


あの怪我で? もう?

生命の神秘というものに、ロキはふたたび乾いた笑いを浮かべるのだった。



          ◆



「……まったく、どいつもこいつも…!」


横島は小走りに駆けながら、ぶつくさと愚痴っていた。

ひっきりなしに襲われるたび、彼らの異様な執念を感じて嫌気がさしていたのだ。


「そんなに自分の欲望が大切かいっ! 浅ましい奴らめ…ッ!!」


言ってることは正論だが、浅ましい奴筆頭が何をほざく。

廊下の角を曲がろうとして、横島は壁にはりついてから辺りをうかがう。

野生の獣は襲われるたびに驚くほど学習していくというが、横島のそれは今まさにその通りであった。


「もう気は抜かんからなぁ…!」


周囲10メートル以内(現在の身長感覚)に気配はない。

罠を張ってる様子もなさそうだ。


「……よし、行くか。」


そう言うと、ふたたび駆け出す。

だが、ここで横島はひとつの過ちを犯していた。


「─今や、夜叉丸ッ!!」

「な、何だッ─!?」


誰かの叫びとともに突如、横島の足元から人影が躍り出る。

平安時代調の格好をした人形のようなそれは、すかさず横島の背後にまわると一気に組み伏せる。


「ふっふっふ…油断大敵やな、横島くん。」

「お、お前はッ…鬼道!?」


横島は、自分を見下ろすように立つ男を見て驚く。

六道女学院の教師(おキヌの担任)ともあろう者まで、こんなゲームに参加してるとは。


「一体どうやって夜叉丸を俺の足元に…!?」


自分を組み伏せている、鬼道の式神を睨みつけながら横島は悔しそうに唸る。


「簡単なことや。あそこの照明が見えるやろ?」


鬼道が示す方向、横島のちょうど真後ろにあたる方向に、確かに遠くに照明がぶら下がってる。


「あの照明の近くに僕が立てば…どうなる?」

「…そうか!! 影を伸ばして…ッ!」


式神は術者の影から現れる、という特性を活かし、影を横島の足元まで近づけたのだ。

横島が確認したのは、前後左右の4方向のみ。

上か、もしくは下に伸びた影に気付いていれば…。


「ま、悪く思わんといてや。」

「くそーッ!! お前もかッ!! お前も自分が一番かーッ!!」


人間不信になりかねない横島の雄叫び。

だが、鬼道はふっと目を伏せる。


「…そーやない。僕は─。」

「まーくん〜? 横島くんは〜捕まえた〜?」


妙に間延びした声とともにやってきたのは、史上最凶プッツン娘こと六道冥子。

とてとて、と鬼道の傍まで駆け寄ってくる。

その様子に、横島の脳裏にデジャヴがよぎる。


「お前もかーッ!! お前もタイガーと同じかーッ!?」

「な、何のことや? 僕はただ、冥子はんのために─。」

「それが同じだって言ってんだよッ!! くそーッ、裏切り者どもめーッ!!」


涙ながらの横島の抗議も、タイガーの一件を知らない鬼道にとっては、完全な言いがかりである。

ふと、わめく横島の袖を冥子が掴む。


「えへへ〜! 横島くん〜、つ〜か〜ま〜え〜た〜♪」

「うっ!? 可愛いッ…!?」


あまりにも嬉しそうな冥子の表情に、思わずわめくのを止める横島。

それに満足したように、冥子がうなずく。


「じゃ〜、行きましょ〜?」

「うぅ…こ、このまま流されてはいかん…! め、冥子ちゃんは、何をお願いするつもりなんです?」

「え? うふふ〜、それはね〜…。」


つい言いなりになりそうな、自分の悲しい性をムリヤリ押さえ込み、一応願いを聞いてみる。

他愛もないものなら、このまま捕まるのもありかもしれん。


「お菓子の家〜♪」


思考停止。

エラーが発生しました。

再起動。

ちょっと待て。確かに他愛ないが、そんなもんのためにハーレムを捨てるのか?

ていうか冥子ちゃん、それはなんぼなんでも幼すぎないか?

確か美神さんよりも年上のはずだろう?

これならパピリオの方が精神年齢高いんじゃないのか?


「…っていうか鬼道はそれでいいのかッ!?」


横島がツッコミを入れつつ振り返ると、そこには漢(と書いておとこと読む)がいた。


「…それでもッ…冥子はんのため…冥子はんが喜んでくれるんやったらッ…僕は…僕はァァァァァ…〜ッ!!」


歯を食いしばり血涙を流しつつ、葛藤の末の魂の決意をみせる鬼道。

漢や…! アンタ、ホンマもんの漢やァァァ…〜ッ!

横島も胸打たれ、熱い涙を流す。


「─だが!!」

「きゃッ!?」


横島が突然立ち上がったため、冥子が後ろに倒れそうになり、慌てて夜叉丸が支える。

すかさず、横島は間合いをとって構える。


「同じ漢だからこそ引けないこともある!!」

「…ほな、しゃあないな。」


涙を拭いて、鬼道も横島の目を見据える。

勝負!!


「鬼道!! お前の辛さもわかる!! だが、俺も漢!! おいそれとは自分の夢を捨てることは出来ん!!」

「そうや!! だからこそ僕たちは今、戦う!! 勝とうと負けようと、戦って己を貫き通すんや!!」

「よく言った!! ならば全力で答えよう!! お前は西条のように流したりはしない!!」

「……ありがとうな、横島くん。」

「…何も言うな。行くぜっ!!」


横島が霊波刀を構えて飛び出そうと─。


「…って何だッ!?」

「夜叉丸!?」


二人の間に急に夜叉丸が飛び出してきたため、双方とも動きを止める。

夜叉丸はなにやら慌てたように、必死に鬼道に何かを訴えかける。


「─な、何やて…ああッ!?」

「どうした!?」

「め、冥子はんが…ッ!!」


はっとして横島がそちらを見ると、冥子がじんわりと涙を浮かべながら、霊力を増大させていた。

プッツン10秒前。

夜叉丸は、これを教えていたのだろう。


「横島くんが…横島くんが〜…ッ!!」

「お、俺!? …って手を振り払ったからか!!」


さらに霊力が強く脈打つ。

プッツン5秒前。


「や、ヤバイッ!! このままじゃ、俺も鬼道も…!!」


ダブルノックダウン。死。嫌な言葉しか浮かばない。

プッツン3秒前。


「うわ─ッ!! もー、あかんッ!!」

「……!! 夜叉丸!!」


鬼道が意を決したように叫ぶと、夜叉丸が冥子の影に飛び込んだ。


「な、何を…!?」

「これでしばらくは抑えられる!! ……横島くん、早よ逃げや!!」

「な…!? い、いいのか、お前!! それじゃ…!?」


うろたえる横島に、鬼道はふっと穏やかな笑みを浮かべた。


「…このままやったら共倒れ。同じ漢が夢を叶える礎になれるなら本望や…。」

「…鬼道!」

「さあ! 何ボサッとしてるんや!? 早よう逃げぇ─!!」


ふたたび顔を引き締め、冥子のもとへと駆けていく鬼道。

横島は、くっと辛そうに後ろを向くと、全力でその場を離れていく。


「……横島くん…頑張りや。」


最後に呟いた鬼道の言葉が耳に響く。

部屋を出た直後、大音響が後方から地鳴りをともなって響いてくる。


「鬼道…!! お前の犠牲…決して無駄にはしないからな…ッ!!」


横島は綺麗な涙を流しながら、夢(ハーレム)を掴む決意を新たにした。







そして、ここでも綺麗な涙を流すものが。


「…なんでロキ様まで泣いてるんですか?」


呆れ顔の魔鈴の横で、ただただ熱い涙を流れるままにして、ロキは微笑む。


『これはね…漢のために流す、漢だけがわかる、漢の涙なんだよ…。』







鬼道政樹……リタイア─。


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