ロキは画面の前で、ひとり静かに呆れたような笑顔を浮かべていた。
『……むごいね、人間って。』
「スゴイ泥沼でしたからねぇ…。」
声に振り返ると、魔鈴がいつの間にか戻ってきていた。
『あれ? タイガーくんの手当ては?』
「それなら一文字さんがやってくれましたから。もう、二人とも戦線に戻りましたよ。」
あの怪我で? もう?
生命の神秘というものに、ロキはふたたび乾いた笑いを浮かべるのだった。
◆
「……まったく、どいつもこいつも…!」
横島は小走りに駆けながら、ぶつくさと愚痴っていた。
ひっきりなしに襲われるたび、彼らの異様な執念を感じて嫌気がさしていたのだ。
「そんなに自分の欲望が大切かいっ! 浅ましい奴らめ…ッ!!」
言ってることは正論だが、浅ましい奴筆頭が何をほざく。
廊下の角を曲がろうとして、横島は壁にはりついてから辺りをうかがう。
野生の獣は襲われるたびに驚くほど学習していくというが、横島のそれは今まさにその通りであった。
「もう気は抜かんからなぁ…!」
周囲10メートル以内(現在の身長感覚)に気配はない。
罠を張ってる様子もなさそうだ。
「……よし、行くか。」
そう言うと、ふたたび駆け出す。
だが、ここで横島はひとつの過ちを犯していた。
「─今や、夜叉丸ッ!!」
「な、何だッ─!?」
誰かの叫びとともに突如、横島の足元から人影が躍り出る。
平安時代調の格好をした人形のようなそれは、すかさず横島の背後にまわると一気に組み伏せる。
「ふっふっふ…油断大敵やな、横島くん。」
「お、お前はッ…鬼道!?」
横島は、自分を見下ろすように立つ男を見て驚く。
六道女学院の教師(おキヌの担任)ともあろう者まで、こんなゲームに参加してるとは。
「一体どうやって夜叉丸を俺の足元に…!?」
自分を組み伏せている、鬼道の式神を睨みつけながら横島は悔しそうに唸る。
「簡単なことや。あそこの照明が見えるやろ?」
鬼道が示す方向、横島のちょうど真後ろにあたる方向に、確かに遠くに照明がぶら下がってる。
「あの照明の近くに僕が立てば…どうなる?」
「…そうか!! 影を伸ばして…ッ!」
式神は術者の影から現れる、という特性を活かし、影を横島の足元まで近づけたのだ。
横島が確認したのは、前後左右の4方向のみ。
上か、もしくは下に伸びた影に気付いていれば…。
「ま、悪く思わんといてや。」
「くそーッ!! お前もかッ!! お前も自分が一番かーッ!!」
人間不信になりかねない横島の雄叫び。
だが、鬼道はふっと目を伏せる。
「…そーやない。僕は─。」
「まーくん〜? 横島くんは〜捕まえた〜?」
妙に間延びした声とともにやってきたのは、史上最凶プッツン娘こと六道冥子。
とてとて、と鬼道の傍まで駆け寄ってくる。
その様子に、横島の脳裏にデジャヴがよぎる。
「お前もかーッ!! お前もタイガーと同じかーッ!?」
「な、何のことや? 僕はただ、冥子はんのために─。」
「それが同じだって言ってんだよッ!! くそーッ、裏切り者どもめーッ!!」
涙ながらの横島の抗議も、タイガーの一件を知らない鬼道にとっては、完全な言いがかりである。
ふと、わめく横島の袖を冥子が掴む。
「えへへ〜! 横島くん〜、つ〜か〜ま〜え〜た〜♪」
「うっ!? 可愛いッ…!?」
あまりにも嬉しそうな冥子の表情に、思わずわめくのを止める横島。
それに満足したように、冥子がうなずく。
「じゃ〜、行きましょ〜?」
「うぅ…こ、このまま流されてはいかん…! め、冥子ちゃんは、何をお願いするつもりなんです?」
「え? うふふ〜、それはね〜…。」
つい言いなりになりそうな、自分の悲しい性をムリヤリ押さえ込み、一応願いを聞いてみる。
他愛もないものなら、このまま捕まるのもありかもしれん。
「お菓子の家〜♪」
思考停止。
エラーが発生しました。
再起動。
ちょっと待て。確かに他愛ないが、そんなもんのためにハーレムを捨てるのか?
ていうか冥子ちゃん、それはなんぼなんでも幼すぎないか?
確か美神さんよりも年上のはずだろう?
これならパピリオの方が精神年齢高いんじゃないのか?
「…っていうか鬼道はそれでいいのかッ!?」
横島がツッコミを入れつつ振り返ると、そこには漢(と書いておとこと読む)がいた。
「…それでもッ…冥子はんのため…冥子はんが喜んでくれるんやったらッ…僕は…僕はァァァァァ…〜ッ!!」
歯を食いしばり血涙を流しつつ、葛藤の末の魂の決意をみせる鬼道。
漢や…! アンタ、ホンマもんの漢やァァァ…〜ッ!
横島も胸打たれ、熱い涙を流す。
「─だが!!」
「きゃッ!?」
横島が突然立ち上がったため、冥子が後ろに倒れそうになり、慌てて夜叉丸が支える。
すかさず、横島は間合いをとって構える。
「同じ漢だからこそ引けないこともある!!」
「…ほな、しゃあないな。」
涙を拭いて、鬼道も横島の目を見据える。
勝負!!
「鬼道!! お前の辛さもわかる!! だが、俺も漢!! おいそれとは自分の夢を捨てることは出来ん!!」
「そうや!! だからこそ僕たちは今、戦う!! 勝とうと負けようと、戦って己を貫き通すんや!!」
「よく言った!! ならば全力で答えよう!! お前は西条のように流したりはしない!!」
「……ありがとうな、横島くん。」
「…何も言うな。行くぜっ!!」
横島が霊波刀を構えて飛び出そうと─。
「…って何だッ!?」
「夜叉丸!?」
二人の間に急に夜叉丸が飛び出してきたため、双方とも動きを止める。
夜叉丸はなにやら慌てたように、必死に鬼道に何かを訴えかける。
「─な、何やて…ああッ!?」
「どうした!?」
「め、冥子はんが…ッ!!」
はっとして横島がそちらを見ると、冥子がじんわりと涙を浮かべながら、霊力を増大させていた。
プッツン10秒前。
夜叉丸は、これを教えていたのだろう。
「横島くんが…横島くんが〜…ッ!!」
「お、俺!? …って手を振り払ったからか!!」
さらに霊力が強く脈打つ。
プッツン5秒前。
「や、ヤバイッ!! このままじゃ、俺も鬼道も…!!」
ダブルノックダウン。死。嫌な言葉しか浮かばない。
プッツン3秒前。
「うわ─ッ!! もー、あかんッ!!」
「……!! 夜叉丸!!」
鬼道が意を決したように叫ぶと、夜叉丸が冥子の影に飛び込んだ。
「な、何を…!?」
「これでしばらくは抑えられる!! ……横島くん、早よ逃げや!!」
「な…!? い、いいのか、お前!! それじゃ…!?」
うろたえる横島に、鬼道はふっと穏やかな笑みを浮かべた。
「…このままやったら共倒れ。同じ漢が夢を叶える礎になれるなら本望や…。」
「…鬼道!」
「さあ! 何ボサッとしてるんや!? 早よう逃げぇ─!!」
ふたたび顔を引き締め、冥子のもとへと駆けていく鬼道。
横島は、くっと辛そうに後ろを向くと、全力でその場を離れていく。
「……横島くん…頑張りや。」
最後に呟いた鬼道の言葉が耳に響く。
部屋を出た直後、大音響が後方から地鳴りをともなって響いてくる。
「鬼道…!! お前の犠牲…決して無駄にはしないからな…ッ!!」
横島は綺麗な涙を流しながら、夢(ハーレム)を掴む決意を新たにした。
◆
そして、ここでも綺麗な涙を流すものが。
「…なんでロキ様まで泣いてるんですか?」
呆れ顔の魔鈴の横で、ただただ熱い涙を流れるままにして、ロキは微笑む。
『これはね…漢のために流す、漢だけがわかる、漢の涙なんだよ…。』
鬼道政樹……リタイア─。
いかがだったでしょうか?
タイガーよりも可哀想な漢が出てきましたが…(哀
タイトルはあの香港編『男たちの挽歌!!』をパロッてみました(つか文字変えただけじゃん!)
なんとゆーか、これにしたとゆーか、これしかなかったとゆーか…(汗 (詠夢)
なんかこうゆう熱血友情物は大好きです。
なんかいいですよね〜友情・・・。
鬼道ぉぉぉ!!!!って叫びたくなります。 (核砂糖)
お前は最高だ!!
いろんな意味で涙が出てきましたw (ATO)
>「えへへ〜! 横島くん〜、つ〜か〜ま〜え〜た〜♪」
>「うっ!? 可愛いッ…!?」
可愛いなんてレベルじゃない!!?めっさ萌えvvv (紅蓮)
鬼道はかなり好きなキャラ(の割りに扱い酷い)なので、とても嬉しいです!!
核砂糖さまへ:
自分でも熱ッ!とは思ったのですが、鬼道は原作でもそーゆーキャラっぽかったので(笑)
私も書いてるさなか、鬼道の名を絶叫したくなりました(爆)
R/Yさまへ:
ただ合唱するしかないですよねぇ…。
ほんと、鬼道には報われて欲しいものです。冥子じゃあ、とことん苦労するでしょうが…(汗)
ATOさまへ:
あなたも漢です。
その涙が、笑いか感動か、あるいは両方だと思いますが(笑)
感涙したあなたも、間違いなく最高の漢です。
紅蓮さまへ:
真面目な顔して、結局言ってることはズレてるんですよねぇ。(笑)
冥子に萌えていただき、ありがとうございます。
今回、会心の萌えポイントと自負しておりますので(爆) (詠夢)
しかし、お菓子の家とは……。そんなもん横島クンに頼むまでもないでしょうに……(笑)
お菓子の家とハーレムの狭間で犠牲になった鬼道。漢だけど、漢だけど不憫です。 (林原 悠)
もう、作者が書いててツボにきました。冥子ちゃん、可愛すぎです。
>お菓子の家とハーレムの狭間で犠牲になった鬼道。
…改めてこう考えると、ほんとに不憫(涙) (詠夢)
すべての熱い漢たちに幸あれ…Let’s 涙!!(笑) (詠夢)