パァンッ!! という軽快なクラッカーの音が、一斉に鳴り響く。
会場である美神所例事務所の大広間は、大勢の参加者で賑わっていた。
「横島くん、誕生日おめでとーっ!!」
美神の声とともに会場のあちこちから拍手や歓声が聞こえてくる。
そう。今日は横島忠夫の17歳の誕生日。そしてこれはその誕生パーティーなのである。
「みんな…っ!! 今日は、今日は俺のためにありがとーッ!!」
感動に涙しながら、どこぞのアイドルの引退ライブよろしくなノリで、横島は叫んでいた。
それもそのはず。
もともとデンジャーでサバイバーな家族に包まれた横島。
最近は一人暮らしのため、誰かに盛大に祝ってもらうということなどほとんどない。
しかも、参加者がほんの身内だけでなく、神界や魔界にいる知人たちまで来てくれているのだ。
感動しない方が人間として問題ありだ。
さらにと言っては何だが、あの美神でさえ機嫌よく祝ってくれているのだ。
横島にとっては天地がひっくり返って、再び『GS美神』がアニメ化するくらいの衝撃だったろう。
ちなみに、美神が機嫌がいいのはパーティー費用の負担がオカルトGメン(美知恵)もちということだからだ。
もともと、さほど冷血でもない美神のこと、機嫌よく祝うのは当然とも言えた。
……それにしても、神も悪魔もいる誕生パーティーの主役とは、何とも豪華なものである。
「これで、やっとアンタも17歳かぁ…。 卒業まであと一年だっけ?」
「はい!! 夢の18禁まであと一年ッス!!」
ワイングラスを傾けながら声をかけてきた美神に返した、横島の一言。
最低である。
「何をする気よ、何を…!」
「─どう? 楽しんでる?」
そこへ美神令子の母、美神美知恵が入ってきた。
美神も美知恵も色違いのドレスを着ているため、親子でなく姉妹のように見える。
「あ、はい隊長!! …ありがとうございます。こんなパーティー開いてもらって。」
「いいのよ、別に。……こんなことぐらいしか出来ないしね。」
美知恵の心境としては、アシュタロス戦でルシオラを失い、いまだ悲しみを抱えてる横島を元気付けたい気持ちがあった。
そのための罪滅ぼしの意味もあるのである。
「…充分ですよ。ただ…。」
横島はチラッと美知恵の隣を見る。
そこには、タキシードを着こなした西条輝彦がいた。
「なんでこのめでたい日に、お前の顔なんぞ見なきゃならんのだ。」
「君ねぇ…人がせっかく素直な気持ちで祝ってやろうと来てるのに、その言い方はないだろう?」
「冗談だよ。」
笑みを引きつらせる西条に、横島はにやりと笑ってみせる。
それを見てくすくす笑う美神親子だったが、美知恵がふと横島を見る。
「ところで横島くん。もうみんなに挨拶は済ませたの?」
「ええ、大体の人にはもう。」
とはいっても、タイガーや雪之丞は、カオスや厄珍とともに料理を食い漁り。
隣ではピートと唐巣神父が、神に感謝をしていた。また食糧難に陥っていたのだろう。
それを呆れた様子で、愛子が見ていたのは言うまでもない。
おキヌはクラスメイトの真理や弓たちと談笑していた。
シロやタマモは、パピリオと一緒にいろんなテーブルを渡り歩いたり、会場を走り回ったりしていた。
それぞれ、シロは骨付き肉。タマモはきつねうどん。パピリオは蜂蜜を求めて。
それを諌めていたのは、パピリオの姉のべスパと、現保護者である小竜姫。
ワルキューレとヒャクメは二人で、飲み比べのようなものをしていた。二人ともかなりの酒豪らしい。
魔鈴と小鳩は給仕の仕事があるため、会場を忙しそうに走り回っている。マリアはその助手だ。
斉天大聖老師と土偶羅魔具羅も来ていたが、気があったのか二人してちびちびと飲んでいる。
エミは冥子の子守を美神に押し付けられ、それをさらに鬼道になすりつけようと必死であった。
………あれ?
「……なんつーか、まともには挨拶できませんでしたけど…。」
ちょっとへこみ気味になってきた横島の肩を、ぽんぽんと美知恵に抱かれたひのめが叩く。
美神親子も西条でさえ、なんか同情の念がわいてきた。
「ただ、ジークの奴はみかけませんでしたけど…。」
「ああ、彼だったら私の頼みで、ビッグゲストを迎えに行ってるわ。」
「ビッグゲスト?」
横島が首を捻る。
美神も西条も不思議そうにしているということは、美知恵が勝手に仕組んだことなのだろう。
「ねぇ、ママ。誰なの、そのビッグゲストって?」
「何でも横島くんの誕生パーティーのことを知って、是非自分も顔を出したいそうよ。」
「ちょっと、ママ…?」
はぐらかす美知恵に美神が食いかかろうとしたとき、ジークが駆け寄ってきた。
「こんなところにいたんですか、美知恵さん。横島さんも。」
「ジークさん。もう準備は?」
「ええ。彼もいいそうです。……最初に聞かされたときは僕も驚きましたが。」
どこかげんなりした様子で、ジークは言った。
「あちらのステージのほうに控えておられますので、どうぞ。」
「あ、ああ。」
促されて、横島たちはステージの方に歩いていく。
やがて壇上に立った横島に全員の視線が向けられ、ジークが舞台袖に走っていく。
「…ご紹介します。どうぞ。」
ジークが扉を開けると、そこから一人の男が進み出てきた。
髪は金髪でさらさらと流れ、どこか子供っぽい顔立ちだが背はすらりとしており長身。
美少年ともいえる美形の男だった。
やがて、彼は横島の目の前に立つと、にこやかに横島の手を握って挨拶をする。
「やあ、はじめまして。君が横島忠夫くんだね? 僕は…」
「おい、ジーク。この美形さんはどこのタレントだ?」
あからさまに美形に対して敵意むきだしの横島だった。
その言葉に、ジークも苦笑するしかない。
だが、そのとき。会場のある場所でガタンと椅子を倒す音が聞こえた。
横島たちがそちらを見ると、ワルキューレが立ち上がって口をパクパクさせてる。
「どーした、ワルキューレ?」
怪訝に思い横島が尋ねるが、ワルキューレの驚愕の瞳は男から動かない。
やがて、ワルキューレの口から男の名前が飛び出す。
「ろ…ろ、ろ…ロキ様ァッ!?」
空白。
「何ィィィッ────!!?」
一同の絶叫が会場に響き渡るが、その当人はにこにこしたままだった。
「うん。そう。僕の名前は、ロキ。北欧の邪神…ロキ。」