・・・・・・・・・再び病院の屋上。
(どうすればいいのだろう・・・・・。正直ここの世界で生きていく自信は・・・・。)
自分を知ってる人などほとんど皆無。
一部はまだ生きているかも知れないが、どちらにせよもうこの世界には冥子はいない。
目が覚めた後、全ての事情を聞いた。
・・・・どうやら俺は長い間本の中に閉じ込められていたらしい。ほとんど記憶には無いが・・・。
そして長い年月を経て、ようやく表に出られた。おそらく本の魔力が尽きたと言う事だ。
しかし、こんな事になるのなら永遠に閉じ込めてもらった方がましだった。
(・・・・・何か方法は無いのかな・・・・・。過去に戻る・・・・とか。・・・・・いや駄目だ。)
過去に戻った所でもう一つ未来を作るだけだろう。どちらにしても自分は救われない。
何と言っても・・・・・戻る場所が無いのだから。
空をぼんやりと眺めると、雲が通り過ぎてゆく。形を変えながら右から左へ。
まるで自分の姿を表しているみたいだ。
「横島さん!!」
突然のありえない筈の掛け声。・・・・・幻聴か?
後ろを振り向くと・・・・・。
「ピート・・・・・・。」
「良かった・・・知らせを聞いて直ぐに駆けつけたんですよ。」
そこに居たのは過去の自分を繋ぐ人物。外見もほとんど変わっていない。
思わず目元が緩んだ。
「俺・・・・・どうしたらいいんだ。」
「横島さん・・・。お気持ちは察します。」
そんな慰めの言葉などなんの意味も成さない。せっかく旧友に会えたのだが気持ちが沈む。
「そんな言葉はいーんだ!!なんか俺を元に戻す方法は無いのか!?この世界にいても俺の居場所は無い!!・・・・・帰りたいんだよ元の所に!冥子の所に!!」
思わず大声が出る。たまっていたイライラを目の前の人物に吐き出した。
「そ・・・それは・・・無理です。ここはあなたにとって未来とはいえ、そんな技術はありません。仮に出来たとしても、そんな行為は認められないでしょう。・・・・すいません。」
ピートは困りきった顔をしている。本当にどうしようも無いのだろう。
・・・・もう一度空の方に顔を向ける。
ピートの顔を見ていると、どうしてもキツい事を言ってしまいそうだったからだ。
せっかく心配して来てくれた奴を悲しませるのもなんだし・・・。
見るとさっきまでの雲はどこかへ消えてしまっていた。そして新しい雲が流れて来ている。
「・・・なあ、ピート。」
「な、なんですか?」
何となく聞きたくなかった事を聞く事にした。
「・・・・・・・冥子はどうなったんだ。俺の居なくなった後・・・。」
「それは・・・・・・しばらくは姿は見せませんでした。その後は・・・僕には言えません。」
「・・・・・・・・・そっか。」
・・新しい雲もまたどこかへ消えてゆく。これを永遠に繰り返していくのだろう。
(俺もこうして消えて行ければいいのにな・・・・。)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
何かが頭の中に引っかかる。そして・・・・・
(消える!?いや・・・消すか!!例えば・・・・・・・この道を!!)
「ピート!!」
「は、はい!?」
身体が生き生きと動き出す。この方法なら・・・・・・。
「すまん!!もしかしたらお前消しちゃうかも知れん!!」
「は!?なんですか!?どーゆう意味で???」
急いで手の中に文珠を作成する。何日掛かるかわからないが・・・・。
(いくつ要るんだ・・・・・えー、何個か保険を賭けておきたいし・・・・。)
成功するかどうかはわからない。しかし時間はたくさんある。
何度か試せば可能性はわずかだがありそうだ。
「横島さん!?ちょっと説明して下さいよ。」
訳がわからないと言った様子でピートが尋ねてくる。
仕方なくその言葉の期待を答えてやった。
「この未来を消すんだよ!!何、道を一本切り取るだけだ!まあ気にすんな!」
「な!?何言ってるんですかーー!!!?」
「・・・・・・どいつもこいつもアリバイがあるじゃない。どこが容疑者なのよ!?」
屋敷の中でボムズが叫ぶ。それを何とかするのが探偵の仕事なんですが・・・。
「結局誰も怪しくない・・・・。てことは自殺でいいんじゃないスか・・。」
「あー、馬鹿らしい!!私を呼ぶ必要も無かったって事ね。」
二人に徒労感が溢れる。正直犯人なんてどーでもいいや的な・・・・。
「そ、それは困ります。ちゃんと自殺では無い事は証明されているんですから。」
警官の一人が慌てたように言う。
「そーは言ってもねえ・・・・・・誰かもう一人ぐらい死んでくんないかしら。」
不謹慎な発言だ・・・。
「ふあ〜〜〜〜、あれっ〜〜〜終わったの〜〜〜。」
その時冥子が気の抜けたあくびと共に目を覚ました。
「・・・あんたも少しは仕事しなさいよ。」
「え〜〜だって〜〜冥子良くわかんないし〜〜〜。」
そう言うと横島の方に擦り寄っていく。
「ね〜〜、タ〜〜くん。」
「・・・・・・・・。」
なんとなく覚めた空気がこの場を包む。
このまま事件は迷宮入りしてしまうのではないか。
・・・・・しかし!!ここで事件が急展開を見せるのである!!
「あら〜〜〜、タ〜くんこれ何〜〜〜?」
「へっ?」
冥子が横島のポケットの中を探る。
「こ、こら!!冥子!?こんな所で!??あ・・・・・。」
「何してんのよ!!あんた達!!?」
突然の行動に場は色めき立つ。まさかここで・・・・!?
「・・・・・えっ?」
「はっ・・・・?」
「何!?」
・・・・冥子がポケットから取り出したもの・・・・それは・・・
血のついた・・・・ナイフ。
「ええっーーーーー!?ちょ、ちょっと待ったーー!!違うーー!!俺は違うんだーー!!」
「言い逃れは出来ないわね!!すっかり騙されたわ!!まさかこっち側に犯人が居たなんて!!」
(な、なんでじゃー!?まさかこれが真相だとでもゆーのか!?)
すっかり取り乱す横島。周りの視線はすっかりこちらに集まっている。
(い、いかん!?このままでは・・・・・・はっ・・・・!?)
その時横島はボムズの目が輝くのを見た。
(ま、まさか・・・探偵が犯人!?一番やばいパターンやないかーー!!!)
「ターくん〜〜〜・・・・・。」
「め、冥子、その視線は!?まさか夫を疑って!?」
「取り押さえなさい!!!」
警察が横島の身体を取り押さえる!!
「ち、違うーーーー!!!これは罠なんだーーー!!!」
「犯人はみんなそーゆうのよ!!!あんたもわかってるでしょう。」
そう言ったボムズの顔は口元が緩んでいる。
笑いがこらえきれないといった感じだ。
「ちくしょーーーー!!!!」
横島の声が部屋中に響き渡った。そして全てが終わった瞬間である。
後はエピローグを残すのみ・・・・・・。
(だ、駄目だったのか!?このまま俺と冥子は本の中に・・・・・。)
「これで三つ・・・・・駄目か。」
「・・・やっぱり無理なんですよ。横島さん・・・・あきらめて下さい。」
ピートの霊力を借りて文珠を作り続ける横島。
ここまで三個の文殊を過去に送り込んでいた。
自分で過去に行くのはまずいが、これぐらいなら別の世界は出来ないのではないか。
そう考えて始めた行為だったが・・・・。
(・・・・無理なのか?これ以上送っても無駄かも知れん・・・。)
・・・最初の一個は「注」。なるべく影響の出なさそうな字にした。
注意しろって意味で送ったつもりだけど・・・・遠まわしすぎたかな。
次は二つ同時に送った。「気」と「憶」。そのままの意味だ。
かなり危険かなと思ったけど・・・駄目だったらしい。
・・このまま次々に送っていったら、それこそパラレルワールドを作ってしまうかも知れない・・・。
(・・・・・後一つだけ・・・・送ろう。これで駄目なら・・・諦める。)
・・・・最後の文字を込める。そして・・・・これで自分の運命が決まる。
(頼むぜ・・・・・横島忠夫・・・・・!!)
横島の手の中が光りだす。・・・最後の文字は自分らしい文字を打ち込んだ。
これで駄目なら、決心もつく。
・・・・・・・そして世界が歪み始めた。
「ちくしょーーーー!!!!」
横島の声が部屋中に響き渡った。そして全てが終わった瞬間である。
(駄目なのか!?このまま俺と冥子は本の中に・・・・・ん?)
突然、口の中に何かが飛び込んで来た!!思わずそれを飲み込んでしまう。
(な・・・なんだこれ・・・・・・・・・・ぶっ!!!)
ぴかーーーーーーーーっ!!
「・・・・・えーーい!!邪魔じゃお前ら!!」
横島が一喝すると周りの警官が吹き飛ぶ!
「な、何!?」
「ターくん!!!」
「・・・・・・・ボムズさーーーーん!!!!ついでに冥子!!!!!!」
横島がボムズと冥子に飛びかかる!!明らかに目がおかしい。
「きゃーーーーー!!!」
「た〜くん、ついでにってど〜ゆう事〜〜〜〜!!!」
横島の腹の中で一つの文字が輝いている。
「邪」よこしま。
・・・・・・・彼は今必要以上に力が溢れかえっていた。
「二人とも俺のもんじゃーーー!!!」
「何すんのよこのアホは!!!」
「た〜〜くん!!!」
その時ボムズのポケットから何かが落ちる。
ぱさっ!!
「ん・・・・、これは。」
一人の警官がそれを拾い上げた。
それは・・・・・・、札束であった。
「ああっ!!ちょっと返しなさいよ!!」
ボムズがその札束を奪い取る。
「・・・・・あなたこの屋敷から一億程、金が消えてるの知ってます?」
警官がポツリと呟く。
「な、何言ってるの。これは私の・・・・」
「明条(あきじょう)警部!!」
警官の声と共にさっきまでタクシー運転手だった男が立ち上がる。
「ふっふっふっ・・・ついに掴んだよ証拠を・・・ボムズ君。いや・・・怪人二面相と言うべきかな。その札束の指紋を調べさせてもらおうか。取り押さえろ!!!!」
「きゃーー!!!!嘘ーー!!!卑怯よこんなのーーー!!!!」
警官がボムズを取り囲んで連行して行く。
気づけば取り残された横島と冥子。訳も分からずぼーっと突っ立っていた。
「なんか知らんが・・・・・・助かったのかな。」
「た〜くん私は信じてたわ〜〜。」
冥子が横島の腕にしがみついて来る。
暖かい感触が横島を包み込んでいった。
(・・・・・女は嘘つきだ。しかし・・・・・騙されてやるのも男の甲斐性である!!!!)
「冥子ーーーーー!!!!!!」
「きゃ〜〜〜〜!!!!!!」
・・・・・・相変わらずのいつもの二人がそこにいた。
この屋敷の事件は幕を閉じたのである。
めでたし、めでたし。
ぱしゅーーーーーーーっ!!!!!
・・・・・・光りと共に二人はその場所から消えていく。
そして・・・気づけばそこはいつもの世界だった。文字の中では無い現実の世界。
「冥子!!忠夫君!!・・・・良かった。」
父親がその姿を迎える。その顔は笑顔に溢れていた。
・・・・・・・現実は続いていく、未来と過去を繋いで一本の線を形作る。
・・・ここに消えた未来がある。そこにいた男は無事に戻る事が出来たのだろうか?
・・・・誰もその結末はわからない。証拠は一つも残っていないから。
物語はエピローグへと・・・・・・進む。
つづく。
とりあえず次で完結です。
こんな作品で良かったらご意見お願いします。 (cymbal)
何やらふたつの世界が交錯しているような感じはしましたが、その接点が見えてきませんし。
真相を後に持ち越すにしてももうちょっとは推測の余地があった方がいいかも知れませんね。 (林原悠)
大失敗でした。この作品を読んでくれていた方には申し訳ないです。
長々と続けたく無かったというのが本音でした。
故に一気に詰め込んでしまったのが失敗の元だと思います。(そして力不足)
コメントありがとうございました。 (cymbal)