椎名作品二次創作小説投稿広場


文字

結果


投稿者名:cymbal
投稿日時:04/ 3/23

・・・・・・・・・再び病院の屋上。


(どうすればいいのだろう・・・・・。正直ここの世界で生きていく自信は・・・・。)


自分を知ってる人などほとんど皆無。
一部はまだ生きているかも知れないが、どちらにせよもうこの世界には冥子はいない。



目が覚めた後、全ての事情を聞いた。
・・・・どうやら俺は長い間本の中に閉じ込められていたらしい。ほとんど記憶には無いが・・・。


そして長い年月を経て、ようやく表に出られた。おそらく本の魔力が尽きたと言う事だ。
しかし、こんな事になるのなら永遠に閉じ込めてもらった方がましだった。





(・・・・・何か方法は無いのかな・・・・・。過去に戻る・・・・とか。・・・・・いや駄目だ。)

過去に戻った所でもう一つ未来を作るだけだろう。どちらにしても自分は救われない。
何と言っても・・・・・戻る場所が無いのだから。



空をぼんやりと眺めると、雲が通り過ぎてゆく。形を変えながら右から左へ。
まるで自分の姿を表しているみたいだ。



「横島さん!!」



突然のありえない筈の掛け声。・・・・・幻聴か?
後ろを振り向くと・・・・・。



「ピート・・・・・・。」
「良かった・・・知らせを聞いて直ぐに駆けつけたんですよ。」



そこに居たのは過去の自分を繋ぐ人物。外見もほとんど変わっていない。
思わず目元が緩んだ。


「俺・・・・・どうしたらいいんだ。」
「横島さん・・・。お気持ちは察します。」


そんな慰めの言葉などなんの意味も成さない。せっかく旧友に会えたのだが気持ちが沈む。


「そんな言葉はいーんだ!!なんか俺を元に戻す方法は無いのか!?この世界にいても俺の居場所は無い!!・・・・・帰りたいんだよ元の所に!冥子の所に!!」


思わず大声が出る。たまっていたイライラを目の前の人物に吐き出した。


「そ・・・それは・・・無理です。ここはあなたにとって未来とはいえ、そんな技術はありません。仮に出来たとしても、そんな行為は認められないでしょう。・・・・すいません。」


ピートは困りきった顔をしている。本当にどうしようも無いのだろう。


・・・・もう一度空の方に顔を向ける。
ピートの顔を見ていると、どうしてもキツい事を言ってしまいそうだったからだ。
せっかく心配して来てくれた奴を悲しませるのもなんだし・・・。


見るとさっきまでの雲はどこかへ消えてしまっていた。そして新しい雲が流れて来ている。


「・・・なあ、ピート。」
「な、なんですか?」


何となく聞きたくなかった事を聞く事にした。



「・・・・・・・冥子はどうなったんだ。俺の居なくなった後・・・。」


「それは・・・・・・しばらくは姿は見せませんでした。その後は・・・僕には言えません。」


「・・・・・・・・・そっか。」





・・新しい雲もまたどこかへ消えてゆく。これを永遠に繰り返していくのだろう。



(俺もこうして消えて行ければいいのにな・・・・。)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
何かが頭の中に引っかかる。そして・・・・・



(消える!?いや・・・消すか!!例えば・・・・・・・この道を!!)





「ピート!!」
「は、はい!?」


身体が生き生きと動き出す。この方法なら・・・・・・。


「すまん!!もしかしたらお前消しちゃうかも知れん!!」
「は!?なんですか!?どーゆう意味で???」


急いで手の中に文珠を作成する。何日掛かるかわからないが・・・・。


(いくつ要るんだ・・・・・えー、何個か保険を賭けておきたいし・・・・。)


成功するかどうかはわからない。しかし時間はたくさんある。
何度か試せば可能性はわずかだがありそうだ。


「横島さん!?ちょっと説明して下さいよ。」

訳がわからないと言った様子でピートが尋ねてくる。
仕方なくその言葉の期待を答えてやった。


「この未来を消すんだよ!!何、道を一本切り取るだけだ!まあ気にすんな!」
「な!?何言ってるんですかーー!!!?」










「・・・・・・どいつもこいつもアリバイがあるじゃない。どこが容疑者なのよ!?」
屋敷の中でボムズが叫ぶ。それを何とかするのが探偵の仕事なんですが・・・。


「結局誰も怪しくない・・・・。てことは自殺でいいんじゃないスか・・。」
「あー、馬鹿らしい!!私を呼ぶ必要も無かったって事ね。」


二人に徒労感が溢れる。正直犯人なんてどーでもいいや的な・・・・。

「そ、それは困ります。ちゃんと自殺では無い事は証明されているんですから。」

警官の一人が慌てたように言う。

「そーは言ってもねえ・・・・・・誰かもう一人ぐらい死んでくんないかしら。」

不謹慎な発言だ・・・。


「ふあ〜〜〜〜、あれっ〜〜〜終わったの〜〜〜。」


その時冥子が気の抜けたあくびと共に目を覚ました。


「・・・あんたも少しは仕事しなさいよ。」
「え〜〜だって〜〜冥子良くわかんないし〜〜〜。」


そう言うと横島の方に擦り寄っていく。


「ね〜〜、タ〜〜くん。」
「・・・・・・・・。」


なんとなく覚めた空気がこの場を包む。
このまま事件は迷宮入りしてしまうのではないか。



・・・・・しかし!!ここで事件が急展開を見せるのである!!


「あら〜〜〜、タ〜くんこれ何〜〜〜?」
「へっ?」


冥子が横島のポケットの中を探る。

「こ、こら!!冥子!?こんな所で!??あ・・・・・。」
「何してんのよ!!あんた達!!?」

突然の行動に場は色めき立つ。まさかここで・・・・!?


「・・・・・えっ?」
「はっ・・・・?」
「何!?」


・・・・冥子がポケットから取り出したもの・・・・それは・・・

血のついた・・・・ナイフ。

「ええっーーーーー!?ちょ、ちょっと待ったーー!!違うーー!!俺は違うんだーー!!」
「言い逃れは出来ないわね!!すっかり騙されたわ!!まさかこっち側に犯人が居たなんて!!」

(な、なんでじゃー!?まさかこれが真相だとでもゆーのか!?)


すっかり取り乱す横島。周りの視線はすっかりこちらに集まっている。


(い、いかん!?このままでは・・・・・・はっ・・・・!?)


その時横島はボムズの目が輝くのを見た。


(ま、まさか・・・探偵が犯人!?一番やばいパターンやないかーー!!!)


「ターくん〜〜〜・・・・・。」
「め、冥子、その視線は!?まさか夫を疑って!?」

「取り押さえなさい!!!」


警察が横島の身体を取り押さえる!!


「ち、違うーーーー!!!これは罠なんだーーー!!!」
「犯人はみんなそーゆうのよ!!!あんたもわかってるでしょう。」


そう言ったボムズの顔は口元が緩んでいる。
笑いがこらえきれないといった感じだ。

「ちくしょーーーー!!!!」

横島の声が部屋中に響き渡った。そして全てが終わった瞬間である。
後はエピローグを残すのみ・・・・・・。

(だ、駄目だったのか!?このまま俺と冥子は本の中に・・・・・。)










「これで三つ・・・・・駄目か。」
「・・・やっぱり無理なんですよ。横島さん・・・・あきらめて下さい。」


ピートの霊力を借りて文珠を作り続ける横島。
ここまで三個の文殊を過去に送り込んでいた。


自分で過去に行くのはまずいが、これぐらいなら別の世界は出来ないのではないか。
そう考えて始めた行為だったが・・・・。


(・・・・無理なのか?これ以上送っても無駄かも知れん・・・。)


・・・最初の一個は「注」。なるべく影響の出なさそうな字にした。
注意しろって意味で送ったつもりだけど・・・・遠まわしすぎたかな。


次は二つ同時に送った。「気」と「憶」。そのままの意味だ。
かなり危険かなと思ったけど・・・駄目だったらしい。


・・このまま次々に送っていったら、それこそパラレルワールドを作ってしまうかも知れない・・・。


(・・・・・後一つだけ・・・・送ろう。これで駄目なら・・・諦める。)


・・・・最後の文字を込める。そして・・・・これで自分の運命が決まる。


(頼むぜ・・・・・横島忠夫・・・・・!!)


横島の手の中が光りだす。・・・最後の文字は自分らしい文字を打ち込んだ。
これで駄目なら、決心もつく。


・・・・・・・そして世界が歪み始めた。










「ちくしょーーーー!!!!」

横島の声が部屋中に響き渡った。そして全てが終わった瞬間である。


(駄目なのか!?このまま俺と冥子は本の中に・・・・・ん?)


突然、口の中に何かが飛び込んで来た!!思わずそれを飲み込んでしまう。


(な・・・なんだこれ・・・・・・・・・・ぶっ!!!)




ぴかーーーーーーーーっ!!




「・・・・・えーーい!!邪魔じゃお前ら!!」

横島が一喝すると周りの警官が吹き飛ぶ!


「な、何!?」
「ターくん!!!」

「・・・・・・・ボムズさーーーーん!!!!ついでに冥子!!!!!!」


横島がボムズと冥子に飛びかかる!!明らかに目がおかしい。


「きゃーーーーー!!!」
「た〜くん、ついでにってど〜ゆう事〜〜〜〜!!!」


横島の腹の中で一つの文字が輝いている。


「邪」よこしま。


・・・・・・・彼は今必要以上に力が溢れかえっていた。


「二人とも俺のもんじゃーーー!!!」
「何すんのよこのアホは!!!」
「た〜〜くん!!!」


その時ボムズのポケットから何かが落ちる。


ぱさっ!!


「ん・・・・、これは。」

一人の警官がそれを拾い上げた。

それは・・・・・・、札束であった。


「ああっ!!ちょっと返しなさいよ!!」


ボムズがその札束を奪い取る。

「・・・・・あなたこの屋敷から一億程、金が消えてるの知ってます?」

警官がポツリと呟く。

「な、何言ってるの。これは私の・・・・」
「明条(あきじょう)警部!!」

警官の声と共にさっきまでタクシー運転手だった男が立ち上がる。

「ふっふっふっ・・・ついに掴んだよ証拠を・・・ボムズ君。いや・・・怪人二面相と言うべきかな。その札束の指紋を調べさせてもらおうか。取り押さえろ!!!!」
「きゃーー!!!!嘘ーー!!!卑怯よこんなのーーー!!!!」

警官がボムズを取り囲んで連行して行く。



気づけば取り残された横島と冥子。訳も分からずぼーっと突っ立っていた。


「なんか知らんが・・・・・・助かったのかな。」
「た〜くん私は信じてたわ〜〜。」


冥子が横島の腕にしがみついて来る。
暖かい感触が横島を包み込んでいった。

(・・・・・女は嘘つきだ。しかし・・・・・騙されてやるのも男の甲斐性である!!!!)


「冥子ーーーーー!!!!!!」
「きゃ〜〜〜〜!!!!!!」


・・・・・・相変わらずのいつもの二人がそこにいた。
この屋敷の事件は幕を閉じたのである。



めでたし、めでたし。





ぱしゅーーーーーーーっ!!!!!





・・・・・・光りと共に二人はその場所から消えていく。




そして・・・気づけばそこはいつもの世界だった。文字の中では無い現実の世界。

「冥子!!忠夫君!!・・・・良かった。」

父親がその姿を迎える。その顔は笑顔に溢れていた。


・・・・・・・現実は続いていく、未来と過去を繋いで一本の線を形作る。

・・・ここに消えた未来がある。そこにいた男は無事に戻る事が出来たのだろうか?

・・・・誰もその結末はわからない。証拠は一つも残っていないから。

物語はエピローグへと・・・・・・進む。

つづく。


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