椎名作品二次創作小説投稿広場


残像。

決別。そのいち


投稿者名:hazuki
投稿日時:03/ 5/ 7









守れると、信じていたんだ。


















目の前で血に濡れて倒れているひとがいる。

それは他の誰でもない、自分の母親で、その姿は間違え様もないのに、なにかの間違えであってほしいと思った。

単なる勘違いだと。

目の錯覚だと。

けれど、つんと鼻につく血液どくどくの匂いや、さび付いた空気の感触、そしてそのひとの存在が全てを本当だと教えてくれる。


心臓のおとがヤケに大きく聞こえる。

手足の感覚が、ない。

やけに、喉がかわく。


「ままっ」

叫んでいるはずなのに、その呼ぶ声は驚くほど力ない。

震える足を懸命に動かし、何度もつんのめりながら、誰より大切なひとのところへと、いく。

ぱしゃん

と生暖かい血溜まりの上に膝をつき、母親をかかえよるとするが、ずるりと血が、腕をすべり、うまく抱えきれない。

「………まま」

搾り出すような、声。

まだ、身体はあたたかい。

生きている。

死んでない。

助けけるんだ。


「絶対に、助ける」

ぐっと、唇を結び雪之丞。


血溜まりのなか、膝をつき、母親を背負おうとする。



雪之丞は発育が遅く、標準以下の体型と体力しかもっていない。

そんな子供に、女性とは言えオトナの人間、しかも意識を失った人間を抱えきれるわけもなくばしゃん、とその場に倒れこむ。


床に倒れこみ、全身に血が付着する。

ぜえぜえと肩で呼吸を繰り返しながら、床に手をつき、そしてまた背負おうとする。


背負えたとしても、進めるわけがないのに。


「……………なんで」


雪之丞は、頬を涙で濡らしながらその言葉を繰り返した。

なんで、自分はこんなに非力なのだろうか?

大切な人が死にそうなのに、助ける事もできない。

護るどころか、護られる事しか、できない。



「ちきしょお」


もっと、この腕の力が強かったら。

もっと、この足が早く歩く事ができたら。

もっと、ちからが、あったら。



守れたのに。


それでも、懸命に震える足で前に進む。

ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返しながら、前に進む。


ここから、一番近い病院は距離にして約五キロ。

この辺には公衆電話もなければ、雪之丞自体も、小銭(金銭自体)を持っていない。

更には、住宅街を離れているため民家自体がない。

だから、人目のつくところまで背負って運ばないと。

そうしたら、誰か救急車をよんでくれる。



そして、病院に、いけばきっとこんな傷、治るから、ぜったいに治るから。


それだけを、思い雪之丞は足を進めた。



つづく


今までの評価: コメント:

この作品はどうですか?(A〜Eの5段階評価で) A B C D E 評価不能 保留(コメントのみ)

この作品にコメントがありましたらどうぞ:
(投稿者によるコメント投稿はこちら

トップに戻る | サブタイトル一覧へ
Copyright(c) by 溶解ほたりぃHG
saturnus@kcn.ne.jp