椎名作品二次創作小説投稿広場


残像。

静寂そのさん


投稿者名:hazuki
投稿日時:03/ 1/ 9

もう、使われる事もなくなって久しい、廃倉庫。

本来は溢れるほどの荷物を置く場所のはずなのに、何も置かれてない様は、どこかもの悲しい。

屋根の部分はところどころ破れており、そこから入ってくる月明かりのせいか、周りは良く見える。

隅に溜まった埃や、錆びてぼろぼろになった、階段の手すり。

傾きかけたドア。

もう、何年も使われていないのであろう。

女性は、軋むドアを、無理やり動かし倉庫の内部に入っていった。


きょろきょろと、あたりを見回す。


そして、誰も居ない事を確認するとほっと、息をつき、安心したかのように笑う。

あたりには何の音もしない。

聞こえるのは自分の呼吸の音だけ。

女性は、まるで祈るかのように、そうっと瞳を閉じた。

瞼の裏にうつるのは、ひとりの女性。

自分に、最愛の子供を最後に預けてくれた、ひと。

たったひとりの、大切なともだち。

雪之丞に似た、だけどそれよりもっと柔らかく澄んだ瞳の女性。


 だらりと、両腕をたらす。


この血を憎んでいた自分に、こともなげに笑って言ってくれたのだ。



 両手に霊力を込め、小さな刃物状にし、ざくりと、肩に、突き刺す。


『そんなの、身体を構成してる一部分じゃない?』と



 右手の、一指し指を、血で濡らす。


嬉しかった。
ほんとうに、嬉しかった。
なによりも、忌み嫌うこの血を、そんなふうにいってくれたのが。


 左手で印を、結ぶ。


たった、それだけと言ってくれたのが、嬉しかった。
そして、今、やっと自分も、すきだと言える。
この血を。


だって、守れるのだから。


 血に濡れた指で、真言、自分達にだけに許された、ものを両腕に書く。


この血で、誰よりも、愛しい子を。





男が、そこにたどり着いた時、既に女性は、いた。

月に照らされた女性は、ひどく静かであるのに。

両腕には、赤い呪をつかせ床には、血を落とし、その姿はさながら鬼を思わせる。

「ああ、そおゆう一族でしたね、アナタは」

男はなにか、思い出したかのように、言う。

「忘れてたの?」
もうボケてんじゃないのと笑いながら女性。

と、その瞬間

忘れてませんよ
との声と共に、男は女性の後ろにいた。

女性は反応しきれない。

くっと、身体をねじりよけようとするが、もう、遅い。

ぶしゅっと

肉をたつ、独特の音がする。

血が、床に散らばる。

が、女性は笑っている。

肩を手刀で貫かれたのに、その痛みすら感じていないかのように。

「忘れてるわよ?わたしがどんな、一族の末裔かって」

むしろ、悪戯の成功した、子供のよーに、笑っていた。

つづく


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