がしゃん─
何か、─おそらく窓のガラスが割れた音であろう─で雪之丞の意識が引き上げられた。
次いで知覚されるのは、かすかに、聞こえる風の音と鼻をつく独特の匂い。
瞬間─がばっと雪之丞はタオルケットを跳ね除け立ち上がった。
空はまだ、闇色の帳が落ちており、月も高い位置にある。
太陽は未だ、遠い東の空の向こうにあるだろう。
すなわち、今は朝というには未だ遠い─真夜中なのである。
幸い月明かりのせいか明るい、部屋のなかを雪之丞は見回す。
部屋には、人の気配も人以外の気配も、感じない。
ぐるりと視線を動かすと、割れたグラスに、零れたウイスキーの雫、そして、空の瓶。
そして、赤い染み─血痕。
(まさか…)
それを見た瞬間、かくかくと、身体が震えた。
意識しないままに、最悪の事態が脳裏をよぎったのだ。
それは【あり得ない】ことではないのだから。
じわじわと背筋に、得たいのしれないもの─恐怖がはいあがってくる。
(確かめないと、絶対、ママは無事に決まってるけど、─確かめないと)
点々と、血痕は外へと続いている。
雪之丞は、恐怖を振り払うかのようにぱしんっと自分の頬をたたき、裸足のまま、その血痕に向かっていった。
月明かりのした、アスファルトの地面を雪之丞は、走っていた。
息をきらし、むきだしの足は小石や小さな破片に傷つけられ血をながしている。
痛みに、顔をしかめながら、それでも、雪之丞は速度をゆるめることなく走っていた。
雪之丞を、今突き動かしているのは、たったひとりの【生きている大切なママ】のことである。
ダイジョウブ、ダイジョウブだと自分に言い聞かせて。
いままで、何度も、何度も、数を数えるのが億劫になるほど、襲われた。
だけど、ちゃんと自分達は生き延びてきたのだ。
─母親に守られながら。
意地悪で、子憎たらしくて、口やかましいのに、命のかかった場面ではいつも、自分自身よりも雪之丞を優先させてきたのだ。
「大丈夫だから」
と口癖のようにいい。守ってくれる。
それが嫌で、守られているだけの、自分が嫌でもっと強くなりたくて。
だから、嬉しかったのだ。自分にちからがあると知って。
それは、まだ小さいもので、護れるほど、おおきなものではないけれど、いつか守ってあげたくて。
そして、笑って欲しかったのだ。
そうして、何分たっただろうか?
もう使われなくなったであろう、倉庫に、雪之丞がたどりついた時、目の前に広がっていたのは、最悪の光景だった。
つづく
でも…続きがこれって……いいのかなあうち(汗)つーか誰か文才ください(涙 (hazuki)
痛い、と言っても、足が痛そうとかそういうのでなくて(実際痛そうだなぁと思いますが(汗)) (NGK)