『ローラーボール』:2002、アメリカ

監督とケンカしてチームを辞めたNHL選手ジョナサン・クロスは、公道でローラーボードを使った賭けに勝つが、警察に追われる。彼を救ったのは、友人マーカス・リドリーだった。リドリーは新しいスポーツ“ローラーボール”の選手で、ジョナサンを誘いに来たのだ。
ジョナサンはNHLチームのテストを受けることが決まっており、さらにローラーボールをサーカスのような見世物としか考えていなかったため、リドリーの誘いを断った。しかしリドリーと別れたジョナサンは、自宅を警官が取り囲んでいる様子を目撃する。
4ヶ月後、ジョナサンはローラーボールのチーム“レッド・ホースメン”のスター選手となっていた。ローラーボールとは、インラインスケートの選手とバイクに乗った選手がチームを組み、鋼鉄のボールを奪い合ってゴールを決めるゲームだ。プロモーターのペドロヴィッチは右腕サンジェイと共に、世界各国のテレビ局に放映権を売り込んでいる。
ジョナサンはキャプテンのリドリーやチームメイトのオーロラ、デネキン、カーチャらと共に、ゴールデン・ホルドを始めとする敵チームと戦っている。彼はワンマンプレーが多いが、人気は高い。オーロラとは恋人同士だが、それは周囲には秘密だ。
その日の試合で、レッド・ホースメンの選手トーバがゴールデン・ホルドの攻撃を受けて重傷を負った。試合後、ジョナサンはデネキンから、アゴヒモの部分が切られたトーバのヘルメットを見せられる。あれは事故ではなく、仕組まれたものだったのだ。
ジョナサンは賭博組織の関与を疑い、ペドロヴィッチに報告した。しかしジョナサンはオーロラから、ペトロヴィッチが事前に知っていたことを聞かされる。オーロラはテレビ番組関係者セルゲイから、その情報を聞き出していたのだ。ジョナサンはオーロラと共にセルゲイに会いに行こうとするが、彼は何者かに殺害されてしまう。
ペトロヴィッチは視聴率を稼ぐため、次の試合でも事故を演出する。命の危険を感じたジョナサンは、リドリーと共に逃亡を試みる。しかしジョナサンは捕まり、リドリーは死亡した。ジョナサンはオーロラを移籍させることを条件に、決勝戦への参加を承諾した。しかし試合当日、オーロラはジョナサンが戦うチームに移籍させられていた…。

監督はジョン・マクティアナン、原作&オリジナル版脚本はウィリアム・ハリソン、脚本はラリー・ファーガソン&ジョン・ポーグ、製作はチャールズ・ローヴェン&ボー・セント・クレア&ジョン・マクティアナン、製作総指揮はマイケル・タドロス、撮影はスティーヴ・メイソン、編集はジョン・ライト、美術はノーマン・ガーウッド&デニス・ブラッドフォード、衣装はケイト・ハリントン、視覚効果監修はジョン・サリヴァン、音楽はエリック・セラ。
出演はクリス・クライン、ジャン・レノ、LL・クール・J、レベッカ・ローミン=ステイモス、ナヴィーン・アンドリュース、オレッグ・タクタロフ、デヴィッド・ヘンブレン、ポール・ヘイマン、ジャネット・ライト、アンドリュー・ブリニアースキー、カタ・ドボ、アリス・プーン、ルシア・ライカー、メリッサ・スタッブス、ポール・ウー、ヨランダ・ヒューズ=ヘイング、ジェイ・メイヒン、サイモン・ギラード他。


1975年にジェームズ・カーン主演で作られた同名映画をリメイクした作品。
ジョナサンをクリス・クライン、ペトロヴィッチをジャン・レノ、リドリーをLL・クール・J、オーロラをレベッカ・ローミン=ステイモス、サンジェイをナヴィーン・アンドリュース、デネキンをオレッグ・タクタロフ、英語のアナウンサーをポール・ヘイマンが演じている。
他に、ミュージシャンのピンクやスリップノット、ハッサン・ハクモウン、ジャムシード・シャリフィらが本人役で、プロレス団体WWEのシェーン・マクマホンがスポンサー役で、フジテレビの伊藤利尋アナが日本のアナウンサー役で出演している。

ローラーボールの選手達は、みんなプレーする様子がカッコ良くない。キレのあるアクションを見せられる役者がいないため、カットを細かく切り替えることでスピード感や迫力を出そうとしているのだろうが、そもそも架空のゲーム(つまり観客は馴染みが無い)を扱っているため、何がどうなっているのか良く分からない状態になっている。
そもそも最初の試合シーンからして、監督はゲームの面白さや迫力よりも、テレビ中継の関係者の動きや、CMを強引に挿入するやり方など、視聴率稼ぎに躍起になっいることをアピールすることに気を取られ、そっちだけで精一杯になっている。

のっけから、ジョナサンはオツムの悪さを見せ付ける。「NHLの他のチームのテストが決まっている」と彼は言うのだが、あれだけ公道で派手に暴れたら警察にマークされるのは当然だし、そんな奴を雇うチームがあるはずも無い。ホントにNHLのテストを受ける気があったのか。
ジョナサンは、「甘いマスクで人気のルーキー」ではあるかもしれない。しかし、皆を引っ張って行くリーダーシップやカリスマ性、ワイルドな魅力には欠けている。というか、何よりも頭が悪すぎる。だから前半のアーパーに戦っている間はともかく、後半の「巨悪に立ち向かい、人々の扇動者となる」という役割は、彼では不適格だ。

そんなアホのジョナサンが「サーカスみたいな見世物」と解釈しているぐらいだから、たぶん大勢の視聴者は、ローラーボールが演出されたゲームだと思っているだろう。
だからペトロヴィッチの工作は、真剣勝負に不正があったことが問題なのではない。見世物なのだから、面白くするための演出はあって当然なのである。
見方としては、「プロレスが殺伐とした殺し合いになっている」ということになる。
なぜヤバい事故が起きるように工作を仕掛けるかというと、テレビの視聴率をアップさせたいからだ。

ペトロヴィッチは放映権の売り込みに必死だが、どうやら人気は低迷しているようだ。実際、ローラーボールという競技は、ルールも不鮮明だし、演出もイマイチだ。皮肉な話だが、「視聴率が落ちている」ということにおける説得力だけは充分にある。
「巨悪に立ち向かい」と前述したが、そんなに巨悪でもない。せいぜい、ドサ回り団体の親分という程度だ。ペトロヴィッチは政府の陰謀などに関与しているわけではなく、放映権売り込みと視聴率稼ぎのために悪戦苦闘しているだけの哀れな男である。

ジョナサンは逃亡を図るが、ビビりすぎだろう。彼はスター選手であり、視聴率稼ぎを考えるペトロヴィッチが事故を仕掛けて彼を傷付けることは考えにくい。スターを失えば、視聴率が下がるのは明白だからだ(まあ結局は愚かにもジョナサンを殺そうとしているが)。ジョナサンが逃亡を考えるほど、彼は追い込まれていないし、そこに緊迫感も無い。
放映権の売り込みに苦戦するペトロヴィッチは、視聴率を稼ぐためにルール無用にしてしまう。そんなことをしたら、その回の視聴率は上がるかもしれないが、その場凌ぎに過ぎない。むしろ長期的に考えると、すぐダメになるのは目に見えている。

例えばカーレースで、たまに起きる事故のシーンは視聴率が上がるかもしれないが、事故を目当てに毎回のレースを見る視聴者が増えるだろうか。そうではなく、大抵の視聴者は、定められたルールの中での面白い勝負を望むだろう。で、そんな愚かな工作ばかりに安易に走る奴がボスなのだから、人気がイマイチなのは当然だ。
本当に人気向上を目指すなら、決勝戦で急にオーロラをライバルチームに移籍させるとか、スター選手のジョナサンを殺そうとするとか、そんなの愚の骨頂だろう。ジョナサンが消えてしまったら、代わりを務めるスター選手は誰もいないんだぞ。

スターに対するヒールも必要だろうに、敵チームでキャラ立ちしている奴は皆無。
決勝戦では、試合直前にルールが変更される。
崩壊寸前のインディーズ団体の如く、完全に迷走している。
とりあえずペトロヴィッチには、有能な演出家を雇えと言いたくなる。


第23回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低助演女優賞[レベッカ・ローミン=ステイモス]


第25回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪の演出センス】部門[ジョン・マクティアナン]
受賞:【最悪のリメイク】部門
受賞:【最悪のインチキな言葉づかい(女性)】部門[レベッカ・ローミン=ステイモス]
<*『ファム・ファタール』『ローラーボール』の2作での受賞>

ノミネート:【最悪の主演女優】部門[レベッカ・ローミン=ステイモス]
<*『ファム・ファタール』『ローラーボール』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会