『ロッキー&ブルウィンクル』:2000、アメリカ&ドイツ

1964年、5年間に渡って放送されていた『ロッキー&ブルウィンクル・ショー』がお休みに入った。それから35年後、相変わらず番組は お休みのままだ。ロッキーとブルウィンクルが住むミネソタ州フロストバイトフォールズは、かつては活気のあるアニメの街だった。だが、 今や映画館は再上映ばかりで廃れ、森も滝も環境破壊で汚染されている。
『ロッキー&ブルウィンクル・ショー』のナレーターは職を失い、母の家に転がり込んだ。ロッキーとブルウィンクルはTVショーの 再放送で貰える小切手を頼りに細々と暮らしている。一方、旧ソ連の衛星国ポッチルヴァニア(pottsylvania)では、ロッキー& ブルウィンクルのライバルであるフィアレス・リーダーと手下のボリス&ナターシャが地下に潜り、ある作戦を練っていた。それは、 アニメの中から現実の世界へと移動する作戦だ。
ハリウッドのフォニー・ピクチャーズ(phony pictures)・スタジオでは、新人幹部のミニー・モーグルがヒットしそうな脚本を探して いた。そんな時、彼女の部屋のテレビ画面に、フィアレス・リーダーとボリス&ナターシャが現われる。彼らはロッキー&ブルウィンクル の映画製作を持ち掛け、契約書を提示する。ミニーはブラウン管に手を入れ、契約書にサインをした。契約書を取ろうとすると、一緒に フィアレス・リーダーたちもブラウン管から飛び出した。そして彼ら3人は、アニメから有名俳優へと姿を変えた。
フィアレス・リーダーたちはミニーと別れ、スタジオを後にした。ミニーはスタジオの最高責任者P・G・ビガーショットに企画を説明 するが、「ヘラジカは嫌いだ」と却下される。一方、ブルウィンクルは大統領に伐採された木の話をしようと考え、ホワイトハウスへ 行こうとする。しかし家の目の前に渋滞の看板が立ち並んでいたため、出発を中止した。
半年後、ドジなFBI捜査官カレン・シンパシーは、キャピー・フォン・トラップメント局長に呼び出され、ある任務を命じられる。 それはフィアレス・リーダーと関係があった。彼はケーブルTVでRBTVという独自のネットワークを構築し、見た者が3日以内に バカになる番組を放送して、大統領選で自分に投票させようと企んでいた。
ホワイトハウスでは、シグノフ大統領と側近がRBTV対策に頭を悩ませていた。キャピーはRBTVに3人のエージェントを送り込んで いたが、いずれも戻って来ない。キャピーは、かつてフィアレス・リーダーたちの野望を阻止したロッキー&ブルウィンクルに助けを求める ことにした。彼らを46時間以内に連れて来ることが、カレンに与えられた任務だ。
カレンはロサンゼルスへ行き、グリーンライトのタワーに潜入する。警備員の目を盗み、カレンはフロストバイトフォールズに向けて グリーンライトを照らす。ロッキー&ブルウィンクルはグリーンライトの光を受けてタワーへと吸い寄せられ、3DCGとして実写世界に 出現した。カレンは彼らを車に乗せ、タワーから逃亡する。
カレンは「フィアレス・リーダーの演説放送を阻止しなければいけない」と説明するが、ブルウィンクルは全く理解しない。飛行機に 乗るとロード・ムーヴィーにならないという理由で、彼らは車でベッコーニング(beckoning)へ向かう。一方、RBTV本部では、 人を思い通りの催眠に掛けるクオリティー・コントローラーのテストが行われた。ホワイトハウスのモグラからロッキー&ブルウィンクル が現実世界に出てきたことを知らされたフィアレス・リーダーは、ボリスとナターシャに彼らの始末を命じた。フィアレス・リーダーは、 技師シドニーが開発したアニメキャラ抹殺用装置CDIをボリスとナターシャに渡した。
カレンの車は、地平線を走っていた。そこへボリスとナターシャが現わるが、CDIは使おうとしない。彼らが爆竹を投げて攻撃を 仕掛けたため、カレンたちは車から飛び降りた。車は崖下へと転落する。ボリスとナターシャは大砲を用意するが、カレンたちは彼らの トラックを奪って逃亡する。カレンたちは、ユタを抜けてオクラホマへ向かう。
一方、ボリスとナターシャは偶然にも砂漠の真ん中でヘリポート(chopper powder room)を発見し、そこにあったヘリコプターを奪って カレンたちの後を追う。ナターシャはカレンに成り済まし、州警官とテレビ番組クルーに連絡してカレンの車を追わせた。カレンは警官に 逮捕され、ロッキーとブルウィンクルは置き去りにされてしまった。
ロッキーは飛ぶことを思い出そうとするが、失敗に終わる。ブルウィンクルはヒッチハイクを試みるが、なかなか止まってもらえない。 ようやく夜中になり、ルイスとマーティンという大学生コンビの車に乗せてもらえた。ルイスとマーティンは偶然にも、ブルウィンクル の母校であるウォサモタ(Wossamotta)大学の学生だった。
ボリスとナターシャは、ブルウィンクルの名前を使ってウォサモタ大学に多額の寄付をした。学長は、ブルウィンクルにヘラジカ名誉博士 の称号を送る。ボリスとナターシャは、授与式のスピーチでロッキーとブルウィンクルを給水塔から狙うつもりなのだ。しかし、大学には 給水塔が無かった。そこで彼らは、手作り給水塔を用意した。
ルイスとマーティンの車に、ブルウィンクル宛ての授与式の知らせがファックスで届いた。ロッキーとブルウィンクルが大学へ行くと、 学生たちが反ヘラジカ運動を起こしていた。同じ頃、オクラハマ州のレッド・ベイト刑務所では、囚人となったカレンが看守のオーレと 惹かれ合っていた。カレンはオーレの車に隠れて、刑務所を脱走した。
ウォサモタ大学では授与式が執り行われるが、ロッキーは給水塔にボリスがいるのを発見する。ロッキーは飛び方を思い出し、ボリスの 攻撃を阻止した。ブルウィンクルがスピーチをすると、あまりにバカな内容だったために学生たちから喝采を浴びた。大学を後にした ロッキーとブルウィンクルは、イリノイのハイウェイを暴走してシカゴへ向かう。
ボリスとナターシャはヘリで追い掛けるが、間違えて自分達にCDIを放射する。CDIのせいでヘリを失った彼らは、行商人のマットの 上に落下した。カレンはオーレを映画館の前に放置し、車で逃亡する。「車を駐車場に入れてくる」と言われたオーレは、バカ正直に カレンの帰りを待ち続けた。カレンは街頭のテレビを見て、既に催眠放送が始まっていることを知る。
ロッキーとブルウィンクルは、偶然にもシカゴでカレンと再会する。だが、そこに大勢の警官が現われ、彼らは逮捕される。カレンたちは 裁判に掛けられるが、ロッキー&ブルウィンクルの大ファンだった判事によって無罪放免となった。カレンたちはフーパという男にオンボロ のプロペラ機を借り、ニューヨークへ向かう・・・。

監督はデス・マッカナフ、キャラクター創作はジェイ・ワード、脚本はケネス・ロナーガン、製作はロバート・デ・ニーロ&ジェーン・ ローゼンタール、製作総指揮はデヴィッド・ニックセイ&ティファニー・ウォード、撮影はトーマス・E・アッカーマン、編集はデニス・ ヴァークラー、美術はギャヴィン・ボケット、衣装はマーリン・スチュワート、音楽はラリー・ドミネロ&マーク・マザースボウ& カルロス・ロドリゲス。
出演はレネ・ルッソ、ジェイソン・アレクサンダー、パイパー・ペラーボ、ランディたち・クエイド、ロバート・デ・ニーロ、ジャニーン・ ガラファロ、カール・ライナー、ジョナサン・ウィンタース、ジョン・グッドマン、キーナン・トンプソン、ケル・ミッチェル、 ジェームズ・レブホーン、デヴィッド・アラン・グリア、ジョン・ポリート、ノーマン・ロイド、ロッド・ビーアマン他。
声の出演はジューン・フォーリー、キース・スコット他。


古いカートゥーンの人気キャラクター、ロッキーとブルウィンクルを復活させた作品。
『ロジャー・ラビット』のように、実写とアニメを融合させた作りになっている。
テレビ放映時は『ロッキー・アンド・ブルウィンクル』と表記されることもある。
ロバート・デ・ニーロが企画したらしく、フィアレス・リーダー(アニメのキャラと顔が良く似ている)を嬉々として演じている。

ナターシャをレネ・ルッソ、ボリスをジェイソン・アレクサンダー、カレンをパイパー・ペラーボ、キャピーをランディたち・クエイド、 ミニーをジャニーン・ガラファロ、ビガーショットをカール・ライナー、フーパをジョナサン・ウィンタース、オクラホマの州警官を ジョン・グッドマン、ルイスをキーナン・トンプソン、マーティンをケル・ミッチェルが演じている。
さらに、シグノフ大統領ジェームズ・レブホーン、その側近メジャーズをデヴィッド・アラン・グリア、同じく側近ショーンテルをジョン ・ポリート、オーレをロッド・ビーアマン、RBTVの技師シドニーをリリー・ニックセイが演じている。
アンクレジットだが、行商のマット売りをビリー・クリスタル、判事をウーピー・ゴールドバーグが演じている。

空飛ぶリスのロッキーとヘラジカのブルウィンクルが登場するアニメ番組について調べると、ちょっとややこしいことになっている。
まず1959年からABCで『Rocky and His Friends』が放送され、それが1961年にNBCに移動してタイトルが『The Bullwinkle Show』に変更された。
それが1964年に再びABCに戻り、その年に終了したという経緯になっているようだ。その後も『The Bullwinkle Show』は1973年まで続いた というデータがあるが、これは再放送が繰り返されたということなのだろうと推測される。
日本では『ロッキー君とゆかいな仲間』『空飛ぶロッキー君』といったタイトルで放送されていたらしい。
なお、ロッキー&ブルウィンクルのテレビ番組では、彼らやフィアレス・リーダーが出る話以外に、犬のピーボディー先生と人間の養子シャーマンが タイムマシンで歴史を旅するという1分程度のミニアニメも放送されていたようだ。
あと、この映画版ではフィアレス・リーダーが良く出てくるが、どうもテレビ版の悪党はボリスとナターシャがメインだったようだ。

実写とアニメを融合させようとした場合に、「そのアニメキャラが最初から現実社会に暮らしている」という設定にすることも考えられる。
しかし、この映画では最初に昔のアニメ映像を持ってきて、ロッキーやブルウィンクルが暮らす世界と出演俳優が暮らす世界を完全に 「ブラウン管の中」と「現実社会」で区別している。
そういう設定を見せておいて、まず悪党どもがブラウン管から現実社会へ飛び出し、セルアニメから生身の俳優へと姿を変える。そこで フィアレス・リーダーたちは、意識して現実社会へ飛び出している。
一方、ロッキーとブルウィンクルが現実社会に登場する時のギミックは、ちょっとボンヤリしたものになっている。

『ロジャー・ラビット』や『SPACE JAM/スペース・ジャム』でも用いられた「実写とアニメの融合」が、本作品の肝になっている。
現実社会に登場するロッキーとブルウィンクルは、CGで描写されている。立体感を持たせつつも、キャラクターの輪郭にラインを引き、 昔のセルアニメのイメージを残そうという配慮がされているようだ。
ただ、そういった努力とは別の部分で、「実写とアニメの融合」は失敗に終わっていると感じる。
最初に本作品はセルアニメのロッキー&ブルウィンクル及び悪党を見せている。そこから悪党は生身の俳優になり、ロッキー&ブルウィンクルはCGになる。
つまりセルアニメとCGアニメと実写の融合を試みているんだが、悪党の変身はともかく、セルアニメのロッキー&ブルウィンクルが 現実社会に現われるとCGになるという描写は、かなり違和感がある。
昔のセルアニメとしてのロッキー&ブルウィンクルに対する強い思い入れがあったのかもしれないが、そこは削除した方が良かったのでは ないだろうか。もしくはセルアニメにこだわりがあるのなら、そちらに(つまりTVアニメの世界に)人間が入り込むという形にした方が 良かったかもしれない。
セルアニメのロッキー&ブルウィンクルを現実社会に飛び出させるという選択肢もあるが、それはチープな印象が強くなるだろうな。

フィアレス・リーダーたちとミニーがやり取りするシーンだけを取っても、そこに本作品のエッセンスの全てが詰め込まれている。
ミニーが「ロッキーとブルウィンクル。大好きよ」と言った直後に「何それ?」と尋ねたり、「悪党に力を貸すような契約書にサインは出来ない。 ペンのインクが切れた」と言ったりと、ヌルいギャグが炸裂する。全く知らないアニメの契約書にミニーがサインをするという、デタラメ な展開がある。「コンピュータのデジタル技術が奇跡を起こした」などと、ウザいナレーションが饒舌に語る。
どのシーンを切り取っても、ヌルいギャグ、デタラメな展開、ウザいナレーションの三本柱は揃っている。

ブルウィンクルは「木の話をしなきゃ」という突飛な理由でホワイトハウスへ行こうとする。「飛行機に乗ったらロード・ムーヴィーに ならない」というムチャな理由でカレンたちは車で移動するが、別にロード・ムーヴィーでなければいけない必然性は無い。
キャピーが「ホワイトハウスにモグラ(スパイ)がいるのでは」と言うと、大統領の横にスーツ姿のモグラが出現する。ボリスたちが「砂漠 の真ん中にヘリコプターなんてあるわけがない」と言うと、すぐにヘリポートが見えてくる。州警官がカレンを逮捕する時は、ロッキーと ブルウィンクルの存在は完全に無視される。テレビで放送されていたアニメキャラのロッキーとブルウィンクルが現実社会に現われたのに、 誰一人として驚く様子は無い。
とにかく話は最初から最後まで行き当たりばったりで、とりとめが無い。それも、その場その場でギャグをやるためにスムーズな物語進行 を犠牲にしているというわけではない。ただデタラメなだけで、そのデタラメな進行の中で、デタラメにギャグをやるという次第。
子供向けだから大人の観賞に耐えないのではなく、おそろしく粗雑な作りなのだ。

悪党どもの計画を阻止するという最初に提示された目的はどこへやら、ロッキー&ブルウィンクルは勝手に動く。ロード・ムーヴィーが 云々という理由で車による移動を選んだのに、ちっともロード・ムーヴィーにならない。「ロッキー&ブルウィンクルなら悪党の計画を 阻止できる」ということだったが、それほど彼らならではの活躍があるわけでもない。
ロッキー&ブルウィンクルは、ただノンビリと旅をして、たまにボリスとナターシャから逃げて、最後だけ何となくフィアレス・リーダー と絡んで、グダグダの内に事件は解決する。
そりゃコケるわ、この映画。
仮に子供向け映画にするにしても、フラフラと脇道ばかり歩く筋書きじゃなく、もっとシンプルな話にしておけば良かったのに。


第21回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低助演女優賞[レネ・ルッソ]


第23回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の助演女優】部門[レネ・ルッソ]
ノミネート:【最悪なTV番組の映画化】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会