『ロッキー5 最後のドラマ』:1990、アメリカ

ロシアでのイワン・ドラゴとの戦いを終えたロッキー・バルボアは、引退することを発表した。だが、義兄のポーリーが騙されて、ロッキーは財産を失ってしまう。現役復帰を考えるロッキーだが、脳に致命的な損傷を受けていることを医者から知らされる。
ロッキーは家族と共に、故郷のフィラデルフィアへ戻った。亡くなった恩師ミッキーのボクシングジムを引き継いだロッキーは、トミー・ガンという有望な若者に出会う。ロッキーはトミー育成に全精力を注ぎ込み、息子のジュニアに目を向けなくなる。
トミーは順調に勝利を続けていくが、次第に慢心するようになっていく。そんな中、トミーを利用して金儲けを企むプロモーターのデュークが彼に接近する。デュークの甘い言葉に乗せられたデュークは、ロッキーの元を飛び出してしまう…。

監督はジョン・G・アヴィルドセン、脚本はシルヴェスター・スタローン、製作はロバート・チャトフ&アーウィン・ウィンクラー、製作総指揮はマイケル・S・グリック、撮影はスティーヴ・B・ポスター&ヴィクター・ハマー、編集はジョン・G・アヴィルドセン&ロバート・A・フェレッティ&マイケル・N・クニュー、美術はウィリアム・J・キャシディー、音楽はビル・コンティー。
出演はシルヴェスター・スタローン、タリア・シャイア、バート・ヤング、トミー・モリソン、セイジ・スタローン、バージェス・メレディス、リチャード・ガント、トニー・バートン、ジェームズ・ガンビーナ、デリア・シェパード、マイケル・シーハン、マイケル・ウィリアムズ、ケヴィン・コンロイ、エリザベス・ピータース、ヘイズ・スウォープ、ニッキー・ブレア、ジョディ・レティシア他。


ロッキー・バルボアは長い間、本当に良く頑張った。最初は貧しくて三流だったボクサーがチャンスを掴み、それをモノにして成功への階段を駆け上がった。王者となって大金も手に入れながら、わざわざロシアまで行って戦ったりもした。
だが、ロッキーが成り上がっていく中で、彼の評判はどんどん悪くなっていった。「もう戦う必要は無い、そろそろ終わりにすべきだ」という声は、日増しに大きくなっていった。
そこでスタローンは、ロッキーをもう一度、原点に立ち返らせようと試みた。

原点に立ち返らせると言っても、年齢を元に戻すわけにはいかない。
そこで、とりあえず環境を元に戻すことにしてみた。引退しても裕福に暮らせるだけの金があったため、ポーリーが騙されるという手を使って、ロッキーを貧乏にしてしまった。

ロッキーの戦うシーンを削った結果、人間ドラマで間を埋める必要が生じた。しかし、薄い人間ドラマしか無いので間が持たない。
そこで、既に死んでいるミッキーまで天国から連れ出して来て、長く熱弁を振るわせることによって時間稼ぎをしたりしてみた。

だが、スタローンはロッキーから、ボクサーとして戦い続けることを奪い取ってしまった。
ボクサーでなくなったロッキーに、果たして映画に主演する意味があるだろうか。
ボクサーでなくなったロッキーは、果たして原点に戻ることが可能だろうか。

結局、ロッキーは原点には戻らなかった。
故郷に戻っただけでは、飢えていた昔には戻れない。
ロッキーは三流ボクサーではなく、三流のケンカ屋になってしまった。
息子までもが、練習で積んだボクシングのテクニックをケンカで使う有り様だ。

クライマックスはリング上での戦いではなく、ロッキーとトミーの路上での戦いだ。
そこではパンチだけでなく、タックルも投げも背後からの攻撃も、何でもOKだ。
それはボクサーとボクサーの戦いではなく、チンピラとゴロツキのケンカである。

トミーが殴り合いで改心することも無く、勝利したロッキーが喝采を浴びて不毛なケンカは終わる。
スタローンは英雄だったロッキーを路上のケンカ屋に貶めることによって、不評が高まっていたシリーズに自ら引導を渡したのである。


第11回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低監督賞[ジョン・G・アヴィルドセン]
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低主演男優賞[シルヴェスター・スタローン]

ノミネート:最低主演男優賞[タリア・シャイア]
ノミネート:最低助演男優賞[バート・ヤング]
ノミネート:最低オリジナル歌曲賞「The Measure Of A Man」

 

*ポンコツ映画愛護協会