『ライリー・ノース 復讐の女神』:2018、アメリカ

早朝、ライリー・ノースは車内で男と格闘して射殺し、遺体をトランクに入れた。彼女は日が昇ってからスラム街に戻り、住処にしている古い車に入った。その様子を見ていたストリートチルドレンのマリアは、一緒に暮らす年下のホセが手を振るので「やめて」と制止した。ライリーは格闘で負った怪我を自分で治療し、5年前を回想した。その当時、彼女は整備工として働くクリスと小学校に通う娘のカーリーの3人で暮らしていた。
ある日、ライリーはカーリーを連れてガールスカウトに参加するが、高級住宅街に住むペグから注意される。ペグのスペースをライリーが勝手に使ったからだ。ライリーは全く悪びれずに嫌味を浴びせ、ペグを追い払った。カーリーが「あのクソ女、殴れば良かったのに」と言うと、ライリーは「バカを殴ったら、その人もバカになるの」と告げた。その日はカーリーの誕生日で、自宅でパーティーを開くことになっていた。ライリーは工場で仕事中のクリスにカーリーを預け、銀行の仕事に向かった。
銀行の上司はライリーに、担当者が病欠なので代わりに締めの仕事をするよう指示した。ライリーは予定があることを告げるが、上司には聞き入れてもらえなかった。クリスは友人のミッキーに「家を買ってカーリーをいい学校に入れたいだろ。俺に任せろ」と言われ、儲け話に乗った。夜遅くに帰宅したライリーは、誕生日パーティーにカーリーの友人が誰も来なかったことを聞かされた。留守電のメッセージを確認した彼女は、ペグが嫌がらせで友人たちを自分の邸宅へ招いたことを知った。
ライリーは娘を元気付けるため、家族で出掛けようと提案した。クリスはミッキーと話そうとするが留守電だったため、「やっぱり、俺は降りるよ。やる価値が無い」とメッセージを残した。ミッキーはディエゴ・ガルシアの一味に捕まり、暴行を受けていた。手下のコルテスから「もう1人を見つけた」と連絡を受けたガルシアは、「見せしめにしろ。派手にな」と命じた。ノース一家はクリスマス広場で遊び、アイスを買った。ライリーがナプキンを取りに行っている間に、クリスとカーリーは車に戻ろうとする。するとコルテスたちが車から発砲し、2人を射殺した。駆け寄ろうとしたライリーも撃たれて倒れ、コルテスたちは逃亡した。
重傷を負ったライリーは病院で治療を受け、1ヶ月後に意識を取り戻した。殺人課のスタン・カーマイケル刑事は病室を訪れ、クリスが麻薬密売人のガルシアを出し抜いて金を奪おうとする計画に加担していたことをライリーに教えた。ライリーは面通しに行き、実行犯3名を指差した。カーマイケルは上司のモイゼス・ベルトランから警察にガルシアの協力者がいることを知らされ、「奴のことは放っておけ。殺されるだけで何も変わらない」と忠告された。
ガルシアの弁護人を務めるヘンダーソンはライリーに接触し、金で解決しようとする。ライリーは拒否するが、向精神薬を使っていることをヘンダーソンに知られた。ヘンダーソンは予審で彼女が向精神薬を使っていることを指摘し、正確な判断能力が欠如していたと主張した。検事は何も反論せず、スティーヴンス判事は証拠不充分でコルテスたちの釈放を決定した。激しく抗議したライリーは取り押さえられ、病院の精神科へ送られそうになる。彼女は同行のカーマイケルに襲い掛かり、救急車から逃亡した。
現在。ベルトランとカーマイケルは、観覧車に逆さ吊りにされた3人の遺体を確認した。その3人は、クリスとカーリーを殺した実行犯の面々だった。FBI捜査官のリサ・インマンは同僚のリーから、2日前に銃器店へ突っ込んだ車の運転手が3ヶ月前にロサンゼルスで起きた密航事件の犯人と同じライリーだという情報を知らされた。リサはベルトランとカーマイケルを呼び出し、ライリーが勤務先の銀行から5万5千ドルを奪ったこと、世界中でトラブルを起こして3ヶ月前にロサンゼルスへ入ったこと、銃器店で軍用の武器だけを奪ったことを話す。その日は、5年前にクリスとカーリーが殺されたのと同じ12月21日だった。
ライリーはスティーヴンスを自宅で椅子に縛り上げ、爆弾を仕掛けた。彼女はバスに乗り、スマホで起動スイッチを押してスティーヴンスを爆殺した。カーマイケルは電話を受け、昨晩に5年前の予審の検事と弁護士が殺されていること、スティーヴンスが爆死したことを知る。ガルシアはライリーの動きを知り、賞金首にて始末するよう部下に命じた。カルテルのボスの息子であるサラザールは1週間で2度も積み荷を紛失する失態を犯したガルシアを厳しく非難し、「二度とドシは踏むなよ」と釘を刺した。
ライリーはバスで少年と出会い、彼の父親がアル中の荒くれ者だと知った。彼女は酒を買おうとする父親のライアンを銃で脅し、息子をクリスマスの買い物に連れて行くよう要求した。ライリーは身分証を確認し、もし約束を破れば乗り込んで行くことを告げた。彼女は店主の脅し、ライアンに酒を売ったら店ごと吹き飛ばすと通告した。警察はライリーを広域手配し、マスコミに事件を報じてもらう。ライリーはマーヴィンという男を尾行し、ガルシア一味が資金洗浄をしている倉庫に乗り込んだ。彼女は倉庫にいた連中を倒し、マーヴィンを脅迫して情報を吐かせた。ライリーは倉庫に火を放ち、ガルシアの金を燃やした。
ガルシアは部下たちに、警備を倍にして日暮れまでにライリーを始末しろと命じた。彼はライリーがラボへ行くと睨み、裏をかくことにした。リサは犯罪分析課を訪れ、3ヶ月前からスラムの安全率が高まっていることを知った。ガルシアの手下2人はラボに爆弾を仕掛け、ライリーを始末しようとする。ライリーは罠を察知して脱出し、実行犯の車を追跡する。リサはスラムを訪れ、守護天使と呼ばれる人物が来て安全になったことを知る。ライリーはガルシアの屋敷へ乗り込み、一味を次々に倒す。彼女はガルシアに拳銃を向けるが、幼い娘が来たので動揺する。ライリーはガルシアの反撃を受けて怪我を負い、屋敷から逃亡した…。

監督はピエール・モレル、脚本はチャド・セント・ジョン、製作はトム・ローゼンバーグ&ゲイリー・ルチェッシ&リチャード・ライト&エリック・リード、製作総指揮はロバート・シモンズ&アダム・フォーゲルソン&デヴィッド・カーン&ジェームズ・マクウェイド&ドナルド・タン&レニー・タブ&クリストファー・タフィン&ワン・チョンジュン&ワン・チョンレイ&フェリス・ビー、共同製作はジャッキー・シェヌー、撮影はデヴィッド・ランゼンバーグ、美術はフラムジー・エイヴリー、編集はフレデリック・トラヴァル、衣装はリンジー・マッケイ、音楽はサイモン・フラングレン。
主演はジェニファー・ガーナー、共演はジョン・オーティス、クリス・“メソッド・マン”・スミス、ジョン・ギャラガーJr.、フアン・パブロ・ラバ、アニー・イロンゼ、ジェフ・ヘフナー、ペル・ジェームズ、ケイリー・フレミング、タイソン・リッター、リチャード・カブラル、ジョニー・オーティス、エディー・シン、ジョン・ボイド、マイケル・モーズリー、イアン・カッセルベリー、マイケル・レヴェンタル、カイラ=ドリュー・シモンズ、グスタヴォ・キロス、ジェフ・ハーラン、クリス・ジョンソン、キャスパー・ブルン、ランディー・ゴンザレス、ハンター・ライト、エマ・トラヴァル、マイケル・アドラー他。


『96時間』『ザ・ガンマン』のピエール・モレルが監督を務めた作品。
脚本は『エンド・オブ・キングダム』のチャド・セント・ジョン。
ライリーをジェニファー・ガーナー、モイゼスをジョン・オーティス、バーカーをクリス・“メソッド・マン”・スミス、カーマイケルをジョン・ギャラガーJr.、ガルシアをフアン・パブロ・ラバ、リサをアニー・イロンゼ、クリスをジェフ・ヘフナー、ペグをペル・ジェームズ、カーリーをケイリー・フレミングが演じている。

序盤でペグを悪玉にしてあるけど、大いに引っ掛かる。
そりゃあ嫌がらせでカーリーの誕生日パーティーに誰も来ないようにするってのは、かなり卑劣な行為だとは思うよ。ただ、その前に、ライリーが彼女の恨みを買うような態度を取っているわけで。
ペグのスペースを勝手に使ったのなら、そりゃあ注意されるのは当たり前でしょ。
ここで謝罪せずに「高級住宅地に住む貴方と違って、働く母親もいるのよ」と嫌味っぽく言うのは、「そりゃあ恨みを買うのも仕方がないだろ」と思っちゃうぞ。

っていうか、ペグを嫌な奴にしておいても、何の得も無いでしょ。これは銀行の上司に関しても同じことが言えるけど。
だって、その両名はライリーの復讐相手じゃないからね。この映画で不快感を与える連中は、ライリーが復讐心を燃やすべき相手だけに限定しておくべきだ。
ペグと上司は嫌な奴だけど、始末するほどの連中ではない。「それに見合う仕返し」ってことを考えても、「そんなことよりも夫と娘を殺された復讐に集中しようぜ」と言いたくなるし。
ともかく、何をどうやっても、そこは「ライリーの復讐劇」に上手く組み込めないのよ。銀行からは金を奪っているけど、それは上司だけじゃなくて他の面々にも迷惑を掛けることになっちゃうし。

カーリーが殺されるのは可哀想の一言だが、クリスに関しては彼にも落ち度がある。最終的には断るものの、ミッキーの計画に乗っているわけだからね。
「電話で断ったから」ってのは、擁護するための言い訳としては弱い。ミッキーに計画を提案された時点で、犯罪行為だと知っていたはずなんだからさ。
そこは「何の落ち度も無いのに理不尽に殺された被害者」にしておいた方が絶対にいいはずで。
クリスにも落ち度があるような設定にした意味がサッパリ分からんよ。

「家族を殺された主人公が犯人に復讐する」ってのは、これまで世界中でどれだけ使われて来たんだろうと思うような定番のフォーマットと言っていいだろう。
「主人公を女性にしたのが新しい」と言いたいところだが、そういうわけでもない。
確かに、そのフォーマットを使った映画の多くは男性が主人公だ。でも、女性が主人公のケースもある。
「戦いと無縁だった平和的な主人公が鍛錬を積んで戦闘能力を会得し、復讐に乗り出す」ってのも、そんなに珍しい設定ではない。

ではアクションシーンに本作品の強みがあるのか、同じフォーマットで作られた他の映画との差異があるのかというと、それも感じない。
まず、ジェニファー・ガーナーはアクション能力に長けた女優というわけではない。アクション・コーディネーターが、今までに無かったような戦闘術を持ち込んでいるわけでもない。
映像演出の面で、特徴を出しているわけでもない。
とてもオーソドックスなアクションを、とてもオーソドックスに演出しているだけだ。

回想から現在のシーンに戻ると、もう実行犯の3名が殺されて遺体になっている。ここは観客からすると、最も分かりやすい「ライリーの復讐相手」のはず。それなのに、そいつらへの復讐は淡白に片付けてしまうのね。
そして検事と弁護士に関しても、「もう殺されている」という台詞だけでの処理。っていうか検事に関しては、ほぼ存在感が皆無だったし。そんでスティーヴンスの始末だけは描くけど、どこを選ぶかの判断を間違ってないか。
あと、判事や検事もガルシアと結託していたことを示す描写が、ほぼ無いんだよね。
そりゃあ結託していたんだろうとは思うけど、そこの印象付けが弱いのはカタルシスを与える上で大きなマイナスになるぞ。

ライリーがマーヴィンを尾行し、作業場へ乗り込むシーンがある。でも彼女がマーヴィンを尾行している時点では、そいつが何者なのか全く分からない。
また、ライリーが「マーヴィンはガルシアの手下」という情報を得た経緯もサッパリ分からない。
B級アクションで使い古されたようなプロットでも、やり方次第ではそれなりに面白くなったはず。
でも、どこを切り取っても、プラスに評価できるポイントが見当たらないのよ。

ライリーはガルシアの屋敷へ乗り込んで彼を追い詰めておきながら、「銃を向けて会話を交わす」という手順を踏んだせいで反撃を食らう。
さっさと殺したら話が終わっちゃうけど、復讐の鬼になっていたはずなのに、そういうトコのヌルさは要らないだろ。
「ガルシアの幼い娘が来たので、カーリーを重ね合わせて動揺し、隙が生まれる」ってのは、何の問題も無いのよ。
でもガルシアの娘を見る前に、ライリーは隙を見せているからね。他の連中は容赦なく始末したのに、なぜかガルシアの時だけは「動かないで」と銃を向けて脅すだけで喋っているからね。
それはダメでしょ。

ガルシアの屋敷で大怪我を負ったライリーはペグの家へ行き、彼女の顔面を殴り付けて応急手当てする。そしてペグに拳銃を向け、「この家とアンタを燃やす」と脅す。実際に燃やすことは無いが、ペグを怖がらせて立ち去る。
でも、そこまでする必要があるのかと。
今さら「ペグの嘘で娘が悲しい思いをした」ってことに対する恨みを晴らしてどうすんのかと言いたくなるし、復讐としても明らかに過剰だし。
ペグも夫に捨てられて辛い思いをしているんだし、彼女が哀れなだけで、復讐のカタルシスなんて皆無だぞ。

終盤、ガルシアはスラムでマリアを人質に取り、ライリーを脅して出て来るよう要求する。
でも、そこまでにライリーとスラムの住人の関係性は、ほとんど描かれていない。
なので終盤だけ急にそこの関係性を使ってドラマを描かれても、気持ちが乗り切れない。
あと、そのピンチでライリーはネットや警察の力に頼るんだけど、ずっと孤独な復讐者として行動していたんだから、それは最後まで貫いてくれた方が良かったなあ。

(観賞日:2021年5月31日)


第39回ゴールデン・ラズベリー賞(2018年)

ノミネート:最低主演女優賞[ジェニファー・ガーナー]

 

*ポンコツ映画愛護協会