『ラブ&マネー』:2012、アメリカ
ステファニー・プラムは工業都市のトレントンで育った。質素な家に小さな庭。冷蔵庫は空っぽで、銀行口座には小銭だけの貧乏状態。実家に乗り付けた車も没収される。彼女は実家に戻り、両親と母方の祖母であるメイザの3人で食事を取った。ステファニーは3人に、デパートを半年前にクビになっていたことを打ち明ける。母はバツイチのステファニーにバーニーとの再婚を勧めるが、「もう結婚はコリゴリ」とステファニーは断った。
メイザはステファニーに、従兄のヴィニーが求人中だと告げる。結婚式でキスを迫って来たヴィニーに、ステファニーは不快感を抱いていた。ステファニーがアパートへ戻るとメイザが訪ねて来て、愛車の鍵をプレゼントした。ステファニーはヴィニーの経営する保釈保証会社へ赴き、社員のコニー・ロゾリに書類整理の求人のことを質問した。するとコニーは、「倉庫に運ぶだけで2日がかり。同じ姿勢なら街角に立つ方が稼げる」と話した。
ステファニーが「何でもいいから落ち着くまで働かせて」と頼むと、コニーは逃亡者逮捕請負人を勧める。いわゆる賞金稼ぎのことである。ステファニーが快諾すると、コニーは虫垂炎で入院しているモーティー・バイアーズの代理を務めるよう告げた。ステファニーは担当案件のファイルを見せてもらい、法廷未出頭者を捕まえたら保釈金の10パーセントが手に入ると説明される。ヴィニーは反対するが、ステファニーは5万ドルが手に入るジョー・モレリの案件を担当することにした。
ジョーはステファニーにとって最初の男だったが、処女を捧げた直後から連絡が取れなくなっていた。ステファニーはジョーの住まいに行くが、彼は不在だった。彼女が親友のメアリーと電話で話していると、ジョーの従弟であるムーチが現れた。ステファニーはムーチの車を尾行し、ある建物に辿り着く。ムーチが去った後、彼女は建物に侵入した。するとジョーが隠れており、相手がステファニーと分かると驚いた様子を見せる。
ステファニーが警察署への同行を求めるとジョーは笑い飛ばし、「留置場へ戻るぐらいなら自殺する」と告げる。彼は口説くような態度でステファニーを動揺させ、車で逃走した。ステファニーの失態を知らされたコニーは、レンジャーと呼ばれる最強の賞金稼ぎに連絡するよう指示した。ジョーは非番の日に麻薬密売人のジギー・クレスツァを射殺して逮捕されていたが、レンジャーは興味を示さなかった。彼は「知識と経験が無い」と言い、射撃を練習させた。
ステファニーはジョーの母親を訪ねるが、「何も分かってないね。今に思い知るよ」と追い払われた。彼女は旧友であるエディー・ガザラ刑事に呼ばれ、「危険だからジョーの捜索から手を引け」と忠告される。ステファニーが拒むと、エディーはジョーの供述書を特別に見せてくれた。ジョーは売春婦のカルメンを助けに行き、先にジギーが発砲したと主張していた。しかし証人となるカルメンが失踪し、ジギーの拳銃所持は証明できなくなっていた。
ステファニーは売春婦のルーラとジャッキーに聞き込みを行い、カルメンの恋人がベニート・ラミレスという格闘技の選手だと知った。格闘技ジムへ出向いた彼女は、オーナーのジミー・アルファと会い、「ラミレスは手に負えない時がある。この件は降りた方がいい」と警告される。ステファニーはラミレスからカルメンのことを聞き出そうとするが、危険を感じて去ろうとする。彼女はラミレスに「八つ裂きにするぞ」と威嚇されるが、隠れて様子を見ていたジョーが発砲した隙に逃走した。
ステファニーはラミレスを追っていたというジョーに、カルメンに関する情報提供を要求した。するとジョーは「カルメンは情報提供者だ。お礼に警護してたから、行方を捜してた。ラミレスが殺したと推理して見張っていたのに、お前のせいで全て台無しだ」と述べた。ステファニーが実家へ行くと、母親はバーニーを招いて夕食をセッティングしていた。呆れながらもバーニーと会話を交わした彼女は、シギーがサルの精肉店に出入りしていたという情報を知った。
ラミレスはステファニーの携帯に電話を掛け、「これ以上、首を突っ込んだら命が無いぞ」と脅迫した。レンジャーはジョーの家の鍵を開け、ステファニーに中を調べるよう促した。ジギーに繋がるような証拠品は無かったが、ステファニーは車のキーを発見する。彼女はジョーの車を拝借し、保釈保証会社へ行く。彼女はコニーに、「ジョーの事件は時間が掛かるから、すぐに金が手に入る仕事が欲しい」と頼む。するとコニーは、ウィリアム・アーリング公然わいせつ罪の案件を紹介した。
近所の住人だったため、ステファニーは裸で生活しているアーリングの家を訪れた。アーリングは出廷を承諾するが、服を着ることは拒否した。ステファニーはアーリングを連行する途中でジョーに見つかるが、泥棒行為を非難されても軽く受け流して走り去った。彼女は警察にアーリングを引き渡し、小切手を受け取った。ジョーはステファニーの部屋に乗り込み、車の返却を要求する。彼はシャワーを浴びていたステファニーに手錠を掛けて拘束し、引き抜かれたヒューズと鍵を探した。
ジョーは鍵を発見できず、ステファニーに「車はお前が使っていい」と告げて立ち去った。ステファニーはレンジャーに連絡し、手錠を外してもらった。ステファニーはショウ通りにあるカルメンのアパートを訪れ、レンジャーを真似して玄関の鍵を開ける。するとカルメンの娘と母が暮らしており、事件の目撃者である隣人のジョン・チョーを紹介してもらった。ジョンはステファニーの質問を受け、ジギーが銃を持っていなかったこと、ジョーが発砲した直後に鼻の潰れた男が来たことを語った。
コニーはロニー・ドッドという窃盗犯の案件を紹介し、レンジャーに補助を頼んだことを語った。ステファニーは「一人でやるわ」と言い、ロニーの家を訪れる。ロニーは銃の入った鞄を奪って逃走を図るが、レンジャーが裏口で待ち受けていた。レンジャーは発砲を受けるが、防弾チョッキを着用していたので無事だった。ロニーは慌てて表へ回るが、ステファニーに拘束された。その夜、警察無線でチョーの死を知ったレンジャーはコニーに教え、「口封じかもしれない。気を付けろ」と警告した。
翌朝、コニーの携帯に「クソ女を届ける」というメールが入り、ラミレスが車で家の前に現れる。彼は暴行したルーラを車から放り出し、その場を後にした。コニーが救急車を呼んでルーラを病院へ運ぶと、ジミーが謝罪にやって来た。幸いにもルーラは、すぐに退院することが出来た。ジミーはルーラに、「まだ告訴しないでくれ。奴が何かやったら電話してくれ」と頼んだ。コニーはエディーの元へ出向き、カルメンの母であるローザ・ゴメスの警護を依頼した。しかしエディーは「チョーは他殺じゃない。殺しの線は無いぞ」と語り、モラレスの犯行を否定した。
コニーはエディーの対応に憤慨し、射撃場で拳銃を何発も撃った。彼女が自宅に戻るとジョーが現れ、「協力を求めに来た。ジギーの銃を見つけ、不発だったと証明する」と話した。彼は「懸賞金が欲しいんだろ。協力する。俺はラミレスが怪しいと思ってる」と言い、おびき出すために手を貸してくれたら警護してやると持ち掛けた。5万ドルの欲しいコニーは承諾し、「俺のことが好きなんだろ。認めろよ」というジョーの言葉はクールに否定した。
翌日、コニーがジョーの用意した隠しマイクを仕込んでいると、退院したモーティーが現れた。ジョーを隠れさせたコニーは、仕事に復帰したモーティーから未出頭者のファイルを返却するよう求められる。「モレリは俺の獲物だ。この件から降りてくれ」と彼は口にするが、コニーは即座に拒否した。するとモーティーはコニーの隙を見て、車の鍵を盗んだ。彼が車に乗り込んだ途端、仕掛けられていた爆弾が起動して彼は死亡した…。監督はジュリー・アン・ロビンソン、原作はジャネット・イヴァノヴィッチ、脚本はステイシー・シャーマン&カレン・レイ&リズ・ブリクシウス、製作はシドニー・キンメル&ウェンディー・フィネルマン&トム・ローゼンバーグ&ゲイリー・ルチェッシ、共同製作はゼイン・ウェイナー、製作総指揮はエリック・リード&アンドレ・ラマル&ブルース・トール&キャサリン・ハイグル&ナンシー・ハイグル、製作協力はケイト・シュライヴァー、撮影はジェームズ・ウィテカー、美術はフランコ=ジャコモ・カルボーネ、編集はリサ・ゼノ・チャージン、追加編集はマイロン・カーステイン、衣装はマイケル・デニソン、音楽はデボラ・ルーリー。
主演はキャサリン・ハイグル、共演はジェイソン・オマラ、デビー・レイノルズ、ダニエル・サンジャタ、ジョン・レグイザモ、シェリー・シェパード、デブラ・モンク、ネイト・ムーニー、アダム・ポール、フィッシャー・スティーヴンス、アナ・リーダー、パトリック・フィッシュラー、ライアン・ミシェル・バス、レオナルド・ナム、アニー・パリッセ、ダニー・マストロジョルジオ、ギャヴィン=キース・ウメ、ルイス・マスティロ、ハリー・オトゥール、ジョン・ジョセフ・ウィリアムズ、ジェニファー・ヴォス、マーラ・ サッチャレッツァ他。
ジャネット・イヴァノヴィッチによる小説「ステファニー・プラム」シリーズ第1作『私が愛したリボルバー』を基にした作品。
主演のキャサリン・ハイグルが製作総指揮も兼ねている。
監督はTVドラマ『グレイズ・アナトミー』でもハイグルと組んだ『ラスト・ソング』のジュリー・アン・ロビンソン。
ジョーをジェイソン・オマラ、メイザをデビー・レイノルズ、レンジャーをダニエル・サンジャタ、ジミーをジョン・レグイザモ、ルーラをシェリー・シェパードが演じている。オープニングでステファニーは「貧乏な家に生まれ育って、自分も貧乏な状態」と語っている。
しかし住んでいるアパートは、それなりにキッチリしている。そして大家から延滞している家賃の支払いを求められるという、ベタベタなシーンも無い。
それどころか、メイザから愛車の鍵をプレゼントされるという、少しだけ恵まれた状態にある。また、彼女が再就職のために必死で奔走している様子、行く先々で断られる様子も全く描かれていない。
だから、なぜ半年が経過してから「他に手が無い」といった感じでヴィニーの会社へ行くのか、なぜ「何でもいいから働かせて」と懇願するのか、そこが腑に落ちない。彼女は「生活苦で犯罪を犯すしか無いわ」とヴィニーに言っているけど、そこまで困窮している様子は全く見られないのよ。
30分ほど経過した辺りで、ようやく家賃滞納の通知書が写るけど、それじゃあ遅すぎるのよね。そういうのは冒頭で見せておかないと意味が無い。また、バウンティー・ハンターの仕事を提案されたステファニーが、何の迷いも示さず、それどころか積極的にOKするのも解せない。
彼女は「ならず者は平気?」と問われると、「犯罪都市のニューアークで営業経験があるから」と軽く答えているんだよね。
しかしクビになるまでの彼女は、デパートの下着売り場でバイヤーをしていたのだ。つまり今までとは全く異なる仕事になるわけで、しかも大きな危険が付きまとう稼業なのに、なぜ悩んだり迷ったりしないのか。
そこは「デパートで下着を売っていたヒロインが、成り行きで、もしくは仕方なく賞金稼ぎとして働く羽目になる。今までと大きく異なる仕事に戸惑いや嫌悪感も最初はあったが、次第に順応し、やり甲斐を感じるようになる」という形にでもした方が良かったんじゃないかと。
おまけにステファニーは、賞金稼ぎの仕事にノリノリというだけでなく、最初から慣れた感じで仕事を進めるんだよね。もちろん銃も手錠も持っていないのでジョーには簡単に逃げられるけど、隠れ家を見つけるトコまでは順調に進めてしまうわけで。とにかくステファニーって、自信満々で強気な態度が多いのよね。
私は未読だが、ひょっとすると原作でもそういう性格設定なのかもしれない。しかし少なくとも本作品においては、そのキャラ造形がプラスに作用しているとは到底言い難い。
「何の知識も経験も無いのに、やけに偉そうな奴だなあ」と感じるだけだ。
レンジャーから教えてもらった事件に関する情報を、さも自分が調べたように得意げな様子でエディーに話すのも、たぶん喜劇として描いているんだろうけど、「なんか嫌な奴」という印象にしか結び付いていない。ステファニーって、「新人だから失敗も多いけど、頑張っているから応援したくなる」というタイプではないのよね。この映画の内容を考えると、そういうキャラにした方が得策じゃないかと思うんだけどね。
しかも、ステファニーって、強すぎる自信に見合った成果を全く残していないんだよね。
もちろん彼女は最終的に事件を解決するのだが、それは「ほとんど周囲の人々が助けてくれたおかげ」と言ってもいい。コニーはスキルアップのためにレンジャーを紹介してくれるしレンジャーは何かに付けて助けてくれる。エディーは供述書を見せてくれるし、ジョーはラミレスがステファニーを捕まえた時に発砲して助けてくれる。
多くの人々にサポートしてもらったおかげなのに、感謝の意識は乏しく、「私がやりました」という感じが強いのよね。捕まえようとしている相手が元カレというだけでなく、今でも明らかに恋愛感情の残っている相手なので、ある程度はロマンスの要素が入って来るのも仕方が無いだろう。
しかし、それが強すぎて、ほとんどラブコメみたいな状態になっている。
まあラブコメと考えれば、ステファニーが賞金稼ぎとしての能力を発揮せず、全く活躍できていないとしても、それでいいのかもしれない。
だけど、「そもそもラブコメじゃダメでしょ」と言いたくなるわけで。ラブコメっぽく感じてしまう原因は他にもあって、それは肝心の「賞金稼ぎとしての仕事」が超ノロノロ運転でマッタリした雰囲気に満ち溢れており、なかなか進展しないからだ。
一応は幾つかの情報を集めているものの、それによって新たな展開が」ということに繋がらないまま時間だけが過ぎて行く。
そもそも、早い段階で「ジョーを捕まえる」という目的は実質的に消え失せているのだが、そうなると「ステファニーは何のために行動しているのか」ってことになってしまう。
「ジョーは無実なので、無実の証拠や真犯人を見つけ出そうとする」ってことなら分かりやすいけど、そういうわけでもないのよね。
ステファニーの行動目的がボンヤリしているってのも、この映画の大きなマイナス要素だ。ルーラがラミレスの暴行を受けた後、「お金目当てだった追跡が、今では敵討ちが大きな目的になった」というコニーのモノローグが入る。
でも、もちろん「金を稼ぐため」ってのが賞金稼ぎを始めた目的ではあったけど、ジョー・モレリの案件を進める上での直接的な目的としては、もちろん「ジョー・モレリの身柄確保」だったはずで。
それなのに、いつの間にか目的がボンヤリしてしまい、さらには「ローラの敵討ちとしてモラレスをやっつける」という方向へ気持ちが移る。
コニーが「敵討ち」と口にした時、しばらく見えなくなっていた「明確な目的」が、久々に見える形になる。それだけを取れば決して悪いことじゃないけど、そもそも「長きに渡って目的が見えなくなっていた」ってことが重大な問題であって。
だから、コニーが「敵討ち」と言い出した時に、「そもそも彼女って何のために行動していたんだっけ?」と頭にクエスチョン・マークが浮かんでしまう。
コニーがモラレスへの怒りや復讐心を燃え上がらせるのなら、その時点で「ジギーを射殺したのはジョーじゃなくてラミレス」という確信を抱いているのかというと、そうではないんだよね。モラレスへの怒りを燃やしている時点で、コニーの脳内からは「ジョーを捕まえよう」とか「ジギー殺害事件の真相を明かそう」という意識が消え失せている。
それによって、「この映画そのものが道から外れている」という印象になっている。
そりゃあ当然でしょ。
どう考えたって、「コニーはジョーを捕まえるために行動していたが、途中で事件に疑念を抱き、真相を突き止めようとする」という筋書きにすべきでしょ。「コニーがジョーの犯行に疑問を抱く」→「だから真相を突き止めようとする」という手順を踏んでいないせいで、足元がフワフワしたまま時間が過ぎて行く。
3分の2が過ぎた辺りで、ようやく「コニーが真相究明のために行動しようとする」という展開が訪れる。でも、それはジョーから持ち掛けられて承諾する形であって。
そうじゃなくて、まだジョーがコニーから逃げている時点で、そういう手順に到達すべきじゃないかと。
そうではないくせに、じゃあコニーが「ジョーを捕まえる」という目的に向かって奔走しているのかというと、そうでもないので、ホントにグダグダだわ。しかも、コニーは「ローラの敵討ちでモラレスと戦う」という意識を持っていたくせに、直後にジョーから協力を求められると、「5万ドルが欲しいから」ってことで承諾する。
あっさりと「お金目当て」ってトコに戻っちゃうのだ。
それだけでなく、ジョーが「俺のことが好きなんだろ。認めろよ」と言い出しており、コニーは否定するけど恋愛劇を含むシーンになっちゃってるし、見事なぐらいに散らかりまくっている。
これは「欲張って色んなことを詰め込んだら捌き切れずに散らかった」ってことじゃなくて、そもそも焦点が定まっていなかったせいでグダグダになってしまったという印象が強い。終盤に入ってバーニーの店を訪れたコニーは、向かいにあるサルの店に来た男を見て「鼻の潰れた男だ。正当防衛を証明できる唯一の男」というモノローグを語る。
だけど、バーニーがサルについて触れたのは、随分と前のことだ。そして、その段階で既に彼は、ジギーとサルの関係について言及していた。それなのにコニーは、サルと接触しようという意識を全く見せていなかったわけで。
だから終盤になって急にコニーがサルと鼻の潰れた男(ルイス)を探る展開を用意しても、計算能力の低さしか感じないよ。
彼らがヘロインを扱っていたことが判明するのは終盤でもいいけど、前半の内にコニーがサルの店を訪れるシーンぐらいは用意しておくべきでしょ。(観賞日:2016年7月10日)
第33回ゴールデン・ラズベリー賞(2012年)
ノミネート:最低主演女優賞[キャサリン・ハイグル]