『ロックアップ』:1989、アメリカ
仮出所が許された模範囚のフランク・レオンは、恋人のメリッサと会った後、再び刑務所に戻った。だが、残りの刑期が6か月となっていたにも関わらず、フランクは夜中に数人の男達に襲撃され、最悪な環境のゲートウェイ刑務所へと連行されてしまう。
フランクを連行させた黒幕は、ゲートウェイ刑務所のドラムグール所長だった。かつてフランクは彼が所長を務めていた刑務所に収容されていた時、父親が危篤状態になった。死に目に立ち会いたいというレオンの願いを、ドラムグールは聞き入れなかった。
フランクは2週間後に出所が迫っていたにも関わらず、父親に会うために脱獄した。そんな彼に世間の同情が集まり、ドラムグールは非難を浴びて出世への道を阻まれていた。それ以来、ドラムグールはフランクを恨み続けていたのだ。
フランクはダラスやエクリプス、ファースト・ベースといった面々と親しくなる。だが、チンクと彼の手下達は、フランクへの敵対心を見せる。ドラムグールはフランクを穴蔵と呼ばれる懲罰房に入れ、6週間に渡って執拗な拷問を続ける。
ドラムグールはチンク達に命じて、ファースト・ベースを殺害させる。フランクはチンクを叩きのめすが、彼の手下に刺されて病棟に収容される。フランクはドラムグールが出所する囚人にメリッサをレイプさせようとしていることを知り、脱獄を決意する…。監督はジョン・フリン、脚本はリチャード・スミス&ジェブ・スチュアート&ヘンリー・ローゼンバウム、製作はローレンス・ゴードン&チャールズ・ゴードン、製作協力はトニー・ムナフォ、製作総指揮はマイケル・S・グリック、撮影はドナルド・E・ソーリン、編集はマイケル・N・ヌー&ドナルド・ブロチュー、美術はビル・ケニー、衣装はバーニー・ポラック、音楽はビル・コンティ。
主演はシルヴェスター・スタローン、共演はドナルド・サザーランド、ジョン・エイモス、ダーレン・フリューゲル、ソニー・ランダム、トム・サイズモア、フランク・マクレー、ウィリアム・アレン・ヤング、ラリー・ロマーノ、ジョーダン・ランド、ジョン・ライラ、ディーン・デュヴァル、ジェリー・ストライヴェリ、デヴィッド・アンソニー・マーシャル、カレク・アシュリー、マイケル・ペントローニ、ダニー・トレホ他。
シルヴェスター・スタローンが主演を務めた刑務所映画。
フランクをスタローン、ドラムグールをドナルド・サザーランド、看守長マイズナーをジョン・エイモス、メリッサをダーレン・フリューゲル、チンクをソニー・ランダム、ダラスをトム・サイズモアが演じている。アメリカではB級女囚映画が数え切れないほど多く作られているが、それのスタローン版だと考えれば分かりやすい。
バカバカしいぐらいオツムの弱い囚人のボス、バカバカしいぐらいサディスティックな看守、バカバカしいぐらい醜悪な所長。
残念ながら(?)ホモセクシャルなシーンは無いが、ほとんど女囚映画のパターンを踏襲している。ドラムグールは自分の刑務所に送られて来たフランクを苛めるのではなく、わざわざ他の刑務所から自分の刑務所に移送させる。
しかし、元の刑務所の許可は取ってないし、夜中に勝手に連れ出しちゃうってのは、かなりムチャクチャな話である。そんなことをしたら、元の刑務所から抗議が来たりして、大きな問題になると思うが。
大体、あと6か月でフランクが釈放という時期になってから、思い出したように自分の刑務所に連れて来るのが妙。
それ以前からドラムグールはゲートウェイ刑務所の所長だったわけで、まさかフランクへの復讐心を忘れていたわけでもあるまいに。途中でドラムグールが何をやりたいのか良く分からなくなってくる。
チンクにファースト・ベースを殺させてフランクを怒らせ、彼にチンクを殺させようとする理由が分からない。
どうやら、「出所の近いフランクに事件を起こさせて、彼の刑期を延長する」という企みがあるようだが、そんなことをする必要は全く無いはずだ。
何しろ、ドラムグールは勝手にフランクを自分の刑務所に移送させるほどの豪腕なのだし、看守も彼に忠実だし、ムチャなことも平気でやっている。
だから、わざわざ事件を起こさせなくても、何とでも理由を付けてフランクの刑期を延長するのは可能なはずなのだ。普通に考えれば、模範囚だったフランクが最悪の刑務所に移送されるからには、取って付けたような理由でも構わないから何か理由が必要なはずだが、何も説明は無い。
しかし、この作品に説明を求めるのは間違いなのだろう。
細かいことは気にしちゃダメ。
これは脳味噌で考えるのではなく、筋肉で感じる映画なのだ、たぶん。最初にチラッとドラムグールのイジメの場面があるが、そこを過ぎるとイジメ役がチンクにバトンタッチ。
相手が看守ではなく囚人ということもあって、フランクもそれなりに対抗できている。しかも、フランクにはダラス、エクリプス、ファースト・ベースと仲間が3人もいる。
そのため、「孤独に耐えてイジメに耐え忍ぶ」という感覚は薄い。
そもそも、最初の段階では「フランクがドラムグールのイジメに耐える」という展開になっていくはずだったのに、あっという間に相手がチンクにバトンタッチすることで、話の軸が完全にズレてしまう。
後半に入ってチンクがドラムグールの指示を受けていたことが分かるが、それは最初の時点で観客に明かしておくべき情報だろう。ドラムグールが序盤で軽くワルっぷりを見せただけで消えて、しばらくはチンクがフランクの敵となるのだが、彼に痛め付けられる描写がたっぷり詰まっているわけではない。むしろ、仲間と仲良く過ごしている様子が目立つ。
なぜか古い車を修理する場面で唐突に音楽が流れて盛り上げようとするが、それは盛り上げる場所を間違ってないか?で、その妙な盛り上がりの場面の後、ようやくドラムグールがフランクの前に再登場するのだが、やることは車を破壊させるだけ。
ちっちゃいねえ。
で、ようやく穴蔵に入れて拷問するのだが、序盤で拷問した後、それがようやく2度目の拷問。
それまでに幾らでも時間があったわけだし、何をやっていたのかと。しばらくサディスティックな気持ちを忘れていたのかと思ってしまうぞ。
しかも、その穴蔵での拷問シーンが、ダイジェストて軽く処理されてるし。
そこは観客が見ていて「酷い」と感じるぐらいに、フランクが拷問される様子をじっくりと見せるべきでしょうに。拷問や暴行に必死に耐え忍ぶ描写が物足りないから、フランクが溜め込む怒りも少なくなる。溜め込んだ怒りが少ないから、爆発するパワーも弱くなる。
もっと徹底的にフランクが苛められて耐え忍ばないと、クライマックスでカタルシスが弱くなるのよ。フランクが怒りを爆発させたら、後はほぼ一方的にフランクが敵を叩きのめすべきだろう。そこでも相手に叩きのめされそうになっているのだが、それだとカタルシスが弱くなってしまう。
まあ、この映画ではそもそもカタルシスが弱いんだけどさ。フランクの怒りを爆発させるタイミングも間違っているような気がする。
いよいよ爆発、というところで、仲間の裏切りなんて要れなくていい。
あと、クライマックスが妙に地味な印象になってるのは厳しいなあ。
どう考えたってドラムグールは死ぬべきでしょうに。
第10回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演男優賞[シルヴェスター・スタローン]
<*『ロックアップ』『デッドフォール』の2作でのノミネート>
ノミネート:最低助演男優賞[ドナルド・サザーランド]