『レフト・ビハインド』:2014、アメリカ&カナダ

大学生のクローイ・スティールは父であるレイの誕生日を家族で祝うため、飛行機でJFK国際空港へ戻って来た。しかし実家に電話を入れると、母のアイリーンはレイが急な仕事でロンドンへ行くことになったと告げる。レイはパン・コンチネンタル航空のパイロットで、ロンドン行きの飛行機に搭乗するのだ。電話を切った後、クローイはGWNの有名なジャーナリストであるバックがファンからサインをせがまれている様子を目撃した。そこへ1人の女性が近付いて「世界を見たつもり?災害のニュースには必ず貴方の姿」と告げたので、バックは「嫌な仕事だけど、誰かがやらなきゃ」と述べた。
女性が「マタイによる預言書には、各地で飢饉や地震が起きると書いてある。全ての災害や戦争は、終末の前兆なのよ」とバックに言うと、クローイが歩み寄って「神が災害を予測できるなら、なぜ何もしないの?」と質問する。女性は「堕落した世界だからよ」と答えるが、クローイは反論して立ち去った。同じ頃、レイは駐車場の車内で結婚指輪を外し、客室乗務員のハティー・ダーハムと合流した。レイは彼女と楽しく話しながら、空港へ入った。
バックはクローイに興味を抱き、声を掛けた。クローイは父の誕生日で戻って来たこと、ここで待っていることを話す。レイはクローイに気付くと、ハティーを先に行かせた。クローイは久々の再会を喜んだ後、レイに「パパがいないと聞いて、家出したと思った」と口にした。レイが「ママとは大丈夫だ」と言うと、クローイは「さっきの女の人は?」と訊く。レイが「名前も知らない」と嘘をつくと、クローイは「1年前なら、まだママが宗教にハマる前で、家にいたはず」と述べた。
レイはクローイに「ママには信じる道がある。少しは理解してやれ」と言うが、彼自身もアイリーンとは距離を置いていた。クローイはバックに、「ママは宗教の話ばかりしてる。地震のニュースをみて、いいことだって言うの」と話す。ハティーは同僚のキミーに、レイと交際はしていないが、ロンドンでデートすることを明かす。バックはクローイに、「ロンドンから電話する」と告げる。空港職員のジムはクローイを見つけると、「お父さんに渡して。明日のチケットだ」と告げる。それはU2のライブのチケットで、2週間も掛かって手にいれたのだとジムは語る。クローイはバックに、そのチケットを託した。
バックは飛行機に搭乗し、操縦席のレイにチケットを渡した。パン・コンチネンタル航空ロンドン行き257便には、NFL選手の妻であるシャスタと娘のケイティー、小人のメルヴィン、ビジネスマンのデニス、金髪女性のヴェニス、巨漢のサイモン、アジア系のエドウィン、東洋系のハシッドら大勢の乗客が乗り込んでいる。駐車場でレイの車に乗り込んだクローイは、結婚指輪を発見した。帰宅した彼女は、弟のレイミーに野球のグローブをプレゼントした。
アイリーンはクローイに、「押し付けるつもりは無いけど、分かって欲しいの。私の祈りが届いたから、貴方を帰してくれた」と告げる。クローイが苛立って「私は自分で帰って来たのよ。神は関係ないわ。もしも神が帰したなら、なぜパパがいないの?」と言うと、彼女は「私たちに話をさせるためよ」と答える。クローイは「それは違うわ。でもパパがいないのは神が原因よ」と声を荒らげ、その場を去った。メルヴィンはケイティーと話して彼の父親が怪我をしたと知り、NFLの賭博に3千ドルを投入した。
クローイが車で出掛けようとすると、レイミーが「連れてって」と頼む。クローイは快諾し、彼を車に乗せてモールへ向かった。レイミーが「ママは牧師に洗脳されたってパパが言ってた本当?」と尋ねると、クローイは「ただのジョークよ」と告げた。レイは操縦を副機長のクリスに任せ、厨房へ行ってハティーにU2のチケットを見せた。クローイはモールに到着し、レイミーと一緒に移動する。弟と話したクローイは、彼を抱き締めて「愛してる」と告げた。
その直後、レイミーは衣服や帽子を残し、突如として姿を消した。彼だけでなく、モールでは大勢の人々が急に消失していた。同じ現象は機内でも発生し、ケイティーやサイモンなど複数の乗客が一瞬にして姿を消した。機体が激しく揺れたため、レイは操縦室へ戻る。するとクリスが姿を消しており、レイは操縦桿を握って機体を立て直した。モールには暴走する車が突っ込むが、運転席には誰もいなかった。レイミーを捜索していたクローイは諦めて外へ出るが、多くの客で大混乱に陥っていた。
機内では複数の乗客が操縦室へ押し寄せ、ハティーとバックが制止しようとする。レイは酸素マスクを出し、気圧が低下しているので着用するよう乗客にアナウンスした。彼は緊急事態を管制塔に伝えようとするが、無線は通じなかった。レイは着席させるために減圧したことをハティーに明かし、「話して来るから操縦室を頼む」と告げる。彼は客席へ行き、「最大の危険は機内がパニック状態になることだ。今から乗務員が人数を確認し、消えた方々を捜します」と説明した。
クローイは駐車場へ戻り、車に乗り込もうとする。しかしセスナ機が突っ込んで来たので、慌てて回避した。セスナ機はクローイの車に激突し、爆発炎上した。ハティーはキミーも消えたと知り、動揺して泣き出した。レイはハティーに、「操縦室は俺1人だから、君が頼りなんだ。乗客名簿を確認してくれ」と指示した。バックはカメラを回し、取材を開始する。クローイは歩いてモールから去るが、バイクの2人組にバッグを奪われた。
ヴェニスは不安から呼吸が荒くなり、気付いたバックは「大丈夫ですか」と声を掛ける。ヴェニスは「私は知ってるの」と立ち上がり、トイレに入って覚醒剤を注射した。クローイは実家に連絡を入れるが、留守電になっていた。ハシッドは「私たちが今やるべきは、神に祈ることだ」と訴えるが、メルヴィンは反発した。レイは乗客たちに、JFK国際空港へ戻ることを伝えた。C1581便が接近しているのを知った彼は通信を入れるが、応答は無かった。彼は知らなかったが、C1581便は機長も副機長も消えていたのだ。
レイは急いで飛行機を上昇させるが、C1581便と翼が衝突する。C1581便はバランスを失い、そのまま墜落した。クローイはレイミーが搬送されたのではないかと考え、病院へ赴いた。正面玄関に大勢の人々が押し寄せていたため、彼女は裏口の窓を割って侵入した。バックはハティーに頼まれて翼の写真を撮影し、レイに見せた。レイは「スポイラーが無いが、着陸時の減速が難しくなるだけだ。JFK国際空港の滑走路は長いから問題ない」と述べた。
クローイが小児科病棟へ行くと、患者は誰もいなかった。そこへ1人の女性が現れ、「みんな消えたわ。さっき医者たちが言っていたけど、どこも同じ状況よ。子供は2人残らず消えたって」と言う。レイはバックに、「翼から燃料が漏れているかもしれないので確認してくれ。空気の薄い高度へ上昇して燃料消費を抑える」と告げる。バックが翼の確認に行くと、燃料漏れによって炎が噴き出した。バックから報告を受けたレイは、「いずれ火は消える。問題は燃料だ」と口にする。すぐに火は消えたが、レイはバックに「昇降舵を失って、高度を上げられない。予定より2時間も早く下降を開始した」と話す…。

監督はヴィク・アームストロング、原作はティム・ラヘイ&ジェリー・B・ジェンキンス、脚本はポール・ラロンド&ジョン・ペイタス、製作はポール・ラロンド&マイケル・ウォーカー&エド・クライデスデイル、共同製作はJ・ヤング・キム&ピーター・クラット&デヴィッド・ヘイムベッカー&ジョン・ペイタス&ランディー・ラヘイ、製作総指揮はビル・バスバイス&ブライアン・ライト&J・デヴィッド・ウィリアムズ&マイク・ナイロン&ジェイソン・ヒューイット、撮影はジャック・グリーン、美術はスティーヴン・アルトマン、編集はマイケル・J・ドゥーシー、衣装はアビー・オサリヴァン、視覚効果プロデューサーはショーン・フィンドレー、視覚効果監修はマシュー・T・リン、音楽はジャック・レンツ。
出演はニコラス・ケイジ、チャド・マイケル・マーレイ、リー・トンプソン、キャシー・トムソン、ニッキー・ウィーラン、ジョーダン・スパークス、マーティン・クレバ、ゲイリー・グラブス、ランス・E・ニコルズ、ジョージナ・ローリングス、クイントン・アーロン、ハン・ソト、アレック・ライム、カムリン・ジョンソン、ローラ・スウィニー、メジャー・ドッドソン、ウィリアム・ラッグスデイル、ステファニー・ホノレ、ロロ・ジョーンズ、ジャッド・ローマンド、シャナ・フォレストール他。


ティム・ラヘイ&ジェリー・B・ジェンキンスによる小説『レフトビハインド』シリーズを基にした作品。
スタント・コーディネーターのヴィク・アームストロングが、1992年の『バニシング・レッド』に続いて2度目となる映画監督を務めている。
脚本はビデオ『人間消失』シリーズのポール・ラロンドと『パニック・スカイ フライト411 絶体絶命』のジョン・ペイタスによる共同。
レイをニコラス・ケイジ、バックをチャド・マイケル・マーレイ、アイリーンをリー・トンプソン、クローイをキャシー・トムソン、ハティーをニッキー・ウィーラン、シャスタをジョーダン・スパークスが演じている。

小説『レフトビハインド』シリーズは、2000年の『人間消失』、2002年の『人間消失 トリビュレーション・フォース』、2005年の『人間消失 ファイナル・ウォー』という3部作で映像化されている。
しかし原作者のティム・ラヘイは出来栄えに強烈な不満を抱き、製作したクラウドテン・ピクチャーズとネイムセイク・エンターテインメントを相手取って契約違反の訴訟を起こした。
調停によって問題を解決したクラウドテン・ピクチャーズは原作の映画化権を再取得し、前回より予算を上積みしてリブートすることを決定した。
つまり、これはシリーズ作品として企画された映画であり、前回と同じく3部作の予定で製作されたわけだ。

しかし、この1作目が酷評を浴びて興行的に惨敗したために難しくなった。
それでも脚本とプロデューサーを務めたポール・ラロンドは残り2作を何とか完成させたいと考え、そのためにクラウド・ファウンディングを実施した。目標額は50万ドルなので、映画を作るための金額としては随分と低い設定だ。
だが、集まった金額は、わずか8万699ドル。
目標額に遠く及ばなかったため、どうやら続編の話は潰れたようだ。

ティム・ラヘイはプロテスタントの牧師であり、原作小説はキリスト教の終末論が題材となっている。
だから当然のことながら、この作品も「宗教映画」として作られている。
一言で言うならば、患難前携挙説のプロパガンダである。
ザックリと説明すると、最後の審判の前に起きる「患難時代」があるけど、そこで酷い目に遭うのはクリスチャン以外の人だけ。本物のクリスチャンなら、その前に「携挙」という現象が起きて空中へ救い出されるという考え方だ。

序盤、1人の女性がバックに歩み寄り、「世界を見たつもり?災害のニュースには必ず貴方の姿」「マタイによる預言書には、各地で飢饉や地震が起きると書いてある。全ての災害や戦争は、終末の前兆なのよ」と話す。
だけど、バックの何に対する批判なのか、彼にどうしてほしいのかはサッパリ分からない。
仮に「全ての災害や戦争は終末の前兆」ってのが事実だとして、バックからすれば「それで俺に何をどうしろって言うのか」と言いたくなるだろう。

その女性と同じくキリスト教にハマっているアイリーンは、クローイに「私の祈りが届いたから貴方を帰してくれた」「パパがいないのは私たちに話をさせるため」と話す。
もちろん何のジョークも含まれておらず、真剣にそう思っているのだ。だからクローイが反論しても、まるで耳を貸さない。
空港の女性もアイリーンも、かなりヤバい狂信者にしか見えない。
しかし恐ろしいことに、この映画では2人の方が正しくて、それを否定する連中が間違っているのである。

人間消失の現象は、前述した「携挙」である。
つまり信心深い人が神によって救われたのであり、残った人々は見捨てられたのだ。
だから、残された人々が消えた身内を連れ戻そう、助け出そうとするような展開など無い。むしろ、消えた人々の方が救われているんだからね。
なので、人々が消失するシーンは「恐ろしいパニック・サスペンス」として描かれているが、最初から「これは患難前携挙説を描いている映画だ」と分かっていれば、まるでハラハラしないという困った事態が起きている。

一方、この映画が患難前携挙説を描いていることを知らずに観賞した場合、人間消失のシーンは、普通に「パニック・サスペンス」として味わうことが出来るだろう。
だが、その後で次々に宗教的なことに触れる台詞が語られ、この映画の訴えたいことが声高にアピールされる。
だから、「宗教系のトンデモ映画」という印象になってしまう可能性が濃厚だ。言ってみれば、幸福の科学出版の映画みたいなモンだ。
っていうか実際、これは完全なるトンデモ映画なのだ。

これをトンデモ映画だと感じるのは、「キリスト教の信者じゃないから」ってわけではない。信者サイドからも、かなりの酷評が出ている。
プロバガンダとして作っているのに、信者以外の面々からはトンデモ扱いで、信者にさえ酷評されるんだから、どうしようもない。
ただ、原作者のティム・ラヘイとジェリー・B・ジェンキンスは、この映画に満足したというコメントを出している。なので、これを傑作だと思える人も少なからず存在するはずだ。
そういう人は患難前携挙説を妄信できる人と同様、ある意味では幸せなんだろう。

最初に消失するのは主人公の息子であり、ヒロインの弟に当たるレイミーだ。
何の予兆も無いまま、いきなり人間消失の現象は発生する。
不安や緊迫感をジワジワと煽る、物語を盛り上げるということを考えれば、「何か異常な現象が起きそうな」ということを匂わせてから人間消失のターンに入ってもいいだろう。
また、そこが一発目であることを考えれば、主人公の身内ではなく少し遠めのキャラクターにしてもいいだろう。
また、人間消失の瞬間を誰も見ていない形にした方がいいだろう。

しかし本作品では、そういう勿体を付けたような演出は一切使わない。それどころか、レイミーだけでなく、一気に大勢を消失させている。
何しろ患難前携挙説によれば、携挙される人間は一気に天へ挙げられるのだから、そう描かざるを得ないのだ。
映画として盛り上げるための演出やストーリーよりも、「その説を正しく描く」ってことが何よりも優先されているのだ。
それは「信仰心の厚さ」という観点から見れば、全面的に正しい判断だ。

飛行機とモールのパニックを並行して描いているが、それが緊迫感を倍増させることには繋がっておらず、欲張って散らかっているだけだ。
しかし、「人間消失は一ヶ所で発生しているわけではなく、世界各地で同時に起きている現象だ」ってことを表現するためには、それを 間違ったことだと断じることなど出来ない。
これは患難前携挙説を訴えるためのプロパガンダ映画なので、とにかく「その説は正しい」という意識で全てを捉える必要があるのだ。
もしも貴方が「患難前携挙説は正しいのだ」という意識を持つことが出来なければ、「いかにバカバカしくて陳腐な映画か」という観点から楽しむのも1つの手だろう。

クローイのパートは、ただ彼女がウロウロしている様子を描いているだけだ。
行く先々で人間消失によるパニックが起きているが、大まかに言えば「場所を変えながら同じ現象を見せているだけ」になっている。物語としては、ほとんど変化や進展が起きていない。
クローイがレイミーに居場所に関する手掛かりを得るとか、人間消失の真相に迫るとか、そういう展開は全く無い。
人間消失に関するヒントを得る前に、そういうことに詳しい人々は全て消えてしまったので、それは当然っちゃあ当然だろう。

一方、レイのパートでも、消えた乗客を捜索するとか、その謎を解き明かすとか、そういう動きは全く描かれない。
そんなことよりも、「燃料不足で機体にトラブルが発生している中、無事に着陸させなきゃいけない」という重大な問題が目の前にある。だから、それどころじゃないのだ。
終盤に入ると、レイは「消えた人々は天国へ行った」と確信する。クリスやキミーの所持品を見て信心深い面々だと知り、そこから答えを導き出しているんだけど、そんなのは彼の推測に過ぎないんだよね。
まあ患難前携挙説のプロバガンダ映画なので、それは正解なのよ。ただし答えに至るための「手掛かりを得て真相に辿り着く」という謎解きの部分が、短絡的で雑なのよ。
そういう筋道を全く歩んでいなかったのに、終盤に入ってから慌ててミステリーの着地にジャンプしているような状態なのよ。

原作ではレイたちが患難時代のための組織を立ち上げて活動し、反キリストという分かりやすい「悪玉」との戦いを開始する。
だが、その要素を映画版ではバッサリと削除してしまった。
そして主に航空パニックを描く内容に仕上げたため、もはや「携挙」が全く意味の無い出来事と化してしまった。
人間の一斉消失をパニック・サスペンスの題材として描いておきながら、それ以降のストーリーは主に人間消失と無関係なトコで進行するという困った構成になっているのだ。

(観賞日:2017年6月20日)


第35回ゴールデン・ラズベリー賞(2014年)

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演男優賞[ニコラス・ケイジ]
ノミネート:最低脚本賞

 

*ポンコツ映画愛護協会