『レジェンド・オブ・ドラゴン 鉄仮面と龍の秘宝』:2019、ロシア&中国&アメリカ

東方にある天の国の遥か南に、天龍がいた。天龍のまつ毛は地上まで垂れ落ち、苦しむ民を癒やす美しき植物となった。民はその植物の葉を、茶葉と呼んだ。茶は世界中で飲まれるようになり、民は龍のまつ毛を手入れして茶葉を収穫した。こうして、癒やしの茶葉を守る者は白の仙人と呼ばれた。天龍は呪術の印を作り、最も信頼する白の仙人に与えた。それが老師と、彼の娘である王妃である。世界中の商人が、茶葉を貿易した。
しかし欲をかいた一部の仙人が、天龍の茶葉を独占しようとした。それが覆面の妖女を頭領とする黒の仙人だ。妖女は古代の兵団を率いて、天龍の洞窟を我が物とした。多くの茶葉を摘むため、まつ毛は作り込まれなかった。やがて重すぎるまつ毛が、竜を深い眠りに就かせた。天龍を解放するため戦った白の仙人だが、黒の仙人の前に屈服した。老師と王妃は黒の仙人に捕らえられ、世界の反対側で別々に監獄に入れられた。
英国のロンドン塔では、3人の男が鎖に繋がれていた。1人は中国の老師で、1人は仮面で顔が隠されていた。刑務所長のジェームス・フックが面会に来て去った後、仮面の男は窓から入って来た鳩を捕まえた。それは伝書鳩で、手紙が結び付けられていた。手紙は暗号文で書かれていたが、老師は逆さ文字だと仮面の男に教えた。仮面の男は水たまりに文字を映し、地理学者のジョナサン・グリーンがミス・ダドリーに記した手紙だと知った。
ジョナサンは手紙の中で、ミス・ダドリーの元から逃走して以降の体験について詳しく綴っていた。「欧州の地図作成をロシア皇帝に依頼された」という文面を見た仮面の男は、「あの地理学者か。会ったことがある」と口にした。ジョナサンは怪物のヴィーと遭遇する体験の後、モスクワでピョートル大帝と謁見するはずだった。しかし大帝の側近であるメーンシコフが指差したピョートルは、全くの別人だった。ジョナサンがピョートルと会っていると知ったメーンシコフは、彼を地下牢に入れた。ジョナサンはミス・ダドリーに助けを求めるため、伝書鳩に手紙を託したのだ。
仮面の男は手紙の裏に自分の言葉を記し、伝書鳩を放った。手紙を受け取ったミス・ダドリーは、父のダドリー卿に報告した。仮面の男は、自分がピョートル大帝だと記していた。ダドリー卿は全く信じなかったが、「ペテン師のヴィトーリア男爵が、ロシアで英国大使として皇帝に謁見する。伝書鳩をモスクワに送らせる」と告げた。大使は手紙を受け取り、メーンシコフはジョナサンを恩赦として解放した。極東へ行くよう促されたジョナサンは、鞭で打たれる中国人少年のチェンランを救うために「彼を助手にする」と告げた。
メーンシコフは部下たちに、街を出たらジョナサンとチェンランを始末するよう命じた。ジョナサンとチェンランが馬車で森を抜けようとすると、待ち伏せていた一味に襲撃された。しかし馬車に潜んでいたロシアの小鬼が飛び出したので一味は怯み、チェンランが次々に倒す。小鬼が威嚇すると、一味は退散した。ジョナサンは馬車から伝書鳩を飛ばし、ミス・ダドリーの元に「ピョートル大帝がいないモスクワでは陰謀が渦巻いてる」と綴られた手紙が届いた。
ミス・ダドリーはフックと会うため、ロンドン塔を訪れた。ジョナサンの手紙には、「欧州へ向かう道はメーンシコフに封鎖された。東方へ向かう」と書いてあった。フックは「梯子を上った者には自由を与える」と約束し、希望する囚人と戦っていた。中国人のジン3兄弟は彼と戦い、約束通りに釈放された。フックはミス・ダドリーから「ここの囚人にピョートル大帝がいます」と言われると、「ここにし皇帝も大帝もいないが、ロシア人が1人いる。ミハイロフという密偵だ。会わせよう」と述べた。
ミス・ダドリーはフックの案内で、ピョートルたちがいる部屋に入った。3人目の囚人である老人は、久しぶりの女性を見て興奮した。仮面の男がピョートルだと悟ったミス・ダドリーは、「中国人の少年と東方に向かっている」と書かれたジョナサンの手紙を見せた。少年の名前がチェンランだと聞いた老師は、「私の娘だ」と言う。彼はミス・ダドリーに、「門を開けてくれ。貴方の夫を探す」と持ち掛ける。老人が死亡したため、フックは看守たちに遺体を運び出すよう命じた。
看守たちは誤って老師とピョートルの鎖を外し、自由にしてしまった。老師は他の囚人たちを牢から出し、フックを妨害させる。その間に彼は、没収された印を見つけ出した。彼はフックに捕まり、ピョートルに印を託して「チェンランに渡してくれ」と頼んだ。ピョートルはミス・ダドリーの馬車に飛び乗り、ロンドン塔から脱出した。老師はフックと戦うが、取り押さえられた。ピョートルはミス・ダドリーに、自分がジョナサンを見つけ出すと約束した。
ピョートルは港で中国行きのロシア船を発見し、荷物を運ぶ船員に化けて潜入した。ミス・ダドリーは酔っ払った船員を誘惑して昏倒させ、服を奪い取った。彼女は船員に成り済まし、船に乗り込んだ。ピョートルは船長に会おうとするが、密航者として船倉に監禁された。ミス・ダドリーは女だとバレてしまい、船員たちに捕まった。しかし船が嵐に見舞われたため、船員たちは甲板に戻った。ピョートルは牢から抜け出して舵を取り、船を危険な岩場から脱出させた。船員たちは酒を飲んで酔っ払っている船長を見つけ、船倉に閉じ込めた。彼らはピョートルを本物と認め、仮面を取り外した。
ジョナサンは中国を横断し、チャンランの故郷に辿り着いた。そこは帝国の端にある港町で、世界中の商人が茶葉を買いに来る場所だった。ジョナサンは英国船が来るのではないかと考え、望遠鏡で町を観察した。チャンランは天龍の洞窟が以前と違って黒い雲に覆われていること、要塞が築かれていることを知って不安を覚えた。ジョナサンは兵士が農民に暴力を振るう様子を目撃し、「引き返して別の港町を探そう」と言う。しかし王妃として農民を見捨てられないと考えたチャンランは、彼が馬車で眠っている間に町へ向かった。
チャンランが要塞に潜入すると、会計官が兵隊を率いて農民から高額の黄金を徴収していた。反発した老人が連行され、反乱軍のリ・ホンたちは兵隊に襲い掛かる。チェンランは身を隠した会計官を捕まえ、自分の名を使って農民を苦しめていたことを厳しく批判する。兵隊は呪術を使って反乱軍を撃退し、会計官はチェンランから逃亡した。リ・ホンはチェンランを発見し、悪党の一味だと決め付けて襲い掛かる。チェンランは彼女に事情を説明し、誤解を解いた。
ジョナサンが目を覚ますと、馬車が兵隊によって要塞に運び込まれていた。会計官は妖女の元へ戻り、本物の王妃が来たことを報告した。妖女は仮面を使い、王妃に成り済ましていた。彼女は会計官に町民を集めるよう命じ、「天龍が我に従う姿を見せるのだ」と述べた。妖女と謁見したジョナサンは自作の地図を見せ、「これがあれば陸路でも茶葉を輸出できる」と語った。なぜ来たのか問われた彼は、天龍を見に来たと答える。彼はチェンランの似顔絵を見せて、「私の助手は貴方と瓜二つだ」と告げた。
リ・ホンはチェンランに、妖女が王妃に化けて天龍に民を処刑させていると話す。そこへ小鬼が来て、チェンランに望遠鏡を渡す。望遠鏡を覗いたチェンランは、ジョナサンが妖女の近くにいることを知る。彼女は小鬼に手紙を託し、ジョナサンに「危険が迫ってる。宮殿の見取り図が必要よ」と伝えた。ジョナサンは妖女に「歓待のお礼に王国の地図を描きたい」と申し入れ、許可を得た。妖女が偽の印を使うと洞窟から天龍が現れ、老人は呪術によって処刑された。
ピョートルは船で港町に到着し、人々に印を見せて回る。なぜ印を見せるのかとミス・ダドリーが訊くと、彼は「王妃を見つけるためだ」と答えた。ジョナサンは見張りの隙を見て宮殿を探り、妖女が呪術ではなく科学を使っていることを知った。チェンランたちはピョートルとミス・ダドリーが印を持っていると知り、捕まえて連行した。妖女はジョナサンを捕まえ、チェンランをおびき寄せる餌として使うために牢獄へ閉じ込めた。
ピョートルはチェンランの尋問を受け、印を持っている理由について説明した。彼が印をチェンランに渡すと、そこへ小鬼が飛んで来てジョナサンが作成した宮殿の見取り図を渡した。ジン3兄弟は妖女の元へ戻り、ビョートルが印を持っていることを伝えた。彼らは妖女が本物の王妃だと思い込み、忠誠を誓っていた。妖女は長男のジン・ジェに、宮殿へ留まるよう指示した。町に出た弟のハオとイーは反乱軍と共にいるチェンランと遭遇し、宮殿にいる王妃が偽者だと知った。チェンランたちは妖女と戦うため、準備に取り掛かった。ピョートルは時間を稼ぐため、妖女との謁見に赴いた…。

監督はオレッグ・ステプチェンコ、脚本はオレッグ・ステプチェンコ&アレクセイ・A・ペトルヒン&ドミトリー・パルツェフ、製作はラ・ペイカン&ジャッキー・チェン&ファン・インチュン&グレブ・フェティソフ&セルゲイ・セルヤノフ&アレクセイ・A・ペトルヒン&シュー・ティアンハイ&ガオ・ハイタオ&リウ・シュアン&セルゲイ・ベスパロフ&ワン・ユヌオ、製作総指揮はアーノルド・シュワルツェネッガー&チャオ・ハイチェン&ワン・セン&ジョー・タム&タイガー・フー、共同製作はウェン・シャオドン&ジェイソン・チャオ&リャン・デ・シン&フアン・ユー&タオ・ジュアンユー&グオ・シヤオ&ヤン・イー、共同製作総指揮はデン・メン&シエ・チェンハン、撮影はイヴァン・グドコフ、美術はアーサー・ミルゾヤン&ティアン・シャオシー、編集はユリア・リュボミロワ&セリク・ベイセウ、衣装はギュリヤ・ベイセノワ&ドゥ・シンリー、アニメーション監督はヴィクター・ラクソフ、アクション監督はヘ・ジュン、音楽はアレクサンドラ・マグハクヤン&チャン・ユンシャン。
出演はジェイソン・フレミング、ヤオ・シントン、ジャッキー・チェン、アーノルド・シュワルツェネッガー、マ・リー、マーティン・クレバ、チャールズ・ダンス、ルトガー・ハウアー、クリストファー・フェアバンク、アンナ・チューリナ、ユーリー・コロコリニコフ、パヴェル・ヴォリャ、リー・ユー、イゴール・ジジキン、イゴール・キストル、アレクセイ・オグルツォフ、アレクサンドル・ロバク、ランス・ルー、マーク・ルー、チャールズ・ルー、サン・チェ、ステパン・スタルチェンコ、クセニア・ペトルキーナ、アンドレイ・メルズリキン、イヴァン・コーチク、セルゲイ・ロバノフ他。


2014年のロシア映画『レジェンド・オブ・ヴィー 妖怪村と秘密の棺』の続編。
監督は前作に続き、オレッグ・ステプチェンコが務めている。
ジョナサン役のジェイソン・フレミング、ダドリー卿役のチャールズ・ダンス、ミス・ダドリー役のアンナ・チューリナは、前作からの続投。
チェンランをヤオ・シントン、老師をジャッキー・チェン、フックをアーノルド・シュワルツェネッガー、妖女をマ・リー、船長をマーティン・クレバ、大使をルトガー・ハウアー、ピョートルをユーリー・コロコリニコフ、メーンシコフをパヴェル・ヴォリャ、会計官をリー・ユーが演じている。

オープニングのナレーションは、あまりにも情報量が多すぎる。
粗筋で書いた冒頭部分は、全てナレーションで説明されるのだ。
「癒やしの茶葉を守る者は白の仙人と呼ばれたの辺りまでなら、何の問題も無く受け入れられる。まだ「それが老師と、彼の娘である王妃である」の辺りでも、とりあえずは許容範囲だろう。
でも、その後もずっと続いて、「王妃は黒の仙人に捕らえられ、世界の反対側で別々に監獄に入れられた」までがナレーション説明なのよ。その全ての内容を頭に入れるのは、そう簡単じゃないぞ。
しかも以降のストーリー展開に、その内容が全て必要ってわけでもないのよ。

粗筋でも触れたが、中国人3人組がフックに戦いを挑むシーンがある。
この時、「老師はいなかった。中国に帰ろう」「王妃を助けよう」という会話を交わしているのだが、これは冒頭のナレーション説明と組み合わせて考えると、「ジャッキー・チェンが演じる老師がいるという情報でロンドン塔に来たが、見つからないので今度は王妃を助けに行こう」ってことなんだろう。
でも、こいつらの存在って、まるで必要ないのよね。
そのシーンは「フックと中国人の戦い」を見せたいというだけで用意されており、流れもクソも無い。
そして、そんなに無理をしてまでネジ込んだ戦いが見せ場としての力を持っているかと問われると、答えはノーだと断言できるのだ。

前作がヒットしたことに、なぜか中国資本が目を付けて、今回の続編に参加している。
そして中国資本が入ったことで、中国人が何人も登場し、中国が舞台になる内容に仕上がったわけだ。
「中国資本が入ったからジャッキー・チェンを起用する」ってのは分かりやすいが、それだけでなくアーノルド・シュワルツェネッガーやルトガー・ハウアーも起用している。
これは明らかに、ロシアと中国だけでなく世界市場を考えたキャスティングだ。

ただ、今回の目玉と言ってもいいジャッキー・チェンとアーノルド・シュワルツェネッガーは、主人公であるジョナサンと全く絡まない。
老師とフックの絡みは多く用意されているが、ジョナサンとは遠く離れた場所で動いている。老師とフックが登場するシーンは、本筋とは全く関係が無い。
「ロンドン塔にはピョートルがいる」「チェンランは老師の娘」「ミス・ダドリーが訪問する」などの要素で繋がりは持たせているが、そこを丸ごとカットしてもいいんじゃないかと思ってしまうぞ。
むしろ丸ごと無くした方が、ストーリー構成としてはスッキリする。

ジャッキー・チェンとアーノルド・シュワルツェネッガーは「ゲストとして短いシーンだけの登場」というわけではなく、かなり多くの出番が用意されている。それなりに扱いは大きいし、老師とフックの格闘シーンにも多くの時間を割いている。
そこを大きな見せ場として演出しているのだが、本筋を進める上では全く必要性が無い。
老師とフックの登場シーンに力をいれた弊害で、肝心なジョナサンのパートが弱くなっている。映画が始まって以降、ずっとジョナサンは「たまに出て来る脇役」みたいな扱いだ。
2通目の手紙を馬車から伝書鳩で飛ばした後、20分ぐらい消えている。そして久々に登場しても、90秒ぐらいで再び退場してしまう。
むしろピョートルの方が主役のような扱いになっている。とは言え、そのピョートルも主役と呼ぶには不充分なのだが。

「ジョナサンが中国を横断し、チャンランの故郷に辿り着いた」ってのは、ジョナサンがミス・ダドリーに伝書鳩で届けた手紙の文面という形になっており、ナレーションで説明される。それ以降は中国のパートだけで進行し、そこにミス・ダドリーたちが合流する流れになっている。
しかし、そこからジョナサンが主役として真っ当に扱われるのかと思いきや、そうではない。実質的な主役は、どう考えてもチェンランだ。
彼女が要塞に潜入している間、ジョナサンは馬車で寝ている。ジョナサンはチェンランに頼まれて見取り図を作成する仕事はするが、すぐに捕まってしまい。終盤まで解放されない。だから、いつまで経っても主役の椅子には座れない。
最終決戦もチェンランと妖女のタイマンで、ジョナサンは何もしていない。
っていうか、ここに関してはピョートルも役に立っていないけど。

ジョナサンとチェンラン、ピョートルとミス・ダドリーという2組の男女が異なる場所で知り合い、一緒に行動する構成となっている。いずれのコンビにも、前作からの続投キャラが配置されている。
ところが厄介なことに、そんなジョナサンとミス・ダドリーの方が、新顔であるチェンランとピョートルよりも存在意義が薄い。
重要性の順列では、1番がチェンランで次がピョートル、次が随分と離れてミス・ダドリーで、ドンケツがジョナサンだ。
いっそのこと、ジョナサンとミス・ダドリーを排除して、「チェンランの戦いにピョートルが手を貸す」という話でいいんじゃないかと思ってしまうぞ。

っていうか、チェンランに手を貸すのはピョートルじゃなくて、「西洋人の男」でいいんだよね。
メインになるのは「茶葉の村を支配する妖女をチェンランと仲間たちが倒す」という話なので、ロンドン塔にいる仮面の男がロシア皇帝である意味は乏しいのだ。
ジョナサンとの絡みで考えると、そのポジションがピョートルってのは必要な設定だ。でも肝心のジョナサンが必要性に乏しいキャラと化しているので、ピョートルがピョートルである意味も弱くなってしまう。
『レジェンド・オブ・ヴィー 妖怪村と秘密の棺』の続編であることが、足枷にしかなっていないのよね。

(観賞日:2023年5月25日)


第41回ゴールデン・ラズベリー賞(2020年)

ノミネート:最低助演男優賞[アーノルド・シュワルツェネッガー]

 

*ポンコツ映画愛護協会