『リベンジ・マッチ』:2013、アメリカ

1982年、プロボクサーのヘンリー・“レーザー”・シャープとビリー・“ザ・キッド”・マクドネンは、ピッツバーグで対戦した。結果はキッドがKO勝利を収めたが、2人とも人気者となった。プロモーターは再試合を組み、今度はレーザーがKOで勝った。キッドは3戦目を希望したが、レーザーは引退して造船所で働き始めた。キッドは下着モデルへ転身し、現在はピッツバーグで自動車会社とバーを経営する実業家になっている。
レーザーの元トレーナーであるルイスは、施設に入っている。レーザーが訪れると、ルイスは男性看護師の世話を嫌がって迷惑を掛けている。レーザーが帰宅すると、プロモーターの息子であるダンテ・スレートJr.が待っていた。彼は父が1年前に亡くなったことを語り、レーザーとキッドをビデオゲームのキャラクターとして使いたいと言う。貧乏暮らしをしているレーザーに、ダンテは短時間で高額の報酬が得られる仕事だと説明する一度は断ったレーザーだが、督促状が届いていることもあり、「キッドと一緒に仕事はしない」という条件で承知した。
レーザーはモーション・キャプチャーのスーツを着用し、スタジオに入った。彼はデータを取るため、人形にパンチを浴びせる。そこへ予定より早くキッドが現れ、レーザーを挑発する。キッドが立ち去ろうとすると、キッドは後ろから殴り掛かった。2人が喧嘩を始めると、その様子をスタッフがスマホで撮影し、YouTubeに投稿した。この動画は大きな話題となり、ダンテはレーザーとキッドに再試合を持ち掛けた。しかしレーザーは試合を拒否し、その場を去った。「なぜ戦わない」とダンテが不満を漏らすと、キッドは「そう言えば心当たりがあった。過去に奴の恋人を孕ませた」と口にした。
造船所では人員削減が進められ、レーザーも解雇された。レーザーは金を稼ぐため、ダンテの提案を飲むことにした。ダンテは大金持ちになれると興奮するが、記者会見の席に集まった記者は数名だった。参加した記者たちも真剣ではなく、レーザーとキッドを馬鹿にした質問を浴びせた。会見の場には、かつてレーザーの恋人だったサリーも現れた。会見の後、サリーはレーザーに声を掛けた。怪我してほしくないので試合を中止してほしいと彼女が言うと、レーザーは軽く受け流して立ち去った。
ダンテはレーザーとキッドに、「チケットが売れなきゃ金は入らない。俺たちは協力する必要がある」と言う。レーザーとキッドはCMで共演するが、撮影中に喧嘩を始める。ダンテは動画をネットにアップし、話題作りに利用した。レーザーはルイスを訪ね、トレーナーとして復帰するよう依頼した。キッドは以前に所属していたジムへ行き、昔のトレーナーであるフランキー・ブライトに協力を要請する。フランキーは高齢を理由に拒否するが、キッドが過去の貸しを口にすると、ジムでの練習だけは認めた。
キッドが練習を始めようとすると、BJという若者が声を掛けた。彼はキッドとサリーの息子だが、キッドは全く会っていなかった。BJはキッドに、育ての親であるサリーの夫が最近亡くなったことを話した。キッドの無責任な考え方を知ったBJは、「母が秘密にしていたことに腹を立てていたけど、理由が分かったよ」と告げて立ち去った。レーザーがルイスを同居させてトレーニングを開始すると、サリーが現れた。サリーは謝罪してヨリを戻そうとするが、レーザーは乗らなかった。
キッドはジムで練習するが、トレーナーのマイキーは真剣に付き合おうとしなかった。キッドがスパーリングをしていると、BJが来て助言した。BJはキッドに、彼から贈られた高級車の鍵を返した。BJがフットボールのフィジカル・コーチをしていると知ったキッドは、体を絞る手伝いを要請した。一度は断ったBJだが、キッドの説得を受けて結局は承諾した。車で去る時、BJは「アンタにトレイっていう孫が出来たよ。8歳だ」と述べた。トレーニングを開始すると、BJはトレイを連れて来た。
レーザーはルイスからサリーに電話するよう促され、「サリーのせいで心が乱れたら、また試合を台無しにしてしまう」と忠告される。30年前のことを指摘された彼は、キッドにサリーを寝取られた仕返しとして、彼の愛するボクシングを奪うために引退したことを語った。ルイスはレーザーに、自身に問題があったのだと告げた。サリーはキッドのトレーニングを終えたBJの元へ行き、すぐに辞めるよう言う。なぜ彼を嫌うのかとBJに問われたサリーは女癖の悪さを理由に挙げ、一度も愛したことは無いと言い切った。
ダンテは宣伝活動のため、UFCの会場へレーザーとキッドを連れて行く。しかし取材を受けた2人がUFCを扱き下ろしたため、格闘家のチェール・ソネンが腹を立てた。挑発されたレーザーとキッドがチェールにパンチを浴びせてノックアウトし、その様子はテレビ中継された。フランキーはTVクルーを連れてジムに現れ、キッドのトレーニングを始めようとする。キッドは「もうコーチは雇った」と言い、フランクの下卑た考えを指摘した。キッドは挑発的な言葉で憤慨したフランクを殴り倒し、BJ&トレイとジムを後にした。
レーザーはルイスに勧められ、迷った挙句にサリーをデートに誘った。しかし話している内にキッドと寝たことへの怒りが湧き、つい声を荒らげてしまう。サリーはレーザーがボクシングに没頭して自分との関係を後回しにしていたことを語り、内緒で会いに行ったら女がいるのを見たので苦しめたかったのだと言う。ダンテはトレイと出掛けようとしていたキッドに電話を掛け、チケットが完売したこと、さらに広い会場を押さえたこと、テレビ中継が決まったことを話した。
レーザーは車でサリーを送る途中、衝突事故を起こしてしまった。サリーは軽傷で済み、レーザーは「見えなかったんだ」と釈明した。キッドはトレイを自分のバーへ連れて行くが、若い女に誘われて席を外した。ルイスはレーザーの元へ行き、右目が見えないことを指摘した。レーザーが数年前の事故で視力を失ったことを明かすと、ルイスは危険だから試合を中止すべきだと進言した。トレイは車に乗り込み、エンジンを掛けた。後部座席で女と寝ていたキッドは慌てて起き上がり、慌てて停車させるよう指示した。そこへパトカーが駆け付けてキッドは警察署に連行され、トレイを引き取りに来たBJは激怒する…。

監督はピーター・シーガル、原案はティム・ケルハー、脚本はティム・ケルハー&ロドニー・ロスマン、製作はビル・ガーバー&マーク・スティーヴン・ジョンソン&マイケル・ユーイング&ピーター・シーガル&ラヴィ・メータ、共同製作はロバート・J・ドーアマン、製作協力はクリス・オスブリンク、製作総指揮はジェーン・ローゼンタール&ケヴィン・キング=テンプルトン、撮影はディーン・セムラー、美術はウィン・トーマス、編集はウィリアム・ケアー、衣装はメアリー・ヴォクト、音楽はトレヴァー・ラビン。
出演はシルヴェスター・スタローン、ロバート・デ・ニーロ、ケヴィン・ハート、アラン・アーキン、キム・ベイシンガー、ジョン・バーンサル、カムデン・グレイ、LL・クール・J、バリー・プリマス、アンソニー・アンダーソン、ジョーイ・ココ・ディアス、ポール・ベン=ヴィクター、フレデリック・ダグラス・プランケットJr.、トッド・トゥルーリー、マイク・タイソン、イヴェンダー・ホリフィールド、チェール・ソネン、ロイ・ジョーンズJr.、マイケル・バッファー、ラリー・マーチャント、マイク・ゴールドバーグ、スティーヴ・レヴィー、ジョン・ブッチグロス、ジム・ランプレイ他。


『ロンゲスト・ヤード』『ゲット スマート』のピーター・シーガルが監督を務めた作品。
原案と脚本は、『ファースト・キッド/僕のパパは大統領』のティム・ケルハー。
共同で脚本を担当したロドニー・ロスマンは、これが初の劇場用映画。
レーザーをシルヴェスター・スタローン、キッドをロバート・デ・ニーロ、ダンテをケヴィン・ハート、ルイスをアラン・アーキン、サリーをキム・ベイシンガー、BJをジョン・バーンサル、トレイをカムデン・グレイが演じている。

過去にシルヴェスター・スタローンは『ロッキー』シリーズ、ロバート・デ・ニーロは『レイジング・ブル』でボクサーを演じている。
ちなみにスタローンは『ロッキー』でオスカー候補となり、デ・ニーロは『レイジング・ブル』でオスカーを受賞している。『ロッキー』はアカデミー賞の作品賞を受賞しているが、その時にはデ・ニーロ主演の『タクシー・ドライバー』もノミネートされていた。
そんな「ちなみ」の話は置いておくとして、この映画は両名の代表作にボクサーを演じた映画があるってことが重要な意味を持っている。
それを前提にして、セルフ・パロディー化したような内容になっているのだ。
『レイジング・ブル』よりも『ロッキー』シリーズの方がコメディーとしてはネタにしやすいからなのか、ルイスが生卵を幾つもコップに入れてレーザーに飲ませるとか、精肉工場で吊るされた肉を叩こうとしたレーザーに「肉は叩くモンじゃない」と注意するとか、そっち方面のネタは幾つか盛り込まれている。
ひょっとすると『レイジング・ブル』関連のネタも同じぐらい盛り込まれていて、気付かなかっただけかもしれないけど。

ピーター・シーガルを監督に起用しているってことは、そもそも企画の段階でそういうことだったんだろうから仕方が無い。
だけど、まず残念に思うのは「なんでコメディーなのかなあ」ってことだ。
もう年齢的には完全にジジイの領域に入っている2人がボクシングの試合をする話だから、マジにやるのには厳しいという考えだったのかもしれない。
だが、それは『ロッキー』シリーズ『レイジング・ブル』でスタローンとデ・ニーロが演じた役柄も含めて、何となく馬鹿にしているように思えてしまうのだ。

『ロッキー』シリーズと『レイジング・ブル』を事前に知っていれば、この映画の楽しみが増えるということは言えるだろう。
ただし一方で、それを知っていることを前提にしているんじゃないかという印象を受ける。
冒頭でレーザーとキッドのライバル関係がチラッと描写されるが、それだけでは薄っぺらい。
「過去にスタローンとデ・ニーロが映画でボクサー役を演じていた」という予備知識があって、それを使って脳内補完することで、ようやく「ライバル関係」の部分が厚みを帯びるのよね。

レーザーが3戦目を拒否して引退したのは「キッドがケリーを寝取って孕ませた」ってのが理由であり、キッドは彼女と結婚もせず、BJとも長きに渡って会っていなかった。
だから最初は「父親失格のクズ野郎」みたいになっているんだけど、次第に「本人は責任を取って結婚することも考えたが、愛していないケリーが拒否した」とか、「ずっとBJのことは気にしていて、活躍を報じる記事をスクラップしていた」ということが明らかになっていき、最初は最低レベルだった好感度を上昇させる。
だが、ここで問題になるのは、「でもケリーは酷い女だよね」ってことだ。
レーザーを裏切ってキッドと寝ておいて、旦那が死んだ途端にレーザーとヨリを戻そうとするって、すんげえ身勝手な女じゃねえか。
っていうか根本的な問題として、サリーって「要らない子」になっちゃってるんだよなあ。レーザーとキッドの対決を盛り上げるための駒としては、全く機能していないし。
レーザーとヨリを戻す展開を用意するなら、そこだけで作った方がいい。キッドと浮気して息子を生んでいる要素が邪魔でしかない。
繰り返しになるが、そういう酷い裏切り行為をしておいて、旦那が死んだからレーザーとヨリを戻そうとするのが、身勝手にしか思えないからだ。

だけど、そんなサリーをレーザーは嫌っているのかと思ったら、未練があるのよね。
そんでデートに誘ったらキッドのことで腹を立てているけど、サリーが「こういう理由でキッドと寝た」と喋ると、なぜか笑って許してしまう。
いやいや、「女と一緒にいるのを見たから苦しめたくてキッドと寝た」って言われて、それで簡単に許せてしまうものなのかと。そもそもレーザーには、他の女と浮気していた事実なんて無いわけだし。
レーザーはルイスから「自身に問題がある」と指摘されているけど、ボクシングに集中するために恋人と連絡を絶つ行為って、批判されるようなことじゃないでしょ。

「ビデオゲームの仕事をレーザーが拒否するが、金が必要なので直後に承諾する」というのは、ベタベタな手口だけど、一向に構わない。
ただし「キッドとの再試合を断るが、造船所をクビになったので直後に承諾する」ってのは、あまりに軽すぎて賛同しかねる。
レーザーはキッドと関わることを徹底的に避けて、ビデオゲームの仕事では会うことさえ嫌がっていた。
それなのに、造船所を解雇された途端、会うどころかボクシングでの再戦を承諾するのだ。

そこは、もっと時間と手順を掛けるべきだわ。「コメディーだから」とか、そういう問題じゃないぞ。
せめて「新しい仕事を探すが、なかなか見つからない」とか、「予期せぬ出来事のせいで緊急に大金が必要となった」とか、そういう手順が欲しい。
っていうか、ホントは「金のため」という動機の時点で、やや同意しかねる部分はあるのよ。
モチベーションが、そこなのかと。
ダンテが金目当てなのはいいけど、幾ら「大儲けするため」じゃなくて「生活のため」であっても、金のために戦うってのは、ちょっと乗れない。

あと、映画開始から20分も経たない内に再戦が決まっちゃうと、こっちのテンションが高まらないんだよな。
キッドは「30年が経過して、ようやく実現した」と喜んでいるけど、こっちは「気持ちが少しずつ高まって、幾つかの障害をクリアして、いよいよ戦うことが決まる」ってな手順を踏んでいないからね。
再戦が決まってから実際に戦うまでに時間を割いて、そこでドラマを盛り上げようとしているのは理解できるのよ。
ただ、その内容が魅力的なのかというと、そうじゃないしね。

レーザーが最初は生活費のために再戦を承諾するけど、途中で変化していく展開があるのかと思ったら、そういうのは何も無いのね。
ダンテは金儲けの話がデカくなって喜ぶが、レーザーとキッドのモチベーションはそこには無いはずで。
つまり、「かつてのライバルと戦いたい」とか、「決着を付けたい」とか、「まだ燃え尽きていないので、またリングに上がりたい」とか、そういう「ボクシングに対する情熱」であるはず。
なのに、それが全く見えて来ないのだ。

レーザーとキッドが必死にトレーニングして体を絞っている様子は描かれているが、その根源にある「なぜ老体に鞭打って頑張るのか」という思いの強さは見えて来ない。
こっちを熱くさせてくれる真っ直ぐな魂を感じないから、結局、「何年も前のことを未だに根に持っている愚かなジジイたちの、年甲斐も無いガキっぽい喧嘩」にしか見えないのだ。
2人の性格や考え方は違えど、「ボクシングへの情熱や真摯な思い」ってのを同じように持っていて、その魂をバチバチとぶつけ合う内容が見たかったんだよなあ。そうすれば、例えロートル同士の試合であっても、そこに燃えるモノを感じ取ることは絶対に出来たはずなのよ。
つまり、「ロートル同士の試合だから、マジにやってもキツい」ってのは間違いであって、やっぱりコメディーじゃない方が良かったと思うんだけどなあ。

クロージング・クレジットの途中、ルイスが2人の引退したボクサーに復帰して再戦するよう持ち掛けている様子が写し出される。
そこに登場するのはマイク・タイソンとイヴェンダー・ホリフィールドで、難色を示すホリフィールドにルイスが『ハング・オーバー!』の最新作に出演させると告げる様子が描かれる。
だけど、そういうのを最後に持って来ると、そこまでの話がオチのための前振りみたいになっちゃうんだよね。
実際に因縁のあるボクサー2人をカメオ出演させるのは遊び心として大いに歓迎するけど、そういう形でラストで持って来るのは違うなあ。

(観賞日:2015年9月5日)


第34回ゴールデン・ラズベリー賞(2013年)

ノミネート:最低主演男優賞[シルヴェスター・スタローン]
<*『バレット』『大脱出』『リベンジ・マッチ』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会